たまには麺
「関羽に当たるキャラと会ったの!? しかもこの後で趙雲に当たるキャラを訪ねて、龍を祀る社の場所を教えてもらうですって!?」
時は日暮れ、場所は作業館三階の個室。
関羽や趙雲が絡むイベントのことを伝えるのだからと、ゆーららんに促されて個室を借りて晩飯を作り、ダルク達と合流して晩飯を食いながら、関羽との遭遇を伝えたらメェナが驚きの声を上げた。
いや、声を上げていないだけでダルクとカグラとセイリュウも驚き、飯を食う手が止まっている。
ちなみに晩飯は、イクト達が食べたがっていたコクチャ粥、クウドウサイ炒め、キングタニシの辛口炒め、そしてデスバッファローの骨で取った出汁の豆腐と野菜のスープ。
なお、メフィストにはデスバッファローの骨で取った出汁のレポートは送信済みだ。
クウドウサイ炒め 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:5 品質:7 完成度:98
効果:満腹度回復11%
俊敏50%上昇【3時間】 器用50%上昇【3時間】
運50%上昇【3時間】
茎の中心が空洞になっている野菜の炒め物
空洞部分が独特の食感を生み出し、とても良い歯応えがする
醤油と塩と胡椒のみのシンプルな味付けが、素材の味を引き立てる
*クウドウサイを茎と葉に切り分け、洗って乾燥スキルで水気を取り、一口大に切る。
*油を引いた中華鍋を熱し、刻んだ唐辛子とニンニクを少々加える。
*香りが出てきたら茎の部分を炒め、火が通ってきたら葉の部分も加えて炒める。
*香りづけも兼ねた醤油、塩、胡椒で味付けして完成。
キングタニシの辛口炒め 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:6 品質:7 完成度:95
効果:満腹度回復20%
MP自然回復量増【特・3時間】 知力60%増【3時間】
土属性耐性付与【特・3時間】
通常のタニシの三倍の大きさのキングタニシを、野菜と炒めたもの
キングタニシは下茹でしてあるので、シコシコとした良い歯応え
泥臭さは無く、とても美味しい味わいです
*お湯を沸かし、キングタニシを下茹で。
*それらの間に唐辛子を薄い輪切り、ネギ、ジンジャー、ニンニクをみじん切りに。
*下茹でしたキングタニシの実を殻から出して、内臓を切り取り、食べやすい大きさに切る。
*中華鍋に油を引いて唐辛子、ジンジャー、ニンニク、ネギを炒める。
*香りが立ったらタニシの身を加えて強火で炒める。
*火が通ってきたら、酒と醤油と隠し味程度の砂糖、好みの量のトーバージャンで味付け。
*全体に味を馴染ませ、キングタニシにしっかり火が通ったら完成
補足:キングタニシは購入店で泥抜き済み
ホワイトデスバッファロースープ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:5 品質:8 完成度:96
効果:満腹度回復6% 給水度回復18%
魔力+5【2時間】 闇属性耐性付与【大・2時間】
闇属性攻撃時与ダメージ増【大・2時間】
白い系の具材でまとめた、デスバッファロー出汁のスープ
しっかり煮込まれ、コクと深みと旨味が強いが臭みの無い白濁スープ
大根、カブ、豆腐、もやしがスープの美味しさを邪魔せず引き立てる
*洗ったデスバッファローの骨を切るか折り、出汁を取りやすくする。
*寸胴鍋でデスバッファローの骨とジンジャーとタマネギとニンニクを煮込む。
*洗った大根とカブの実をいちょう切り、葉をみじん切りに。
*豆腐は大きめの立方体に切り分け、もやしを洗って水を切る。
*合間に灰汁を取って出来た白濁の出汁を濾して、出汁だけを取り出す。
*鍋に必要な分だけ移し、大根とカブの実と葉、豆腐、もやしを火が通り難い順に加える。
*軽く醤油で味付けしてさらに煮込み、大根とカブの実が柔らかくなったら完成。
ついさっきまで、カグラがコクチャ粥で穏やかな表情を浮かべ、ダルクがクウドウサイ炒めをバリバリ食って、メェナは特別激辛仕様にしたキングタニシの辛口炒めを騒ぎながら食い、セイリュウがホワイトデスバッファロースープを飲んで蕩けた表情をしていたとは思えない。
「やっぱりこうなったね」
「個室を使ってもらって正解だったわ」
顔を見合わせるポッコロとゆーららんは、やっぱりって表情でクウドウサイ炒めを食べている。
「まーたー、おかゆおかーり」
「いくとはすーぷおかわり!」
「キングタニシがこんなに美味しいだなんて思わなかったんだよ。お店で済ませていた泥抜きにマスターがやった下茹でと、手間はかかってもそれだけの価値がある美味しさなんだよ。しかもその美味しさと辛さが意外と合っていて、シコシコした歯応えも心地いいんだよ」
食レポ爆発中のミコトはいつものこととして、イクトとネレアのおかわり要求に応えるべく席を立ち、ダルク達との会話を続ける。
「そうなんだよ。だからこの後で、チョウウンの屋敷へ行かせてもらうな」
「別にそれ自体は構わないんだけど、なんでそんなことになっているのよ」
「さっき説明した通りだ」
「なんで気づかないのよ! 依頼主にカンコーとカンペーって書いてあったんでしょう!」
おかわりをイクトとネレアへ渡しながら、頭を抱えるメェナに返事をすると怒られた。
無茶言うな、関羽とか張飛とか劉備とか有名なのは知っていても、その子供までは知らないって。
「ごめんなさい、お姉さん達」
「私達がついていながら」
「二人は気にしなくていいよ。悪いのは全部トーマってことにしておけば、いいんだからさ」
「よーし、そこの学習能力に疑いのある幼馴染。お前の明日の朝飯は、塩を振った千切りキャベツな」
「ぎゃーっ!? ついに加熱処理すら無くなった!?」
暴論かつ、依頼をこなしただけなのに悪いこと扱いにした自分を恨め。
「安心しろ、新鮮なる包丁で切るから問題は無いはずだ」
「そういう問題じゃなーい!」
「あと、キャベツはバチバチキャベツな」
「口の中が大変なことになる!?」
むしろ大変なことになれ。
ともあれ、こうなった以上は仕方がないということで飯を食い終わり、後片付けを済ませたら全員でチョウウンの屋敷へ向かう。
マップに表示されたそこへ行くと、カンウの屋敷とそう変わらない屋敷があった。
対応してくれた使用人だという老婆へ事情を説明して酒を渡すと、旦那様に確認してきますと言い残して一旦屋敷へ引っ込み、少ししてどうぞと中へ通された。
廊下をゾロゾロと歩いて通されたのは、リビング的な空間。
そこでは龍の角と尻尾が生えた、イケオジって言葉が似合いそうなNPCの中年男性が、上機嫌に酒を飲んで料理を食べていた。
あっ、しかもあの酒って俺が渡した物だ。
「おぉっ、お前か。俺が気に入っている酒を持ってきてくれたって奴は。いやー、やっぱり一仕事した後はこいつを飲むに限るぜ」
上機嫌に酒を飲んでいるのがチョウウンのようだ。
仕事終わりは不機嫌だとカンウが言っていたが、酒のお陰で機嫌が良くなっている。
「それで? 俺に何か聞きたいことがあるんだって?」
「はい。実は――」
ここを訪ねた経緯を伝えると、酒を飲みながら聞いていたチョウウンは「そういうことか」と呟く。
「よし、分かった。社の場所を教えてやるよ」
「ありがとうございます」
返事を聞いた瞬間、目の前に社の場所がマップへ登録されましたと表示された。
すぐにマップを開いて確認すると、町からそう遠くない山の中にあるようだ。
ダルク達にも見せたら、この距離なら半日あれば往復できるとのこと。
「それと俺の好みの酒を持ってきてくれた礼に、こいつを持って行け」
何をくれるのかと思っていると、おもむろに尻尾の鱗を一枚バリィッと引き千切った。
「「ひぃっ!?」」
突然鱗を引き千切ったものだから、セイリュウとポッコロが小さな悲鳴を上げる。
他の皆は悲鳴こそ上げていないが驚きの表情を浮かべ、俺へ差し出された鱗から目を離せずにいる。
「ほらよ、こいつを社へ捧げろ。そうすりゃ、良い事が起きるぜ。何が起きるのかは、実際にやって確かめな」
「は、はあ……。えっと、大丈夫なんですか?」
「うん? ああ、鱗を引き千切ったところか。すぐにまた生えてくるから、問題無いぜ」
ほろ酔い顔でカラカラ笑うが、本当に大丈夫なんだろうかと思いながら鱗を受け取る。
おいお前ら、どうして俺の尻尾をジロジロ眺めているんだ。
まさかとは思うが、俺の尻尾の鱗を引き千切ろうとか考えていないよな。
「ねえトーマ」
「バカな考えを実行したら、次の飯は大根おろしだ」
「それ、ご飯じゃない! 薬味じゃん! そんなのやだー!」
何か言おうとしたダルクに刺した釘は皆にも利いたようで、すぐに俺の尻尾から目を外した。
まったく、もしも引き千切ろうとしたらどうなっていたことか。
「俺からは以上だ。酒、ごちそうさん」
どうやら話はここで終了か。
チョウウンは晩酌を楽しみだしたから、これで失礼して屋敷を後にして、今夜の宿を探しながら翌日の予定を打ち合わせ。
明日は朝飯を食ったら社へ向かい、帰ってきたらファッション用の服を探すことになった。
「漢服とチャイナドレス、どっちにしようかしら」
「カンフーとかやっていそうな服もあるわよね」
「武将っぽい服もあるかな?」
「中国の花婿衣装とか花嫁衣装もありますかね、お兄さん、セイリュウお姉さん」
「どういう意味なのかな!? どういう意味なのかな!?」
「ゆーららん……」
興味がある服について喋るカグラとメェナとダルクはいいとして、ゆーららんにからかわれているセイリュウは落ち着け。
そうした会話をしながら宿を見つけ、大部屋にて全員で睡眠。
一瞬で朝になったら作業館へ移動して朝飯作りに取り掛かる。
「ますたぁ、あさごはんなに?」
「最近米が多かったから、昨日の出汁を使ったうどんにする」
米が手に入ったから米が主体になっていたし、たまには麺も使わないとな。
「私、大盛りでお願い!」
麺好きセイリュウが挙手をしながら大盛り要求してきた。
分かっているって、言われずともやっていたよ。
さて、調理開始といこうか。
寸胴鍋に水を張って火に掛け、昨日取ったデスバッファローの骨の出汁が入った寸胴鍋に醤油とみりんを加え、これも火に掛ける。
「料理長、今日も鍋から良い香りをさせているわね」
「なんかめんつゆっぽい香りだな」
「うどんって言っていたから、それに使うつゆなんだろう」
「醤油の匂いがするってことは、関東風ね」
周囲の声が耳に入る中、ストックしている麺をバットに一玉ずつ出しておき、転送配達で取り寄せて購入した山芋の皮を剥いてすりおろしてネギを刻む。
「山芋を使うってことは、山かけうどん?」
「温かいのも冷たいのもいいけど、今回はどっち?」
「温かいのでいく。生卵が欲しい人は?」
『はい!』
全員挙手したが、あいにくそれに応えられない奴が一人いる。
「ダルク、お前は塩を振った刻みキャベツだから駄目だ」
「そうだったー! ちくしょー!」
頭を抱えて叫ぶダルクを横目に、そのダルク用にバチバチキャベツを新鮮なる包丁で千切りにする。
お湯が沸いたから麺をテボに入れて茹で、しっかりお湯を切ったら丼へ麺を移し、温まったつゆを掛けてとろろ載せ、生卵を落としてネギを散らして完成。
デスバッファロー出汁の山かけうどん 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:6 品質:8 完成度:98
効果:満腹度回復17% 給水度回復15%
体力+6【2時間】 状態異常耐性付与【大・2時間】
満腹度低下速度減【大・2時間】
デスバッファロー出汁のつゆが美味い、山かけうどん
つゆと共に味わう麺もとろろも当然美味
生卵も一緒に食べれば、また変わった味が待っている
皆から注目される中、白濁の出汁に醤油を加えて煮たから茶褐色になっているつゆに、麺ととろろの白、卵の黄色、ネギの緑が映える山かけうどんを味見する。
しっかりした旨味のあるつゆが、柔らかめに茹でたうどんととろろに合っていて美味い。
これに卵を加えるとまろやかさが加わり、味変にもなっている。
関西風のつゆでもいいけど、個人的にはとろろを掛けて卵を落とす分、醤油を加えた関東風の方が山かけには合っていると思う。
繰り返すが、あくまで個人の感想だ。
「どうなの? どうなの?」
麺好きのセイリュウが身を乗り出して、やたらグイグイ聞いてくる。
そんなに良い笑顔で迫られたら、言われずとも大盛りにしてとろろやネギもサービスで多めにしちゃうじゃないか。
「美味いぞ。すぐに作るから待ってくれ」
『早めにね!』
腹ペコ軍団から一斉に求められたが、一名はそういうわけにはいかない。
「だからダルクは塩を振った刻みバチバチキャベツなんだって。ほら、先に食ってろ」
「本当にやったよ、この容赦の無い幼馴染!」
やるってやった以上はやるよ。
どうせこうやっても、学習しないんだろうけどな。
そう思いつつ、刻みバチバチキャベツを前に頭を抱えるダルクは放置して、山かけうどん作りに取り掛かる。
「あっ、メェナは粉唐辛子いるか?」
「いる!」
了解、麺を茹でている間に魔力ミキサーで作っておくよ。




