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12/203

本職じゃないから


 ちょっとした騒ぎはあったけど、調理三昧は順調だ。

 相変わらず野次馬は多いし、かぶりつきで見ていた少年と少女からはキラキラした目を向けられてるし、お礼にご馳走するミミミは調理する様子をガン見してるけど、特に調理に影響は無い。


「ふあぁぁ……どれも美味しそうだったけど、そこまでいくのぉ……」


 今にも涎が溢れ出そうなミミミが注目しているのは、鍋で煮られている砂糖を加えた小豆。

 ボーンズスープの後に作った、肉野菜炒めと豚ヒレ肉のトマトソース煮込みにも熱視線を向けていたけど、今はそれ以上だ。

 ちなみに先の二つは既に調理を終え、アイテムボックスへ入れてある。




 肉野菜炒め 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:1 品質:8 完成度:94

 効果:満腹度回復34%

    体力+1【2時間】 腕力+1【2時間】

 豚肉と野菜を使った定番料理

 シンプルだからこそ技量が問われる一品

 それでいて野菜や味付けを変えれば味は変幻自在、無限大


 *豚の肩肉を炒める。

 *一旦肉を皿によけ、キャベツ、ニンジン、タマネギを炒める。

 *よけていた肉を加えて炒め、塩胡椒で味を調えて完成。




 豚ヒレ肉のトマトソース煮込み 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:3 品質:7 完成度:86

 効果:満腹度回復41%

    MP最大量+30【2時間】 魔力+3【2時間】

 焼いた豚ヒレ肉をトマトソースで煮込んだ一品

 先に肉を焼いたため、煮込まれても旨味が逃げてません

 タマネギの食感とハーブの風味も楽しめるソースでどうぞ


 *少量の油を敷いて皮を剥いて刻んだトマトとタマネギを煮込む。

 *途中で刻んだハーブを加え、塩胡椒で味を調えてトマトソースの完成。

 *豚ヒレ肉に小麦粉を薄くまとわせて焼く。

 *焼いた肉をトマトソースで煮込んで完成。




 そして今作っているのが今回の調理三昧におけるラストの一品、粒あんを使ったゴマ無しのゴマ団子。

 甘い物が好きなカグラの期待に応えるべく、ステータス画面にあるネット検索で粒あんの作り方を調べ、それを参考に粒あんを仕込んでいる。

 今は洗った小豆をたっぷりの水で煮て渋きりっていうのをして、水を替えて再度小豆を煮ながら灰汁を取り、小豆が柔らかくなったのを確認して砂糖を加えたところだ。

 火加減はともかく、煮ている間は灰汁が出続けるから気を抜けなかった。

 ちなみにこしあんじゃなくて粒あんなのは、こし器が無いからだ。さすがにザルじゃ、目が大きくて代用できないからな。


「そ、それで完成?」

「まだだ。調べた情報によると、小豆を潰さないように混ぜながら、煮汁がほぼ無くなるまで煮込むらしい」


 最後に塩を少量加えるとあるけど、これはスイカに塩を振って甘さを際立たせるのと同じ理屈だろう。


「まさかゲーム内で、甘い物が味わえるなんて思ってもみなかったわ」


 両手を頬に当てたミミミは、嬉しそうにクネクネしだした。

 まだ完成してないから、ちゃんとできてるか分からないのに。

 そうして煮込むことおよそ三十分。甘さを際立たせるために少量の塩を加えたら粒あんの出来上がり。




 粒あん 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:6 完成度:82

 効果:満腹度回復6%

    運+2【1時間】

 小豆から手作りした甘い粒あん

 隠し味に加えた塩でより甘さが際立っている

 優しい甘さと粒あんの食感をご堪能下さい




 確認の味見も問題無かったから、次は粒あんを皮で包んで揚げていこう。

 大きさと皮の厚みを均一にするため、あらかじめ寝かせていた生地を餃子より厚めに伸ばして正方形に切り分け、鍋に油を入れて熱している間にスプーンで粒あんを皮に乗せて包んでいく。

 そしてこれを熱した油へ投入し、皮が揚がったら完成だ。




 粒あんの揚げ饅頭 調理者:プレイヤー・トーマ

 レア度:2 品質:6 完成度:88

 効果:満腹度回復9%

    運+2【1時間】 器用+2【1時間】

 皮も餡も手作りの美味しい揚げ饅頭

 サクサク皮としっとり粒あんがコラボレーション

 甘い揚げ物ですが、カロリーは気にするな!




 あー、そうなったか。

 だよな、ゴマ無しのゴマ団子というより、揚げ饅頭だよな。

 まあ味見してみて美味いから、名称はなんでもいいか。


「甘い物が――」

「嘘――」

「お金出せば――」

「「わー!」」

「へっへっへっ」


 周りがざわついて、かぶりつきで見ていた子達は調理が終わった途端にまたかぶりつきで揚げ饅頭を見つめ、興奮したミミミはウサギなのに犬みたいに舌を出してる。

 はいはい、後片付けするからさっさとアイテムボックスへ入れておこう。


『あぁ~……』


 なにその絶望感溢れる溜め息。

 というかミミミはダルク達が帰ってくれば、仲裁のお礼に食べられるんだから絶望しなくていいだろ。

 そのダルク達だけど、そろそろそっちへ戻るっていうメッセージが既に届いてるから、後片付けをしたら人数分の椅子を用意して待つことにした。

 もう料理をしないと分かったら野次馬達は散っていき、残ったのは水を飲んで休む俺と、早く食べたいと呟きながら作業台に身を預けるミミミだけ……じゃなかった。

 かぶりつきで見ていた子達が、おずおずと近づいてきた。


「あ、あの」

「ちょっとお話いいですか?」


 断る理由は無い。話を聞くだけならな。


「いいぞ。なんだ?」

「僕はファーマーの栗鼠人族で、ポッコロっていいます」

「私は同じくファーマーで、海月人族のゆーららんです」


 ファーマー、ということは農家か。

 見た目は私立小学校の生徒なのに、それでいて農家なのか。

 というか、リスはともかくクラゲ?


「クラゲ?」

「はい、海の月と書いてクラゲです」


 あー、まあ、腰まである長い水色の髪と白い肌だし、クラゲっぽくはあるか?

 しかしなんでまた、そんな種族を選んだんだろう。


「クラゲって可愛いですよね。半透明なところとか、海の中をユラユラ揺れるところとか」


 もしもしお嬢さん、毒があるとかそういうのはいいのか?

 そんな疑問に抱きつつも、人の好みはそれぞれだと自分に言い聞かせ、俺とミミミも自己紹介をしたら本題に移る。


「それで、用件はなんだ?」

「ああ、はい。僕達に料理を卸してくれませんか?」

「料理を卸す?」


 どういうことだ?


「とりあえず座って、詳しく話を聞かせてくれないか?」

「「はーい」」


 椅子へ腰かけたポッコロとゆーららんに話を聞くと、二人は自分達の畑で野菜や薬草を育てて売るだけでなく、収穫物で料理や薬を作って販売しようと考えていた。担当はゆーららんが薬でポッコロが料理。

 ところが料理には実際の腕前が必要と知り、料理は断念してポッコロは販売担当へ変更してゲーム開始。

 しかし料理を出すことへの未練を捨てられず、悩んでいるところへ俺の情報を掴む。

 そして駄目で元々、当たって砕けろのつもりで、自分達の育てた作物で料理を作って卸してもらえないか尋ねたそうだ。


「本当はもっと早く尋ねるつもりだったんですが……」

「作業館で待ち構えていようとしたら、既に来ていて見事な料理を作っていたもので、つい見入ってしまって……」


 それが、かぶりつき見物に繋がっているわけか。


「それで、どうでしょうか?」

「勿論報酬はお支払いします。まだ作物はできてませんし予算不足で露店すら出せませんが、販売したら料理の売り上げの半分をお兄さんに渡します」


 報酬は当然だな。材料は全て向こうの提供だとしても、手間賃や技術料を貰わないとやってられない。

 販売する目途が立っていないのに交渉している点は、現状で問題ない。

 別に俺に出資してくれとか、そういう損を被るリスクのある話じゃなくて、販売の目途が立ったらうちの野菜で使った料理を卸してください、だからな。

 ただ、これはおそらく受けない方がいい話だ。

 ダルク達は俺の料理がバフ付きなことを、絶対に口外するなと言った。

 なら、不特定多数の相手に料理を売ることになる、この手の話は受けない方がいい。

 そうなると、問題はどう断るかだな。

 子供相手に理由無く断るのは心苦しいし、周囲への印象が悪い。

 だけど幸いにして断る理由はあるから、それでなんとかしよう。


「話は分かった」

「「本当ですか!?」」

「だけど言いたいことが二つある。一つ目、お前達が俺の料理を食ったことが無いのに、こんな話を持ち込んだことに対して不信感を抱いてる」

「「あっ……」」


 この二人は俺の料理を見てはいるけど、食ったことは無い。

 実際に食べてないのにこういう話をされるのは、評判だけで美味いと決めつけられてるようで嫌だ。


「そして二つ目、俺は本職じゃないから金を取れる料理を作れる自信が無い」

「「えっ?」」

『えぇっ!?』


 なんでポッコロとゆーららんだけじゃなくて、周りで作業をしているプレイヤー達も驚くんだ。


「トーマさんって、本職の料理人じゃないの!?」


 そしてミミミも、そこまでは聞いてなかったのか。

 まあ現実の情報を話すのはマナー違反だから、知らなくても不思議じゃないか。


「マジか」

「あれで本職じゃないのか」


 なんか周りがざわついてるけど、今はポッコロとゆーららんへの対応が優先だ。


「本当に、料理人じゃないんですか?」

「このゲームでの職業では料理人だけど、現実ではまだ本職を目指している身だ」


 料理人に資格は必要無い。調理師免許も、取得していれば役に立つというだけで必須じゃない。

 必要なのは高い調理技術に加えて、積み重ねた調理経験と料理の知識だ。

 だけど今の俺は技術と知識を多少は習得した程度で、経験は全然足りないし技術も知識もまだまだ不足している。

 実家の店で料理を出しているとはいえ、それも祖父ちゃんと父さんから許しが出ている数品だけで、それ以外の品は調理補助しかしていない。

 現実のダルク達が注文した品が俺へ振ってもらえてるのも、あいつらが店で出せる料理を分かっているからだ。


「あんなに美味しいスープが作れるのに?」


 味見とはいえスープを飲んだミミミが、信じられない表情で尋ねてきた。

 あのスープの場合、スケルトンボアの骨のお陰だろう。豚骨や鶏ガラとかじゃ、あんなに荒々しくて強い味は出せない。


「美味い料理を作れても、それが客からお代を取れる料理ってわけじゃない」


 これ、祖父ちゃんと父さんからのありがたい教えね。

 今の俺に作れるお代を貰える料理は、店で出していいと言われてる数品だけ。

 単に作るだけなら、店で出してる料理も出してない料理も一通りの物は作れるし、味もそれなりに自信がある。

 でも友人や知り合いに振る舞ったり賄いに出したりするぐらいならともかく、店に出したり販売したりできる料理じゃない。


「じゃあ、仲間の方々からもお金は?」

「食費とお礼の報酬は貰っているけど、お代は貰っていない」


 報酬と代金は違う。

 そもそも当初の約束では、食費の支払いと食材の提供だけだった。

 そこへ金の使い方の配慮とバフ効果に対してお礼の報酬が発生しただけで、料理そのものに対する代金は決して受け取ってない。


「別にゲームなんですし、もっと気軽にやってもいいんじゃ……」


 ポッコロの言うことは分かる。でも、それはそれ、これはこれだ。


「それとこれとは話が別だ。ゲームとはいえ、本職を目指す以上は譲れない」


 だから食費や報酬を出してくれるダルク達への料理も、一切手を抜かずに作っているんだ。

 金を出してもらえる料理を作る腕前じゃないのに、ゲームとはいえ料理を売ることはしたくない。


「そういう訳で、不信感プラスお代を貰える料理を作れないから、販売目的の料理を卸すのは断りたい」


 未熟なのを承知で俺の料理を求めてくれるダルク達へ振る舞ったり、仲裁のお礼にミミミへご馳走したりするのはともかく、不特定多数の相手に料理を販売するつもりは無い。

 例外はNPCへの納品依頼くらいかな。そっちはギルドへの貢献度を上げて、ダルク達に出す食事をより充実させるためと割り切ってる。

 こう言ったら不快に思う人もいるだろうけど、所詮はAI相手だからな。


「そうですか」

「残念です」


 しょぼんと落ち込む二人には申し訳ないけど、これもダルク達との約束を守るためなんだ。

 それに理由は本当のことだから、どうか許してくれ。


「お詫びと言ってはなんだが、フレンド登録を交わさないか?」

「「いいんですか!?」」

「ああ。それに作物で良いのができたら、ぜひ買い取りたい」

「「ありがとうございます!」」


 落ち込んだ表情が一転、パァッと明るくなった。

 うんうん、やっぱり子供は笑ってないとな。

 そういうことでポッコロとゆーららんをフレンド登録をしたら、その流れでミミミともフレンド登録を交わし、その後は三人と他愛ない雑談をする。

 二人の服装は選んだ職業とは別に十三歳未満限定で選べるものだとか、畑は二人の共同運営にしているとか、今は数種類の野菜と薬草を栽培しているとか、今までこのゲームでどんな料理を作ったのかとか、そんな話だ。


「ただいまー! あれ? ミミミはともかく、その子達は誰?」


 おっ、ダルク達が戻ってきたか。

 ペコリと頭を下げるポッコロとゆーららんを紹介し、一緒にいる経緯を説明。

 ついでにミミミが仲裁に入ってくれた騒動の件も伝えたら、よくやったとダルク達に囲まれてバシバシ叩かれながら褒められた。


「やめてやめてやめて。HPは減らないし痛みはさほど感じないけど、あまりバシバシ叩かれると地味に痛い。というか、誰か本気で叩いてない!?」


 背中を叩いているダルクが、割と本気で叩いてるかも。


「そういう訳で、ミミミにはお礼として飯をご馳走したいんだけど、いいか?」

「「「「賛成!」」」」


 だろうよ。これに異議は出ないと思っていたよ。

 さらにポッコロとゆーららんと握手をして、俺が頑固者でごめんねと謝ってる。

 いやちょっと待て。料理の秘密がバレないようにしたのに、そういうこと言うか?

 釈然としない気持ちを抱きつつ、そろそろ畑へ戻るというポッコロとゆーららんを見送ったら、お待ちかねの食事タイムだ。

 いくつか作った中から、適当に四品選んで作業台へ並べ、フォークやスプーンを置いていく。


「ふおぉぉぉっ! 唐揚げ様や、唐揚げ様が降臨なすった!」


 揚げ物大好きダルク、タックルラビットの唐揚げに大興奮。

 というか、唐揚げ様ってなんだ。


「あら、肉野菜炒めじゃない。お米が無いのが残念ね」


 シンプルな料理を好むメェナが、肉野菜炒めを前に米が無いのを悔やんでる。


「トーマ君! この黒いスープ、なんか怖い!」

「大丈夫よ、セイリュウ! 味見させてもらったけど、これ凄く美味しいから!」

「「「「うそぉ……」」」」


 スープ皿へ注いだボーンズスープを見たセイリュウが怯え、見開いた目をヤバい感じに爛々とさせるミミミの言葉で、スープに腰が引けていたダルク達はその表情にも引いた。


「これは刻みキャベツ? 唐揚げに添えるの?」

「いや、ザワークラウトだ。それと、これはデザートだけど出しておくぞ。粒あんの揚げ饅頭」

「嘘っ!? 甘い物を作ってくれたの!? ありがとうトーマ君! そんなあなたの心遣いに、痺れる憧れる抱きしめちゃう!」


 甘い物が好きなカグラが揚げ饅頭の登場に暴走して抱きついてきた。

 おおうマジか。ゲームなのに柔らかい感触はしっかりある。何の感触なのかは聞くな。

 うん? なんか表示されたぞ。


「プレイヤー・カグラよりハラスメント行為を受けました。運営へ通報しますか?」

「「「「駄目! それイエス押しちゃ駄目!」」」」


 はい、分かりました。すぐにノーを押しておきます。

 勢いに押されてノーを押した後、今のメッセージがどういうものなのかを教えてもらった。

 なるほど。不適切な接触をされたから、運営へ通報しますかっていうメッセージだったのか。

 事前に通報するかを確認するのは、夫婦や恋人や友人による、許容範囲内の接触の場合があるからか。


「もう、何やってるのよ」

「甘い物を作ってもらえたから、感極まってつい。ごめんねトーマ君」


 肉野菜炒めを食べるメェナの手とザワークラウトを食べるカグラの手は、喋りながらでも止まらない。

 食べるか喋るか、どっちかにしなさい。


「いいって、気にするな」


 良い感触を堪能できたからな。

 現実にいるカグラのファンには、知られないようにしておこう。


「ふおぉぉぉぉっ! やっぱり唐揚げ様はサイコーだよ!」


 お前は揚げ物ならなんでもサイコーって言うじゃないか、ダルク。


「んぐっ、んぐっ、んぐっ!」


 無言で一心不乱にボーンズスープを飲むミミミがちょっと怖い。

 スプーンを置いといたのに、皿を持って直接口を付けて飲んでるよ。


「あへぇ……」


 同じくボーンズスープを飲んでいたセイリュウは、蕩けた表情でビクンビクンしてる。

 こいつもこいつで大丈夫か?

 でも何度確認しても、スープ自体に悪い効果は無い。

 病気、中毒性、毒、麻痺、呪い。効果や説明文にはそういったものを連想させる言葉は一切無い。

 なら大丈夫ということにして食事を続けよう。


「トーマ、トーマ! ここにあるの以外は何作ったの!?」


 食ってる最中なのに、どうして他の料理が気になるんだ。

 ダルク以外も期待の眼差しを向けてくる。というかミミミ、お前は調理の様子を見てたから知ってるだろ?


「作っておいたのは、味付け餃子と豚ヒレ肉のトマトソース煮込みと豚ロースの唐揚げ、前にも作った乾燥野菜の塩スープ。それと揚げ饅頭は半分残してあるし、ザワークラウトもまだまだ残ってる」

「「「「「おぉぉぉっ!」」」」」


 いやだから、なんで作った物を知ってるミミミも混じって喜んでるんだ。

 それとお礼はこれっきりだから、もう食わせないぞ。


「あら? なんでミミミも喜んでるの?」

「えっ?」

「今は仲裁のお礼で同席してるんでしょ。次は無いわよ」

「えぇっ!?」

「この後で情報を買ってもらったら、それでさよなら」

「そんなっ!?」

「お別れグッバイ、アデュー!」

「いやあぁぁぁっ!」


 いいぞお前ら、もっと言ってやれ。

 その後、どうか次の食事も同席させてほしいとミミミが頼み込んだものの、ダルク達は頷かない。

 情報の買取額を上乗せすると言えば、情報屋が適正な値段で情報を買わないのはどうなのかとメェナが反論。

 今後も俺を見守るからと言えば、平等な立場の情報屋が特定の相手だけを贔屓するのはどうかとセイリュウが反論。

 食費を払うからと言えば、お金を出せば他の人も食べられるみたいになるから駄目とカグラが反論し、何故か周りからも絶望的な声が上がる。


「じゃあ、どうすればいいのよ!」

「諦めて」


 作業台を叩くミミミへ、満面の笑みでダルクが無常かつ簡潔に告げた。


「いやあぁぁぁぁぁぁっ!」


 頭を抱えて絶望の悲鳴を上げるミミミを気にせず、ダルク達はデザートの揚げ饅頭を幸せそうな表情で食べる。

 特に甘い物が好きのカグラなんて、幸せすぎて表情が緩みきってる。

 遅れてミミミも半泣きのまま食べると、美味しいですと呟いた。

 粒あん作りは初めてだったけど、お気に召したようでなによりだ。

 そんな食事の後、ボイチャでミミミへ売りたい情報のことを伝えたんだけど。


「えぇぇぇぇぇっ!?」


 マッシュの家で、料理ギルドや商店では買えなかった品が買えたことを教えたら驚かれ。


「はあぁぁぁぁぁぁっ!?」


 いつの間にかメェナがスクショっていうので撮影した、これまでに作った料理の表示内容を映した画像を証拠に、バフ付き料理のことを話したらもっと驚かれ。


「ふぉおぉぉぉぉぉぉっ!?」


 六人まではパーティーに入れるから、ミミミをパーティーに加えて俺のステータスから称号の情報を見せたら、年頃の女性がしちゃいけなさそうな表情と声で驚かれた。

 そして震えだしたミミミは、作業台の上に両手を置いて頭を深く下げる。


「今の時期じゃ、こんな情報を買い取れるだけのお金がありませぇん! 後日必ずお支払いしますから、どうか待ってくださぁい! 平に、平にご容赦をおぉぉぉぉぉっ!」


 スープを味見した時もそうだったけど、ミミミって一人だけ和風の世界観でゲームしてないか?

 それとも、現実ではそういうのが趣味の人なのかな。

 なお、情報の代金は支払いが終わるまではなにがあろうと、絶対に俺の料理を食べられないのを条件に支払いを待つことで決まった。

 支払額もしっかり聞いておいたから、誤魔化されることはないだろう。


「うわあぁぁぁっ。まずは仲間と連絡を取って検証して、販売価格を決めないと。でも食材の情報はともかく、他の二つは料理の腕から彼だと特定されかねないから下手に売れない。けど早くお金を稼がないと、彼のご飯をまた食べる機会が得られないし。あぁぁぁぁぁぁっ!」


 頑張れミミミ、凄く頑張れ。


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― 新着の感想 ―
良かった
ほんまにちゃんとした料理人目指すなら家族や友達に出すならともかくお金もらったり何かしてもらったお礼に料理出すのは行かんぜ主人公まぁそこは本人の覚悟の問題だから他人が口に出すことじゃないけどねでも少なく…
[気になる点] 「お礼」として「料理を振舞う」を許容してるのはちょっとなぁ……と思った。 だって「振舞う料理」に「その価値がある」って認めてるのと変わらんからねソレだと。 「金をとれるモノではない」け…
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