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340 大抵わくわく湧いていた


 待たせてソーリーご無沙汰デー





 翌朝、俺はフジの粋な計らいで騎士団の訓練を見せてもらえることになった。


 合気術の道場が駄目だから、代わりに騎士団の……という彼の優しさだろう。


 正直、別に見たくもなんともなかったが、まあどうせ暇だし見に行くとする。



「ふぁ……あ」


 で、訓練所に来たはいいんだが。


 なんだよ朝の6時って。あくびが止まらねえよ。


 いや、でもたくさん訓練するのは悪いことではないな。どっかの王国も帝国も少しは見習ってほしいものだ。



「…………」


 で、訓練を見たはいいんだが。


 なんだよ素振りって。お得意の根性論か?


 いや、でも準備運動するのは悪いことではないな。起きてすぐに激しい運動をすると悪いと言うしな。





「……なあフジ」


「どうされましたか」



 で、見学開始から30分経ったわけだが。



「いつまで素振りするんだ?」


「8時までです」


「なんのために?」


「己の基礎を見つめ直し、苦痛疲労を耐え忍び、騎士とはなんたるかを自覚させるのです」


「それが素振りか」


「はい」



 なんだそりゃ。


 もっと他にやるべきことがあるだろう。


 どうしよう、これから1時間半も暇が確定したぞ。


 というかこれを2時間も俺に見せてどうしたいんだよ。


 いやー、見事な素振りですねー! 2時間も振り続けるなんてある意味凄い! 俺にはとてもできない!


 俺からコメントを万力で絞り出したとしてもこれが限界だ。


 駄目だ、我慢ならん。



「なあフジ」


「はい」


「訓練ならさ、手合わせでもするか」


「!!」



 せっかく訓練に誘ってくれたのだから、ちょっと提案してみる。


 フジは熊耳をぴこっと反応させて、俺を丸い目で見つめた。



「よ、よろしいのですか?」


「なんだよ。あ、もしかしてビビってるぅ?」



 見るからに及び腰なフジに、少し煽りを入れてみる。


 するとフジは、まさかといった表情で口にした。



「いえ、八冠王にご指導いただけるなど、願ってもないことです。しかし」


「しかし?」


「……立場上、あまり表立ってできないのではないかと愚考します」



「…………ほーう」



 つまり、あれか。


 もし、もしも、仮に、万が一、億が一、訓練とはいえど、こんな騎士たちの面前で、八冠王が負けてしまったら。


 そんなことまで心配してくれていると。



「なあフジ」


「は、はい」


「お前は優しいやつだな」


「いえ、そんな――」



「殺されてえのか?」


「!?」



 久しぶりにキレちまったよ。


 絶対に手加減しねえ。



「なんでもありの実戦形式で。俺は剣術しか使わない。そして、必ず先手を譲ると約束しよう。受けて立て、フジ」


「お、お待ちください! そんなハンデがあっては、まともな手合わせにならな――」


「まともな手合わせだァ!?」


「!?」



 火に油注ぎやがったこいつ!



「やってみろオラァ!!」


 俺はインベントリから訓練用の木剣を取り出すと、カチキレながら挑発した。



「な、なんだこの人……どこに地雷があるかわからない……!」



 フジは焦り顔をして何やら小声で言っていた。


 素振りをしていた騎士たちも、何事かと素振りをやめて観戦に集まってくる。


 いいじゃない、いいじゃない。やっぱりこういうのはオーディエンスがいないとな。



「ほら、いつでもいいぞー、かかってこいやー?」


「く……やるしかない、ですか」



 【剣術】の適正距離で向かい合う。


 これ以上離れれば【槍術】の間合い、これ以上近付けば【斧術】の間合いなんだろう? まだ自覚できていないようだが、そのうち気付く。だってお前が先手を取らなきゃなんないからな。



「……!」


 ほれ気付いた。


 そんなこともわからないうちから、俺とまともな手合わせをするつもりだったんか?


 で、仕方なく木の槍を握って少し距離を取ると。


 まあでも、感心感心。昨日「槍術はいいぞ」と俺がおすすめしたからか、剣に対して槍でリーチ勝ちを狙ってきたというわけだ。動きは(つたな)くとも、狙いは良い。


 しっかし隙だらけだが……仕方ない。俺から先手は取れない。俺が決めたルールだからな。


 ということで、あえてちょっと広めに間合いを取ろうと足を動かして誘ってやる。



「参ります!」



 フジのやつ、ついさっきまで仕方なさそうな顔をしていたのに、すっかり集中しているようだ。十分な距離が取れたと見るや否や、すぐさま《桂馬槍術》で鋭くリーチ差を活かした攻めを繰り出してきた。


 前方への素早い跳躍攻撃。まあ、選択としては悪くない。相手が俺じゃなかったら。



「な」


 あえてちょっと広めに間合いを取っていた足の動きを《桂馬槍術》を見てから即座に間合いを詰める方へと転換する。


 気持ち左側に寄りながら、発動と同時に大きく踏み込めば――。



「何っ――!」



 フジの《桂馬槍術》が空を切り、そっぽへ跳んでいった。


 すれ違いながら振り返ると、目の前にフジの背中。


 隙だらけのフジに《歩兵剣術》でゲームセットである。


 俺はまだ足しか動かしていない。



「オマケしといてやる」


「うぉっ!?」



 単に《歩兵剣術》でよかったが、せっかくなら最後まで足だけで行こう。


 俺はフジに足払いしてその巨体を浮かせ、そこへ蹴りを叩き込んだ。



「ぐえっ!!」


 体を浮かされると、衝撃を逃がせない。


 スキルを使わないただの蹴りでも、こうやって大きく体勢を崩されれば、PvPにおいてはそれなりの痛手になるのだ。




「…………」



 観戦していた騎士たちは無言だった。


 いや、彼らの顔を見るに驚いてはいるようだが、とても歓声を出せるような雰囲気ではないのだろう。



「なあフジ」


「は、はい」



 俺は寝転んだままのフジに、諭すように言う。



「面白いよな。足の動きのたった一つだけで、こんなにも駆け引きが生まれるんだ」


「……ええ。面白い、ですが……」


「負けんのはつまらないって?」


「いえ! 違います。私は……これでも、これでも、このヴァリアント王国の騎士団長だったのです」



 よく意味がわからず、俺が首を傾げていると、フジは体を起こし姿勢を正してから口を開いた。



「セカンド八冠が一体どれほどの高みにいるのか、私にはわからなくなりました」



 彼我(ひが)の差を思い知ったと。


 面白さよりも、驚きが勝ったと言いたいわけだ。



「それこそ一番面白いところだと思うけどな」


「それは、どういった……?」


「勝てない相手にどうやって勝つか考える時って、わくわくしないか?」


「!」



 誰だって負けっぱなしは嫌だからな。


 頑張ったらなんとかギリギリ届きそうなゲームバランスにしたつもりだ。あとはフジの頑張り次第である。


 それを理解してか、フジは俺の言葉を聞き、勇壮な笑みを見せながら言った。



「もう一勝負、よろしいでしょうか?」


「何勝負でもどうぞ!」




  * * *




 ヴァリアント王城の廊下を歩くウィロウは、昨夜の失敗を反省していた。


 人生で初めて、男性から()()()に声をかけてもらった。たったそれだけのことで、彼女は自分でもよくわからない感情になってしまったのだ。


 ウィロウ・ヴァリアントは、ヴァリアント王国の第三王女として生まれ、16歳となる今までずっと“お姫様”として暮らしてきた。


 お姫様扱いされないことは、彼女にとって非常に新鮮なことと言えた。


 しかし、本当にたったそれだけのことで、あれほどまでに取り乱すものだろうか?


 彼女は自分でも不思議に思っていた。


 ゆえに、確認しなければならない。


 一晩過ごし、ウィロウは既に普段の落ち着きを取り戻している。


 また似たようなことが起きようとも、今度はきっと逃げ出したりはしない。


 そう覚悟を決め、再度セカンドへの挨拶に挑もうと考えていた。


 侍女のフレヤの調べでは、現在セカンドは騎士団の訓練に顔を出しているという。


 訓練終わりに声をかける予定である。よろしければ私と朝食をご一緒しませんか――と。



「おや? ウィロウではないか」


「まあ! アウロラお姉様!」



 そのようなことを考えながら歩いていると、後ろから現れた第一王女アウロラに声をかけられる。



「ご無事で何よりでございます! 昨夜はご挨拶させていただけず、心配したのですよ?」


「すまない。陛下へご報告に伺ったのだが、少々捉まってしまってな」


「そうですわね。お父様も食事が喉を通らないほどご心配されておりましたから」


「有難いことだと、そう思っておくことにするよ」


「ふふ、お姉様ったら」



 アウロラは辟易(へきえき)した様子で言う。どうにも父親の過保護は苦手のようであった。



「ところで、ウィロウはこんな朝早くからどうした? 騎士団に何か用でもあるのか?」


「そうですわ、お姉様。私、セカンド様へご挨拶に伺う途中だったのです」


「む、そうか。聡明なウィロウのことだから、昨夜のうちに済ませたかと思っていたが」


「え、ええ。それが、その……」



 歯切れの悪いウィロウに、アウロラは目を見開く。



「珍しいではないか」


「は、はい?」


「そのように口ごもるウィロウは初めて見た」


「そ、そうでしょうか」



 アウロラから見たウィロウは、言わば“完璧なお姫様”であった。


 聡明で、品があり、洗練されており、家族思いで、心優しく、会話は常に(しと)やかで、立ち居振る舞いは(たお)やかで。


 清楚を絵に描いたような、何処に出しても恥ずかしくない完璧なお姫様だと、アウロラはそう思っていた。


 それはアウロラだけではない。このヴァリアント王国に暮らすウィロウを知る者の尽くが、そう思っていることだろう。


 だからこそ「口ごもるウィロウ」というのが、どうにもイメージに合わなかったのだ。



「おっと、話している間に訓練所が見え――」


「……!」



 2階廊下の窓から見える訓練所では、今まさにセカンドとフジの手合わせが行なわれていた。



 ……それは、あまりに異様な光景と言えた。


 アウロラとウィロウはそれまでの会話を続けることも忘れ、ただただ見入った。


 王国一の精鋭と謳われるフジは、必死の形相で、剣や斧や槍や盾や、時には合気術をも使って、セカンドへと果敢に挑んでいる。


 それをセカンドは、にこにこ笑って、剣の一本のみで、のらりくらりと相手していた。




「……マチルダ。あれをどう見る?」


 アウロラは護衛の騎士マチルダに意見を求める。



「は。率直に申し上げまして、理解が及びません」


「それほどか」


「見たところセカンド八冠は、剣しか使わぬようにしており、加えて常に先手を譲っております」


「……そのようだ」


「一体、如何ほどの研鑽を積めばあのように至れるのか? 私とて王国騎士としての矜持が御座いますが、しかし、それにしても……想像すらつかないとしか言いようがありません」



 マチルダは言葉の端々に悔しさを滲ませながらも、しかし抑えきれない畏敬の念を込めてそう口にした。


 我らが王国の騎士団長が、天と地ほどのハンデを与えられて尚、まるで赤子のように扱われているのである。


 アウロラとマチルダ、そしてウィロウの侍女であるフレヤは、その光景を目の当たりにし、戦慄を覚えた。


 一度でも武器を握って戦ったことのある者は、それがどれだけ異常なことか、嫌と言うほどよくわかってしまう。



 しかし、この中で唯一、ウィロウだけは一風変わった感想を抱いていた。



(えん)、ということでしょうか」


「円?」



 ウィロウが呟いた単語に、アウロラが反応する。



「はい、お姉様。私は真理を目にしたような気がいたします」


「聴かせてくれ」



 アウロラは興味深げにウィロウの言葉を催促した。


 こういったやり取りは過去に幾度となく行なわれている。文武両道を体現するアウロラをして聡明と評されるウィロウの言葉は、16歳とは思えないほどにいつも核心を突いていた。



「紙にぐるりと円を描いてみれば、一目見て円の大きさはわかりましょう。しかしセカンド様は、その円があまりにも大きく、紙に収まりきらないのです。ゆえに、紙にはただの(たわ)んだ線のようにしか描けない」


「なるほど……」


「それがどれほど大きな円かも見て取れないのならば、お姉様、いっそ紙を取っ払ってしまった方が良いのではないでしょうか?」


「そうだな。私はどうやら、視野を広げる必要があるようだ」



 アウロラは感心したように頷くと、ウィロウに正面から向き合った。



「感謝する、ウィロウ。お前にはいつも助言を貰ってばかりだな」


「何かの一助となれたのなら幸いですわ、お姉様」



 ニッと優しく笑って、ウィロウの頭をぽんぽんと撫でると、アウロラは颯爽と去っていった。


 ウィロウはその後ろ姿を見送ると、再び訓練所へ目を向けた。


 そして、姉には伝えなかった自身の()()を、噛みしめるように呟く。



「……セカンド様があれほど気さくな理由は、きっと、何よりも大きな、広い広い世界を見ていらっしゃるからなのでしょう」



 ゆえに、全ては些事(さじ)


 権力があるからといって、武力があるからといって、酒が入っていたからといって、人はあそこまで飄々と気さくにはなれない。


 常日頃から、誰に対しても素をさらけ出して接することのできる人でないと、誰に対してもその本質に目を向けようとする人でないと、ああはなれない。


 それができる彼は、その見つめる先の遥か彼方の大きな大きな何か以外の全てが、自分にとって些細なことだと感じてしまっている。



 たった一度の会話と、訓練所での手合わせを見ただけで、ウィロウはセカンド・ファーステストのことをここまで見抜いていた。


 そして、こう思う。



「興味が尽きませんっ」



 これから誘う朝食では、彼と何を話そうか。少し考えるだけでもわくわくが溢れてしまったウィロウは、声を弾ませて年相応の可憐な笑顔を浮かべた。




お読みいただき、ありがとうございます。


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書籍版1~9巻、コミックス1~12巻、好評発売中!!!


次回更新情報等は沢村治太郎のXにてどうぞ~。

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― 新着の感想 ―
お待たせされました(笑)お帰りなさいです\(^-^)/
よっしゃぁ!!!!!!
ここ数年で1番嬉しいです。 再開ありがとうございます!
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