第24話 ワンコの事情と兎さん
ランス公爵家は六大公爵家の中で最も金欠である。理由は色々とあるが、1番はランス公爵家が誇る騎竜にあるそうな。
ランス公爵家は険しい山岳地帯にあり、翼竜の住処であったと言われている。ランス公爵家の始祖が翼竜を手懐け、ランス公爵家は唯一ドラゴン騎士団なるものがあるという。そのドラゴンに莫大なお金がかかり、借金まみれなのだそう。
ランス公爵家が潰れたら困るから王家から支援金も出ているそうだがそれでも追いつかないらしい。
「討伐後は騎竜達の餌も豊富で一時的に潤うのですが、獲物が少ない時期には他領から大量の餌を定期的に買う必要があって……。それだけでなく、騎竜騎士団の装備にもお金が……。それに、隣国からの侵略にも対応が必要で……」
騎竜からの攻撃となれば、槍は投擲。つまり、ほぼ使い捨て。ベンが複数槍を持ち歩いていたのは恐らくその癖だな。槍=使い捨てという認識なのだろう。
唯一聖槍は投げても自動で帰還するそうだが、修理費がバカ高い。
さらには隣国から時折山賊崩れやらが来るそうで、侵略への備えも必要。砦の修繕費も馬鹿にならない。
ちなみに最南端にあるフレア公爵領地は領地の外はジャングルみたいになっており湿地帯のためわざわざそちらから侵略する馬鹿はおらず、肥沃な大地と鉱物資源も豊富で6大公爵家で1番金持ちかもしれない。
「今や借金の利息を返すので手一杯……」
「とりあえず、その借金いくら?」
「えっと……」
ふむ、私のポケットマネーでなんとかギリギリいけるわね。貯めててよかった、お小遣い!
「借金を一括で返済しましょう。私、利息いらないので代わりにお願いを聞いてくださる?」
「い、いえ!さすがにそこまでしていただくわけには……」
「いや、ランス公爵家が潰れたらすごく困るし。私としても利がある話なの。これは一方的な施しではなく、対等な取引であり、新事業の提案でもあるの」
「…………お話を伺っても?」
私が考えたのは、騎竜による運搬!名付けて、ドラゴン宅配便とドラゴンタクシーである!!希少な騎竜。維持費が高いのなら、討伐や戦争時だけ駆り出すなんてもったいないじゃないか!騎竜の速度は今の全速力の3倍と聞くし、山でも谷でも川でもなんのその!
あと、私がドラゴン乗ってみたい!!めっちゃ乗ってみたい!!
騎竜は寒さに弱いので最北端にあるウインド公爵領周辺はいけないが手前まででも充分だろう。ソレこそ僻地まで高速移動可能だ。これは間違いなく金になる。
高速料金ということで、割高にしても顧客は絶対につく。ドラゴンに乗りたい貴族は絶対いる。大きい荷物でなければ運べるだろうから急ぎの荷物とか……うちの商会で独占しちゃいたいなぁ。借金肩代わりするわけだし……いいよね?
「た、確かにそれは……」
「記念すべき第一号として、パパ様……わたくしの父を討伐先に送ってくださる?もちろんその謝礼は出しましてよ。ああ、修繕費が謝礼でもよくてよ。料金設定や停留所等……わたくしの商会と相談して事業提案として討伐後に話し合いの機会をお願いしても?」
「は、はい!是非!!!」
お互いガッチリ握手したところで、ガイアスが来た。お前もか。せめてノックぐらいしろし!
「……………ルビー、何してるの?」
「握手」
「それ誰?」
「ランス公爵家の3男、ルークス君」
「ええと、そちらは?」
「私の婚約者でガイアスですわ」
珍しくガイアスの人見知りが発動していないが……なんでそんなムッとしてるんだ?機嫌悪いの?お腹痛いとか??
「エッ……」
そして、何故明らかにルークスは耳をへたらせているのか。先ほどまでめっちゃブンブン丸だった尻尾も心なしかシオシオだ。
「ルビー、何があったの?」
「いや、話すとマジで長いから後ででもいい?というかいくらアンタでも賓客が来てる時に来るのはマナー違反だわ」
「それは確かに。失礼いたしました、我が婚約者殿」
私の手の甲にキスをして、綺麗にお辞儀して出て行った。
うおおおおおおおおおおい?!普段ヘタレヲタクのくせにいきなりイケメンムーブすんなよ!!いや、ラスボスムーブ?!初めて脳内のゲーム姿と現在が合致したわ!!!
流石イケメン系ラスボス!やればできる子!!
「………はぁ、婚約者が失礼いたしました」
おちつけもちつけビークール。はぁ……。深呼吸…。
びっくりしたわ!
あれ?そういや比較的ソツのないガイアスにしては珍しくルークス達に挨拶しなかったな?
「い、いえ……婚約者殿と仲睦まじいのですね……」
「そ、ソウデスネ……?」
ぶっちゃけた話、私は彼を散々イジメていたわけなので、仲睦まじいとは違う気がするが否定するわけにもいかず曖昧に頷いた。
そしてランス公爵家とパパ様(なんか血まみれになっていたが返り血らしい)は討伐へと向かった。着替える暇もなかったのね、パパ様。
討伐参加組のお見送りしてからガイアスの所へ。
「そういや今日って授業の日ではなかったよね?」
「ああ、なんかルビーが暴れてるから止めてくれって公爵家のメイド達が………」
なるほど、だから慌ててノック無しで来たわけね。パパ様以外となると……確かにガイアスなら私を抑え込めるかもしれないわ。
「……そいつの顔、わかる……?」
「え、笑顔が怖い。うん。一度見たものはたいてい忘れないから……」
「素晴らしい能力ね。実は今日、馬鹿をまとめて一掃しようと思っててね?」
「ヒッ?!」
笑ってるだけなのに怖がるなんて失礼だわ。
「もちろん協力してくれるわよね」
「う〜わ〜イイ笑顔……ハイハイ、僕に拒否権なんて存在しませんよね、知ってた。婚約者殿の仰せのままにいたしますよっと……」
そして説明したら頭を抱えた。
「情報量が多すぎる!!」
「それな〜」
意外にもガイアスは相談がなかったことについて怒ったりはしなかった。自分の父も少なからず今回の件に関わっているだろうし、それが正解だよと苦笑した。
「君は変わったね。きっといい君主になるよ」
その時に自分はここにいないと言っているような気がした。ガイアスの父についてはまだこれから。今日は屋敷内の膿を出しただけだ。事後処理面倒だけど頑張らねば。
「ねえそういえば」
「ん?」
「ガイアスのお耳………ウサ耳出せるの?」
「断る」
出せる出せないではなく断られた。
「会話の流れがおかしくない?!」
「おかしくない!耳は敏感なんだ!絶対出さないし触らせない!!」
「なるほど断ってる!」
さすがガイアス。しかし、断られるのは想定の範囲内なのだよ。
「ふっふっふ………コレな〜んだ」
「そ、それは………欲しかった魔法学の本?!」
「しかも初版。ガイアスが欲しがるだけある。内容は保証するわ」
すごく勉強になったわ〜。ねえ、欲しい?欲しいよね??
「うううう初版本……だと。しかもこの本、もう絶版…………………ご、5分だけ!好きにして!」
「契約成立!」
そして、ウサ耳美少年がお耳をピルピルさせて不安げに涙目でこっちを見てる。やっば〜い。性癖ねじ曲がりそう。ヤダ〜。かわいそかわいい。
「目、目が怖いんだが?!」
無視してその素敵なお耳に触れる。
「大丈夫大丈夫、痛くしないからぁ……」
「猫なで声で言わないで!逆に怖いんだが!」
「うわぁ……フカフカ……」
お耳がフワモコすぎ。温いし柔らかいし、コレはクセになるぅ………!荒んでた気持ちが一気に癒されるぅ!
「ううう……」
「あ、痛い?」
ガイアスがもぞもぞしているので確認した。
「痛くはないけどくすぐったい……。き、君だって他人に耳を触られたらくすぐったいデショ!」
「ええ?やってみて………うひゃひゃ!よく我慢できたわね!」
う〜ん、確かにこれはくすぐったいや。今回はこのぐらいにしてまたお願いしよう。これからやることも山積みだしねぇ。
「そ、そういう約束だし……も、もういいの?」
「また今度お願いするからしつこくしないべきかなって」
「……………また?」
「うん」
「い、いやだ!なんか恥ずかしい!!」
うん、知ってる。正攻法では無理だから、次回もちゃんと買収するわ。
「笑顔が怖いんだけど!ねえ、僕は嫌だって言ってますけどぉ?!ねぇ、聞いてます?!ルビーってば!」
ガイアスが兎さんのくせにキャンキャンうるさかったが、真面目な話を振ったら切り替えてくれた。当たり前のようにバカどもの処遇を一緒に考えてくれたし、私を軽んじていた使用人やメイド長や副団長と縁の深い者たちをきっちりリストアップしてくれた。
馬鹿なガイアス。こんなに有能で可愛い君を、私が手放すはずないのにね。




