先への準備完了
用事を終えて作業館へ移動し、色々と仕込みをしていたらダルクからメッセージが届いた。
どうやら新装備での戦闘確認を終えて、これから帰ってくるようだ。
「ますたぁ、どうしたの?」
「ダルク達が帰ってくるんだ」
「じゃあそろそろ、ご飯の支度をするんだよ」
分かっているって。
水出しのポーションとマナポーション、ブルットワイン、熟成瓶へ肉を入れる、サンの実の皮と果汁の加熱、その他やりたい仕込みは済ませたから今度は飯を作ろう。
メニューは茹で鶏のネギ油ダレとかき玉スープと汁無し担々麺だ。
まずは茹で鶏のネギ油ダレから。
鍋に水とネギの青い部分とジンジャーを入れて火にかける。
別に鍋を用意して油を溜めたらこちらも火にかけ、その間にネギの青い部分と少量のジンジャーをみじん切りにして、ボウルへ入れておく。
水とネギとジンジャーを入れた鍋が沸騰してきたら、鳥の骨付きもも肉を入れて蓋をして数分茹で、火を弱める。
そこからさらに数分茹でたら、火を止めて余熱でじっくり火を通す。
父さん曰く、あまりグラグラ茹でずに余熱でゆっくり火を通すと、肉がしっとり仕上がるそうだ。
さらにこの茹で汁はスープに使えるから、この後でかき玉スープを作るときに使う。
「鶏肉を茹でているな」
「棒棒鶏か? それとも和え物か?」
「ネギはソースに使うのかしら」
さて、油が温まったから刻んだネギとジンジャーを入れた塩を加え、その油を入れてよく混ぜる。
ネギとジンジャーの良い香りが立ち上ると、正面から見学しているイクトとミコトが身を乗り出す。
スプーンで取って味見をして、ちょっとだけ塩を加えてしっかり混ぜたらネギ油ダレの完成。
油を温めた鍋を片付け、茹で上がった鶏肉を取り出して冷却スキルで冷まし、乾燥スキルで水気を取る。
そして骨ごとモモ肉を叩き切り、試食のために小皿へ三切れ盛り付けてネギ油ダレを掛ける。
茹で鶏のネギ油ソース掛け 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:8 完成度:91
効果:満腹度回復18%
知力+2【2時間】 風耐性付与【微・2時間】
しっとり柔らかい茹で鶏にネギが香るソースを掛けた
ソースの油が適度なこってり感を与え、満足感を演出
骨付きなので肉自体も良い味していますよ
骨の傍の肉が美味いのは、よく言われていることだ。
だからこそ、周りの目なんて気にせず骨に肉が残らないほど食ってほしい。
そんな気持ちが言わずとも通じたようで、味見をしているイクトとミコトは骨に付いた僅かな肉も残すまいと、骨にしゃぶりつく勢いで食べている。
しっとりと柔らかい鶏肉に、ネギの香りと食感と油のこってり感と微かに感じるジンジャーの香りと辛みが絡み合う。
「おいしー!」
「茹でてさっぱりと柔らかいお肉に、ネギとジンジャーの香りがあるこってりソースが合うんだよ」
感想を口にしたイクトとミコトの手には、一片の肉も残っていない骨がある。
綺麗に食べてくれて嬉しいぞ。
きっとダルク達もこれくらい食べてくれるはずと期待しながら、全員分のを仕上げていく。
それが済んだら茹で汁を利用したスープ作りを開始。
具材のトマトをくし切り、ジンジャーを薄切り、そしてネギの白い部分を細かく刻み、ボウルで卵を溶いて塩を少々加えておく。
深めのフライパンに熱して油を敷いたら、先にジンジャーを入れて香りを出し、続いてトマトを加えて炒める。
トマトの角が崩れてきたら茹で汁を注いで少し煮て、塩で味を調えたら菜箸でスープを混ぜつつ、溶き卵を菜箸に沿わせて流し入れる。
卵がふんわりしたところで火を止め、お椀に注いで刻んだネギの白い部分を浮かせて完成。
なお、仕上げにごま油を少量かけ回しても良し。
トマト入りかき玉スープ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:2 品質:9 完成度:93
効果:満腹度回復6% 給水度回復12%
MP自然回復量+2%【3時間】 魔力+2【3時間】
鶏肉の茹で汁を利用したかき玉スープ
トマトと卵は炒めるだけじゃない、スープにしても美味しいです
味の方も良し。
彩りを意識するならネギは白じゃなくて緑の部分でいいし、面倒なら茹で汁じゃなくて水でもいい。
これを教えてくれた父さんは、そう言っていた。
「ふわふわがおいしい!」
「卵のふわふわもいいけど、トマトも良いんだよ。軽く炒めてあるから香りも良いし、とても美味しいんだよ」
二人からも好評か。
特にイクトは触覚とレッサーパンダ耳が、激しく動いている。
さて、ラストは汁なし担々麺だ。
まずは下準備に油屋で買った固形ラードをフライパンで熱して溶かし、唐辛子とネギと焼いて香りを出したサンの実の皮を刻み、ニンニクとジンジャーをすりおろす。
さらにスコーピの店で買ってきた黒ゴマと油を魔力ミキサーへ入れ、徹底的に混ぜ合わせる。
途中で状態の確認を挟んで混ぜ続け、練りごまの完成。
できれば白ゴマとごま油で作りたかったけど、そこは臨機応変にある物で対応する。
これを三つのボウルに出し、水、酢のようにしたサンの実の果汁、焼いたサンの実の皮、刻んだ唐辛子、刻んだネギの青い部分、粉ビリン、塩、砂糖、フライパンで溶かしたラード、すりおろしたニンニクとジンジャーを加えて混ぜ、それぞれの味見をしながら調整して三種類のタレが完成。
タレを三種類用意したのは、それぞれの好みの辛さに合わせるためだ。
辛いのが平気なメェナ用に唐辛子と粉ビリン多めの激辛、そこそこの俺とカグラとセイリュウ用にそこそこ、辛いのが苦手なダルクとイクトとミコト用にかなり控えめにした。
さて、タレの次は具材だ。
でもその前に寸胴鍋に水を張って火に掛けておく。
具材は既に刻んであるネギの白い部分の他、ハーブを刻み、さらに肉と落花生も使う。
肉はチェーンクエストで知り合ったミヤギのところで買ってきたホーンゴート。
固いと感じるほど歯ごたえが強い肉だけど、その点は小さく切り分けて魔力ミキサーでミンチ状にすることで解決。
この肉をフライパンで炒め、塩と胡椒と砂糖で味つけしたものをボウルへ移して肉の仕込みは完了。
ワンダフル青果店で買った落花生は乾燥スキルで乾かし、中身のピーナッツを取り出して炒り、すり鉢とすりこぎで粗く砕く。
これらの工程の間に寸胴鍋でお湯が沸いたから、味見用にストックの太麺を一玉てぼに入れて茹でる。
茹で上がったらしっかりお湯を切り、一玉を三つのお椀に分けて入れ、肉を載せてタレをかけ回し、刻んだネギの白い部分とハーブとピーナッツを載せて、汁なし担々麺の完成。
汁なし担々麺 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:8 完成度:89
効果:満腹度回復18%
体力+3【2時間】 火耐性付与【小・2時間】
日本では汁ありが主流ですが、本場ではこっちが主流
色々使った辛口ダレと具材が複雑な味と香りを生み出す
炒って砕いたピーナッツが隠れた引き立て役
思いっきり混ぜ合わせ、思いっきりすすって食べて下さい
そうそう、中国では汁なしこそが主流なんだよな。
日本の汁ありは、日本人の口に合わせて開発されたって聞いたことがある。
まあそんな知識はさておき、味は……美味い。
主体になっている唐辛子の辛さと粉ビリンの痺れに、サンの実の果汁の酸味、サンの実の皮の微かな苦味、他にもネギやハーブや炒って砕いたピーナッツといった様々な材料が複雑な味と香りを作り出している。
タレと具材に色々と使っているから、その風味に負けないよう太麺を選んだのも正解だな。
複雑で濃いめの味にちょうどいい。
「ちょっとからいけど、おいしー!」
「単純に辛いんじゃなくて、色々と複雑な味と香りがするんだよ。それが麺にしっかり絡めて食べると、凄く満足感があるんだよ」
イクトがちょっと辛いと感じるくらいなら、ダルクも大丈夫だろう。
「汁なし担々麺ね。美味しそう」
「なんかタレや具の仕込みが本格っぽかったな」
「個人的には汁ありの方が好きだ」
さて、試食は済んだし全員分を作らないと。
麺を茹でては丼に入れ、具とそれぞれに合わせたタレをかけていく。
メェナのやつにはそれに加え、別口で刻み唐辛子と粉ビリンをたっぷりと掛けよう。
「ますたぁ、そのまっかなのめぇなおねえちゃんの?」
「そうだぞ」
「どうしてそんな真っ赤なのを、美味しそうに食べられるのか分からないんだよ」
言うな。世の中には色々な人がいるんだよ。
心の中でそう呟きながら、完成した汁なし担々麵をアイテムボックスへ入れる。
さて、ダルク達はまだ帰って来ていないし、おかわりでさらに麺を消費することを見越して、麺のストックを仕込んでおくかな。
今日の町を回る前に、ポーションまぜそばみたいな麺を仕込もうか考えていたし、そのポーションまぜそばの麺を……。
いや待て、確か玄十郎から仲間以外には言うなって釘を刺されたんだっけ。
ということは、調理工程も見せない方がいいのか?
周囲を見回すと、他のプレイヤー達がこっちをチラチラ見ている様子が伺える。
うん、玄十郎に釘を刺されたのもあるし、念のためにやめておこう。
というわけで普通に生地を作り、麺棒代わりの棒である程度伸ばし、パスタマシンで目的の厚さと幅の麺を仕込む。
「ただいま!」
「うふふ、ご飯は何かしら」
「お昼のカツサンド、美味しかったよ」
「お酢のジュースもね」
麺の仕込みをしながら帰って来たダルク達を見ると、装備を更新したとあって朝と少し姿が違う。
ダルクはヘッドギアは前のまま、鎧の銀色が鮮やかになって形状は少し豪勢になった感じがする。
カグラは三日月の冠と袴はそのままで、巫女服の上が青白かったのが薄い紫で肩出しになり、草履が木製っぽい感じだ。
セイリュウはサークレットは変わらず、ローブが白から薄い黄色になって、スカートが水色になった。
でもってメェナは、相変わらず動きやすさ重視で露出が多くて目のやり場に困る。
下がホットパンツのままなのはともかく、上に至っては胸周りに薄緑の布を巻いて、胸元にある紐を途中で交差させて首の後ろで結んでいるだけだ。
ゲームだから外れる心配は無いんだろうけど、それって大丈夫なのか?
「おねえちゃんたち、ふくかえた?」
「服だけじゃないよ、武器も変えたよ!」
そう言って得意気に取り出した剣と盾は、どちらも前のより厚みがある感じがする。
するとそれに続くように、カグラは右手に白い扇を左手に緑の扇を持ち、セイリュウは以前より少し立派になった水色の杖を両手で持ち、メェナは触れたら削られそうな革製のガントレットと流麗な見た目の脛当てを表示させた。
「強そうなんだよ」
「でしょう! 見て見てトーマ、これが新しい装備だよ!」
はいはい、麺の仕込みは済んだからちゃんと見てるよ。
だからステータス表示させてまで、見せようとしなくていいから!
*****
ダルク
装備品
頭:鋼鉄のヘッドギア
上:クッションロングインナー
下:パワードロングパンツ
足:バトルシューズ → グランドシューズ
他:硬銀の鎧 → 戦銀の鎧
武器:フルメタルブレード 重耐の盾
→ クラッシャーブレード ガーディアンシールド
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カグラ
装備品
頭:三日月の冠
上:洗礼の巫女服 → 浄化の巫女服
下:鮮紅の袴
足:ウィップトレントの草履 → 樹術の下駄
他:羽布の足袋
武器:鈍銀の扇×2 → 閃光の扇 新緑の扇
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セイリュウ
装備品
頭:マジックサークレット
上:レジストシャツ
下:魔布のスカート → 水冷のスカート
足:跳栗鼠革の靴
他:清浄のローブ → 雷鳴のローブ
武器:リキッドロッド → アクアステッキ
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メェナ
装備品
頭:ファイティングハチマキ
上:テクニカルノースリーブシャツ → インファイトオフショルダーシャツ
下:アクセルホットパンツ
足:蹴撃のグリーブ → 俊蹴のグリーブ
他:軽鉄の胸当て
武器:刺撃のガントレット →ブレイクガントレット
*****
前回同様、よほど自慢したかったのか、ステータス画面に更新した装備を表示させてどういう物かを伝えてくる。
だけど順番にならともかく、全員同時に早口で喋られたらよく聞き取れない。
店で注文が矢継ぎ早に飛ぶことはあっても、複数人が同時に喋ることは無いからな。
こういう時は喋りたいだけ喋らせ、落ち着くのを待つしかない。
それから数分後、ようやく落ち着いたダルク達を座らせ、飯にすることにした。
「じゃあ、いただきます」
いつも通りダルクの音頭でいただきますをして、晩飯を食べだした。
「うん、このネギたっぷりの鶏肉美味しいね」
「こんな美味しいの、骨以外残すのが勿体ないよ!」
正面の席で茹で鶏のネギ油ソース掛けを味わうセイリュウの隣で、ダルクが骨に残った肉をかじって取っている。
さすがにそれを行儀悪いと言うほど、俺は無粋じゃないぞ。
「はふぅ。トマト入りのかき玉スープって美味しいのね。トマトと卵って、本当に相性が良いわ」
トマト入りかき玉スープを飲んだカグラが恍惚の笑みを浮かべ、お椀を手にしたまま、ほうと息を吐いた。
どうしてそう、何気ない仕草でも妙な色気があるんだ。
「キッタアァァァァッ! 辛くて痺れて美味しい! この汁無し担々麺、最高ね!」
もう何度こう思ったか分からないけど、そんな真っ赤なものを喜んで食べるメェナの口の中は大丈夫か?
まあ喜んでくれているのなら、別にいいけどさ。
「あじみしたけど、やっぱりおいしー!」
「さすがはマスターなんだよ」
両隣のイクトとミコトよ、喜んでくれてこっちも嬉しいぞ。
「トーマ、汁なし担々麵おかわり! 勿論、激辛で!」
だろうと思って麺は余分に茹でてアイテムボックスに入れてあるし、具もタレも残してあるぞ。
あっ、ダルク達もおかわり?
ちょっと待ってくれよ、すぐに作るから。
そうして飯の時間を楽しみ、後片付けを済ませたら食後の余韻に浸りつつ、明日の話をする。
「明日は朝ご飯を食べた後、予定通りにフォースタウンハーフムーンへ向かうわよ」
「装備を更新してレベルも上げたし、トーマ君が水出しのポーションとマナポーションを用意してくれたから、準備はバッチリね」
「イクト君とミコトちゃんのレベルだと少し足りないけど、それを見越して準備したから安心して」
「ふっふっふー。僕の新装備が火を噴くよ」
よろしく頼む。
なにせこちとら、戦闘は完全に丸投げだからお前達が頼りなんだ。
戦わない分は、明日の朝飯と移動中の昼飯をしっかり用意しておくことで貢献するからさ。
「そういえばトーマ君、ギルドを作る方法が発見されたらしいわよ」
「そうなのか? ということは、塾長のところは」
「とっくに戦闘ギルド、野郎塾を結成したそうよ」
さすがは塾長、やることが早い。
他にもいくつかのギルドが結成され、ミミミや玄十郎やイフードードーも仲間達と情報屋ギルド、【UPOインフォメーション】を作ったそうだ。
「あとね、フォースタウンフルムーンに定期船が到着したから、野郎塾の人達や攻略組の人達がそれに乗って海に出たんだって」
遂に海洋進出か。
その海にはどんな旅が待っているのやら。
「僕達も早く海に行きたいね」
「うみ、たのしみ!」
「明日には見れるんだよ」
そうだな、そのためにも早く宿を取って寝ようか。




