閑話 クイズ制せず逝く
おまけ
※クイズを楽しみたい方は、まず前書きと後書きのみをお読みください。
<クイズ>
1.飛車盾術の突進で相手のダ/
2.盾術で四種の攻撃スキルといえば、龍/
3.銀将盾術でパリィを行う場合、その猶/
4.上手側が龍王・龍馬・飛車・角行を/
5.十回連続で行うと五/
6.出現する魔物の扱う魔術から吹/
7.セカンド・ファーステストが糸操術で好んで用いる釣/
8.桂馬糸操術の糸がスキル使用者以/
9.桂馬剣術と複/
10.片刃の剣ファルシオンは二つの改造様式がある。黒/
11.魔術で最も準備時間が短いのは壱ノ型ですが、二/
12.体術でゆ/
13.火はつ/
14.アンデッド系の魔物に対して固/
15.俗にカメレ/
16.フィリップが商会長を務める、衣/
17.サブタイトルにも/
18.金将弓術と角/
19.暗黒狼が黒/
20.フランス語ではフ/
答えは後書きにて。
アルファとグロリアがファーステスト邸に転移してきた日の翌朝。
リビングには、シルビア、エコ、ユカリ、ラズベリーベル、アカネコ、そしてアルファの姿があった。まるで女子寮のようだ。
「――ううむ。それは大変だったな、アルファ。だがスッキリと解決してよかった」
面倒見のいいシルビアは、新入りのアルファと食事中もずっと会話をしている。
「スッキリと言いますか、ビックリと言いますか……」
「すまない、セカンド殿は時折やり過ぎるからな」
「いえ、逆にそれがよかったのかもしれません」
人見知りをするアルファは、しかしシルビアの人当たりのよさのせいか、何も問題なく話せていた。
「しかし、皇子殿を然様に説教してしまってよいものでしょうか……?」
その隣で、姿勢よく魚の干物を食べていたアカネコが、首を傾げて言う。
「いいわけがない! が、セカンド殿のことだ、どうせなんとかなる」
シルビアは「心配するだけ損だ」と続けると、静かに味噌汁をすすった。
アカネコは「それもそうか」というように頷き、同じく味噌汁に手を伸ばす。
「ええと……皆さん、随分と信頼されているんですね」
アルファは目を丸くして感想を口にした。リビングを見渡せば、誰も彼も、エコでさえも、一つもセカンドを心配している様子などなかったからだ。
「達観しているのでは?」
給仕のついでに、ユカリがぽつりと呟いた。
アルファは「なるほど」と納得する。
「おなかすいた!」
エコが空になった茶碗を掲げて、元気よく口にした。
「そういう時はおかわりと言うんだぞ」
シルビアは茶碗を受け取って、笑いながら指摘する。
「おわかり!?」
「それだと教育熱心なマダムだな」
向かいで聞いていたラズベリーベルは、目を閉じてうんうんと頷き「ナイスツッコミ」と親指を立てた。
「……な、なんか、皆さん凄く自由ですね」
初日の朝食ということもあり、アルファは皆のあまりのマイペースっぷりに些かカルチャーショックを受けたようで、ぎこちない笑みを浮かべるよりない。
一日でこの濃いメンツに馴染めという方が無理な話だろう。皆それをわかってか、あえて普段とあまり変わらずに振舞っていた。
要は、時間をかけて慣れろということだ。
「自由な環境で自由に楽しんどるからこそ、タイトル獲れたみたいなとこもあるわなあ」
食後の紅茶を飲んで寛いでいたラズベリーベルが、ニコニコしながら答える。
「えっ、タイトルですか?」
「なんや知らへんのか自分?」
「私、ずっと軟禁されていたので……」
ラズベリーベルはポンと手を叩いて納得すると、シルビアから順に紹介し始めた。
「シルビアはんは鬼穿将や。エコはんは金剛。アカネコはんは毘沙門戦の挑戦者で、ユカリはんは皆の鍛冶師で、うちは一閃座戦の挑戦者や」
「!?」
アルファは愕然として皆を見回す。
タイトルホルダー二人に、挑戦者二人に、その鍛冶師。誰一人として凄くない人がいない。
ラズベリーベルとしては、だからこそ皆これほどリラックスして自由に振舞っていると言いたかったようだ。だが、アルファは逆に、どうしてこれほど凄い人たちが自由に振舞う中に、自分のような大して凄くもないエルフが紛れ込んでいるのだろうと思ってしまった。
「ちなみにセンパイは有言実行や」
「……え!? まさか!」
「せや。ハ~チ~カ~ン~」
セカンドのことなのに何故かドヤ顔でピースするラズベリーベル。
対するアルファは、もう目を回すしかなかった。半年前までは、約一名を除き、皆ここまで“凄い人”ではなかったはずなのだ。
そして同時に、不安な気持ちになる。世界中で自分一人だけが、全く成長できていないような気がして――。
「心配せんでもええよ。うち、センパイからあんたはんのこと任されとんねん。せやから、あんたはんはなーんも不安に思わんと、うちに頼っとけばオールオッケーはなまる万々歳や」
「お、おーる……?」
「今日からさっそく始めるで。シルビアはんとエコはんとアカネコはんのプロリンダンジョン周回に付いてって、まずは見て勉強やな。ダンジョン回って経験値稼がんと、半年なんかあっちゅうまやから」
「え、ええと……」
アルファは困惑している。
何故、それほどに経験値を稼がなければならないのかがわからなかったのだ。
その理由を察したラズベリーベルは、優しくも真剣な顔でこう口にした。
「アルファはん。センパイの弟子なんやったら、もう魔術だけにこだわってられへんよ。陸は当然、海にも潜れて、空にも飛んでいけるようにならんと」
「……わ、わかりましたっ」
弟子と言われてハッとしたアルファは、暫しの沈黙の後、両手をグーにして胸の前で構え、緊張の表情で頷いた。
そんな彼女の様子を見て、ラズベリーベルは小さく微笑む。
こうして、彼女たちの一か月が始まった……。
「――早押しクイズやるで~っ!!」
それから一週間後の朝。皆の揃うリビングで、突如として大声が響き渡る。
ラズベリーベルは、かねてより考えていた計画を実行に移したのだ。
セカンドの皆を育成したいという思い、ラズベリーベルもまた同じように思っている……というわけではなく、帰ってきたセカンドを喜ばせたいから、あわよくば褒められたいからという、ただそれだけの理由であった。
若干不純な動機ではあるが、しかし、この“早押しクイズ”という方法は、つまるところラズベリーベルの考える最も効果的な育成方法ということ。
彼女は本気で、皆の成長のために早押しクイズを行うつもりでいるのだ。
「ま、待て。例の如く急展開が過ぎる。クイズだと?」
シルビアはラズベリーベルに手のひらを向けて、考えるポーズをとる。
「くいず? はや、くいずっ? はやくいず?」
「早押しに御座います、エコさん」
「はやくおすくいず!」
「ええ、然様です」
早押しがわからなかったエコは、アカネコに教えてもらってご満悦の表情だ。アカネコはそんなエコが可愛かったのか、笑顔で頷いた。
「では、よい機会ですので、住居をログハウスへと移動いたしましょう」
「せやな。あっこの小アリーナがお誂え向きやわ」
ユカリは事前にラズベリーベルと話し合っており、今回は不参加である。気が向いたら参加すると本人は言っていた。
彼女は非戦闘員。この早押しクイズは、ラズベリーベル曰く「PvPの訓練」なのだ。ゆえに、彼女には特に必要ない。
「ほら、アルファはんも引っ越しの準備せんと」
「は、はい」
朝食後だからか、ぼうっとしていたアルファを、ラズベリーベルが立たせる。
アルファはここのところ、こうして考えごとをする時間が多くなった。
理由は明白。彼女と、ファーステストのメンバーとの差が、あまりにも大きかったからだ。
ラズベリーベルは、気の済むまで考えればいいと、あえて何も言わずに放っている。
そう、放っておいてもよいほど、彼女は光るものを持っていたのだ。セカンドの言う通り、アルファのセンスはずば抜けていた。
きっと、早押しクイズで覚醒する。ラズベリーベルはそう信じて疑わない。
そして、彼女たちは、真夏の森の中へ向かった――。
「ええか、皆。早押しクイズっちゅうんは、言うてまえば、タイトル戦の試合みたいなもんや」
森の中にある小アリーナに集合し、皆の前で黒板に字を書きながら解説するラズベリーベル。
しかし、彼女の言っていることは、容易には理解できないものであった。
「ラズベリーベル。すまないが、私はどうもそうは思えなくてな。クイズと試合には、何か似ているところがあるのか?」
シルビアは挙手をして、そのように質問した。
皆も同じ意見のようで、頷いている。
「――問題」
「!」
ラズベリーベルは、普段の関西弁ではない、まるでアナウンサーのような聞き取りやすい発音で、ただ一言、そう口にした。
瞬間、シルビアたちは、ぴくりと反応し身構える。
「今、身構えたやろ? 攻撃が来ると思ったんや。そしてそれが、どんな攻撃か、これから見極めなあかん。それに対して、どんな対応をするか、考えなあかん。ほんなら最後に、自分の攻撃を出さなあかんわな」
「……なるほど。クイズを出され、その内容を理解し、答える。確かに試合に似ている」
シルビアが納得の表情をしていると、ラズベリーベルは「ちっちっち」と人差し指を左右に振って、口を開いた。
「それだけやないで。重要なんはな、誰よりも早く思い付いて、ボタン押して、答えなあかんことやねん。全てにおいてスピードが要求されんねん。それが早押しのおもろいとこや」
「早く、か。うむ、ますます試合に似ているな」
シルビア、アカネコ、アルファは、ラズベリーベルの説明で理解できたようで、興味深そうに頷いている。
しかし、エコだけは理解しきれなかったようで、ほにゃっと首を傾げていた。
「よし、ほんならエコエコ! 今からうちが、お試しクイズを出したるで~」
「わかった! はやおす!」
「エコはんにだけ出すからなんも押さんでええよ。わかったら手あげや?」
「うん!」
エコの場合は、言葉で説明するよりも実際にやってみた方が早いだろうと考えてのことだ。
他の三人にしても、百聞は一見に如かずである。皆集中して耳を傾けていた。
「――問題。盾術で四種の攻撃スキルといえば、龍王の範囲攻撃、龍馬の全範囲攻撃、飛車の突進攻撃と、銀将の何?」
「んー……あ! わかった! しってる! あたししってる!」
「よっしゃ。答えは?」
「ぱりい!」
「正解!」
「やっふー!!」
エコはぴょんぴょんと跳ねて喜び、満面の笑みを見せる。
シルビアとアカネコも、そんなエコの様子を見て微笑んでいた。
……しかし、アルファだけは、ちっとも笑っていなかった。
彼女は周囲が見えなくなるほど集中し、そして、とても重要なことに気付いてしまったのだ。
「…………」
ラズベリーベルは静かにニヤリと笑う。
やはり、彼女にはセンスがある。試合のセンスも、クイズのセンスも。
ならばと、ラズベリーベルは皆を次のステップへと進めるべく、口を開いた。
「アルファはん。何処で押すんが正解やと思う?」
「!」
唯一見抜いているであろうアルファに考えさせる。
アルファは、暫し考えてからこう答えた。
「四、ですか?」
「どうしてそう思うん?」
ラズベリーベルが聞くと、アルファは「多分……」と前置きして、語りだす。
「盾術で四つのものって、攻撃スキル以外にないのではないかなと思いました。それに、盾術って、他のスキルに比べて攻撃スキルが少ないじゃないですか。クイズにされるのなら、そういう特徴のある部分が選ばれるのかなって。あとは、龍王・龍馬・飛車・銀将の順番がどうなるかですけど、龍王と龍馬の範囲攻撃も飛車の突進攻撃もあまりパッとしないというか、聞かれそうもないので、では残りのパリィが答えになりそうだ、と推理できるんじゃないかな……と」
「 」
ラズベリーベル以外の三人は、絶句した。
いや、ラズベリーベルでさえ、絶句していたかもしれない。
アルファの言葉は、たった今クイズに初めて触れた人のものとは思えないほど、核心に触れていた。
そう。クイズとは推理。得た情報をもとに条件を絞り込み、答えを導き出すゲームだ。
先ほどの問題、確かに「盾術で四」まで聞けば、答えを導き出せるように作ってあった。
「……正解や。でもな、三つ、言わせてもろてええか?」
「は、はい」
「一つ。うちも人間や。反射神経ってもんがある。“四”でボタンを押されても“四種の”くらいまでは言ってまうねん。せやから、最速を目指すんなら“盾術で”でもう押してまうことや。したらうちは“四”言うたくらいで止まる」
「なるほど……!」
アルファは目をキラキラとさせて話を聞いている。
クイズにハマってきたなと、ラズベリーベルはニヤニヤしながら言葉を続けた。
「二つ。傾向を見抜くことが大切や。たとえば“盾術で”でボタン押して“盾術でよ”で止まったとするやろ? このあと、まあ大抵の場合は“四種の~”と続くわけやけど、意地悪な出題者やったら“よく用いられる~”なんて続くかもしれへん。今、どんな場で、どんな問題が出てて、どんな出題者か、周りを見渡してよく考えることや」
「理解しました。つまり、今のはエコさんに向けたお試しクイズなので、素直でわかりやすい問題が来ると予想できたわけですね」
「せやな」
センスがあるなら、飲み込みも早い。
ラズベリーベルの予想通り、アルファは覚醒していた。
「三つ。自分の言うとった推理、あれ全部、問題が始まってからボタン押して答えるまでの数秒間で考えなあかん。いや、考えるっちゅうより、閃くっちゅう方が合っとるか。ボタン押すまでは、考えとる暇なんかあらへんもんな」
「押すまでは閃きの勝負、押してからは思考の勝負というわけですか」
「せやな」
クイズは周りとの勝負でもあり、出題者との勝負でもあり、自分との勝負でもある。
そこがまた試合に似ていると、ラズベリーベルはそう考えていた。
「ほんなら、その思考時間を短縮したいわな。どないすればええと思う?」
「……む」
「……ぬ」
ラズベリーベルが質問すると、シルビアとアカネコがほぼ同時に挙手をした。
「アカネコはんのが早かったわ」
「かたじけない。思考短縮するとなると、もしや定跡を身に付けるのでしょうか?」
「正解や。シルビアはんも同じやんな?」
「うむ。私もセカンド殿から教わったぞ。定跡とは考えずに済む方法。あらかじめ考えておけば、その場その場で考える時間を短縮できると」
「然様。思考を済ませておく、これに勝る速さはないと、師はそう仰っていた」
ここでまた、試合に通じてくる。
メヴィウス・オンラインでも流行ったように、早押しクイズとは確かにPvPに通じるものがあり、非常に効果的な思考の訓練として多くのプレイヤーに認められているのだ。だからこそ、ラズベリーベルはこうして大真面目に教えようとしていた。
「せや。クイズの場合、定跡は、考え方や知識っちゅうわけやな。加えて、ほんの0コンマ何秒の瞬間を判断できるように、体が勝手に動くように、訓練しとかんとあかんわけや。ほら、ええ訓練になりそうやろ?」
全員、頷く。
皆、これほどまでに早押しクイズと試合が似ているとは思っていなかったようだ。
そして、皆、こうも思っている。
早押しクイズ、面白そうだ――と。
「ところで、ラズベリーベル。早押しボタンと言っていたが、そんなアイテムがあるのか?」
早くやりたくてうずうずしているといった感じのシルビアが、ラズベリーベルに尋ねた。
ラズベリーベルは、ふふんと胸を張ってこう返す。
「うちの自作や。対局冠を使ってな、ダミースライムを細く伸ばして小箱に詰めて、そこに押しボタン付けて、ボタンの下には針を付けてな、一番最初にダミースライムにダメージ入れた人のボタンが光るように設定して、ついでにピポーンてな音が鳴るように設定して、ってな具合や」
「す、凄いな」
対局冠のいいところは、まるでプログラミングのようにして設定をいじれるところである。対局は、決闘とは違い全てが仮想。だからこそ実現できることも多い。主に、別の用途で。
「ほんならこれ使うて、いっちょ本番やっとこか」
ラズベリーベルは対局冠を配って、さっそく皆で早押しクイズをやることにした。
ちなみに、彼女が用意している問題は全て戦闘関連のものだ。クイズの内容そのものでも、皆の勉強となるようにと考えてのことである。
「こ、これを押せばいいのですか?」
「せや。押してみ」
全員が対局冠を使って対局を開始すると、皆の手元にボタンが出現した。
アルファがボタンを指差して聞くと、ラズベリーベルは頷いて返す。
「おーっ! なった! いいおと!」
アルファがボタンを押すと「ピポーン」と音が鳴り、アルファの手元のボタンが光る。
エコはぴかぴか光るボタンの近くまで寄って見にいくと、再び「おお~っ」と感心の声をあげ、元の位置へ戻っていった。
「じゃーいくでー」
ラズベリーベルの音頭で、皆はボタンに手を添える。
「――問題。飛車盾術の突進で相手のダウンを取った隙に、龍王の準備を完了させることをなんと」
ピポーン!
「はい、シルビアはん」
「“成り込み”……か?」
「正解!」
「おお、やったぞ! ふふふ、案外嬉しいものだな!」
喜ぶシルビアと、ぽかんとする他の三人。
三人の顔は、見て明らかである。言葉にすると「知らね~っ」だ。
「な? 知識、大事やろ?」
皆、頷くよりない。
「ちなみに、押すとすれば何処やろか? アルファはん」
「ええと……“相手のダ”ですか?」
「ん、正解や」
気を取り直して、次の問題。
「――問題。銀将盾術でパリィを行う場合、その猶予時間は何秒?」
…………ピポーン!
「エコはん」
「……れーてんれーにーなな?」
「正解!」
「うきゃきょーっ!!」
少し悩みながらの回答だったが、正解とわかるとエコは飛び上がって喜びの舞を踊った。当てられてよほど嬉しかったようだ。
「盾術の問題が三問連続に御座いますれば、次に来たるも……」
まだ答えられていないアカネコは、真面目な表情でぶつぶつと分析を呟く。
「――問題。抜刀より二の太刀の方が僅かにスキルの発動が早いことを利用し、あらかじめ抜刀を済ませておく技術をなんという?」
…………。
「へっ? ……あ、あ!」
ピポーン!
「はい、アカネコはん」
「“ニッパステ”に御座いましょう!」
「正解!」
まさか抜刀術の問題が来ると思っていなかったアカネコは、あたふたしながら答えた。
すると、シルビアとエコが「いやいやいや!」と抗議に立ち上がる。
「おいちょっと待て! ラズベリーベル! そんなの私たちが知るわけないではないか!」
「あたししらないもーん!」
ラズベリーベルは意地悪な顔でこう返す。
「知識不足やな~、しゃあないな~。ちなみにニッパステはな~、帯刀時128%の、つまりイチニッパのダメージボーナスを捨てるっちゅう意味が縮まってそう呼ばれるようになったんやな~。勉強になったな~?」
熱くなる二人と、喜ぶアカネコと、真剣なアルファ。
この分なら皆クイズを楽しんでくれそうだと、ラズベリーベルは上機嫌に微笑んだ。
「――問題」
こうして、彼女たちの早押しクイズ道が幕を開ける――。
そして、約三週間後。
今日も彼女たちは、小アリーナで早押しクイズ大会をしていた。
「――問題。上手側が龍王・龍馬・飛車・角行を」
ピポーン!
「アルファはん」
「二枚落ち!」
「正解!」
現在は、アルファがトップで7点、次いでシルビアが4点、エコが2点、アカネコが1点という局面だ。
「――問題。十回連続で行うと五びょ」
ピポーン!
「くっ……!」
押された瞬間、シルビアが声を漏らす。
「はい、アルファはん」
「速射?」
「正解!」
直後、「くっそーわかったんだがなー」と、シルビアが悔しがる。
「――問題。セカンド・ファーステストが糸操術で好んで用いる釣」
ピポーン!
「アルファはん」
「フロロカーボン、えーと……16lb?」
「正解!」
「おおっ」
正解した瞬間、シルビアが感心の声をあげた。
「何故わかったのだ?」
「あ、はい。用いる~の後に答えとなるものの種類を判別できる単語が来ると予想できたので、早めに押しました。結果“用いるつ”まで聞こえたので、釣り糸のことかなあ、と」
「なるほど! やはり凄いな、アルファ。早押しクイズはアルファが一番かもしれないな」
「い、いえ、そんな」
シルビアに褒められたアルファは謙遜したが、実際、ここのところアルファの一人勝ちが続いている。
ラズベリーベルの睨んだ通り、いや、それ以上に、アルファは覚醒したのだ。
ただ、上には上がいる。その上の存在を知っているラズベリーベルは、彼女たちのやりとりを微笑ましく思いながら、次の問題へと移った。
「――問題。槍術や抜刀術でよく起こる、不用意な桂馬の」
ピポーン!
「はい、アカネコはん」
「桂の高飛び歩の餌食」
「正解!」
「――問題。出現する魔物の扱う魔術から吹っ飛」
ピポーン!
「アルファはん」
「アシアスパルン」
「正解!」
「――問題。桂馬糸操術の糸がスキル使用者以外に」
ピポーン!
「アルファはん」
「気絶?」
「正解!」
やはり、今日もアルファの一人勝ち。
……かに、思われたが。
「――ぃよっしゃ! 間に合ったか! 俺も入れてくれ俺も!!」
「センパイ!」
セカンドのご帰還である。
「セカンド殿!」
「せかんど! おかえり!」
「お久しゅう御座います」
「あ、あの、師匠、その」
皆が一か月ぶりの再会に挨拶をしようとすると、セカンドは何故か右手をかざして遮った。
「ちょっと待て! まずクイズだ。久々のクイズを楽しみたい。話はそれからにしよう」
相変わらず無茶苦茶である。
しかし彼は、対局冠を使って既にボタンを握っており、早くも集中状態にあった。
メチャメチャやる気のセカンドを皆は仕方なく受け入れ、クイズへと戻る。
ラズベリーベルは、ニヤリと笑って、それから読み上げを始めた。
「――問題。体術でゆ」
ピポーン!
「!?」
……押したのは、セカンド。
「はい、センパイ!」
「龍王体術」
「正解!」
「ちょ、待て待て待て! 何故わかったのだ!? セカンド殿!」
「は、早過ぎです、師匠! 何処で押したんですか!?」
直後、シルビアとアルファが思わず声をあげる。
「ああ、ラズが“ゆ”の口の形してたから。ゆ~、とくれば、唯一だろう。体術の唯一は、遠距離攻撃スキル。つまり龍王体術が答えだと思った」
「 」
口の形。そんなところまで見ているのかという驚きと、口の形の僅かな変化を捉えてボタンを押せるその反応の速さに、皆は絶句する。
そしてあの一瞬で、“ゆ”から唯一、唯一から遠距離攻撃と、相当に難しい推理を済ませる思考の速さにもまた、絶句するしかない。
「――問題。火はつ」
ピポーン!
「はい、センパイ」
「!?!?」
これで決定的となった。
皆には「ひわつ」としか聞こえていない。「ひわつ」とはなんなのか。この一瞬ではわかるわけがない。そう……差は、明らか。
セカンドは三秒ほど考えて、確信したように口を開いた。
「四すくみ」
「正解!」
「 」
もはやわけがわからない。
「な、な、ななな、なっ……!?」
「せかんど、まじおかしくない!?」
シルビアは久々にななな星人と化し、エコは何故かギャルみたいな口調と化した。
「火は土に、土は風に、風は水に~みたいに、羅列が続く感じのイントネーションだった。あとラズは意味のある単語を答えにする傾向があるからな」
「し、師よ、お待ちを。それでは……火は土に有利だが、逆に不利な属性は何? のような問題も有り得たのでは御座いませぬか?」
「答えは水、か? 今言ったように、ラズは意味のある単語を答えにする傾向がある。水はないだろぉ……という、なんだ、勘?」
「か、勘……」
アカネコはがっくりと項垂れる。勘と言われてしまっては、真似できない。勤勉な彼女らしい理由だ。
だが、勘とは言っても、セカンドの中にはしっかりと根拠があった。ただ、それは言語化して説明するのが難しい、経験からくる感覚的な刹那の思考、すなわち紫電が瞬くような閃きである。
まさしく抜刀術における一瞬の煌き、脳の奥底から足の先まで沸き立つようなあの興奮が、早押しクイズにおいても起こっていたのだが……アカネコがその共通点に気付くのはもう少し先になるだろう。ただ、それに気付けたところでセカンドの速さには到底勝てそうになかった。
上には上がいる。四人は思い知ったのか、ポッキリと心が折れたようで、死屍累々といった風であった。特にアルファは、謙遜しつつもクイズ王として暫く君臨していたこともあり、三人よりダメージが大きかったのか、白目を剥いてほぼ逝きかけていた。
「あ、今のが最終問題やったわ」
「そうか。ありがとうラズ、おかげで久々にクイズを楽しめた」
「うちもセンパイが楽しそうでめっちゃ嬉しかったわ。おおきにな!」
そう、セカンドは、ことメヴィオンに関するクイズに限り、誰にも負けない自信があった。
この結末を予想していたからこそ、ラズベリーベルは今日、早押しクイズ大会を開いたのだ。
皆がどれほど成長したかをセカンドに見てもらい、セカンドの凄いところを皆に見てもらい、機嫌が良くなったところで、セカンドに褒めてもらう。
そんなラズベリーベルの計画は、果たして上手くいったのだろうか?
答えは彼女のみぞ知る……。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回から『第十二章 精霊界編』です。
☆★☆ 書籍版5巻、7/10発売! ☆★☆
☆★☆ コミックス2巻、7/22発売! ☆★☆
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【感想】【レビュー】【ツイート】
【書籍版】【コミックス】【布教】
よければ今日もお好きなのを一つお願いします!
<クイズ>
1.飛車盾術の突進で相手のダウンを取った隙に、龍王の準備を完了させることをなんという?
2.盾術で四種の攻撃スキルといえば、龍王の範囲攻撃、龍馬の全範囲攻撃、飛車の突進攻撃と、銀将の何?
3.銀将盾術でパリィを行う場合、その猶予時間は何秒?
4.上手側が龍王・龍馬・飛車・角行を封じて戦う手合いの形式をなんという?
5.十回連続で行うと五秒間のクールタイムを必要とする歩兵弓術の攻撃方法をなんという?
6.出現する魔物の扱う魔術から吹っ飛ばしダンジョンとも呼ばれる丙等級ダンジョンの名前は何?
7.セカンド・ファーステストが糸操術で好んで用いる釣り糸は?
8.桂馬糸操術の糸がスキル使用者以外によって切られた時、操られていた者はなんという状態になる?
9.桂馬剣術と複合可能な同じ剣術のスキルは全部で何種?
10.片刃の剣ファルシオンは二つの改造様式がある。黒はノックバック特化型、では白は?
11.魔術で最も準備時間が短いのは壱ノ型ですが、二番目に準備時間が短いのは何?
12.体術で唯一の遠距離攻撃スキルは何?
13.火は土に、土は風に、風は水に、水は火に勝つような関係のことをなんという?
14.アンデッド系の魔物に対して固定ダメージを与えるポーションを用いた経験値稼ぎの方法をなんという?
15.俗にカメレオンとも呼ばれる変化を得意とする魔物の名前は何?
16.フィリップが商会長を務める、衣食住に奴隷など幅広い商品を扱っている商会の名前は何?
17.サブタイトルにもよく使われている、上から読んでも下から読んでも同じ音になる文をなんという?
18.金将弓術と角行弓術を繰り返すことからその名が付いた、火炎狼などに用いられる有名なハメ技は?
19.暗黒狼が黒炎之槍を暗黒召喚した時点から次にダウンするまでの状態を俗になんという?
20.フランス語ではフランボワーズ、英語ではラズベリー、なら日本語では何?
<答え>
1の答え 「成り込み」
2の答え 「(反撃)パリィ」
3の答え 「0.027秒」
4の答え 「二枚落ち」
5の答え 「速射」
6の答え 「アシアスパルン」
7の答え 「フロロカーボン16lb」
8の答え 「気絶」
9の答え 「四種」
10の答え 「クリティカル特化型」
11の答え 「参ノ型」
12の答え 「龍王体術」
13の答え 「四すくみ」
14の答え 「ダイクエ戦法」
15の答え 「レイス」
16の答え 「モーリス商会」
17の答え 「回文」
18の答え 「金角ハメ太郎」
19の答え 「最強モード」
20の答え 「木苺」




