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案件87:ピカピカな彼女

「ちょ、ちょっとこれシャレになりませんよ……」


 第一ステージを終えて各プレイヤーに表示された結果表――。


 怪盗突破率23%

 警部逮捕率77%(new record!!)

 総合得点一位:〈サニークラウン〉

 最優秀選手:月折六花


 生き延びた怪盗たちがざわつく。


「これまでの大会記録によると、逮捕率の平均はだいたい30%。脱出のみに関して言えば怪盗が有利で、警部側は逮捕した際のポイントが高いというのでバランスを取っていたようだ。しかしそれを……」


 烙奈が先を言い淀む。ひっくり返した。六花が。


 確かに、序盤での秘宝争いに突入してきた成果は大きいはずだ。けれど相手が六花一人なら逃げ切れた者も少なくないはずで、つまりはあの場面以降も彼女は怪盗を執拗に追い回し、捕らえていたということになる。


 これまでの競技では、会場のビッグモニターに選手の細かな様子まで映し出されていた。六花は突出して優れていたわけでもなければ、てんでダメでもなかった。運動能力としては並だ。それがどうして急に。

 ケイドロ・クロスカントリーでは、相手のカメラはもちろん実況さえない。六花がどんな状況でどんな動きをしていたかわからない……。


「ちゅ、注意するしかないよ……。これまで通り、見つかったらすぐ逃げるっていう方針で……」


 体を縮こまらせつつ言った千夜子に、イトも烙奈もうなずいた。

 毛筋一本でも存在が感じられたら、たとえゴールと逆方向にでも真っ直ぐダッシュ。これしかない。


《第二ステージに移行します》


 アナウンスが流れ、視界が暗転する。

 ステージが移行すると同時に、逮捕されていた怪盗たちも状況をリセットし、再びスタート地点で顔合わせする仕様だ。


 ぱっと開けた薄暗い視界の左右で、第一ステージのゴールで再会できなかった面々が、どこか覇気のない顔をして立っていた。


 イトはその不可思議な態度の理由を聞いておきたかったのだが、すぐにスタートのブザーが鳴ってしまった。背中を押されるように全員が走り出す。


 怪盗はとにかく逃げ延びることだ。立ち止まって悩んでいる時間はない。


 第二ステージは、密林がテーマのようだった。

 緑に侵略されつつも見晴らしのよかった第一ステージに比べ、生い茂る樹木が上も周囲も覆い尽くしている。これではどこに敵が潜んでいるかわからない。その条件はあちらも同じはずだが――追われる側はいつでも暗闇に鬼を見るものだ。


「ひいい……六花ちゃんポリスがそこら中に潜んでいる気がします……!」


 そう口にしながら走るイトへ、「やっ、イトちゃん」とかかる声があった。

 ユラだ。

 彼女は先のステージを高順位で逃げ延び、その上、道中で秘宝まで拾って凄腕を見せつけている。怪盗側のエースに相応しい活躍。


「どうしました。わたしまだ秘宝は見つけてないですよ」


 イトが警戒心を働かせつつたずねると、ユラはおどけたように微笑み、


「やだな。なにもいつでもライバル同士ってわけじゃないよ。ちょっとお願いしたいことがあるんだ」

「お願い?」

「うん。月折六花に、メールを打ってほしいんだ」

「へ?」

「第一ステージの結果について褒め称えるメール。別にルール違反じゃないでしょ」


 確かにルール違反ではない。今送るべきものなのかどうかはおいておいて。

 しかしユラは何かしら魂胆があるようだ。彼女のことだから、勝利に直結する作戦なのだろうが。


「今、彼女を勢いづかせるのは危険だと思うが」


 烙奈が注意深く指摘する。そんな彼女にユラは笑って返すのだった。


「へへっ、何事も過ぎたるは及ばざるが如しってね」


 ユラちゃんが言うな。


 ※


 ユラはチームメイトであるアビスとモズクを先にゴールへと向かわせ、単身暗い森を駆けていた。

 目指すはこの先にある古代神殿。さっき巨木をよじ登って位置を確認したので間違いない。


 第一ステージの途中で秘宝を見つけたのは偶然だった。

 スタート直後にイトが発見したものとは別物。

 場所は、ビルの谷間にぽつんと立っていた犬の石像だった。


 いかにも何かありそうな場所に、素直にあった。そのことから、ユラは秘宝の位置はランダムではなく、特定のオブジェや建物に隠されていると踏んでいた。この密林ステージならあの遺跡のような。


 このルールに気づいている者は恐らく他にもいる。特に警部側に。

 張り込むなら、そこだ。

 並大抵の相手なら、かわして逃げる自信がある。タッチされて一発アウトの厳しい条件だが、普段から多数相手の乱戦に慣れている身としては大した問題ではない。


 けれど一人だけ、気になる相手がいる。

 月折六花。


 逮捕率77%がまさかすべて彼女の功績ではあるまいが、単独で秘宝争奪戦に飛び込んできた嗅覚には運だけでは済まない何かが絶対にある。

 手に入れたのだ。どこかで。彼女をワンランク上に持ち上げた何かを。


 だからこそ仕掛けた。

 絶好調の彼女を自滅させる罠。


 密林を抜けて石造りの遺跡にたどり着く。

 本殿らしき建物は天井が崩落し、ほぼ瓦礫の山と化していた。しかし、そこを通り抜けた先の、無数の石柱エリア。その一番奥に、人とも獣ともつかない神像が鎮座している。実に何かありそうなポイントだ。


 ユラは瓦礫の裏に身を隠した。

 周囲に人の気配はなし。ただ、さっきまで頭上でけたたましく鳴いていた鳥たちが、妙に静かにしている。


 ……いる。

 それは特別な感覚もツールも必要とすることなくわかった。

 何しろ――輝いている。


 怪盗には、近くの秘宝を察知する特殊なスキルが付与されている。が、そんな粗末なアイコンの光ではない。もっと明け透けなキンキラオーラ。それが神像の近くの柱の裏で、慎みもへったくれもなく光り輝いているのだ。


(ふふふ、いるいる……)


 イトに褒められた月折六花が有頂天になって光り出すのは、もはやアウトランドの常識だった。

 これで相手の位置はバレバレ。チームメイトの結城いづなとなずなは、どうやらアイドル職以外にも手を付けていた時期があるものの、想定を超える戦闘技術は持っていない。

 謎めいた活躍をする六花を押さえられれば、この勝負は勝ちということ――。


 本殿の残骸に身を隠しつつ神像へと向かうと、案の定、秘宝の所在を知らせるアイコンが点灯した。

 六花が隠れているのは、その手前にある折れた柱の陰。秘宝との距離はそこそこあるので、先手を取れれば逃げ切れる。


 気配を殺し、裏からそっと神像に近づく。

 結城姉妹の気配は――ない。大丈夫。近くには誰もいない。念のため背後も確かめる。尾けられていることもない。


 最後にもう一度だけ六花の位置を確認。かすかに彼女の肩が見えた。ちょうど後ろを向いているようだ。


(よし、もらった……!)


 ユラは影のように神像の正面に飛び出した。

 物音を一切立てず、風のように秘宝に手を伸ばし――掴んだ!


《秘宝、ゲット》


 怪盗にとっては余計なお世話すぎるアナウンスが流れる。

 これで六花にも気づかれた。一瞬だけ彼女の動きに注目する。それで逃げる方向を決める。そのつもりだったが――。


(……?)


 再度向けた視線の先で、六花はさっきまでとまったく同じ姿勢でいた。

 アナウンスに対してまったく動じていない。


(まさか……寝てる?)


 待ち伏せするのに飽きて? と呆れた次の瞬間。


 ポンと肩を叩かれた。

 それがあまりにもさりげなさすぎて、つい何も考えずに振り返り――。


「わあっ!?」


 ユラは派手に驚き、思わず尻餅をついてしまった。


「痣宮さん、逮捕」


 月折六花が、そこにいた。


「えっ……えっ、何で……!?」


 座り込んだまま、柱の陰にいるキンキラの六花を振り返り、ユラはさらに目を剥くことになった。


「あれはね……リアルデビューした時にファンからもらったプレゼント」


 少し苦笑いしながら説明してくれる六花。しかしあんぐりと口を開けたユラは、その説明を受けても動き出せなかった。

 何の恥じらいもなくめっちゃ輝いているのは、天を指さす金ピカの像。六花本人ではなかったのだ。


「どうして……」


 とつぶやいた曖昧な疑問にさえ、六花はまるで裏側まで見透かしたようにあっさりと返してくる。


「イトちゃんからいきなりメールが来た時、ピンときたんだ。どっかの狡い子が、イトちゃんにこれをやらせてるんだって。だってイトちゃんだったら、全部終わってから、わーって走ってきて、いっぱいおしゃべりしてくれるもん」

「……!」

「だから、別の子がいる。その子の狙いを逆手に取ったの」

「他の……二人は……?」

「いづ姉となず姉は他の人を追いかけてもらってる。ここにはいないよ」

「……あはっ」


 自然と笑いがこみ上げてきた。


 この、ボクを。

 たった一人で押さえにきて、そして本当に押さえたのだ。この子は。


 確かにアイドルとしての人気はすごい。レベルもスキルも群を抜いている。他の地区を放浪している時も、彼女の名前を聞かない日はなかった。

 でもなめてた。ゲームプレイヤーとしては凡庸だと。直接対決で負けるはずないと。


 それがこの結果。


「参った。イトちゃんたちが特別なアイドルかと思ってたけど、キミもゲーム上手いねぇ」

「あははっ。ありがとっ」


 六花は朗らかに笑った。

 その時、ユラは気づいた。

 有頂天になるとキンキラキンになるエネルギーは、今は彼女の外側にはない。

 内を巡っている。血流のように、マグマのように、とてつもない温度と濃度で内部を循環している。まるで太陽の内側みたいに。


 ユラは思わず、帽子のつばを下げて視線を切っていた。

 怖かったのだ。

 月折六花の笑顔が。


 怖いくらい、可愛かった。

 もう好きな人いるのに。

 恋に落ちてしまいそうなほど。


 ※


「ねえ……ユラが戻ってこないんだけど……」

「ユラちゃん……えぇ……」


 一方の第二ステージゴールエリア。


〈ワンダーライズ〉は、一人欠けた〈大剣クラスタ連合〉と一緒にヒエッヒエになっていた。


「おいおいユラのヤツ捕まったのかよ!? なんか六花ちゃんへの秘策があるとか言ってたのに!」

「だから今の彼女を勢いづかせるのは危険だとあれほど……」

「つ、次は誰が犠牲になるの……わ、わたし!?」


 ユラの不在に他チームの怪盗たちも顔を見合わせる中、タイムオーバーのブザーが鳴る。


 警部逮捕率53%。

 最優秀選手:月折六花。


 魔女、還らず。


トップアイドルがパワー全開で堕としに来ている。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これがトップアイドル…しゅごい… でも外に漏れ出すオーラを中に凝縮させてパワーアップとかどこのバトル漫画ですか…?(´・ω・`) >怖いくらい、可愛かった トップアイドル殿が無差別に恋に…
[良い点] イエス、マイダーククイーン! ちょとsYレならんしょこれは 策士、策に溺れたか これはイトちゃんへの解像度の差か >どっかの狡い子が、イトちゃんにこれをやらせてるんだって。 この瞬間だけ…
[良い点] おましょうま! [一言] >あの場面以降も彼女は怪盗を執拗に追い回し、捕らえていたということになる。 これ警部側にも退場システムあったらイトちゃん以外全部排除しようと動いてたんじゃなかろう…
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