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9把 綺麗(笑)な想いは再会

「ん? ジャンか。どうした?」


後ろで見てたのに何も知らないふりとは、何か黒いぞシスター。


「ああ、ヘンリエッタか。ふふっ、なに、ホムラさんにフラれた、いや、告白すらさせてもらえなかったんだよ」

「ジャ、ジャン? 真っ白だぞ? 大丈夫か?」


ちょっと燃え尽きちゃってるんだよな。不安だ。


「ああ、大丈夫さ。僕は大丈夫だよ」

「目が死んでる!? 遠くを見るなジャン! 帰ってこい!」

「ああ、ヘンリエッタ。僕は一体何をしていたんだろう。人を愛するとはこんなにも儚いことだとは知らなかったよ」


こんなに儚い愛は少数派だと思うぞ?


「凍、帰ろ? ここに居ても退屈だよ~」

「そうよ。傷心の男を女が慰めるのよ? 見ないであげるのが優しさというものだわ」


雷は単純に飽きたんだろうが。焔はもうちょっと自分が引き起こした事態に興味持って。


「ホ、ホムラはコオルのことしか目に入らないくらいコオルを愛しているからな、仕方ないんじゃないか?」


「いやん、ヘンリエッタったら。そんなにハッキリ言われると恥ずかしいよっ」

「あら、面白そうね」


身代わり早いなこいつら。帰りたいんじゃなかったのか?


「そうだね。ホムラさんはあのコールという少年のことしか見ていないみたいだった。僕が割り込む余地なんて……はははっ」

「ジャ、ジャンにもきっと良い出会いがあるはずだっ。この際だから1度ホムラのことを頭から除いてみたらどうだ? きっと別の視点が持てるぞ?」


お、ちょっと攻めたな。


「ホムラさんを忘れて、違う視点を?」

「そうだ。ホムラのことは忘れてみろ。私ならいくらでも相談に乗るぞ?」

「ううっ、ヘンリエッタ。ありがとう」

「友人が失恋で傷ついているんだ。これくらいはさせてくれ」


寄り添いながら岩場から都の方に向かって……て、こっち来てるってことだ! 総員退避!


「うんっ」

「分かってるわ」


急いで移動しシスターたちからは見えない窪みに全員で身を隠した。結構狭い窪みなので隠れきれるか不安だったが2人は気が付かずに通りすぎていった。

ふう。どうにかやり過ごせたな。


「凍、そんな積極的に、それも外でだなんて」

「まさか私たち両方に手を出すなんて思ってなかったわ。普段は成狼するまでそういうことはしないだなんて言ってても所詮は思春期オス狼ね」


しまったーっ! 隠れるためにコイツら岩壁に押し付けてたんだったーっ!

焔は嬉しそうに顔赤くしてるし雷は汚物でも見るかのような目だ。どう収集をつければいいんだよっ?




結論、帰って不貞寝した。

何かズボン脱がされた痕があったり異常に倦怠感があったり焔と雷の顔がテカテカしてたような気もするが気にしない。焔と雷の顔がテカテカしてたような気もするが気にしない!

何となく2回言ってみた。意味はない、と思う。


「その、何だ、お前たちには本当に感謝している」


で、シスターと熱血戦闘員はプラトニックな関係になったらしい。

あの日の夜2人で酒場に行き悩みを聞いたり互いの愚痴を言い合ったりホテルで1夜を過ごしたりと濃密な1夜を過ごしたんだそうな。一方そのころ俺の貞操が危機だったのに楽しそうだなコイツとか思ってないよ? どうせならフラれちまえとか思ってないよ?


「ジャンは、少しは私のことを女として意識してくれたみたいだ。流石に酔った勢いで胸を押し付けたら顔を赤くしていた」

「わっ、大胆だねっ」

「あら、ヘンリエッタは痴女だったのね」


お前らと比べたら可愛いものだろうが。と言うか雷の痴女具合と比べたら、ねえ?


「何か不愉快なことを考えているわ」

「断言しただとっ!?」

「凍、私は凍以外にそんなことするのは絶対嫌だよ?」

「さっきの『大胆だね』はどこ行った!?」


「お前たちは本当に仲が良いな。コオルはどちらを選ぶんだ?」


雷は俺に恋愛感情は抱いてないと思いたい。これが愛情表現だったら嫌過ぎる。


「凍、気の迷いで他の娘に触っちゃうのは良いけど、浮気は駄目だよ」


最後だけ目のハイライトが消えたな。


「あら、私は別に焔と取り合いをする気はないわよ?」


そう言いながら舌で唇舐めんな。かなり挑発されてる気分になるっ。


「雷が凍のことどう思ってるかは分からないけど、凍の正妻は私だよっ」

「なら第2夫人にでもなろうかしら」

「なら大丈夫だねっ」


良いのかよっ! てかノリで言ってないか? そしてコイツらと付き合ってたら身も心も危険だ。


「ふふっ、ありがとう、ヘンリエッタ。面白かったわ」

「これからも頑張ってねっ。でもこれからどうしよっか?」


そう言えばやること無くなったな。王都への使者もようやく着いたころだろうしあと4日は暇だろう。テキトーに依頼受けてみるか?




で、3日が経った。

言った通りギルドで魔石回収や薬草取りの依頼を受けたり、海で遊んだり、シスターと熱血戦闘員のデートを覗いたりと色々したがそろそろネタ切れだった。部屋でトランプするのにも飽きた。

が、都の入口に妙な物が到着した。


「ふっ、久しぶりだなコオルよ」


王子が戦車に乗ってやってきた。

戦車と言っても砲台が全方位に回るような、キャタピラでキュラキュラいうような物ではない。砲台は前方で多少の調整ができる程度だしタイヤは4輪だ。平地ならこっちの方が素早く動けそうだし前面には突撃用っぽい採掘シャベルを装備している。側面には銃口っぽいものが付いているので接近戦もお手の物だろう。

何だこの戦車モドキ?


「おう、コール。嬢ちゃんたちも元気にしてたか?」


武器屋のオッチャンも居るのかよっ! てかアンタら何しに来た? 王子は国のこと良いのか? オッチャンは自分の城(店)は良いのか? てか王子は新婚なんじゃないのか? メイド長のこと放って何しに来んだよっ!


「ふっ、コオルよ、私はこれでも公務で来ているのだ。正式に次期国王筆頭になったのだから隣国に挨拶に行くくらい当然だろう?」


くっ、確かに。


「それに妻は連れてきているぞ。流石にこのような物々しい戦車に乗せるわけにはいかないから馬車だがな」


あ、本当に後ろに馬車が居る。メイド長も乗り出して手を振ってるし。


「じゃあ何か? 隣国に挨拶するついでに俺たちの話も聞きに来たと?」

「そう言うことだ。また厄介なことに首を突っ込んだようだな? 私の妹とも知り合いになったようだし」

「王族と知り合うとロクなことがない。俺と知り合うな」

「無茶を言う。さて、どこか落ち着ける所で話そう。ついでに頼みもある」


嫌な予感しかしない。




「護衛?」


多少人数が多くても問題無く話し合いができる所ということで教会支部の会議室を借りた。

王子に俺たちの無実を証明(黙らせただけとも言う)してもらい王子の頼みとやらを聞いたら、隣国のリストカット帝国までの護衛を頼まれた。リストカットって、おいおい。


「凍、暇だよ~。帰ってゴロゴロしようよ~」

「誤解は解けたんだしもう良いでしょう? 速く帰りましょう」

「お前ら本当に興味無いな。王子、そう言うわけで断らせてもらう」


「だがそうなると武器屋の整備がなくなるぞ」


整備?


「おう。お前らのは新作だからな。どんな不具合があるかわかんねえんだ。だから定期的に整備する必要があるってわけよ」

「武器屋はこのまま私と帝国に向かう。お前たちが護衛に付くならば整備も可能だが来ないのならば不可能だな?」


……仕方無いか。


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