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案件65:ダークなイト

「ヤア、ヨク来テクレタネ」


 !?


〈ワンダーライズ〉に加え、あの場にいた六花とセツナも同行しての作戦会議室もとい社長室訪問。出迎えたのはいつもの社長――ではなく、夏休みの自由研究で雑に作られたような、空き缶と空の缶詰の人型ロボットだった。


「何やってんですか社長……。アバターのイメチェンですか?」

「ワタシハ社長ロボダ。ワケアッテ、本人ハ、ココニハイナイ。ヨッテ、代理ヲ立テタノダ」

「イトさん……。この人が社長さんなんですか……?」


 この珍妙なプレイヤーを見たセツナが小声でたずねてくる。イトはすぐに、ははあ、となった。ケンザキ社長はセツナの実の父親だ。そしてスカグフ世界でフィクサーごっこを楽しんでいることは家族には絶対に内緒。セツナがビルに入ってきたことに気づき、慌ててボロボ(今命名)のスキンを被ったのだろう。


「その格好でもいいが、とりあえず聞き取りにくいのでしゃべるのは普通にしてもらえまいか」


 事情を察したらしい烙奈が妥協案を出すと、ケンザキは「わかった」と、わかりやすい作り声をやめた。ただ声にはちゃんとエフェクトがかかっており、当人とはわからなくなっている。


「まさか六花君やセツナちゃんまでお越しいただけるとはね。ちょうどホームに全員集合していたというところかな。耳が早い……いや、この場合は足が速かったというべきか」


 ほぼ押しかけのような形で二人を連れて来てしまったが、ケンザキは特に気を悪くした様子もなく、手部分のサバ缶を合わせて歓迎ムードを醸した。考えてみればここにいるのは元アウトランド使節団のメンバー。交流会を企画した彼からすれば、共に計画を成し遂げた仲間のようなものか。


「それでケンザキ社長、わたしのニセモノが出たというのは本当なんですか」


 挨拶もそこそこにイトは早速本題を切り出す。赤レンガホームでこの話を聞いてから、居ても立ってもいられなかったのだ。


「事件についてはもう知っているかな」

「はい。わたしが夜中に人を助けた後で、そのう、キスして回ってたとか……」

「よろしい。概要はどこのジャーナルでも取り扱っている通りだ。君たちはまずソースを疑っただろうが、目撃者の証言は一貫してブレがなく、事実とそうでないものを明確に線引きしていることから信憑性は高いと考えられている。彼女たちを助けた少女は、確かに大剣でPKプレイヤーを圧倒し、顔もイト君で間違いなかったそうだ。最近の配信を熱心に見ていたそうだから、そこは絶対に見間違えないと断言された」

「そんな……」

「しかし、気になる点もある。月明かりのせいか、そのイト君は髪が白っぽく、肌はやや色黒に見えたそうだ。声も配信で聞くのとは少し違っていたとか」

「……白髪に……褐色肌……?」


 烙奈が神妙な面持ちでつぶやき、何かを考え込む。人気のコーデだが、そういえば昨日の撮影の時も、その組み合わせを何だか気にしていたような……?


「一応聞くけど、もちろん君の変装ではないよね?」

「もちろんです!」


 烙奈から視線を戻し、イトははっきりと答えた。

 ヘアカラーとスキンカラーの変更は簡単だ。ヘアスタイルのようにガチャ産ではないし、ノーコストで誰でもできる。が、最初にこのアバターを作った時からカラーの変更は一切していない。キス魔行なんて百合の神に誓って、だ。


「だとしたら、そのニセモノはイト君そっくりのアバターをキャラクリし、使っているものと考えられる」

「まさか! イトちゃんそっくりなんて考えられません!」

「そうですよ! イトちゃんのアバター作るのってすっごく難しいんだから!」


 六花と千夜子が突然吠えた。イトは二人とも真剣に向き合ってくれてるんだなと感謝しつつも、


「あのう、二人とも。他人のアバター作るのが難しいのは確かですけど、その言い方だと、わたしがなんか再現不可能な特殊な顔をしているみたいなふうに聞こえてしまうんですが……」

「あっ……そっ、そうじゃないよ。今のは言葉のアヤだよ。ね、ねー? 飯塚さん?」

「うっ、うん、そうそう。別に実体験とかそういうんじゃないから。ねー」


 何やら息の合ったペンギンみたいなポーズでうなずき合う二人。まあ確かに今のツッコミは無粋もいいところだった。


「それにしても、なりすましに、なりきりかぁ。イトちゃんもいよいよ人気アイドルになってきたね」


 そのままの流れで六花が述べる。


「知名度が上がるとこういうのはよくあるよ。わたしのニセモノも各地区に四、五人はいるらしいし」

「そうなんですか!?」


 イトは驚いた。そんな話は今まで一度も聞いていない。


「でも顔が違うとかライズができないとか、さらに言えばわたしが生配信してる時も普通にインしてるから、熱心なファンなんだなぁって認識でみんな止まってくれる。それくらい好きになってくれるっていうのは嬉しいんだけどね……。それよりSNSのなりすましアカウントの方が厄介かな。スカグフだと悪さしたらAIがペナルティ出してくれるけど、あっちだとわかんないから。本人の裏アカだとか勝手に決めつけられたりね……」

「なるほど裏アカですかぁ……。ちなみに六花ちゃんは個人で使う用のアカウントとか持ってないんですか。ほら、有名になりすぎると発言一つにも気を遣いますし」

「……ないよ」


 なんか間があったような気がするが、六花ちゃんの言葉は絶対なので、ない。


「二人の指摘があったように、他人のアバターを作るのはかなり難しい」


 と、ここでケンザキが話を戻す。


「スカグフのアバター作成時に外部からの写真やら見本を持ち込むことはできない。パラメータでの完全再現は人間にはほぼできないし、となると、手でこねるクレイワーク方式だけど、これも証明写真程度なら作れなくはないけど、表情が付いたら一発で違いが出てしまう。アバターの顔面構造は非常にデリケートなんだ。しかし今回の犯人は、そうした高いハードルをクリアしているらしい」

「一体どうやって……」


 セツナが考え込むのを、ケンザキロボは親身なロボットアイで見つめた。娘が友人のことで真剣に悩んでいることに、ある種の喜びを感じているようにも見えた。


「何らかの特殊なツールが使われた可能性は否めない。ただAIがそれを許可した以上は、そこをこちらが咎めることは不可能だろう。それより今はイト君の評判だ」


 ケンザキの背後にウインドウが展開される。何かの割合を表す円グラフだ。


「これは今回の〈キス魔行事件〉における好悪の反応を、交流サイトの書き込みから拾ってきたものだ。AI判定なので若干ノイズがあるけど、概ね、いいんじゃない二割、よくないんじゃない二割、イトちゃんはそういうことする六割と、スキャンダルとしては火種が弱いことがわかる。そもそも、もしその場でセンシティブな悪意や嫌悪感が感知されれば、AIが即座にシールドを張って阻止してくれるしね」

「いや……三つ目の選択肢が一番多いのがわたし的には気がかりなんですが……」

「ただ、今後の対応次第では悪ノリした連中が騒ぎを大きくする可能性がある」

「むっ……」


 イトは身構える。あくまでゲーム内での役職とは言え、マスコミ会社の社長がそう言うとちょっと怖いものがあった。


「他のアイドルたちのなりすましと大きく違うのは、まず顔が完コピされているということ……しかしこれにはまだ不確かなものが含まれる。それより確実視できるのは、優れたPKKであるという点だ。これはそこらのそっくりさんとはワケが違うことを示している」

「そう……ですね。ライズやコスはガチャで引けるけど、イトお姉ちゃんと同じくらい強い人というのはそうそういないと思います。なりすませないです、普通……」


 セツナからの賛意を得て気分がよくなったのか、ケンザキは続けてたずねてきた。


「先日、大剣クラスタのPVを撮影したんだろう?」

「! よく知ってますね……」

「代表が売り込みに来てたからね。まあこれは今回に限らず、どの武器クラスタもいつもやってることだ。ただ、あそこの代表は大雑把そうで鼻が利く子でね。ナイチンゲールだったか……。鈍感では敵からタコ殴りにされるプレイスタイルだ。もしかしてPVの配信を一時見合わせくらいはしてるんじゃないかな?」

「うわ、当たってますよ……」

「ふむ……やはりね」


 何気なさを装いつつも、残念ながらロボケンザキは表情の微妙なグラデーションが不可能らしく、カレー缶の目がめっちゃ得意そうにひん曲がっている。ちゃんと戻るのか?


「有名人のなりきりというのは、いわゆる同一化の一種だ。推しの姿や持ち物を真似ることで自らの価値を高める。中には〇〇ならこうすると思った、と善行を積む殊勝な人もいるくらい比較的無害なニセモノと言える。対してなりすましというのは、ほぼ確実に相手の地位を己の利益のために利用する悪いヤツだ。今回の犯人は恐らく後者。しかもPVPの確かな腕を持っている。こういう人物は大抵、現状に満足せず物事をエスカレートさせてくるものだ。早急な対応が必要になる」

「しかし、一体どうすれば……」


 どうやらこのニセモノは単なるニセモノではないらしい。

 イトが考えに窮すると、ボロボ=ケンザキははっきりと笑みの表情を浮かべて告げてきた。


「私にいい考えがある」


 ※


 スカグフには月のない夜が多い。

 空を漂うスカイグレイブの破片が、時に満月ですら覆い隠してしまうからだ。


 ゲーム内だけでなく、リアル時間でも夜遅く――。

 一人の女性プレイヤーが、陰影の色濃い裏路地を走っていた。

 息を切らせているのは疲れからではなく、緊張と恐怖から。

 彼女は追われていた。悪質なPKプレイヤーに。


 周囲の家屋は、いずれもどこかのクランや個人が所有するホーム。しかし明かりがついているところはほとんどない。ログイン自体していないのだ。町の影は孤独な色をしていた。


 彼女はこの静けさに満ちた町を歩くのが好きだった。普段は活気と光に溢れる場所。そこが無人になる時、まるで自分だけが最後まで生き残れたような特別な自己満足に浸れた。けれどそれが仇になって、今ただ一人、暴漢に追われている。


 ついに行き止まりに追い詰められ、彼女は座り込んでしまった。

 ちょうど空墓の破片が月の前を通り過ぎ、降り注いだ光が追跡者の姿を露わにさせる。

 典型的なアウトロースタイルに、ジャンキーなロゴ入りのボールカメラ。スナッチャーだ。

 吹き溜まった砂をざりと踏み鳴らし、近づいてくる。


「こんな真夜中に出歩く悪いお姉さんは、曇り顔を記録させてもらおうねぇ……」


 甲高い金属音と共に伸長されたのは、雷撃属性のスタンロッドだ。一撃で相手を倒す威力こそないものの、だからこそ相手をいたぶるにはちょうどいい。つい先日、護身用にそれを買おうかどうか悩んでいたからよくわかる。


「それじゃあ撮影いってみようかぁ! はい、アクショーン!!」

「い、いやああああっ!」


 女性が悲鳴を上げた、その時。


「そこまでです!」


 ゴオン……とどこかで荘厳に鐘が鳴った。


「何奴!?」


 スナッチャーが慌てて天を仰ぐ。それは窮地を鼻先でせき止められた女性も同じ。

 狭い路地裏から見える、屋根の上の三日月。

 その光を淡いシルエットで切り取り、凛と立つ少女の姿があった。


「だっ、誰だおまえは!?」


 威嚇するようにスタンロッドを突き出して吠えるスナッチャー。

 夜の鐘がまた響く中、シルエットが悠然と答える。


「わたしは……そう、バスターソード仮面……」

「バスターソード仮面!? マジかてめえ!?」

「こんな夜更けにか弱い女性の曇り顔撮影とは言語道断……。日中でももちろん許さんからな! たとえ月とAIが黙っていても、この餓狼の剣はどうかな?」


 ズラリと抜いた背中の大剣。鍔の部分にある何かの意匠が、どういう仕組みかビギーンと剣呑な光を放つ。


「狼は断罪を所望した! 成敗!!」


 殺意に満ちた大剣を一振りし、バスターソード仮面はスナッチャーに襲いかかった。


バスタード仮面さま!? だと武器が違うものになっちゃうか……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 被害?は可愛いものだったけど意外と大事だった >中には〇〇ならこうすると思った 台湾に勇者が表れてニュースになってましたねぇ
[良い点] おましょうま! [一言] >空き缶と空の缶詰の人型ロボットだった。 クロマティ高校のロボ沢か銀魂のジャスタウェイ的な感じか。 今回セツナちゃん同伴だから咄嗟の行動なんだろうが何故そんなチョ…
[良い点] みんな下がれ!早く!ケンザキ社長が爆発する! [気になる点] >イトちゃんはそういうことする六割 イトちゃんはまず百合営業を持ちかけてからだから 先にそういうことはしないのでイトちゃんに対…
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