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案件122:監視対象と接触せよ!

 オーナー室から稽古場に戻ると、さっきはいなかったメンバーがすぐに目に入った。中でもインパクトが熱烈だったのが――。


「にゃほおー! リアルイトちゃんキタにゃあ!」


 いきなり猛ダッシュで駆け寄って来た小柄な少女だ。

 後ろ髪を折り返して上に立たせ、猫耳みたいな独特のヘアスタイル。目もくりくりとよく動き子猫のように愛くるしい。


「きゃわ!?」

「うおっ……! 間近で見る本物はやっぱクソカワにゃ! 早速記念撮影するにゃ!」


 イトと少女は、フュージョン、はっ! のポーズでSSに収まった。


「ちょっと吉備! いきなりフュージョンのポーズは失礼でしょ! ごめんなさい〈ワンダーライズ〉さん!」


 それを慌てて止めにかかったのが、正統派美少女の雰囲気を持つアッシュグレイの髪の団員。少女と大人の中間の顔立ちはどこか気品があり、吉備と呼んだ猫系少女を即座に引き離した動きにもリーダーシップが感じられる。


「ほ……本当に……アイドルさんが……来てしまいました……」


 最後の一人が、離れた位置から一連の動きを恐々と見つめる長身の少女。

 スリーサイズはジャージ姿からもミ・ラ・クルと見て取れるのに、黒いロングヘアは寝癖のようにくしゃくしゃ、目には覇気がなく、オシャレ性能ゼロの地味眼鏡でさらなるデバフを積んでいる。


「ちょうど別件で席を外してた三人が戻ってきたところなの」


 演出のウジカワがそう言って、改めてその三人を紹介してくれた。もっとも、イトたちはさっきオーナー室で見たばかりの顔だったが。


「灰谷ガラスです。どうぞよろしくね」


 はきはきとした口調。少し挑戦的で、しかし真面目で真っ直ぐな眼差しの少女。髪はアッシュグレイのツーサイドアップ。時計の針を模したリボンが、ジャージ姿の中で一際可愛さをアッピルしている。


「百川吉備にゃ! ……と、こういうキャラを現在インストール中なので、お付き合いよろしくにゃ! 冷めたツッコミはいらんですにゃ!」


 シュタと手を挙げて元気に発言したのが百川吉備。三人の中では一番小柄だが、放散されるエネルギーは間違いなく最大。栗色と白の入り混じった独特の髪色に、金色の大きな目。正体は恐らく猫だと思われる。


「はっ、はいぃ、あのぉ……。武鳥佐々ですぅ……。ご覧の通りの陰キャでぇ……。遮蔽物がないとアイドルの光の前ではぁ……ぁぁぁ……」


 最後の一人が、遮蔽物――灰谷ガラスに大きな体を隠しながら、おどおどと自分の存在を伝えてくる。


「誰が壁よぉ! 佐々ほどじゃないけどあるにはあるんだから!」

「ひいっ、そういう意味じゃないよぉ……。ただガラスちゃんの後ろにいればあらゆる攻撃を弾いてくれるから……」

「誰が防弾ガラスよ!」

「ひいい~」

「わたし……あの子と仲良くなれそうな気がする……!」


 千夜子にそう希望を抱かせた武鳥佐々。スタイルも顔立ちも非常に良いのだが、陰キャを自称するだけあってかなりの恥ずかしがり屋らしく、こうして目視されているだけでもライフバーを勝手に減らしていってしまいそうだ。


「なんか……舞台とはだいぶ雰囲気が異なるようだが……」


 彼女たちを見た烙奈が、イトにしか聞こえない小声でつぶやいてくる。

 その通りだと思った。正統派美少女のガラスはともかく、吉備も佐々も芝居中はなんというかもっと“ちゃんと”してる。むしろ今の方が人としてクセが強い。


「でも、仲は良さそうです」


 そう返して、イトは顔をほころばせた。

 息抜きに裏稼業に手を出してしまったのではという推測から、もっとピリピリした関係性を予想していたが、そんなことはない。よく見知った友人同士の空気だ。


 イトたちも改めて自己紹介を済ませ、早速本題に入る。

 もちろん、コラボCMの撮影の方である。


「内容は至ってシンプルよ」と、車座に座った中で演出のウジカワが説明する。


 それによると、舞台の両袖からガラスたちとイトたちが対決するようなアクションを見せながら舞台中央に集結していき、最後に全員が武器を複雑に絡み合わせてタイトルがドーン! という流れ。


「セリフは登場した時に一つだけだから、そんなに身構えなくていいわ。ただ舞台だからPV撮影と違って声は大きくね」

「お、大きな声かぁ……」

「ううむ……」


 早速自信なさげな態度を見せる千夜子と烙奈。この二人は大剣クラスタのPVには参加していないし、普段からあまり大声を出すタイプでもない。


「大きく息を吸って口を大きく開ければ大丈夫にゃ! テレがちょっとでも入ったら負けにゃ! イトちゃん早速、練習用のセリフをやってみるにゃ!」

「! わかりました! “時は帝歴十五年、星の月、五の日。風雪吹きすさぶ都の一角に、愛しき我が君へとこの貞淑な剣を捧げたる――”!」


 突然のご指名に、イトは颯爽と立ち上がると、大きく息を吸いって渡されたデジタルカンペを読み上げた。


「おー」とガラスたちがパチパチ拍手する。


「元気があってとてもいいわ」

「テレが一切入ってないのは真に素晴らしいと申し上げるにゃ!」

「声も聞き取りやすい……」

「そ、そおですか……? へ、へへへ」


 思った以上の好評を得て、照れながら着席する。


「じゃ次はチョコちゃんにゃ! イトちゃんと同じ感じでやるといいにゃ!」

「で、ですよね……」


 千夜子はカチコチになりながら、その場でカンペを読み上げようとし、


「待つにゃ! でかい声を出す練習なんだから立ってやるにゃ! それで足りなきゃ拳を握って気を高めてから叫ばせるにゃ!」

「え、えぇぇぇぇぇ……」

「わかる……わかるよ飯塚さん。吉備ちゃんスパルタだよね……」


 そこはかとなく佐々と相通じながら、千夜子は結局三回もセリフを叫ばされた。

 ちなみに烙奈は声こそ出せたが、まわりに気を遣って感情を制限しすぎていると吉備にダメ出しされ、これまた三回ほどヤケクソで叫ばされた。


 しかし、この中でも吉備が「いいにゃゾ!」「もう一声!」「次が100%中の100%にゃ!」と盛り立ててくれるので、イトたちは自然とこの場に馴染んでいくことができた。


 その後、それぞれのモーションを確認。皆が見ている前で一人一人行うのだが、これはチーム全員で役者の動きを観察し、改良へと繋げていくために必須の形態だという。


 イトたちは素直にAIの補正による攻撃モーションに頼ることにしたが、ガラスたちはすべてを自前でやった。劇中で繰り出されるゲーム内モーションも実はすべてが自力で、見所の一つになっているという。


 それらをこなして一旦休憩となった時には、イトとガラスたちはすっかり一つのチームとなっていた。


「ねえ、イトちゃんたちって城ケ丘さんと会ったことあるのよね?」


 ガラスがそんなことを聞いてくる。


「あっ。ありますよ!」

「どんな人だったにゃ!?」

「絶望的にかっこいい……! マイゴッド……!」


 芸術家肌の葵は、彼女たちの憧れの的でもあるようだった。正しくアイドル。所変わればトップも変わる。ガラスたちにとっては城ケ丘葵がナンバーワンなのだ。


「独自のエネルギーを持ってる人でしたね……。でも、だからって見た目ほど完璧な人でもないんですよ。自分の中に滅茶苦茶たくさんの表現したいものがあって、その表し方にいつも悩んでる側面もあるんです」

「そんな踏み込んだ話までしたの……? すごい……!」

「と……強敵(とも)にゃ……!」

「城ケ丘葵さんでも……そうなんだ……」


 佐々が体育座りで大きな体を小さく収納しながら言う。


「城ケ丘さんが前にインタビューで、“自分の中にあるたくさんの影の出し方を探してる”って言ってたのはこのことだったんだ……」

「またあの人は難しいことを……」


 もっとも、葵の生まれがなかなか特殊なので、考え方も独特になるのは当然のことだが。


「わたし、背が高いのがイヤで……でも城ケ丘さんみたいに真っ直ぐ立てたらカッコイイなって……。それが……夢だったんですけど……。あんな人でも……ちゃんと悩んだりしてるんですね……」

「へえ……それが佐々ちゃんが演劇を始めた理由なんですね」

「うっ、うん。あとは、その、わたしの場合は本体がダメダメだから……キャラクターの力を借りたら何とかなるかなって……。役になりきってるうちはぁ……自由になれる気がしてぇ……。へへへ……」


 佐々は恥ずかしそうに微笑んだ。後ろ向きなようでいて、彼女もある意味で自分の噴出口を求めているようだった。本当に内向的なら、目立たずにひっそりとしているのが一番嬉しいはずだ。


「それじゃあ、ガラスちゃんはどうなんです? 始めたきっかけとかは?」

「わたし? わたしがお芝居をやりたいと思ったのは、本当の自分を探したいから、かしらね……。結局自分ってどんな人間なんだろうって、役作りしながら探してる感じ」

「ほーん。ずいぶん真面目なことを言うにゃ?」


 吉備がニヤニヤしながら横槍を入れると、ガラスはうっとうめき、


「しょ、正直に言うと、一番の理由は……目立ちたいから。この歳で言うのもなんだけど、お姫様みたいになるのって、やっぱ憧れるでしょ……」

「わかりますわかります」


 アイドルとしては全面的に支持するしかない。夢を抱く者は結局、大勢の人から認められる輝かしい場所に立ちたいのだ。その結果として個人的な要望も満たされる。孤高のゴールなんて求めてない。


「あちしは合法的に色んなキャラになれるからにゃ! どんな奇抜な行動をしても、どんなおかしな発言をしても、芸術だから許される! 超法規的存在、それが役者にゃ!」


 ニャハハハハ! と脳天から声を出す吉備。確かに彼女の激しい熱源を鎮めるには、ご意見無用のオブラートを大量にかぶせる必要がありそうだった。


 そんな話をしつつ、最後に軽くリハーサルをして本日の練習は終わり。本収録は明日だという。

 イトたちが稽古に戻っていく三人を見送ると、ウジカワが少し神妙な顔で歩み寄ってきた。


「ありがとう。三人と話してくれて」

「いえ、特別なことは何も……」

「ううん。いい気晴らしになったみたい。このところ、あの子たち、ちょっと上手くいってなかったから……」

「……!」


「特に佐々の演技が弱くてね。ガラスと吉備はパッションで切り開くタイプだけど、あの子はじっくり考えて役を染み込ませるスロースターターだから。あんまり悩みを打ち明けられる子じゃないし、一人でしょい込んじゃってる感じがしてね……。でも、あなたたちと話して、焦りみたいなのが消えた感じがする。ありがとね」


 そう感謝を述べて練習に戻っていくウジカワを見て、イトたちは複雑な視線を交わした。

 順風満帆そうに見えて、やっぱり内情はわからないものだ。


 佐々にうっかりでも裏稼業に手を出すような素養があるとは思えない。けれど、現状の焦りから逃れるために、ダメダメに思える自分から逃れるために、ちょっと別の道にそれてみた……という可能性はあるかもしれない。


「念のため……今夜張っておきましょうか……」


 イトたちはそう相談しあい、夜の活動に備えることにした。


さすが投げ槍担いでイノシシ追い回しても誰からももんく言われない女は格が違った。


※お知らせ

次回25日(予定)が今年最後の投稿となります。

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― 新着の感想 ―
イノシシを追い回すのは流石に誰かもの申してくれ定期
うーん、これは光の役者たち。 むしろなんで闇営業に手を出しているのか。 単にストレス発散のため普通にゲームを楽しんでいるだけでは? ボブはファンになった。
それぞれに夢を抱く少女たち。 舞台でまばゆく輝く彼女らに最強の傭兵たちが思うのは悔恨か絶望か。 まだ間に合う! 光が闇に堕ちる前に!! 自分たちのようにならない様に!!! 次回 『闇から来た光の守護…
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