高い壁を実感しながら
ドクモドキナスとギガントワイルドフロッグの肉の辛味噌炒め、ごはん、アツペラワカメのみそ汁。
そんな今日の晩飯を前に、ポッコロとゆーららんは目に涙を浮かべている。
理由は嬉しいからではなく、メェナの分を調理中に帰ってきてしまい、喉と鼻をやられたからだ。
「災難だったな」
「うぅぅ……。まだ咳が出そうです」
「何事かと思いましたよ」
二人の前に晩飯を並べても表情は浮かず、カグラ達は苦笑いを浮かべている。
イクト達は同じく被害に遭ったころころ丸を慰めており、テイムモンスター同士ということで任せることにした。
「じゃあ、食うのは少し後にするか?」
「「今、食べます」」
激辛に喉と鼻をやられても食欲は健在か。
どんなに調子が悪くとも、食欲さえあればなんとかなる。
そんな祖父ちゃんの言葉通りなら、二人も大丈夫なんだろう。
ああ勿論、悲しそうな表情はしていても飯を食おうとしている、ころころ丸もな。
「じゃ、いただきます」
ダルクがいないから俺が音頭を取って飯が始まる。
さっきまで漂っていた微妙な空気は、食べ始めると一瞬で霧散した。
誰もが辛味噌炒めを食べてはごはんを掻っ込み、たまにみそ汁をすすってはまた辛味噌炒めとごはんを食べる。
「ちょっとぴりってしてしょっぱくて、おにくもなすもおいしい!」
「まーたー! ごはんおかーりじゅーびしとーて!」
安心しろネレア、ごはんのおかわりならたっぷり準備してあるから。
「味噌の味は下手をすれば料理全体を支配して、味噌の味しかしなくなるけど、これはそんなことは無いんだよ。使ったお肉とナスの味が強いというのを差し引いても、マスターが使う分量に気を配ってくれたから、濃すぎることもなくちょうどいい辛さとしょっぱさになってごはんが進むんだよ」
なあミコト、たまにお前が一体何を目指しているのか分からなくなるよ。
このままだとUPO最初のグルメリポーターとして、デビューする日が近いんじゃないか?
「ナスもお肉も辛みのあるお味噌と合うから、ごはんが止まらないわ」
「適度な辛さの味噌味でナスとお肉が引き立っているね」
ごはんは全員大盛りにしておいたけど、カグラとセイリュウですら食べる手が止まらずごはんの山が低くなっていく。
ゲーム内なら体重とかは気にならないんだし、思いっきり食ってくれ。
「お兄さんのご飯を食べていると、あんな目に遭ったのも気にならなくなるよね」
「当然じゃない! 美味しいものは正義だもの!」
さっきまでの辛そうな様子はどこへやら、ポッコロもゆーららんもころころ丸も夢中で食べている。
「はあぁぁぁぁっ! 味も良いけど、辛さと刺激も良いじゃない!」
そんな豆板醤と唐辛子たっぷりに加え、仕上げに胡椒とビリン粉をたっぷり加えたものを絶賛されても、正直複雑な気分だよ。
むしろ、そんな見ているだけで咽そうな料理を食べて、よく味が分かるな。
俺だったら刺激に口の中をやられて絶対に味が分からない。
味見する気がせず、メェナに味見してもらったくらいだ。
「トーマ、ごはんおかわり!」
「私もお願い」
「私も」
「いくとも!」
「ねーあもおかーり!」
最初にメェナがおかわりを要求すると、カグラとセイリュウとイクトとネレアも続く。
はいはい、ちょっと待っていろよ。
そうして皆がおかわりしたこともあり、辛味噌炒めとみそ汁だけでなく、ごはんも綺麗に無くなった。
食器を回収して後片付けをして、ポッコロとゆーららんから今日収穫した野菜を受け取り、明日についての打ち合わせをする。
「二人は明日も畑の手入れに行くのね?」
「はい。明日にでも収穫できそうな野菜が、いくつかあるんです」
「果物や木の実も一部は収穫できると思うので、期待していてくださいね」
ゆーららんから果物や木の実の収穫と聞き、カグラが表情を輝かせた。
俺はレベル上げのためにカグラ達と町の外へ出て、今日と同じくイクト達に頑張ってもらう予定だ。
そうして次回のログインで、シクスタウンジャパン内の別の町か村へ向かうことになっている。
移動する方角は北で、その先にあるシクスタウンチャイナを目指す。
どうしてそこを目指すのかって? 俺が行きたいって言ったから。
仮にも中華料理に関わる身、現実で行くには少々大変だからせめてゲーム内で行きたいんだよ、中国へ。
「ダルクがいれば、明日にでも移動してよかったんだけど、いないものね」
溜め息を吐くメェナの気持ちは分かる。
あいつが頑張っていれば、予定を変更する必要は無かったもんな。
「なんにしても、明日も昼飯を用意しておいた方がいいんだな」
「何を用意してくれるの?」
正面に座るセイリュウが身を乗り出して尋ねる。
つい意識して動揺が表情に出そうだから、あまり顔を近づけないでくれ。
「そうだな……ポッコロ、ゆーららん。さっき迷惑を掛けたお詫びに、リクエストがあれば聞くぞ。何が食いたい?」
「「いいんですか!?」」
激辛調理の刺激で酷い思いをさせたんだ、これくらいわけないさ。
作れるものならなと返すと、二人はほぼ同時に挙手しながら希望を告げた。
「卵焼きをお願いします! 出汁巻じゃなくて、砂糖で甘くした普通のやつで!」
「いなり寿司がいいです!」
良かった、どっちも作れるものだ。
握り寿司は技術的に無理でも、いなり寿司かちらし寿司なら作れる。
「分かった。カグラ達も、明日の昼はそれでいいか?」
「「「全然、大丈夫!」」」
ならば良し。
その後も少しばかり確認をして、話し合いは終了。
明日も町の外へ出るから少しだけ仕込みをやっておくため、再度厨房へ入って前掛けとバンダナを表示させる。
まだ寝る時間には余裕があるからか、皆も見学する気満々だ。
「やるのは仕込みだけで、調理自体は明日だぞ」
「いいからいいから、気にせず仕込んで」
カグラの言葉に全員が頷くから、遠慮なく仕込みに入る。
寸胴鍋に水を張って火に掛け、煮込む材料をアイテムボックスから取り出す。
使うのはポッコロとゆーららんから渡された野菜と、森の中で遭遇したイーターマッシュルームから手に入った砕けた骨。
おそらくは何かを襲って食べた時に残った骨なんだろう。
食材じゃないから職業スキルの「食材目利き」が効かず、イーターマッシュルームが食べた何かの骨としか表示されていない。
とはいえ、スケルトンボアの骨で出汁が取れたからこれも使えるはず。
砕けたというよりも、折れた骨って見た目のそれへ無限水瓶の水をかけて流しで洗う。
「ちょっとトーマ、それってイーターマッシュルームから手に入る砕けた骨なんじゃ?」
「よく分かったな、その通りだ」
「何を煮込もうとしているのよ!」
引きつった表情をしたメェナの問いかけを肯定すると、何故か怒鳴られた。
「だってせっかく骨が手に入ったんだぞ。何の骨かも分からないとはいえ、スケルトンボアの骨みたいに美味い出汁が取れるかもしれないから、試す価値はあるだろう」
「そう言われると否定できない!」
少し量が心もとないけど、そこは乾燥野菜で補うつもりだ。
そう思っていたらカグラとセイリュウから、期待の籠った眼差しで折れた骨を提供してもらえた。
「お兄さんと会う前の僕達なら、何をやっているんですかって言っていたでしょうね」
追加の骨を洗っている時に聞こえたポッコロの呟きに、スケルトンボアの骨を煮こもうとしていた時のやり取りを思い出し、少し懐かしい気分になる。
「今は期待しかないっていうことは、それだけ私達もお兄さんのやることに慣れてきたのね」
ゆーららんよ、それはどういう意味だ?
料理にバフ効果が付いたせいで仲間内で騒いだり、何故か赤の料理長と呼ばれるようになっていたりしているけど、基本的に俺は飯を作っているだけじゃないか。
若干の理不尽を抱きながら洗った骨を寸胴鍋へ入れて煮込む。
十分な量を確保できたから野菜は乾燥させず、洗って鍋へ加えるだけにしよう。
この骨の出汁がどんな味か分からないし、ニンジン、タマネギ、ネギ、ニンニク、シイタケといったところにしておこう。
煮込んでいる間に、別の仕込みをする。
明日の朝飯に使うもち米を洗い、ボウルで水に浸しておく。
それが済んだら寸動鍋の灰汁を取って中身をかき混ぜ、次は普通の米を洗って魔力炊飯器の釜で水に浸しておく。
「随分とたくさんお米を仕込むのね。明日のお昼はいなり寿司だからかしら」
「だとしても多すぎない?」
遠目では普通の米ともち米は区別できないから、全部普通の米だと思っているのかな。
「先に仕込んだ方は、明日の朝飯用だ」
カグラとセイリュウの疑問に答えながら、大きめの鍋を二つ用意。
一方には水を張って火に掛け、もう一方には醤油と酒とみりんと砂糖を入れて水で濃さを調整して火に掛ける。
「醤油とかを入れたのは、いなり寿司に使う油揚げ用だね」
「じゃあ、あっちのお湯は別の料理の仕込みに使うのかな」
ポッコロは正解、ゆーららんは不正解。
寸胴鍋の灰汁取りをしたら油揚げを出し、二つに切って中へ包丁を入れて袋状にしたら沸かしたお湯で茹でる。
「トーマ、どうして油揚げを茹でるの?」
「油抜きだよ。キッチンペーパーを使うとか、熱湯を掛け回す方法もあるけど、俺が教わったやり方は数分茹でるんだ」
ちなみに教えてくれたのは暮本さんな。
というより、いなり寿司は現役時代の暮本さんから教わった。
油揚げは出汁を使わずに昔風の少し濃い目の味付けで煮て、酢飯は砂糖を加えて甘めにする。
片方ずつだとしょっぱめと甘めでも、それらが合わさると良い感じに調和して美味いんだよな。
暮本さんのおにぎり屋は普通のごはんを使っているけど、持ち帰りの予約注文限定でいなり寿司があって、その注文が入った時だけ酢飯を仕込んでいた。
実家は中華だから作る機会はほとんど無いものの、教わった通りに調理を進める。
茹でた油揚げを網をセットしたバットの上に置き、冷却スキルで軽く冷ましてお湯を絞り出す。
そうして油抜きをした油揚げをもう一つの鍋に準備していた調味液で煮込み、しっかり味を含ませる。
出汁を取っている寸胴鍋と油揚げを煮込む鍋、二つを同時に注意しながら灰汁を取り、寸胴鍋の方は混ぜるのも忘れない。
途中で浸水させているもち米の水を切り、ボウルへ移してからアイテムボックスへ入れ、水を吸わせた米が入った魔力炊飯器を起動。
「いいにおい!」
「さっきご飯を食べたばかりなのに、またお腹が空きそうなんだよ」
「ねーあも!」
確かに、油揚げを煮る鍋からは醤油主体の香りが、寸胴鍋からは出汁の良い香りが漂う。
二つの香りのコラボに、カウンター越しにかぶりつきのイクト達とポッコロとゆーららんところころ丸は身を乗り出し、カグラ達はこっちをガン見している。
そんな視線を浴びながら仕込みを進め、味を含ませた油揚げ入りの鍋、ごはんが炊けた魔力炊飯器、味見をして問題無いのを確認してから布で濾して出汁を移した別の寸胴鍋。
これらをアイテムボックスへ入れて仕込みは完了。
あとは明日の朝、起きてから調理する。
「さあ寝るぞ、寝具は新調したんだからきっとよく寝れるぞ」
食べたそうな雰囲気を放つ腹ペコ軍団へ両手を叩いて呼びかけ、食堂から退室してそれぞれ適当な部屋を選んで就寝した。
翌朝、同じ部屋の別のベッドに固まって寝ていたイクト達を伴い、厨房ヘ向かう。
改善してもらった寝具のお陰で寝不足にはなっておらず、イクト達も軽快な足取りで歩いている。
食堂へ入ると他の皆は俺より後に寝たのか、まだ誰もいない。
静かな食堂内にイクト達の声だけが響き、俺は厨房へ入って前掛けとバンダナを表示させ、朝飯と昼飯作りに取り掛かる。
水に浸した米が入った魔力炊飯器を出して起動させ、昨日仕込んだ出汁をいくらかボウルに出し、酒と醤油と砂糖を加えて味を調整して調味液を作る。
続いてマダラニンジンとピリピリネギとジンジャーとシイタケをみじん切り、ギガントワイルドフロッグの肉を小さく切り分け、魔力ミキサーにかけてミンチに。
水を張った鍋を火に掛け、油を敷いて熱したフライパンで火が通りにくい順に肉と野菜を加えながら炒め、昨日仕込んだもち米と調味液も加えて汁気が無くなるまで炒める。
「おこめ、そのままいためるの?」
「おーしーならいー」
「同感なんだよ」
炒め終えた米と肉と野菜は清潔な布を敷いた蒸篭へ入れ、お湯が沸いた鍋へ重ねて蒸す。
その間に調味液へ浸している状態の油揚げが入った鍋を出して、油揚げを軽く絞って余分な調味液を出す。
絞りすぎて調味液を出しすぎないよう注意しながら絞ったら、網をセットしたバットへ載せておく。
昨日仕込んだ出汁をいくらか別の大きめの鍋へ移し、醤油を少々加えて馴染ませるため火に掛け、後で浮かせるネギを薄い輪切りにする。
次は魔力炊飯器を出し、蓋を開けて炊き立てごはんを混ぜ、量が多いから複数のボウルに分けて出して少し冷ます。
「おはよう、トーマ」
「もう来ていたの? 早いのね」
「良い匂い」
食堂へやって来たメェナに挨拶され、既に来ていたことにカグラが若干驚き、漂う香りに誘われたセイリュウがカウンター越しに見学するイクト達の隣に並ぶ。
やばい、今のセイリュウの行動が可愛くてしばらく忘れられそうにない。
落ち着け、調理中なんだから集中だ。
切れかけた集中を保ちながらスープの味を確認し、問題無いのを確認したら冷めないように一旦アイテムボックスへ入れる。
ジンジャーを細かく刻み、ボウルに酢と砂糖と少量の塩を入れて混ぜ、洗ったフライパンで黒ゴマを軽く炒る。
これらを少し冷ましたごはんへ合わせ、いなり寿司に詰める酢飯の完成。
あとはこれを油揚げに詰めるだけなんだけど、その前に蒸篭の蓋を開けて中身を確認。
蒸気と共に立ち昇る香りを嗅ぎながら中身を確認し、味の問題が無いのを確認したら火を止め、これも冷めないうちにアイテムボックスへ。
網をセットしたバットに載せている油揚げを手元に寄せ、これに酢飯を詰めていく。
「おはようございます、お兄さん、お姉さん。あっ、ちょうどいなり寿司を作っているところですね!」
「卵焼きは? 卵焼きはまだですか!?」
ポッコロとゆーららんところころ丸も起きてきたか。
卵焼きはこれが終わったら作るから、少し待っていてくれ。
イクト達ところころ丸を加えて十人分とはいえ、雑にならないよう手早く丁寧にやっていき、昼飯用のいなり寿司が完成。
いなり寿司 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:7 完成度:82
効果:満腹度回復10%
HP自然回復速度上昇【小・2時間】
味付けした油揚げに酢飯を詰めた、素朴ながらも親しみやすい一品
しょっぱめの油揚げと甘めの酢飯が口の中で混ざり、ちょうどいい味わい
炒りゴマが香ばしさを、刻んだジンジャーが味のアクセントを加えています
一つ味見をしてみると、単品ではしょっぱめの油揚げと甘めの酢飯が、一緒に食べることでちょうどいい感じだ。
ジンジャーの刺激が適度な辛さを、炒った黒ゴマが香りを加えているのも良い。
白ゴマじゃないから見た目の問題はあるけど、油揚げに詰めたからカバーできる。
ただなあ、暮本さんが作ったのに比べると物足りない。
これは調味液の量なのか割合なのか、それとも油揚げの煮込み時間か、絞る力が強くて調味液を外へ出しすぎたのか。
「お兄さん! 考え込んでないで、早く卵焼きを作ってください!」
「ますたぁ、あさごはんも!」
おっと、腹ペコ軍団が騒ぎだしそうだ。
完成したいなり寿司はアイテムボックスへ入れ、空いたボウルやバットを全て洗って水気を拭き取り、卵焼きに使う材料を出す。
大量の卵を四つのボウルへ割り入れて溶き、うち二つに砂糖と醤油少々を加える。
フライパンを二つ用意して油を敷いて火に掛け、温めている間に残る二つのボウルの溶き卵へ砂糖と醤油を少々加えて混ぜ、間違えないように少し離れた場所へ置いておく。
そして手元にある二つの卵液を二つのフライパンへそれぞれ少量注ぐ。
砂糖入りで焦げやすいから注意し、焼けてきたら巻いて追加の卵液を注ぎ入れる。
巻いた分を少し持ち上げ、そこへ卵液を流すのも忘れない。
そうしてある程度の厚みになったら卵焼きの完成。
時間差を付けたから、どちらか一方が焦げているということは無い。
この調子で全員分の卵焼きを焼き上げたら、火を止めて切り分け自分の分で一つ味見する。
甘口卵焼き 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:8 完成度:93
効果:満腹度回復8%
俊敏+2【2時間】 運+2【2時間】
砂糖が入った甘めの卵焼き
出汁巻ではないので、固さは普通
焦げやすいながらも焦げ一つ無く、丁寧に焼き上げられています
うん、良い感じの甘さだ。
甘すぎて卵の風味を消すこと無く、焦げている様子も無い。
固さは卵焼きとしては普通ぐらいだけど、これを求められたから問題無い。
じゃ、これも冷める前にアイテムボックスへ入れておこう。
さてと、後は朝飯のおかずだな。
必要な材料を用意して、まずはエバーグリーントマトのヘタを取り、八分の一のくし切りに。
離れた場所へ置いた二つの卵液入りのボウルの一方を手元に寄せ、準備は完了。
ちょっと多めに油を敷いたフライパンを熱し、強火でトマトを手早く炒める。
続いて卵液を必要な分だけ流し込んで炒めていき、卵が固まってきたら塩で味付けし、火が通りすぎないうちに皿へ出して胡椒を少々振って完成。
エバーグリーントマトの卵炒め 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:8 完成度:95
効果:満腹度回復14%
MP最大量40%上昇【3時間】 魔力40%上昇【3時間】
器用40%上昇【3時間】
熱したことでエバーグリーントマトの爽やかな酸味は弱まったが甘味が増した
それが卵と絡み合い、普通のトマトとの組み合わせ以上の旨味を演出
単品で美味しいので、ごはんやお酒が無くともいけます!
味見をしてみると確かにごはんや酒が無くともいける、単品として美味い料理だ。
緑のままのエバーグリーントマトだから、見た目は固そうだけど全然柔らかい。
弱まったとはいえ適度な酸味は残り、代わりに増した甘さが卵とよく合っている。
色合いは赤い普通のトマトの方が良いけれど、味は断然こっちの方だ。
「それが朝のおかずですか!」
「まーたー、はーくつくーて! はーくたーたいー!」
分かっているって、すぐにやるよ。
味見した分は自分の分としてアイテムボックスへ入れ、腹ペコ軍団の分を作っていく。
完成しては冷めないうちにアイテムボックスへ入れるのを繰り返し、全員分が完成。
先に出来ていたスープをアイテムボックスから出してお椀へ注ぎ、薄い輪切りのネギを浮かべ、最後に蒸篭で作っていた中華おこわを茶碗へ盛る。
謎骨出汁のスープ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:4 品質:6 完成度:84
効果:満腹度回復1% 給水度回復9%
運+4【1時間】
何の骨で作ったのかよく分からない、謎な出汁ベースのスープ
香りは良く見た目は透き通り、味は複雑で意外とコクがある
本当にこれ、何の骨のお味?
中華おこわ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:5 品質:7 完成度:91
効果:満腹度回復10%
満腹度減少速度低下【中・2時間】 体力+5【2時間】
味の染みたもち米と具材が美味しい中華おこわ
食べ応えがあって腹持ちが良く、勿論味も美味しい
具材や味付け次第で味わいは無限に広がります
これが今日の朝飯。
スープは香りは嫌な感じがしないし、味は説明通り複雑で意外とコクがあったから、名称については気にしない。
ひょっとすると砕けた骨っていう名称に統一しているだけで、種類はそれぞれ違うのかもしれない。
あと中華おこわ。
竹の皮があれば包んで中華ちまきにしたけど、無いから中華おこわにした。
実家の中華桐谷では年に一回、開店記念日にだけサービスとしてこれを出している。
その日は無料で定食やライス単品を白米から中華おこわに変更可能で、長年通う人達は毎年楽しみにしている特別な一品。
普段は締めにラーメンを頼む酔っぱらい達も、その日だけは中華おこわで締めるくらいだ。
なお、これは実家仕込みの作り方ではあるものの、店で出しているのは祖父ちゃんが作ったものだけ。
父さんですら、中華おこわだけは未だ祖父ちゃんの味には及ばないと苦笑いしている。
俺が作ったこれも、調味液や具材による良い香りで、食べ応えのあるもっちり食感で、勿論味も良いんだけど、祖父ちゃんが作ったものどころか父さんが作ったものにも遠く及ばない。
「これは混ぜご飯ですか?」
「蒸していたから、おこわじゃないかしら」
皆の前へ中華おこわを並べていると、ポッコロとカグラの会話が聞こえてきた。
そう、カグラの言う通りおこわだ。
「あっ、こっちはトマトと卵の炒め物だね」
「エバーグリーントマトで作ったんですね。見た目は普通のトマトの方が映えますけど、味はどうでしょう?」
続けてエバーグリーントマトと卵の炒め物を並べると、セイリュウとゆーららんが反応。
確かに赤いトマトを使った方が見た目が良いのは否定しない。
でも味ではこっちの方が良いから、思いっきり食べてくれ。
「このスープ、例の砕けた骨を使ったのよね。味も香りも情報も問題無いけど、謎骨って何よ」
スープを並べていくとメェナがスープを凝視した。
むしろ俺が聞きたいんだよ。
それとそのスープの基となっている謎骨の出汁は、中華おこわにも使っているからな。
心の中でそう思いながら箸やスプーンを並べ、わくわくしながら待っていたイクト達の音頭でいただきますをして食べだす。
「んー、このおこわ美味しいです!」
「スープも美味しい。本当、美味しければ材料が謎でも気になりませんよね」
最初におこわを食べたポッコロが嬉しそうに尻尾と耳を揺らし、ゆーららんもスープをすすって満足気な表情を浮かべる。
もっと美味いのを知っている身としては、まだまだ未熟だと思い知った。
まっ、美味いと言ってもらっているのに水を差す気は無いから言わないけど。
「今度から骨系の素材もトーマに渡した方がいいのかしら?」
「うふふ。そうね、今後はそれも集めましょうか」
「トーマ君、エバーグリーントマトと卵の組み合わせ、とても美味しいね! おかわりある?」
スープをすすったメェナが真剣な表情で呟くと、同じくスープを飲んだカグラが反応。
正面に座るセイリュウは炒め物を食べ、思わず見惚れそうな眩しい笑顔を向けながらおかわりを要求してきたものだから、つい目を逸らして少しだけあると返す。
「ますたぁ、このごはんもちもちしていておいしい!」
「にくもやさーもはーってておーしーの!」
「これは前におはぎで食べたもち米っていうものなんだよ。具材や味付けはもち米の存在感や魅力を殺さないようにしてあるし、独特の食感を保つよう調理されているからこそ、この中華おこわは美味しいんだよ」
単純に美味いと言うイクトとネレア、笑顔で食べながらモルモル鳴くころころ丸に対し、ミコトは真顔でいつも通り食レポ。
もしも食レポなんてスキルが存在したら、間違いなくレベルがガンガン上がっているだろうな。
「さあ、これを食べたら今日も頑張りましょう」
『おーっ!』
カグラの言葉に全員が声を上げ、直後に声を上げていない俺の方を見た。
いや、口の中に物が入っている最中なんだから、声を出すわけにはいかないだろうが。




