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案件35:セントラルとの合同配信!

 そうして決まったグレイブ探検ツアー、行き先は今いるここ〈恩情の都〉だ。

 林立する廃墟のビル群を、絡みついた木の根や枝を伝って上へ下へと大移動しながら最深部を目指す。


 物理的な最短ルートは地上一階を直進することだが、ビル数階分にまで膨れ上がった木の根や強固すぎる植物のツタが行く手を遮り、除去するにはリアルで十数年かかるとまで言われる有様。その城塞でも築くかのような植物を見下ろす地上二階にて、イトはボールカメラを起動させていた。


「皆様、ご視聴ありがとうございます! わたしたちは〈ワンダーライズ〉です!」


 千夜子、烙奈に挟まれ三人で一画面に映りながら、ユニット名を唱和する。


「〈ヴァンダライズ〉じゃありません!」

「イトちゃんまだ何も言われてないよ!?」

「そ、そうでした。何だか言っておかないといけないような気がして……。それはともかくとして、本日とんでもないゲストをお招きしています! 時間がないので早速ご紹介しちゃいましょう。セントラルのトップアイドル、城ケ丘葵さんと、同じくセントラルの新人アイドル、今川キリンちゃんです!」

「城ケ丘葵です。よろしくお願いします」

「アウトランドの皆さん、初めまして! わたくしがセントラル期待のニューフェイス、今川キリンですの!」


 葵はおしとやかな笑顔で、そしてキリンは生意気さをちょっと抑えた明るく可愛いアイドルとして挨拶する。平素の状態からパッと空気を変えてきたのはさすがだ。イトは安心してカメラを別方向へと向ける。


「そしてもうひと方。こちらもビッグネームです!」

「やあ。十七地区でボクを知らない人はあんまりいないよね。現在最高級賞金首の魔女、痣宮ユラだ。いぇーい、バウンティハンターのみんな、見てるー?」


 こちらは素よりもさらに挑戦的な物言いをする。


「ユ、ユラちゃん、そういうイレギュラーな発言は!」

「そう? でもせっかくの生配信だし、順当にいくより何か起きた方が楽しいでしょ」

「変な炎上起きたらわたしが事務所からボコボコにされてしまいます!」


 生配信。そう今回は、滅多にやらない生配信を行っていた。当初は録画で済まそうとしていたところを直前での方針転換だ。その理由はいくつかあった。


「皆さんの紹介が終わったところで、今、わたしたちがこうなっている経緯をお知らせします」


 第一にこれ。この生配信は釈明会見も兼ねている。

〈ワンダーライズ〉は今、裏切り者の容疑をかけられている。最初は鳴りを潜めてクールダウンを待つつもりだったが、一番注目が集まっているうちにはっきりと事情を説明してしまおうと考えたわけだ。


「実は現在、葵さんとキリちゃんは勉強のためにアウトランドに来ており、知り合いのツテとかそういう関係で、わたしたち〈ワンダーライズ〉が案内役に選ばれたのでした」


 イトが二人へ近づくと、カメラも空気を読んで追いかけてくる。


「葵さんはこの時期になると自ら試験と同じ内容を自分に課し、初心を振り返っているとか……」

「はい。各課題もさることながら、人気投票もこれまでの活動を振り返る上でとても重要なイベントです。突然のことでアウトランドの皆さまは驚かれたと思いますが、どうかご容赦ください」


 笑顔を消し、真面目な表情で受け答えする葵。謝罪会見というわけではないが、真摯さ、真剣さははっきりと伝わってくる。


 もちろん、これらはあらかじめ打ち合わせしておいた通りのやり取りだ。本人の口から事情を語ってもらうことで、あらぬ疑いをかけられないようにする。この突発生配信はすぐにキャッチされ、大勢の目に触れることになるだろう。


「そしてキリちゃんはわたしたちと同じく、初めての初級試験のために奮闘中です!」

「はい。アウトランドに来たのは初めてで、すごくドキドキしていますわ。しかし、これくらいの試練、見事やり遂げてみせますの!」


 優雅に胸を手に当てて勝利宣言してみせる。早くも偉そうさの片鱗が染み出て来ているが、これはこれで可愛いので問題なかった。


「はいはーい、次、ボク。ボクの番」


 と、ここでユラがボールカメラを掴んで自分の方へと振り向かせる。カメラが慌ててピントを調節する音を鳴らす。


「ボクはね、イトちゃんたちのグレイブ探検課題を手伝いに来たんだ。部外者が手伝っちゃいけないなんてルールないもんね。……なんてね、ウ、ソ。ホントはイトちゃんとデートしに来ましたー。ダンジョンデート。ボクならたとえ二人きりだろうとグレイブの最深部までエスコートできるからね。いぇーい、ファンの子たち見てるぅー?」

「ユラちゃん視聴者さんを煽るのはちょっと!」

「イトちゃんこれは百合営業だよ。百合営業の一環」

「あっなんだ、それならよし」


 イトはコホンと咳払いを一つ挟んで、


「そういうわけで、セントラル、アウトランドのアイドル合同グレイブ探検、始めたいと思います! 皆さん、応援どうぞよろしく!」


 景気よく開幕宣言をし、カメラ横の生配信用モニターをちらりと見やる。

 これは来場者数やコメント欄を表示するモジュールで、来場者数は気にしてしまうので非表示にしてある。しかし、コメント欄にも動きはなかった。


 やっぱり、いきなりの生配信なんて無茶だったかな――。イトが胸中でこっそり落胆していると、烙奈がモジュールに近づき、


「イト、これコメント欄もオフになっているぞ」

「ええっ!? それはまずいです! すぐにオンにしてください!」


 烙奈が操作した直後。

 ドババババババババババ! と、とんでもない量のコメントが溢れかえった。


「ほああああ!?」


 三十段あるコメント欄が爆速で滝登りしていく。

 何も読めない。無理矢理に目を食いつかせても、濁流の中に意味のないひらがなを一文字拾うのが精いっぱい。


「イ、イトちゃん、これもしかして、見てる人の数もすごいことになってるんじゃ……。ど、どうする? 来場者数の表示……」

「ま、待ちましょう、そこをオンにするのは……! 心臓が止まってしまうかもしれません!」

「そ、そうだね! あえての非表示……!」


 千夜子と二人で、乱れた呼吸と心音を整える。

 これは……とにかく初手大成功だ。

〈ワンダーライズ〉始まって以来の大バズ。と同時に、自分たちがそれくらい大規模な騒動の中心になっていることを示唆している。


「たくさんのご視聴、コメント、ありがとうございます! でもめっちゃ早くて全然読めませんので、ひとまずは配信をお楽しみください!」


 イトはそう釈明し、グレイブ探検を開始する。

 生配信の理由、二つ目。

 これが本当にアイドル試験の課題であることをリアルタイムで示すこと。


 今の葵がどうやったってアウトランドの脅威になってしまうように、アイドルが試験を受ける権利も揺るぎなく存在する。そして、アウトランドとセントラルの確執なんてそもそもスカグフのルールにはない。プレイヤーはもっと自由なはず。そのことを、この一生懸命な探検を見て思い出してほしかったのだ。


「おおー……みんな見てください、すごい景色です!」


 先へと進みながらイトは声を吹き込む。

 自然の緑に覆い尽くされた古のビル群。

 見た目こそ近未来的な建造物だが、中も外も荒れ果て、当時の生活感を探ることは難しい。そこを我が物顔で占拠する植物の上を、イトたちは歩いている。


「何だか、人類が滅んだ後の地球を歩いてる気分です……」


 それは、誰もが一度は夢見ることだった。かつては大迫力のスクリーンやVR機材でそれらを体験していたものを、今なら五感でよりリアルに味わうことができる。スカイグレイブ〈恩情の都〉が人気な理由の一つだ。


 同時に、スカグフにはこんな噂もあった。AIは、滅んだ未来の地球を創造しているのではないかと。そう思わせるくらい、荒廃した近代建築物の雰囲気は真に迫るものがあった。もっともそれは、感じる方の問題と毎回一蹴されている話題だったが。


「ってことは、ボクとイトちゃんが人類最後のカップルだね」

「ここにも人類はまだいるんだけど?<〇><〇>」

「チ、チョコ、カメラが回っているぞ……」


 和気あいあいとおしゃべりしながら、巨木の枝を渡り切る。

 他のグレイブと違って、ここはどこからでもダンジョンへと進入していい特殊な構造をしていた。

 もちろん推奨される口はあるが、人が通れればそれが正しい順路となる。イトたちは葵が逃げ込んだ地点から探検を開始したため、かなり変則的なスタートとなっていた。しかし今はそれがかえって好都合だった。周囲に人がいないことで落ち着いて配信ができている。


「葵さん、キリちゃん、足元に気をつけてくださいね」


 イトは後ろに続くセントラルのメンバーを気遣った。

 今は傾いたビルの上を歩いている。


 単純に斜めになっているのとは違う。ビルを絞め殺すように生えた樹木が、そのまま地面へ引き倒しにかかったような状態だ。空になった窓枠からも細枝が延びてきており、ちょうど足を引っかけるようにビルの壁を巻いている。


「便利ですわね、そのホウキ……」


 目の前をすうっと通り過ぎたホウキのユラに対し、ちょっとひがみを込めた様子でキリンが言った。


「いいでしょ。ボクのお気に入りなんだ。もう一人くらい乗せられるけど、キミじゃダメ。イトちゃんとのデート――じゃなかった百合営業専用」

「ふ、ふんっ。結構ですわ。そんなものに頼らずともセントラルのアイドルには歌とパフォーマンスがありますの」

「へえっ、そりゃよかった。じゃあボクはイトちゃんと遠慮なくイチャイチャするから」


 そう言ってのけた直後。


「で、そこにいんの誰?」


 唐突にユラが虚空に向けて呼びかけ、イトたちの足を止めさせた。

 一陣の黒い風が前方を通り過ぎる。

 置き忘れられたようにそこに現れたのは全身黒ずくめの人物。顔まで包んだ忍装束。これはローグ職の代表的なスタイルの一つ、忍者だ。


 片膝をついた着地ポーズのまま、重々しくその口が語りかけた。


「〈ヴァンダライズ〉殿……」

「違います」

「おい、おい」

「それ何で知ってるんですか!? いや広めようとするのやめてください! 配信中なんですよ!」


 イトは不満を口にしたが、忍者は取り合う素振りもなく、


「拙者、〈ヴァンダライズ〉殿が駆けつけた瞬間の六花ちゃんの表情を一億回リピートするまで死ねない忍者……」

「これまた業の深そうな忍者が来たな……」

「でも、その気持ちはよくわかります!」

「さすがはイト殿……あいや、しかし!」


 バッと手のひらを向けてくる。


「それゆえにこたびの騒動、拙者には見過ごしがたく……。イト殿がセントラルのアイドルと駆け落ちなどという……!」

『な!?』


 驚きの声は二つ重なった。イトとキリンだ。


「そんな話になってるんですか!?」

「誰と誰が駆け落ちですの!?」

「無論、御身は生配信で身の潔白を証明されましたゆえ、ただの与太話とわかっております。拙者も納得はしてござる……が、一旦生じた暗鬼はたやすくは消えぬ! ゆえに、配信中に凸という無作法を犯してここまで参った次第……」


 生きがい忍者は背中の忍者刀をズラリと抜いた。


「イト殿、どうか一戦お相手頂きたい。そこで変わらぬ六花ちゃんへの愛を、拙者に証明してくだされ」

「ぬぬっ!」


 早くも現れてしまった。


 配信凸。

 噂に背びれ尾びれに足も角も翼も生えて飛び回っている状況なら、これは想定できた。そして、していた。

 これは最初の一人に過ぎない。配信中にいくらでも現れるだろう。


 生配信の理由、三つ目。

 納得のいかないリスナーと直接対決するため。危険だが――これがその第一歩だ。


これはひょっとして……イロモノ配信じゃな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] おましょうま! [一言] >「〈ヴァンダライズ〉じゃありません!」 ここまでアッピルしてんのにワンダーライズ呼びされないのは、 『判ってる判ってる。そういう事にしときたいんだな』って思われ…
[良い点] 俺、スカグフでニンジャ作ってたっけと錯覚する程のワカリミ 自分が撃退された瞬間曲が聞こえ六花ちゃんのハイライトが輝く しかも死亡時カメラでイトちゃんから見下ろしてもらえる 乗るしかないこの…
[良い点] いぇーい、六花ちゃん見てるー? この忍者に勝てば愛を証明できる理屈がさっぱり分からんゾ。我が勝利を最愛の人に捧げる!っとかすればいいの? なら他のファンの皆も頑張らないと! 人気の為なら百…
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