案件78:ワンナイト・ウォー(後編)
地上でも空中でもお互い一歩も譲らない衝突が繰り返される。
ユラとホウキに乗った烙奈が空から魔法と銃弾の雨を降り注がせれば、猟犬の如く戦場を駆け巡る折り鶴が閃光の筆致にて敵を焼き尽くす。
その渦中。アパートの屋上で、イトとアビスは同じく二人組のサイバネコートと向き合っていた。
得物は――古風な大剣とバスターアックスソード。
アビスが隣から述べてくる。
「イト。相手の構成は〈ヴァンダライズ・デス〉。あなたと同じ戦法。もう一人は〈アクセルブリンガ〉。わたしと同じ」
同じ武器種。同じビルド。完全なミラーマッチ……!
ヴァンダライズ主体の大剣使いとは戦ったことがない。どちらが強いか……真価が問われる勝負。
しかし……。
相手の動きは、さっきユラが言っていたように画一的だ。強い――けれど、それは教科書に書かれているような強さ。たとえば対人の攻略動画を見よう見まねしているような、どこか表面的なものに思える。そしてそれはサイバネコートたちの雰囲気にも通じるものがある。
「わたしたちは……わたしたちなら、負けません」
「当然ね」
アビスがこちらをちらと見てくる。イトはそれを見てうなずく。
「いくわよ!」
「応!」
アビスがわずか先に走り出す。相手も呼応してダッシュ。
イトがそれに続くと、相手の〈ヴァンダライズ・デス〉も一気に間合いを詰めてくる。
ほぼ二対二の距離感のまま、正面から激突――。
かに思えた次の瞬間。
イトは突然、標的を〈アクセルブリンガ〉に切り替えた。
脇構えからアッパースイング気味の薙ぎ払い。当然、〈ヴァンダライズ・デス〉に対しては無防備になる。が、イトの風巻く一撃の下を、アビスが掻い潜るようにして〈ヴァンダライズ・デス〉へと襲いかかった。
『――!!?』
無表情なサイバネコートたちのグリーンの瞳が、当惑の色で濁るのをイトは見た。
対策は対人戦の基本。どう攻め、どう守るかをあらかじめ意識しておけば、咄嗟の対処も早くなる。それを丸ごと打ち崩す電光石火のスイッチ!
アビスはすべての攻撃の起点となる初撃を相手にガードさせ、そしてイトは〈アクセルブリンガ〉からその初撃を奪った。
(決まった――)
こうまで上手く行くとは思わなかった。
開戦前、アビスがこちらに目配せをした時、なぜかこういうことをしたがっている気がした。顔が同じだから心も通じたわけでもないだろうが――あるいはそれは、至極真っ当な暗黙の了解だったのかもしれない。
自分たちはこれまで何度も勝負してきた。イトは〈アクセルブリンガ〉の、アビスは〈ヴァンダライズ・デス〉の対処法を心得ている。不慣れなミラーマッチをするより、手口のわかっている相手を狙った方が勝率は高いのではないか――。
それが、この奇襲のクロスプレイを生んだ。
「沈めええええええええ!」
アビスの猛攻が始まる。
過剰なまでのバスターアックスソードの連撃は、あっという間に〈ヴァンダライズ・デス〉のガードを弾き飛ばした。そう。あれは避けないといけないのだ。しかし〈フロートラッカー〉のような回避補助能力がなければ、それすら難しい超スピード。
「こっちも吹っ飛べええええ!」
イトも〈アクセルブリンガ〉を追い詰める。攻撃は苛烈でも防御に回させればその強みはほとんど発揮されない。アビスもそうだった。しかし気合で押し返してくる彼女に対し、こちらはそういう熱意や根性が感じられない。ジリ貧とわかっていても、型通りの守りから抜け出せない。
アパートの屋上が抜けるような強烈な一撃が足元を揺らした。
アビスが〈ヴァンダライズ・デス〉を仕留めたのだ。
続けてイトの横薙ぎの一撃が〈アクセルブリンガ〉の胴体を捉える。ガローラの牙の感触がはっきりと伝わる。完全に入った。
撃破!
「わたしたちは進み続けています!」
「そういうこと!」
イトとアビスはパンと手を打ち合わせた。
機転を利かせてミラーマッチを制し、戦いは拮抗状態へ。
夜明けまでは――あと10分! わずかだが東の空の夜が和らいだ。
「もう少し! もう少し耐えてください!」
イトがマイクでそう激励を送った時、地上側からどよめきが膨らんだ。
「!?」
街路の先から何かが粛々と近づいてきている。
最初は何か得体の知れないバケモノかと思ったが――そうではない。縦に寝かせた長い石柱だとわかった。
「破壊槌だ!」
空を飛びつつ、ユラが叫びを四方に広げる。
「お城の門とかぶっ壊すやつ!」
「お城ぉ!?」
つまり……あれをぶつけてアパートの壁を一気に突き崩すつもりか。
アビスはもう隠れてはいないとはいえ、高さのあるアパートは防御拠点として機能している。ここに入り込まれれば地上で乱戦するも同然。危険度は一気に上がる。
いよいよ――最後の手段という感じだ。あちらも夜明けがタイムリミットだと考えているらしい。
石柱の後方から数条の火が噴いた。ロケットエンジンとかブースターみたいなのが取り付けられているのだ。
あんな重たいものがぶっ飛んで来たら、ホームの一階なんて丸ごと吹き飛んでしまう。
アパート正面を守っていた面々もこれには度肝を抜かれた。こんなのどうしろと言うのか。完全に及び腰になっている。
しかしここで――。
「わはははは!!」
突如湧き起る哄笑。後ずさるどころか、石柱に真正面から突っ込んでいく集団があった。純白の重鎧。セントラルアーマーの皆さん!
「正気か彼らは!? 痛みはなくとも……迫る恐怖は本物だぞ!」
烙奈が上げる声の通りだった。見るからに重そうでど迫力な石柱に自ら突っ込んでいくなんて、大型トラックに向かって正面からぶつかりにいくようなものだ。普通の生活をしていたらまず本能が拒絶する。しかし、がっちりと腕を組んだ彼らは、ためらうどころかむしろ足を加速させていく。
両者の距離はみるみる縮まり、そして――。
「我ら鉄壁、ここにありいいいイイイイ!!!」
衝突!
凄まじい轟音が鳴り響き、石の破片が嵐のように周囲を飛び交った。
人々はとてつもない光景を目撃した。
なんとセントラルアーマーたちが、全身で石柱を砕き割りながら突き進んでいくのだ。
まるで電動鉛筆削りに吸い込まれていくように石柱が短くなっていく。しかし同時に、隊列を組んだアーマーたちも、一人また一人と衝撃に耐えきれずに弾き飛んでいった。
ピンボールのように跳ね回るアーマーたちと石柱の破片。
果たして残るのはどちらか。誰も、見守ることしかできない。いや――!
イトはマイクを握り潰す勢いで掴み、叫んだ。
「負けるなわたしのファアアアアアアアン!」
「!! どおおおおおおりゃああああああ!!!」
イトの絶叫が両者の戦いにピリオドを打った。
最後まで耐えていたアーマーがついに天高く跳ね飛ばされ、残った石柱がフルブーストのままアパートへと迫る。
しかしそれはアパートの外壁に届く前で突然失速。地面に激しくバウンドし、砕けて完全に小さな破片となった。盛大に跳ね散る石片を、あえて避けようとする者はない。
唯一たどり着いた小さな小さな破片が、アパートの壁にこつんと当たって落ちた。
「や、やりやがったアイツら……!」
「すごい鎧だ……!」
同時に、長く空を漂っていたアーマーが、ようやくアパートの屋上へと墜落する。
「セントラルアーマーさん!」
イトが駆け寄ると、彼は倒れたまま、弱々しく親指を立ててみせた。
「推しのバフ分……オレたちの勝ち……です……」
イトは涙ぐみながらその手を取った。
「ありがとう……ございました……!」
推しの心からの感謝を聞き終えると、セントラルアーマーは満足そうにすうっと消えていった。
そうはならんやろとは言ってはいけない。




