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案件99:ミッドナイト・カクテルパーティ

「なにィ!」

「マジかてめェ!」


 下の通りから轟々と湧き上がってくる怒号に、思わず膝が一度震えた。

 慌てて頭に手をやり、そこにしっかりと、バザールで一つ1000グレブンで投げ売りされていた“グレートヘルム”があることを確かめる。大丈夫。正体はバレてない。


 勇気を奮い立たせて彼女はPKプレイヤーに要求を伝えた。


「その人を襲撃するなんてとんでもないことです! 直ちに家に帰ってください!」

「いやだと言ったら?」

「えっ……」


 いきなり否定の言葉を返されて彼女は焦った。もうちょっとこう、「急に何を言う!」とか「部外者はすっこんでいろ!」とかヤイヤイ前置きがあって、時間的な猶予をくれると思っていたのだ。だいたいそういうのが、男の子たちのお約束だと。


 しかも返答をしてきた着物姿の男は、明らかに他とは異質だった。

 トゲトゲのついたジャケットとか着てないし、やたらムキムキした太い腕もしてないし、むしろ細身で年寄り臭く見える。


 けれども、空疎。

 あの危険でうるさい集団の中、あそこだけ何もないみたいな感じ。穴。底なしの穴のような、そんな不気味な雰囲気がある。


「私はいやだと言いますよ。どうするのです?」


 再度の呼びかけに、彼女は肩を揺さぶられた。

 グレートヘルムの視界の端に、立ち尽くすカサネの姿が映る。ひどく不安げな表情を見た気がして、ここで引っ込むわけには絶対にいかなくなった。


「こ、攻撃……します」


 折り鶴型のソーサラービットを発現させる。すると、大勢の男性プレイヤーたちが一斉に怯むのがわかった。何か心に傷でも負っているみたいに。脅かすつもりで着物男性の足元に一発撃ち込もうとする。が。


 男は想像以上に素早い反応を見せた。

 さっと着物の袖を横に振ると、高額紙幣風のアレンジスキンをかぶせた護符がズラリと横に並ぶ。それらはたちまち星形を作ると、折り鶴から放たれたビームをあっさりと弾いてしまった。


「何とも貧しい攻撃ですねェ……。マネーが足りませんよ」

「ううっ……」


 それを見て、直前まで腰が引けていた凶悪プレイヤーたちも勢いを盛り返す。


「さすが先生!」

「もう何も怖くねえ!」


 そんな獰猛な歓声や、攻撃を防がれたことよりも、ねっとりと笑った着物男性の不気味さに気圧されて、彼女は後ずさった。


 大変だ。これはパーソナルグレイスが発動していない。多分、こちらに実害がなく、敵意も大して向けられていないから。

 スキルをオンにするためには、最低限もっと相手と距離を詰めないといけない。しかし、あの男に近づくのはとてつもなく怖い……。


「ふゥん、やはり過剰防衛型の能力のようですねェ……」


 その着物の男が悠然と告げてくる。


「向かってくる者に容赦はなくとも、危険のない相手にはほぼほぼ無力……」

「先生、わかるんで!?」


 何度か見たことのある気がする大柄なプレイヤーが、驚いた様子でたずねている。


「防御に全振りしたソーサラービットはそこそこの火力を発揮しますからねェ……。皆さんがやられた話から、そうではないかと予測していましたよぉ」


 おおー、とまたまた盛り上がる悪者たち。


「いいですか皆さぁん」と男は仲間に呼びかける。


「厄介な相手には勝とうとしなくていいんです。できるだけ活躍させないよう邪魔をして、その裏で勝てる相手にだけ勝つ。これが集団戦の醍醐味ですよぉ。あそこの女の子は手を出さなければ反撃してきませんから、今のうちに私たちの用事を済ませてしまいましょうねェ……」

「ううっ……!」


 まずい。こんな短時間でこちらのスキルの特徴をほとんど見抜かれてしまった。

 どうしよう。どうすればいい。

 もっと近づけば、パーソナルグレイスは発動する。するはず。でもわからない。もししなかったら?


 自分もカサネと同じ目に遭うかもしれない。いや……違う。多分、彼らは何もしてこない。手を出せば折り鶴に反撃されるから。まったく相手にせず、カサネにだけひどいことをするつもりだ。自分はそれを、そばで見ていることしかできない……。


 何もできない。一人じゃ。

 いつもなら隣に頼りになる仲間たちがいる。けれど今はいない。虫の知らせというわけでもないけれど、何となくカサネの様子が気になって近くに来たら、ちょうどこの現場に出くわしてしまっただけだから。


「フヒヒヒ、それじゃあ和服美人をボコボコにするでヤンス!」

「おい、ちゃんと加減しろよ。存分に恐怖を味わわせないといけねえんだからな」


 逡巡している間に、PKプレイヤーたちがカサネに近づいていた。彼女は後ずさるも、壁に背中がついてしまう。


「ま、待って――」


 無力な言葉しか出せず、意味のない手を前に突き出した、その時だった。


「待ちなさい」

「!?」


 凛、と月が鳴るような声が、その場に厳かに割って入った。

 決して強い口調ではないのに、妙に響く一声に、再びPKプレイヤーたちの動きが止まる。

 自分のすぐ隣に歩み出た人物に、サマードレス仮面もまたグレートヘルムの内側で目を丸くしていた。


「わたしはサマードレスバスターアックスソード仮面……」


 ――!!?


「名が長ェ!?」

「マジかてめェ!」


 現れた黒い仮面の少女は、こちらと同じサマードレスに身を包み、肩に異形のバスターアックスソードを担いでいた。


「ちょっ……ア、アビ……!?」


 言いかけた言葉を、口元にシーッと指を立てたサマードレスバスターアックスソード仮面が遮る。

 仮面の奥に、ウインクするチャーミングな目が見えた気がした。


「あなたが“一人”なんてことあるはずないでしょ」

「……!」


 感謝と安堵の感情が胸にじわりと広がった。助けに来てくれたのだ。何も話していないのに。

 と。


「そこまでです!」

『!?』


 さらに新しい声が加わり、その場の全員が三度のけぞる。


「わたしはサマードレスガローラ仮面……」


 ――!!?


 狼のバスターソードを携えた人影が隣に現れる。


「はぁ!? ちょっとイト、なんであなたまでついて来てるのよ!」

「人違いですー。サマードレスガローラ仮面ですー」

「そしてわたしはサマードレスダブルハンドガン仮面……」


 ――!!?


「ちょお!? 烙奈も!?」

「そしてボクはサマードレスエメラルドブルーレッド仮面」


 ――???????


「あんたは普通になんでいんの!」

「いるに決まってんじゃん。友達だもん。あ、コスは最近買ったよ。安かったから」


 この中では一番禍々しい羊の頭蓋骨マスクをした少女が平然と言い放つと、全員が一斉に、同じ姿勢で第一歩を踏み鳴らす。


「みんな揃って――!」


 いきなり音頭を取り出すサマードレスガローラ仮面に、サマードレ千夜子は慌てた。こんな段取り全然知らない。ていうか何でみんな足並み揃ってるの!?


『――サマードレス仮面!!』

戦隊(チーム)では……ない……!?」


 一人置いていかれつつも千夜子は素直な感想を口にするしかなかった。


「何だかにぎやかですが、数を増やしたところで私の防御は破れませんよっ……!」


 着物男性の周囲を、さらに護符が埋め尽くす。

〈絶対防衛ミストレス〉が発動していないソーサラービットの攻撃では、あの障壁に傷一つつかなかった。その守りがさらに強固になってしまっては、いくら仲間たちが揃っても――。


「ふーん、そう? じゃ試してみようか。せーの」


 ユラがエメラルドグラットンを振りかぶると、イトもアビスもそれに倣い、

 一斉投擲!

 ズドドドン!!


「ぬどふう!?」


 障壁の奥から衝撃に打ち震える男の声がした。

 しかし、三本の大剣は障壁に刺さるようにして静止している。男のシールドは確かに破られなかったのだ。


「ふ、ふふふ……どうです。無駄だったで――ん?」


 勝ち誇ったような声が、途中で音程を変えた。

 静止した三本の大剣のうち、一本が小刻みに震えているのが千夜子にもわかった。

 イトの大剣、ガローラだ。


 一度は受け止められ、とうに勢いを失ったにもかかわらず、それがじわじわと奥へ進み続けている。まるで獲物の腹を自ら食い破っているように。


「なっ……!? 何ですかこの剣は……! ガローラ……!?」

「先生、そのガローラだっ! そいつには何かやべえもんが憑いてんだよ!」


 大柄な男が悲鳴のように叫んだ、次の瞬間。

 ガラスが割れる音を立てて、障壁のすべてが砕け散った。


「ば、バカな、マネーでフルチューンした私の障壁が……!」


 しかし、全身を震わせるような彼の驚愕は二秒と続かなかった。

 バリアを失ったところに間髪を入れず二条のレーザービームが直撃。体表面にジグザグに熱傷痕を刻みつつ、オマケとばかりに爆発まで添えて後方へとぶっ飛ばしたからだ。


「なぁにいいいいッッ!?」


 男たちが目を剥く。

 やったのは、千夜子だった。

 安全なビルから飛び降り、PKプレイヤーたちのすぐそばまで近づいていた。

 この危険な間合い。〈絶対防衛ミストレス〉は過たず発動し、相手を粉砕した。


「ま、つまんないPKなんかしてる連中なんてこんなもんでしょ」


 投げ放ったエメラルドグラットンを装備欄に一旦収納、再度手元に出現させたユラが、冷めた様子で横に並ぶ。


「ボクが登場したとこが、この場面のピークってことだよ」

「何言ってんのよユラ! こんなゾロゾロついてこなければ、ここからがわたしと千夜子の見せ場だったの!」

「チョコちゃんは渡しませーん」


 わいわいと言い合いながら、他のメンバーも横に並ぶ。そこに烙奈がいつも通りの冷静な声で、


「いいからさっさと残りを散らすぞ。このままではカサネがPKエリアから抜けられん」

『はぁーい』


 それぞれの得物を手に、サマードレスの討ち手たちが無造作に敵へと歩きだした。


「や、やめろ。来るなでヤンス……!」

「先生も負けちまったのに、ここからどうしろってんだ……!?」


 おののき後ずさる襲撃者たち。


 下弦の月が笑う夜空の下。絶対に勝てると思い込んでいた彼らの、長く苦しい戦いが始まった。


アイドルユニット〈ワンダーライズ〉。アフターサービスもぬかりなく。案件お待ちしてますミ☆

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも1歩を踏み出すのを迷ってたチョコちゃんの成長…!! [気になる点] あ〜一体誰なんだろなぁ〜あのマスクのせいで分かんないなぁ〜
[良い点] イエス、マイダーククイーン!(歓喜) そりゃあ当然、我らが女王が千夜子を独りにするはずないもんね! あっ、この空気吸っておかなきゃスゥー あのまま障壁が割れなかった場合、きっと3人で剣の…
[良い点] ネーミングセンスが壊滅的なのはイトちゃんだけじゃなかったことに驚愕…!(´・ω・`) > 戦隊チームでは……ない……!? 戦隊名乗ったら三人ぐらいレッド名乗りそう > アイドルユニット…
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