253 酔うよ
* * *
キャスタル王城、謁見の間にて睨み合う二人。
一方はマイン・キャスタル。ここキャスタル王国の年若き王である。
もう一方はライト・マルベル。マルベル帝国の新皇帝である。
……あまりにも、突然の訪問。
ライトはアポも何もなく、三日かけて密かに王国へとやってきた。即位した翌日にはもう出発していたのである。
供は親衛隊のみ。キャスタル王国への通告は当日の朝。完全に非公式、いや、非公式にもほどがあると言うべき電撃訪問であった。
「まず、新皇帝即位につきまして、謹んでお慶び申し上げます」
しかしながら、流石は国王と言うべきか、マインはさらりと口上を述べる。
「この度は遠路遥々ご挨拶にお越しいただき、誠に恐れ多く存じます。突然のご来訪に些か肝が潰れる思いでは御座いますが、早急に歓待の準備を進めておりますので今暫くご辛抱ください」
つらつらとそれらしい言葉を並べつつも、少しチクリと刺すマイン。そのつもりはなかったが、つい本心が言葉に出てしまったのだ。
そう、至って冷静なように見えて、その内心は、実を言えばパニックもよいところであった。
皇帝が、すなわち国家元首が、直々に訪問してくる。これは、最強の外交と言っていい。
マインが皇帝の非公式来訪という驚愕の報告を受けたのは今朝のこと。王国首脳陣は慌てに慌て、てんやわんやの準備の最中に「もう王城前に到着している」と判明した時は、然しものマインも深いため息とともに頭を抱えざるを得なかった。
そして、最終手段に打って出たのだ。
深刻な表情で、マインはその時、こう言った。
――「セカンドさん呼んできて」、と。
最終手段とは、最終兵器の召喚であった。
一か月前、セカンドを乗せたファーステストの馬車がキャスタル王国を出ていったことは、マインも報告を受けている。それから二十六日間、恐らくセカンドはジパング大使館を留守にしていた。そして五日前のセカンドの国内出現報告とほぼ同時に、マルベル帝国の皇帝が代変わりしたとなれば……何かしらの関与を疑わざるを得ない。
否、それだけでは証拠が薄いと、そう考えていた。呼び出して話を聞くほどのことではないと、つい先ほどまではそう考えていたのだ。ただ、今回の皇帝の電撃訪問で、事情は一変した。
この場において、マインは確信に至る。マルベル皇帝が非公式の訪問を決行したのは、セカンドが帝国で何かをやらかしたからであると――。
「まず、祝辞をありがたく頂戴する。そして突然の訪問、失礼した。しかし喫緊の用があり、こうして非公式ながら訪問させていただいた。キャスタル国王自らの歓迎、誠に痛み入る」
マインと向かい合うライトは、言葉遣いに気を付けながら、皇帝らしく口にする。その言葉には一切の淀みがない。
何故なら、ここまでの展開は、概ねライトの狙い通りと言えたのだ。
ライトは、マインがセカンドの関与を疑い慌てて呼び出すことはわかっていた。ゆえに、ギリギリまで告知をしなかった。マインを焦らせるためである。
そうして、私的にセカンドと会うのではなく、外交の場にセカンドを引っ張り出すことが、マルベル帝国の狙いであった。
この大胆かつ狡猾で嫌らしい外交のやり方が、一体何処の皮肉屋の入れ知恵かなど、言葉にするまでもないだろう。
「――ッ」
「!?」
刹那、玉座の後ろに暗黒の影が舞い降りた。
あんこである。
即座にマインと玉座を遮るように立ったクラウスは、あんこの姿を確認すると、腰の剣に添えた手をそっと下げた。誰が来るかを察したのだ。
一方、ライトの護衛として同行している親衛隊長オリンピアは、あんこの姿を目にした途端、逃れようのない絶望に襲われた。
それは、あんこを初めて直視した者の多くが陥る、原始的、生物的、本能的な、純粋な“恐怖”の状態と言えた。
生物としての格が違うと直感するのだ。敵うわけがないと確信し、心身ともに己の意思とは無関係に屈服するのである。
「――セカンド!」
「――セカンドさんっ」
そして、その直後に姿を現したのは、セカンド・ファーステスト。
あんこに抱かれるようにして、一瞬で召喚される。
「……ん?」
「……え?」
思わずセカンドの名前を呼んだライトとマインは、一拍置いて顔を見合わせた。
何故、それほど親しげに呼んでいるのか。互いにそこが気になったのだ。
「ああ、オリンピア、動けなかったか? 気に病むな、仕方ない。でも一回見ちまえばもう慣れただろ? 大丈夫だ、次からは動ける」
セカンドは飄々とした態度であんこを《送還》しながら、目を見開いて固まるオリンピアにそう声をかけた。
オリンピアの親衛隊長としての初仕事と言ってもいい、この非公式訪問における最大の危機とも思えた瞬間に、一歩たりとも動けなかったことは、彼にとって最大級の恥。そんなオリンピアの気高い性格を知るセカンドの優しい気遣いである。
「…………ッ!」
オリンピアは無言で頭を下げた。
キャスタル国王の前で、セカンドを「騎士長」などと呼ぶわけにはいかない。ましてやライトを差し置き勝手に感謝を述べるなど論外。ゆえに、言葉ではなく態度のみで示した。
「フッ」
そんなオリンピアの様子を見て、クラウスは静かに片方の口角を上げる。
活路を見出したのだ。今回の来訪において、マインはライトに押されつつあるが……護衛を比べた時、分はこちら側にありそうだと気付いたのである。
クラウスは、マインを守りつつオリンピアを攻めることで、形勢逆転を狙えるのではないかと考えた。
マルベル帝国にこれほど無作法な振る舞いをされて、黙っていられるキャスタル王国ではないのだ。
そうでなくとも……弟が押されっぱなしで黙っていられるような兄ではないのである。
「……で、何この状況? なんでライトがいんの? なんで俺呼ばれたの?」
一方、何もわからないながらとりあえずオリンピアを気遣っておいただけのセカンドは、マインとライトを交互に見ながら首を傾げてそう口にした。
この場にセカンドが呼ばれた理由。マインはピンチヒッターとして呼んだつもりだが、それはライトによってそうさせられただけである。
では、ライトは何故この場にセカンドを呼び寄せたかったのか。
その理由は、マルベル帝国とキャスタル王国の今後に、密接に関係していた。
「オホン……よく来た、セカンド。今日はお前とキャスタル国王に対し、話があって訪問した」
ライトは咳払いを一つ、気を取り直してという風に、やたらと仰々しく喋る。
皇帝となって四日目の限界がこれであった。
セカンドが現れるまでは、別段恥ずかしがらずに皇帝として話せていたが、素のライトをよく知るセカンドが現れてからは、なんだか途端に恥ずかしくなってしまったのだ。
「ンフッ」
「あ、笑うなっ! おい!」
そのあまりのぎこちなさに、セカンドは喉奥で笑った。
ライトはつい、場に相応しくない声をあげてしまう。
「皇帝って感じだなぁライト」
「馬鹿にしてるだろ!」
「してないしてない」
「もうっ! 誰のせいでこうなったと思ってる!」
「シガローネ?」
「お前だああああ~っ!!」
ライトは顔を真っ赤にしてぷりっぷり怒りながらセカンドを怒鳴る。
もはや威厳もへったくれもあったものではない。
そんなマルベル新皇帝の様子を、マインとクラウスは目を点にして見ていた。
「へ、陛下……陛下っ」
「いいかセカンド! 大体お前はいつもいつも――え? あっ……」
見かねたオリンピアがライトに声をかけると、ライトはハッと我に返った。
「……オホッ、オホン! ンン゛ッ! さて、話を戻す。帝国と王国のこれからについての話だ」
咳払いを三度、ライトはセカンドを無視することにして、きりっとした表情でマインに向き直る。
彼としては、これだけは真剣に話しておかなければならないと考えていたのだ。ゆえに、セカンドとの会話はひとまず後回しにした。
「わかりました。では、奥の応接室にて」
マインは頷いて、皆を応接室へと案内する。
「…………」
クラウスは眉間に指先を当てて一秒ほど苦笑し、颯爽とマインの後に続いた。
笑わずにはいられなかった。
セカンドが登場する前後で、場の空気が明らかに変わり過ぎているのだ。
形勢逆転がどうのと画策していたことが、愚かしく思えてしまうほどに。
「はぁ~っ……」
ライトは大きなため息とともに、ジト目でセカンドを睨みながら、応接室へと向かった。
その少し後ろに、背筋を伸ばしたオリンピアが付き添う。
オリンピアは一度、セカンドにビシリと綺麗な礼をしてから、以後ライトの護衛に集中した。
親衛隊長とは、言わばセブン近衛騎士長の後任。セカンドの前では、しっかりと職務を果たしているところを見せたいのだ。
「これから話し合いか。俺も参加するのか。そうか。なら、軽くメシでも食いながら……あ、いや、無理ならいいんだ、無理なら。ごめん。ごめんて。そんなに睨むなよ。ごめんって。だって朝メシまだなんだよ俺」
四人に同行するセカンドが、そんな外れたことを言って、マインとライトに睨まれる。
一体何処まで常識外れなのか。普通ならば許されないようなとんでもない無礼だが、この場にはむしろその肩の力の抜けた態度を好ましく思う者しかいない。
セカンドは、それをわざとやっているのか、どうなのか。しかしその冗談ともとれる発言で、マインも、ライトも、クラウスも、オリンピアも、全員がそれまでのピリピリとした嫌な空気を忘れ、平常心を取り戻したことは事実であった。
「――では、単刀直入に、今回の非公式訪問におけるマルベル帝国の目的を明かす」
応接室に着き、それぞれが着席すると、まずライトが沈黙を破る。
彼の言葉通り、それは彼らの持参した本題そのものであった。
「マルベル帝国は、過去二年間におけるキャスタル王国への侵略行為および諜報工作に対して、その非人道的行いを認め謝罪し、賠償を支払うことをここに明言する」
「!?」
侵略行為および諜報工作。これが何を指すかなど、考えるまでもない。
帝国の狗、バル・モロー宰相の件についてである。
「クラウス。以後、ボクの許可なく発言することを禁じます」
マインは即座にクラウスの口を封じた。
クラウスのバル・モローに対する怨恨はあまりにも大きい。クラウスが感情的になるあまり暴言を吐かぬよう、そして冷静に話を聞けるよう、マインはあえてそうしたのだ。
その気遣いを、クラウスもよく知っている。そのため、クラウスは奴隷としてその命令に従うことになんの異議もなかった。
「なるほど、俺に聞かせたかったのはそういうことか」
一方セカンドは、帝国の謝罪と賠償を聞いて、納得の表情を見せる。
そう、キャスタル王国内のバル・モローにおける一件を解決したのは、他でもないこの男。ゆえに謝罪を受け入れるも拒否するも、セカンド次第だと言える。
だからこそ、必ず政治的に同席させる必要があった。私的に会って謝るだけでは駄目だったのである。
「賠償とは、具体的には何を考えていますか?」
マインがそう尋ねると、間髪を入れずにライトは答えた。
「賠償金800億CLと、不可侵条約の締結。これを考えている」
少ない。マインはそう思いながらも、表情を動かさずに次の質問を投げかける。
「何故二年間に限定するのです?」
「父上が洗脳されていた期間が二年間だ。父上が洗脳のためにその判断を誤り、キャスタル王国へと多大な迷惑をかけたことに対し、謝罪を行いたいと考えている」
「マルベル帝国による侵略行為および諜報工作は二年よりも前からあったのでは?」
「現在の皇帝として責任の及び得る範囲においての謝罪をしたい。以前のことについては、現時点では両国間にて協議を重ねたいと考えている」
「わかりました」
質問が終わると、マインは長考に入った。
そんな様子を見て、セカンドは思わず感心する。
バル・モローによる悪行がどれほどのものだったのかは、記憶にまだ新しい。マインの父である前国王バウェル・キャスタルは殺され、クラウスは担ぎ上げられ利用され、王国内は滅茶苦茶にされた。
ライトは、わかっていない。バル・モローの非道な行いを事実として知っていても、その目で見ていない。ゆえに、理解できていなかった。二年間の謝罪という言葉の軽さを。
マインは感情的になっても仕方ないほどのことを言われていた。とりあえず800億CLと不可侵条約で水に流せと言われているのだ。それで怒らないわけがない。
だが、マインは決して怒らない。言葉はおろか、表情にすら出さない。
何故なら、彼は国王だからだ。
国を背負うということがどういうことか、マインはよくわかっていた。
「この場で、今すぐに、答えを出しましょう。キャスタル王国は、マルベル帝国からの謝罪を受け入れず、賠償金を受け取らず、不可侵条約を結びません」
「!!」
断固拒否。
返答を聞いたライトは、ぴくりと形の整った眉を跳ねさせる。
いつの間にやら、彼ら四人の平常心は、脆くも崩れ去っていた。
「ライト新マルベル皇帝のご理解が及びました頃、再び訪問していただければと思います。その時は、是非とも公式訪問を。国賓として歓迎いたします」
マインの言葉は、まさに取り付く島もないといった様子で、ライトはどう返すべきか言葉に困った。
予想外だったのだ。セカンドを引っ張り出す方法としてシガローネの指示があったとはいえ、この謝罪を考えたのはライト本人である。
これからは、マルベル帝国とキャスタル王国は和解して、仲良くやっていけるようにしなければ。そんな単純な思いで考えた謝罪であった。
まさか、拒否されるなんて思っていなかったのだ。
「そ、そうだ、セカンドは?」
ライトは取り乱し、素の口調でセカンドへと話を振った。
セカンドは、数秒の沈黙の後、口を開く。
「ライト。お前、勉強不足だったな」
「は……?」
勉強不足。当然である。彼は、皇帝になってまだ五日と経っていない。
「シガローネ、ニヤニヤしてなかったか?」
「あ……してた」
セカンドの読みは当たった。
ふと、セカンドは思い出したのだ。砂漠の遺跡地帯でセブンとしてノヴァと会った時のことを。
マルベル帝国のセブンのままでは得られなかった信用が、セカンド・ファーステストだと判明した瞬間に得られた。つまりは、そういった信を置ける重職が国に一人でもいれば、良い外交ができるようになるだろうという、セカンドの発想だ。
まさに、今の状況。マインとライトの関係は、互いに信用がない。だが、マインとセカンド、ライトとセカンドの間には、信用がある。
すなわち……セカンドを通じて、キャスタル王国とマルベル帝国が良好な関係を築くのだ。
ノヴァの時と同様、橋渡し役となればよいのである。
シガローネがセカンドを同席させるよう仕組んだのは、それが理由だったのかもしれない。
「金額とかの問題じゃない。しばらくは態度で示し続けろ。そしたらきっとマインも歩み寄ってくれる」
「……まあ、お前が言うなら、信じる」
歯に衣着せぬ物言いで、ライトと話すセカンド。
次いで、マインとも向かい合う。
「マイン。ライトは喧嘩を売りたいわけじゃなくて、仲良くしたいらしい。ただ皇帝五日目で上手くいってないだけだ。わかってやってくれ」
「……うん。セカンドさんが言うなら、信じます」
マインは呆気ないほどにすんなりとセカンドの言葉を信じた。
二人の信頼関係は伊達ではない。
何者にも利用されない強さがあり、常に自分を持っていて、いかなる時も自然体の男。マインとライトの二人にとっては、たとえ世界中の全てが敵に回ったとしても、彼を信じると即答できるような、そんな男だった。
「さ、流石、騎士長です……! このオリンピア、心より感服いたしましたッ!」
いつの間にやら、四人には再び平常心が訪れる。
感激のあまり声に出してしまったオリンピアを責める者は誰もいない。
「クラウス、もういいですよ」
それに合わせて、マインはクラウスの禁止を解いた。
クラウスは瞑目し、ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着けてから、口を開く。
「少し早いですが、昼餐会といたしましょう」
あらゆる言葉を飲み込んで、出した言葉がそれであった。
セカンドは、クラウスを見てニッと笑う。
クラウスは、それが単純に食事にありつけるという喜びで笑っているように思えて、なんだかおかしくなり、つられるように笑った。
* * *
「オレは直々に剣を教えてもらう約束をしている」
「私は騎士長に弓術スキルを教えていただいた」
「正式に弟子となる約束もした」
「わ、私も、タイトル戦に誘っていただいた」
「ほう。オレも次のタイトル戦は出る」
「わ、私は……」
早めの昼メシが始まって、そろそろ一時間。
昼から酒とはなんとも贅沢な気分だ。それも王都の高級料亭の座敷で、川のせせらぎを聞きながら、天ぷら蕎麦を食べる。こりゃ最高だ。
ただ、酒が入り過ぎたせいか、クラウスとオリンピアは謎のマウント合戦を始めている。
何故か俺との親密度がマウントの基準になっているようだが、酔っ払いの考えていることはわからんな。
「フッ、わかるぞ。護衛は忙しい。オレも前はそうであった。だが次は違う」
「……くッ」
「羨ましければタイトル戦に出場することだ。しかし生半可な気持ちではならん。セカンド八冠の技術は、護衛のためのものではないのだから」
クラウスはそう言ってオリンピアを挑発するように微笑むと、俺をちらりと見て誰にも気付かれない程度の小さな目配せをした。
ん、助かる。ライトの護衛で忙しいとはいえ、俺としてはオリンピアにも出場してほしいのだ。クラウスは酔っぱらいつつも俺の意思をしっかりと酌んでくれている。
ただ、慢心はしないでほしいところだ。マウント合戦ではクラウスの勝利だが、単純な実力ではオリンピアの方が勝っているのだから。
「……ん……」
と、そこでライトが小さく声を漏らした。
三十分以上前から、ライトは「すぴー、すぴー」と鼻息を鳴らしながら俺の膝を枕にして寝ている。
こいつ物凄く酒に弱かったようで、一口飲んだ時からやたらとけらけら笑うようになり、暫くして目が据わってボディタッチが激しくなり、それから数分もすれば「食べさせて星人」と化した。そんな甘えん坊に付き合っていると、急に目がトローンとしだしたかと思ったら、こっくりこっくりと舟を漕ぎ始めて、ついには勝手に人の膝で寝やがったのだ。
「随分、信頼されてるんですね」
「まあ、色々あったからな、この一か月」
結果、俺はマインとずっと喋っていた。
こんなに長い時間二人で喋るのは、魔術学校の頃以来である。
「ボクの方が短いです」
「へ?」
「ボクの方が短い」
「何が? 髪?」
「いえ、ボクの方が彼より短い期間で、セカンドさんと仲良くなりました」
「ああ、なんだそういう意味か」
確かに。マインとは二週間だったな。
……で、それがなんなのだろうか?
「ボクの方が、濃密でした」
「え? ああ、かもな」
「でも、ずるいです。ボクも一か月くらい一緒だったら、もっと……」
「親密になれたってか? ないない」
「ちょ、なんでですか!」
「お前とは試合してるから。それ以上の濃厚接触はないだろ」
「……あ、はは」
なんてことはない話をしたつもりだったが、マインは頬をほんのり赤くして、ぽりぽりと耳の後ろを掻いた。
そんな反応をされては、俺の方も小っ恥ずかしくなってくる。
「えへへ、よ、酔ってきちゃったみたいです。このあと仕事もあるのに、こ、困ったナー……」
マインはふらふらと俺に近寄ってきて、ライトの反対側に陣取ると、いそいそとライトの頭を少しだけずらして俺の膝の上にスペースを空け、そこに自分の頭をそっと載っけた。
なんだ、素面のように見えて、マインも酔っていたようだ。
ライトと自分を比べて嫉妬するなんて、立派な国王になったと思っていたが、まだまだ子供なところもあるんだなあ。
ちらちらとクラウスがこっちを何か言いたげな目で見てから、無言で蕎麦のザルを指差す。
おかわり? いらないいらない。俺が首を横に振ると、クラウスはオリンピアとの会話へ戻っていった。
「やれやれ……」
俺は酒のグラスを空にして、座敷へ仰向けに倒れると、目を閉じた。
夏のカラッとした風が頬を撫ぜるにつれ、だんだんと眠気がやってくる。
二人の寝言だろうか。「セカンドさん~」「兄上~」と、小さな声が聞こえた。
次第にジンジンと痺れてきた足。これがキャスタル王国とマルベル帝国の重みだと思うと、なんだか面白かった。
お読みいただき、ありがとうございます。
帝国編、終幕。
次回は閑話です。
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