187 金剛戦 その1
【盾術】
《龍王盾術》 前方への非常に強力な範囲攻撃
《龍馬盾術》 強化防御+全範囲攻撃
《飛車盾術》 前方への強力な突進攻撃(VITをSTRに変換し純STRに加算)
《角行盾術》 大強化防御(16級:防御力250%~九段:600%)
《金将盾術》 範囲誘導防御+ノックバック(スキル発動中、一定範囲内での攻撃を盾に吸い寄せる)
《銀将盾術》 強化防御(パリィ猶予時間0.01秒短縮、パリィ成功で反撃効果発動)
《桂馬盾術》 防御+ノックバック
《香車盾術》 貫通反射防御
《歩兵盾術》 通常防御
パリィ成功条件:攻撃到達0.287~0.250秒前にスキル発動
どうしても負けられない者がいた。
ゴロワズ前金剛――【盾術】最高峰だった男。ドワーフ一の豪傑と名高い、ヒゲ面の勇ましい男である。
過去、長い間、【盾術】はドワーフのものとされてきた。
ドワーフはHP・STR・VITと【盾術】に適したステータスが伸びやすい種族的傾向がある。
だからか、金剛戦にはドワーフばかりが出場している状況にあったのだ。
しかし、それもこれも半年前までの話。
ロックンチェア新金剛――初の人間による金剛の獲得は、ドワーフ族に大きな衝撃をもたらした。
それだけではない。過去、ゴロワズと金剛を賭けて争ったこともあるドワーフの実力者ジダンは、よりによって獣人に敗北を喫したのだ。
人間に負けるだけならまだしも、獣人にさえ負けるとなれば……それは、屈辱。
ドワーフは追い詰められた。
これより行われる金剛戦には、種族の威信がかかっている。
もう二度と、負けは許されない。
だが……。
「よく見とけよ、一瞬で決まるぞ」
金剛戦挑戦者決定トーナメント準決勝第一試合、エコ・リーフレット対ジダン。
出場者用観客席にて、セカンドはハッキリとそう断言した。
何故そんなことがわかるのか。理由は単純である。事前の作戦会議で、エコが初戦で採用する予定の戦法を聞いていたのだ。
それが、ぶっ刺さるとすれば……そう、一瞬。
「――始め!」
直後、試合が始まる。
エコは、岩甲之盾を構えながら、駆け足で前進した。
ジダンはエコがなんのスキルも準備していないことを不思議に思いながらも、決して油断はしない。
この獣人の娘は並大抵の猛者ではないと、前回の試合で思い知ったのだ。
多くのドワーフたちがジダンのことを「獣人に負けた恥さらし」だと言って馬鹿にしようと、ジダンは己の考えを曲げなかった。エコ・リーフレットという獣人は、尊敬に値する実力者だと、負けて恥などない相手だと。
「行くぞチビっ子ぉ!」
ゆえに、油断しない。慢心しない。楽観しない。
持てる全力を尽くして、ジダンはエコへと《飛車盾術》による突進攻撃を繰り出した。
「にゃはっ!」
……エコにとってみては、だからなんだ、という話である。
エコはにんまり笑うと、後追いするように《飛車盾術》を準備し、突進を開始。5メートルほど移動した時点でスキルをキャンセル、瞬時に《歩兵盾術》を発動、すぐさまキャンセル、そしてバックステップと同時に《銀将盾術》の準備を始めた。
目まぐるしい駆け引き。しかしジダンは臆することなく《飛車盾術》の突撃を止めなかった。その全てが“フェイク”であると見抜いていたのだ。
前回の金剛戦にてエコが見せた、陽動振り飛車戦法・パックマン戦法・カニカニ銀戦法。それらを目に焼き付け、何度も何度も思い出しては研究した成果である。
「取ったッ!」
ジダンはここで自身の勝利を確信した。
エコの《銀将盾術》は、どう見てもギリギリ間に合っていないのだ。
残された飛車への対応は《歩兵盾術》でパリィ以外ない。だが、エコに歩兵を準備する様子は全くなかった。
一体どうするというのか。ジダンには思いつかない。
ゆえに、勝利を確信したのだが――
「!?」
――甘すぎた。
エコは銀将直前のバックステップの勢いのまま、ゆらりと後方へ倒れこむ。
……必然的に、ジダンの《飛車盾術》がエコへと衝突するまでの時間は、その分、伸びることになる。
ゆえに、エコの《銀将盾術》は、ギリギリ、間に合う。
巴投げ――メヴィオンではそう呼ばれていた、歴としたテクニック。
当然、ジダンは初見である。
「ぬおッ!」
その上、エコはパリィまで決めた。
銀将におけるパリィの発動猶予時間は0.027秒。その代わり、成功した場合は“反撃”効果が加わる。
ジダンはまさしく巴投げのようにしてエコの後ろ斜め上方へ吹き飛ばされ、大きな放物線を描き宙を舞った。
直後、エコは起き上がりつつバックステップでジダンの予想着地点へ接近、くるりと180°振り返り、《龍王盾術》の準備を開始する。
「~っっっ!」
ドサリと地面に叩きつけられたジダンは、声も出せずにダウンし、苦悶の表情を受かべる。
そして、彼がダウン状態から復帰する頃には、もう――
「――それまで! 勝者、エコ・リーフレット!」
* * *
「凄いな、セカンド殿の言った通り、本当に一瞬だった。あれはなんという名前の定跡なんだ?」
エコの試合を見届けた後、シルビアが興味津々に尋ねてきた。
こいつやたらと技名を気にするよなぁ。流石はあのアレックスさんの妹といったところか。
だが、残念ながら、だ。
「ありゃ定跡じゃない。強いて言うなら、巴投げという手筋か」
「手筋……ああ、矢を射る瞬間を見せないアレのようなものか?」
「それは基本」
「むう、ややこしいな」
「簡単に言えば、三手一組くらいの、短い定跡みたいなもんだ」
「なるほど」
ふむふむと頷いて納得していたシルビアが、ピタリと動きを止める。
「ん? 待て。つまりエコは、手筋一発でジダン殿を吹き飛ばしたと?」
「お前なんか基本だけでディーとエルンテに勝っていたじゃないか」
「それは、そうだが……それにしてもな」
急激に強くなりすぎている気がしてな――と、シルビアは小さく口にした。
……強くなっている? お前が? 冗談キツイぞ。
「どうして俺が三冠を獲得できたと思う?」
「冬季のスピーチの言葉か」
「そうだ」
「確か……私たちが、弱いから」
「そうだよ」
弱いからだ、お前らが。だから俺はなんの苦もなく三冠を獲れた。あのスピーチでの言葉は、夏季へと向けた挑発であると同時に、紛れもない事実でもある。
「基本さえできていないやつが多すぎる。ゆえに基本を身に付けたお前が頭一つ抜け出た。それだけの話だ」
「納得した。しかしそれは“セカンド殿にとっての基本”だと思うぞ」
「……あっ、違ぇねぇや」
仰る通りですわ。でも俺の求めている水準はそこなんだよなぁ……。
ああ、そうだ。一つ大切なことを言い忘れていた。
「お前らが弱いからと言ったが、その努力は認めている。勘違いするなよ」
「わかっている。セカンド殿は口では散々言うが、勝負においては常に相手へ敬意を払っているではないか」
「そうだ。わかっているならいい」
世界一位が思い上がったやつだと思われたら癪だ。世界一位は、その立場ゆえ見下しはすれど、決して自惚れはしないのだ。
「ところで、私は基本を身に付けることができたから勝てたとセカンド殿は言っていたが……エコはどうなのだ?」
唐突に質問がきた。
知りたがりだなあ、シルビアは。
「結論を急ぐのは悪癖だぞ」
「む……言われてみれば、そうだな。すまない」
「まあ、次の試合でわかるさ」
「ふむ。では、心して見ようか」
* * *
金剛戦挑戦者決定トーナメント準決勝第二試合、ゴロワズ対ドミンゴの勝負は、ゴロワズが前金剛の貫禄を見せ勝利を収めた。
そして、決勝戦。エコ・リーフレット対ゴロワズの試合。
「ワシの相手は、おチビちゃんか」
「うん、よろしく!」
「ははは、元気でいいぞ。よろしくな」
元気いっぱいのエコと、豪快に笑うゴロワズ。
試合開始直前とは思えない、なんとも和やかな雰囲気であった。
「おチビちゃんはよ、楽しくて仕方がねぇって感じだな」
「そうだよ! あたし、こんごうせんすき!」
「そうかよ。でもな、いくら楽しくてもよ、悪ぃが勝つのはワシだ」
「なんで?」
「……あぁ?」
勝ちは譲らないと言ったゴロワズに対し、エコはきょとんとした顔で首を傾げた。
エコは、ゴロワズの言っていることが、本気で理解できなかったのだ。
「互いに礼! 構え!」
審判の号令に従って、礼と構えを済ませ、向かい合う。
それから、エコは当然という顔で、こう口にした。
「かったほうが、たのしい。だから、かつのはあたし」
「――始め!」
ゴロワズにとっては、とても短く、そして永遠のように長い悪夢が、幕を開けた。
「っきゃほー!」
満面の笑みで、スキルもなしに駆け出すエコ。
「……その手は通用しねぇ」
ゴロワズは警戒を大きくしながら、《龍王盾術》の準備を始める。
間に合いはしない、それはわかっていた。これは、相手に龍王発動の阻止を強制して主導権を握るための一手である。
「ま、そう来るよなぁ」
エコは《飛車盾術》で対応した。龍王発動の前に潰そうという腹だ。
そこで、ゴロワズは鋭く切り返す。
エコの飛車準備から0.2秒で龍王をキャンセル、《飛車盾術》の準備を始めた。そのきっかり0.3秒後、飛車キャンセルからの《金将盾術》準備……。
……そう、これは、エコが冬季の対ジダン戦で見せた戦法、陽動振り飛車。
ゴロワズは、手段の一つとして、この戦法を身に付けていたのだ。
「!」
が、そうは問屋が卸さない。
これはよくできた奇襲戦法であるが、エコにとっては散々練習し尽くした戦法。一目見て狙いに気付けてしまう。
ゆえに、エコは即座に飛車をキャンセル、すぐさま《龍馬盾術》を準備し始める。
「――だぁと思ったよ、おチビちゃん」
「ほ?」
ゴロワズは、この流れを読んでいた。
陽動振り飛車は、一瞬だけ相手に「行ける」と思わせる戦法。つまり、その仕掛けを破るには、行かなければいい。だからこそエコは、範囲攻撃の龍馬で「行かずに」倒そうと考えた。
それを、読んでいたのだ。エコが来ないことを、読んでいた。
つまり――逆に、こちらから行けばいい。
「!」
瞬間、エコの耳がピンと立つ。
《金将盾術》を準備していたはずのゴロワズが、今、発動せんとしているのは……《飛車盾術》。
ゴロワズは飛車キャンセル後の金将を更にキャンセルして、飛車を準備していたのだ。
二回の陽動。これが、ゴロワズの作戦だった。
「痛ぇぞ、覚悟しなッ」
ゴロワズの《飛車盾術》による突撃が迫る。
「……ふふん」
しかし、エコは、鼻を鳴らして息を吐くと、極めて落ち着いて龍馬をキャンセル、そして静かに《歩兵盾術》を準備し――
「が、ぁ!?」
――パリィした。
あまりにも呆気ない。まるで小蝿を追い払うように、簡単に。
矢継ぎ早に、《飛車盾術》による追撃を行うエコ。
ゴロワズは《歩兵盾術》でなんとか防ごうとしたが、パリィに失敗し、ダウンした。
そして、最後の一手、《龍王盾術》が、ダウンから起き上がったゴロワズを襲う。
「――それまで! 勝者、エコ・リーフレット!」
「……わかった気がする」
「おっ、気付いたか」
「うむ。パリィが関係しているな?」
「そうそう」
エコ対ゴロワズの試合が終わり、シルビアが自分の疑問に対する答えを出した。
セカンドは、そんな彼女に対してご褒美とばかりに正解を口にする。
「ドワーフの連中は、パリィさせない工夫が足りていない。あれじゃあ、エコには勝てんわなぁ」
お読みいただき、ありがとうございます。
セカサブ第2巻発売中なので買ってね。




