案件92:二つ星の戯れ
《ついに〈HB2M〉の最終種目も大詰め! ラストは参加者たちがこのエリアに帰ってきます!》
〈怪盗と警部のクロスカントリー〉第六ステージは、スカイグレイブ〈古かりし蛮殻〉そのものが舞台となる。これまでモニター越しに見ていた両勢力を直に見られるとあって、会場が一番の盛り上がりに包まれるのを、黒百合はその身で体感していた。
やはり生会場はいい。
《最終ステージは怪盗と警部の出現位置がバチクソ近いから、いきなり大捕物になるわよ。一気に勝負がつく可能性もある……!》
そう発言しているうちに、湖のほとりにワープアウトのエフェクトが走る。
まず現れたのは、怪盗イト軍団――ではなく怪盗チーム!
ウオオオオオオオオオオ!
イエス! マイ! ダーク! クイーン!
早速、一際大きな雄たけびを上げるいつもの面子。モニターに大写しになったイトが、そして横から強引に割り込んできたユラやアビスが手を振ると、彼らのテンションは一層高く打ち上がる。
《怪盗チームの首魁、ここまで同業兼ライバルを引っ張ってきたメンバーが元気にご挨拶! みんなやる気マックスで最終局面だーッ!》
実況席から見ると彼女たちは豆粒ほどの大きさでしかない。しかし、モニターでしか見えないのと、実際の目で姿を確かめられるのには雲泥の差がある。彼女たちは間違いなくそこにいる。そして自分も同じ場所にいる。その一体感こそライブの醍醐味。
再びワープアウトの予兆。
怪盗たちのやや後方に現れたのは、黄金の六花ちゃん率いる警部チーム。
こちらもすごい歓声!
と。ここで黒百合は彼女の様子がおかしいことに気づいた。
イトたちが笑顔を絶やさず振り撒いているのに対し、六花は目を見開き、じっと前を見据えている。視線の先にいるのはイトで間違いないだろうが、その態度はどういうことか。
トップアイドル月折六花なら、この一番盛り上がる場面でファンサを忘れるはずがない。
おかしい。前ステージまでの彼女ではない。
それにこの肌の表面を焼くような感覚は。まるで、戦争の季節の……?
「月折ちゃん……? なに……それ」
※
ボールカメラ越しにスタンドの観客たちに手を振っていたいづなは、背後の異変に気付くのが一瞬遅れた。
ドンッ! と空気の圧を伴って現れたのは、アイドルが生成するライズステージ。
「!?」
振り返って、ぎょっとした。
ラストゲームのテンションに任せてどこかのアイドルがハッスルしたものと思ったが――犯人は六花だ。
しかも、このライズステージはいつも使っているデコレートのパターンにはない。
雲を突き抜けた天上を思わせる装飾。そしてそれらは色褪せた黄金に彩られている。
これは――黄昏色だ。
〈サニークラウン〉で共有しているステージではない。
彼女が、彼女だけが持っているライズステージ。
一度だけ……これを見たことがある。絶対に、まずいシーンで!
「六花!? どうしたの、落ち着いて!」
いづなは叫ぶように、ステージ下に駆け寄っていた。
彼女は棒立ちで、そしてどこか呆けたような表情で前を向いている。
「だっていづ姉。捕まえなきゃ」
抑揚のない声がそう答える。
「イトちゃんを、捕まえなきゃ。今度こそ、捕まえなきゃ。もう一生、逃がしちゃダメなんだ」
「いづな!」
なずなが声を上げる。いづなははっとして周囲を見た。
警部チームの参加者たちが……みな虚ろな表情をしている。腕をだらりと下げ、それでいて目の奥には恐ろしいほど力強い金の光が瞬いていた。
(まさか……! まさかまさかまさか……!)
いづなは全身の毛が逆立つのを感じた。
この光景を見たのは一度きりだ。そして二度目はない……あってはならないはずだった。六花自身がそれを固く封じたはずだから。この、彼女のパーソナルグレイスを!
「六花、待って! それを使ってはダメよ!」
いづなは再び叫んだ。しかし六花はこちらなんて見向きもしない。
警部チームが放つ眼光は、カウントダウンを示すように大きくなっていく。
「…………は、いなくなっちゃダメなんだ……。わたしのそばに、いなくちゃダメなんだ……」
《おや、警部チームが何やら静かですが……何か作戦会議でしょうか》
実況や客席もこの異変に気付き始めた。ざわめきが遠く聞こえる。
このままじゃまずい。またあの時と同じことが起こる。居合わせたプレイヤーは軒並み壊滅し、六花は今度こそこの世界に居場所を失う。誰よりも輝きたがっていたあの子が。
「イトちゃんを、捕まえなきゃ。そうしなきゃ、イトちゃんがいなくなっちゃう……」
「イトちゃんを……!?」
なんてこと。六花の彼女に対する想いがここまで強いなんて。
いや、これは〈HB2M〉特有のバランスシステムが悪さをしているとも言える。確固たる自己が身体能力に加算されるこの仕様。それで高まった能力が、彼女にさらなる意識の一極集中をもたらしてしまっている。自己強化の無限サイクル。一つの願いが六花のすべてを飲み込もうとしている。
普通はこんなこと起こらない。常識的に生きてきた人間なら。けれどこの子は月折六花。資質も努力もずば抜けた女の子。半端な願いも半端な夢も見ていない。だから。
でも、させない。二度とあんなことは。そのために第三地区からついてきた。このレースをリタイアさせてでも止める――。
「喝ぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」
轟、と突風が押し寄せた。
いづなの長い黒髪を掻き乱し、チアコスのスコートをまくり上げるほどの、実際の風を伴った声圧。
ライズステージを覆っていた終末を予感させる黄昏色の光さえも、それで引き剥がされた。
咄嗟に顔をかばった腕の隙間から、いづなは見た。
発したのは、同じくライズステージを出現させた――イト。
名剣ガローラをステージに立てる勇者の姿勢で、彼女からの二度目の暴風が飛んだ。
「何を言ってるんですか六花ちゃん! この勝負に勝ったら――今度はわたしがあなたを捕まえに行く番です! すぐ会いに来ますから! 百合営業の準備をしておいてください!」
「――!」
茫洋としていた六花の瞳に、艶めかしいほど生気に満ちた光が戻って来るのをいづなは見た。
吹っ飛ばした。何でもないただの言葉で、意識を支配するほど一点凝縮された彼女の願いを。
この勝負が終わっても二人は離れ離れにはならない。そんな当たり前のこと。でも今の六花に一番必要な約束。
「うん! 約束だよ!」
六花は今大会一……いや、アイドル月折六花の中でも一番と思える笑顔を、返した。
いづなでさえ、見惚れてしまうくらいの笑顔を。
「みんな、ラストゲームだよ。頑張ろー!」
『おおおー!』
ライズステージから応援を投げかける彼女は、いつも通りだった。
それを受け取る参加者たちも、まるでさっきまでの自分たちの状態など覚えてないように、景気よく拳を振り上げていた。
負けじとイトも声をマイクに乗せる。
「こちらも頑張りますよ! 怪盗諸君、存分に狩りを楽しめ!」
「ウオオオオオ! お頭! お頭!」
「ついていくぜ傭兵団改め怪盗団〈ヴァンダライズ〉!」
「〈ヴァンダライズ〉じゃありません!」
「おいおい!」
怪盗団側も異様な盛り上がりだ。
この応援合戦の熱気に、観客たちもたちまち乗せられて活気を取り戻す。さっきの不穏な空気なんてどこかの彼方だ。
これが、空気が実物の生き物として取り巻く生の強さ。場を支配するという意味では、彼女は六花と並ぶ――あるいはそれを押さえるほどの力を持っているのかもしれない。
だからこそ六花も慕ったのか。いや、今はそんなことは後回しで――。
「泣いても笑っても最後の勝負、みんな楽しんで!」
そしてわたし自身も楽しもう。いづなはそう心の底から誓った。
※
開始のブザーと同時に、怪盗側が一斉に走り出す。
コースは湖を囲む〈古かりし蛮殻〉の陸地部分を約四分の三周といったところ。ゴールは実に観客スタンドの真ん前だ。
怪盗側が出発してからほどなくして、警部側もスタートとなった。
キュイイイイイイン……ドゴオオオ!
謎のジェットエンジン音を響かせ、六花がスタートダッシュを切る。
「あの音マジでするのか……」
「走っ……てるんですよね?」
直にその様子を体感する観客たちをビビらせながら、六花の残した黄金の轍は、入り組んだ廃ビル群の中へと消えていった。
このラストゲーム、単純な直線勝負とはならない。〈古かりし蛮殻〉の陸地には、シンカー訓練用と称される障害物エリアが敷き詰められており、怪盗側はそれらを突破しながらゴールへと向かわなければならない。
馬鹿正直に逃げるより、一旦身を隠して慎重にギミックを超えていく。その精神力が求められる。
《ついに始まってしまった最終レース! 果たしてどこを見るべきか、わたしにもわかりませーん! 大会動画が各アイドル事務所とゲーム公式から発売されるので、全容が知りたければ全部買って見ましょう! 一つだいたい中型ポーション二つ分くらいの値段なので良心的ですね!》
《うちからも出そうかしら。あっ、ちょっとボールカメラちゃん、綱渡りのところ映してくれる? うん、やっぱりノアだわ。早速結構な数を捕まえたわね、いいじゃない!》
先の競技でも使われた綱渡りゾーンは、平地と変わらず歩けるノアの狩場と化していた。しかしこれは怪盗側の判断ミスだ。このレースでは下にある湖に落ちても失格とはならない。迂回するなり鉤縄を使うなりいくらでも工夫ができたのに、彼らは自信があるがゆえにそのルートを辿ってしまったのだ。
メインモニターに映し出された自分の姿に、ノアも気づいた。
(廿△廿)ノシ
《ばっちり見えてるわよノア! よくやったわ!》
ヾ(廿△廿)ノシ
《うん、わかったから……》
\(((廿△廿)))/
《いいから早く競技に戻りなさい!》
《おーっとノア選手が黒百合さんにアッピルしているうちに、同エリアを怪盗たちがコソコソ通り過ぎていきます。あれは破天コウさんと片藪リナさんですね。ビッグネーム二名を逃がしてしまったのは大きい! これはおうちに帰ってからお仕置きでしょうかぁ!?》
《ちょっとPちゃん焚きつけないで! あの子のお仕置きの要求マジで最近ライン超え始めてるんだから!》
直後、おおおと観客から声が上がる。人々が注目しているのはサブモニターの一つ。
映っているのは――ユラ、そして、それを追いかけるセツナとキリンという組み合わせだ。見通しの悪い廃ビルの中へと突入していく。
《ややっ、ユラ選手、すでに秘宝を二つも獲得しています! あっ、えーっと今手元に資料が来ました。秘宝の一つにセツナ選手とキリン選手が張ってたようです! 食いつかれたユラ選手、逃げ切れるか!》
《彼女もすっかり動きにキレが戻ったわよね。それに愛川さんとキリンもよく食らいついてる》
穴だらけのビルの中を機敏に動き回るユラ。必死の形相でそれを追いかけるセツナとキリン。腕前で言えばユラが圧倒的に優勢だ。しかししぶとくついていく二人に、応援の声はどんどん高まっていく。
《この二人は昼休みを挟んで急に距離を縮めましたね》
《同い年っていうのは自然とそうなるわよね。特にキリンはクセの強いメンバーと組んでるから、同じくらいの運動能力の愛川さんと即興でバディを組んだのは正解だわ》
「セツナさん、そっち回って!」
「キリンちゃん、ユラさんそっち行った!」
ボールカメラが拾う音声でも、彼女たちは息ピッタリにユラを追尾していた。
「ちっこいのに粘るぅ……」と称賛の声を残したユラが、壁の穴からビルの外へと姿を消す。
二人が慌ててそれを追うと、下で大きな水飛沫。ビルに隣接している湖に大きな波紋ができていた。
誰もが、ユラは水に飛び込んだものと思った。
が。
『上!』
「いいっ?」
二人がばっと振り仰いだ外壁の上には、突起に掴まってやり過ごそうとしていたユラの姿。ボールカメラも思わず目を見開いたように、彼女の驚く顔をアップにする。
「もうそういう手は食いませんことよ!」
「ユラさん、待てーっ!」
「ええっ、ボク初めてやったんだけどお!? 誰さ、こんな純真な子たちを騙したロクデナシは!」
慌てて壁を這い上がり、ビル内部に逃げ戻るユラ。
この追跡劇はまだまだ続きそうだ。
《えー、ロクデナシのお姉さんは今頃くしゃみでもしてる頃合いですかね》
《その余裕があればいいけど。月折ちゃん、あの速度でイトを探し回ってるんでしょ? スティンガーミサイルかよ》
――イエス! マイ! イエス! マイ!
《おやっ? 何だか〈ルナ・エクリプサー〉っぽい鳴き声が聞こえています。おっ、次はアビス選手ですか? メインにお願いします》
サブモニターの映像がメインへと切り替わる。案の定、彼女にも勝負の場面が訪れていた。
「ああもう、しつこいわね!」
「網まで出しかけた魚を逃しては、指揮官としての資質が問われる」
アビスを追っているのは〈コマンダーV〉の面々だ。
場所は、塔のような形の岩が並ぶ奇岩地帯。複雑なあみだくじのような道を、アビスは機動力で、そして〈コマンダーV〉警察は整然としたルート選びで突き進んでいく。
《アビス選手も秘宝をゲットしてますね。その際にジェネラル・タカダたちに発見されたようです》
《あの人に絡まれたとすると、彼女は逃げにくいポイントに誘導された疑いがあるわね》
《事実かなり動きにくそうです。元々、自由奔放な動きをするプレイヤーですから》
そう言っている間にも、両者の距離はじりじり縮まっている。
そしてついに、アビスは岩壁に追い込まれた。
「江戸の敵を長崎で討つではないが、拙い砦攻めを見せてしまった非礼を、ここで詫びさせてもらおう」
「クッ、もう最悪っ……!」
PKならいざ知らず、タッチ即アウトのルールではこの包囲網は完璧。逃げ道はどこにもなかった。
しかし〈コマンダーV〉は焦らず騒がず、一切の油断を排した足取りでアビスとの間合いを詰める。一つ一つのタスクを着実にこなす。本作戦が完了するまで、次のことには決して気を取られない。いよいよ万事休すかと思われた、その時。
「イエス!」
「マイ!」
「ハート!」
『なにっ!?』
横合いから突然飛び出してきたプレイヤーが、〈コマンダーV〉に組みついた。
警部に触れられた彼らの頭上には、速攻で逮捕を示すバツマークが点灯する。しかし、その勢いに驚いたジェネラル・タカダたちは大きく後ずさりしてしまった。その先は急勾配の斜面。全員揃って坂を滑り落ちる。
「し、しまったあ!」
「ここまでの忠誠心とは……!」
悔しそうに滑っていく彼らを見下ろし、そして捕縛された怪盗たちを見届けたアビスは、斜面の下へ大剣ヒュベリオンを手向けるような仕草を見せた。
「……みんなありがとう。その献身に必ず報いる」
――イ”エ”ズヴヴヴヴヴヴヴウウウウウヅヅヅヅヅ!!!!!
《えー反乱軍の皆さんが滂沱の涙を流しておりますが、これは放送して大丈夫なやつなのでしょうか》
《まああくまで遊びの範疇だからね。しっかしあの子も千夜子ちゃんに甘えてる時との落差激しいわねー。自然とあれを切り替えられるんだから凄いわ》
中央モニターがここで新たな絵に切り替わる。
「ひいいい、もうダメ、もう無理だよおおお!」
木々が生い茂る森の中を、必死の形相――を通り越して、もう無理モードになりかけている千夜子だ。ついに〈ワンダーライズ〉かと客席も色めき立つが――。
焦りが汗となって光る額、焦点を失いかけている瞳、そしてよく跳ねる特定部位……。
《oh……》
《千夜子ちゃん頑張ってるんだけど。可愛そうなんだけど。ごめん言わして……エッロ……!!》
《あー……交流サイトもすごい点数に……》
そんな邪な実況席をよそに、「諦めるな千夜子!」の励ましが、彼女の少し先を走る烙奈から飛ぶ。
「この秘宝をイトに届けねばならん、そうだろう?」
「そうだけど、そうなんだけどぉ……!」
千夜子が肩越しにちらと振り向いた後方。
そこにぴたりと張り付いているのは、体操服姿の葵だった。
彼女は正にアスリートの身のこなしで二人を追撃していた。障害物を飛び越える様はハードル選手。崖をジャンプする時は幅跳びのよう。それでいてまったく体の芯をブレさせることなく、ここが整備されたトラックであるかのように走っている。
「あれ絶対わたしたちを泳がせてるよおおお! イトちゃんと合流したところで一斉に捕まえる気満々じゃあああああん!」
「わかってはいるが……諦めたらどの道捕まるしかない。どうせ疲労は気分なのだ。この際だから倒れるまで走っておけ!」
「烙奈ちゃんが鬼いいいいい!」
千夜子の悲痛な叫びが響いた、その時だった。
後方より、鉤縄を使って急接近してくる人影!
「!」「!」「!」「!」「!」「!」
誰もがその人物に視線を吸われる。ついに現れた主人公に心を惹かれるように。
イト!!!
千夜子も烙奈も実況席も観客席も、その姿を目撃した誰もが彼女の名前を呼ぶ。
「ようやく揃いましたね」
後方に控える葵がスプリンターの姿勢を一段階深めるのと時を同じくして「イトちゃん! これ!」と千夜子が秘宝を差し出す。
「わたしたちのことはいいから、先に行って!」
「貴女は月折六花に勝つことだけ考えろ!」
「チョコちゃん、烙奈ちゃん、ありがとう! 必ず勝つから!」
イトは秘宝を受け取り、歯を見せて笑う。
「逃がすとでも」
そこにグンと加速する葵が迫った。が、
ギャン! ギャギャギャン!
とまるで地面を削るような音を立てながら、金色の光が彼女を追い越した。
《うわああああ! 六花ちゃんがジグザグに森の中を走り抜けている!》
《こっわ……ただただ、こっわ……》
鉤縄の上下移動にすべてを賭けているイトと、それを地上から猛追する六花。走りを緩めていないにもかかわらず千夜子も烙奈も葵も、一気に突き放される。
「……月折さん……。そう、あなたとの差は、まだまだこんなにあったのね」
二人がはるか前方へ姿を消した後、葵はうつむくようにつぶやいた。
そしてすぐに顔を上げ、不敵に笑う。
「目指す場所は高いほどよく見える。ありがとう、そんな場所にいてくれて。い続けてくれて。わたしはひとまず……この二人を捕らえます!」
「わあああああ、用済みでトドメさしに来ちゃううううう!」
「とりあえず逃げられるだけ逃げてみようか……。最後のレースに悔いのないようにな……」
それから――イトはいくつもの光と交わった。
「イト! ほらこれ、持ってきなさい!」
「イトちゃん! 見てよ四つも集めたよボク! ……ちょっとオマケがつきっぱなしだけど!」
「イトさん!」
「イトのねーちゃん!」
それぞれの怪盗たちが、イトに秘宝を託していった。
金色の宝に囲まれ輝く少女と、黄金の軌跡を描く少女。
二人はまるで、戯れる流星のようにステージを駆けていった。
時に交差し、もつれあい、時に離れ、また出会い。
その光景に誰もが息を呑んだ。実況席でさえ、まともに言葉を発せなかった。
ボールカメラが映し出す二人の表情は、別人であるはずなのに同じに見えた。
心からこの瞬間を楽しみ、溶け合うような笑顔。見る者を心ごと溶かすような貌。
皆が思う。“一番”というのは、すべて同じものなんだと。
そうしてついに戻ってくる。
誰もが絶叫していた。もう応援とも取れない、何も聞き取れない咆哮。
それほどに熱されたゴール前。木々の枝葉を吹き散らして先に飛び出て来たのはイト。続いて、とうとう障害物まで吹っ飛ばし始めた六花。
これより先は、もう鉤縄を使える場所はない。純粋な足の勝負。
イトが走る。
六花が手を伸ばす。
どちらの星が勝つ。
ゴールまであと十メートル。
二人の距離は急速に縮まっていく。
残り五メートル。
もう息が入る隙間もない。
四、三、二、一……!!
立ち上がった観客たちの大歓声が、その瞬間のすべてを飲み込んだ。
二人で幸せなゴールイン。




