12話 今度こそ、見つけました
美味しく頂けたでしょうか?
凍「何をだよ!?」
いや、それ言ったらノクターン行きが確定しますから
もっと過激な話になりますから
凍「最初っからしなきゃ良いだろうが!!」
ということで、本編どうぞ~
結局、俺に嫁たちの手作りを食わないなんて選択肢は無く美味しく頂いた。
何をって? 全部だよ。
察してくれ。全員俺の横でスヤスヤと気絶している最中だ。
あ、手作りは普通に美味かったよ。雷は形はちょっと崩れてたけど焔と花子が一緒に作っただけあって俺の好みにも近かったしな。
ただ、味見という単語を知らなかったことに戦々恐々としたのは良い思い出。焔と花子が居なかったら何が出てきたのは怖くて想像できない。だって料理中に『塩の量を間違えたら砂糖を入れたら良いんじゃないの?』とか恐ろしいこと聞いてたんだぜ?
俺は改めて焔と花子に感謝しつつ気絶してスヤスヤと寝息を立てている2匹の頭を軽く撫でた。今は雷の頭を撫でる気にならん。何かSなプレッシャーを感じたが気のせいだ。ヤンデレ幼馴染と清楚お姉さんの感触が愛おしいよ。
「私だけ除け者とは良い度胸ね」
「痛いっ! 抓られた肉が裂けちゃう!!」
「大丈夫っ、私が食べてあげるよっ」
「……どんな味なんでしょう?」
ちょっと全員落ち着こうか? まさか俺の肉を食べる気じゃないよな? 昨日お前らは散々俺を貪っただろうが! お望み通り逆襲してやったろうが!! これ以上はやり過ぎなんだよっ!!
嫁たちに若干薄ら寒い思いをさせられたが概ね平和な朝だった。朝食を済ませて外出の準備を整えることにした。
ちなみに、闘技場に近寄ると注目されて鬱陶しいので俺たちは少し時間が経ってからホテルを出ることにした。朝食の食材を持って来たホテルのスタッフには『昨日はお楽しみでしたね』とか言われて苛ついた。盗み聞きしてんじゃねえよ。
「さて、昨日の経験を活かして朝食を作ってみたわ」
自信あり気な雷が裸ワイシャツにエプロンという何が何だか分からない服装で朝食をリビングに運んできた。後ろには寝間着代わりの薄い着物を着た花子が雷と同じ皿を持っている。あ、よく見たらワイシャツのボタンは全部開けてありそう。
皿は全部で4皿、どれも中身は同じ。スクランブルエッグに厚めのベーコンにちょっとしたサラダ、でも花子の皿のベーコンだけはかなり薄い。サラダが多い。
2回目の料理でこの普通さ、ちょっと感動した。
実は焔って最初の頃は料理がド下手だったんだよ。最初は丸コゲか炭の2択だったな。
「凍っ、私の黒歴史を思い出すのは止めてよっ!」
バレた。
流石に焔は俺の思考を読むのが得意だな。
雷特製の朝食を堪能した俺たちは着替えて今日の探索を進めることにした。
そう、焔に昨日の図書館で覚えた匂いが魔都で集中している場所を探ってもらった。この部屋にはバルコニーまであるので匂いの方向も結構簡単に分かりそうだ。
「う~ん、ちょっと風が弱いから大雑把な方向しか分かんないかも」
「大丈夫ですよ。ここなら誰も見てませんし、私が少し強い風を吹かせてあげます」
そういや花子たち蝶族って羽根で羽ばたいてるのはオマケで実際は風を操って飛んでるんだったな。羽は微調整みたいなもんだったはずだ。いっつも特殊な効果のある粉とか使ってるから能力を勘違いするよな。
あ、風で飛んでるのは風龍とかも同様な。あんな形状で何も無しに空が飛べるとか有り得ないから。
「じゃあ、行きますっ」
花子が腕を水平に振るうとホテルの上空で大きく風が動いたのが分かる。人間よりも鋭敏な感覚を持つ狼でなければそれが不自然な風だとは思わないだろう。きっと地上の人間は急に強い風が吹いたくらいにしか思っていないはずだ。
「良い感じかもっ。スッゴク匂いを感じやすい……あった!」
焔の視線を追ってみると図書館よりも少し北に向かっていた。図書館の近くではあるので匂い自体は結構ホテルから遠いそうだ。魔都の政治的な主要施設は北西に固まっているのかもしれない。北西には背の高い建物が多いしな。
「じゃ、今日は闘技場には行かずに王子の依頼を果たす方向で動くか?」
「そうだねっ」
「それで良いわ」
「早く終わらせて沢山遊びましょうっ」
何か、このメンバーの保護者は雷な気がしてならない。反応が1番落ち着いてる。
ホテルから出て街中を歩きながら魔都の北西を目指していると通行人たちの立ち話が聞こえてきた。
『王都から来た王子様カッコ良かったわね~』『顔も良いけど腕も良いらしいわよ』『天使様と一緒に王都防衛を果たしたんでしょ?』『帝都でも人々を背に庇って勇敢に戦ったそうよ』『良いわね~。狙っちゃおうかしら?』『いや、既婚者だし側室必要無いって断言してるから』『奥様も綺麗だったわよね』『そもそも会う機会無いでしょう』『夢は大きく持つべきなのよ!』
……おい。
「王子、来てるみたいね」
「そうですね」
「そして地味に注目されているわね」
「昨日のトーナメントの結果は何も分からないままですけどね」
あ、忘れてた。てか今日はAランカーとBランカーの入れ替え戦だっけか?
でも王子からの依頼を優先しよう。闘技場に行くの面倒だし焔が折角場所を特定したんだから善は急げだ。
まずは図書館の少し北に向かう。闘技場から離れるとそれだけで人気が無くなる。これって泥棒にとって最高の環境なんじゃね? これから泥棒する予定の俺たちが言えた義理じゃないか?
到着した。焔の鼻を頼って歩いてみたら図書館の北300メートルくらいの所に何か最終裁判所みたいな建物があった。そして昨日の会議室で嗅いだ人間たちの匂いがちゃんと揃っている。いや、俺と雷は数人のしか覚えてないんだけど焔がね。
「これか?」
「これだよっ」
「人、居ないわね」
「『本日は営業しておりません』だそうですよ」
この街は大丈夫なんだろうか。色々な意味で不安になる街だな。
建物自体は『キャトルミューティレーション政府』と書かれていて下に『郵便、相談室、お困りならばお気軽に』と続いている。
政府が軽すぎる気がする俺は権力に先入観ある? てか街の相談事務所かよ。
気を取り直して侵入経路を探すことにした。昨日の図書館のこともいつバレるか分かったものではない。てか既に気付かれて捜索始まってそうだよな。昨日図書館に行った客は俺たちだけだし既に目を付けられてそうだ。
1階からの侵入は難しそうだ。横の建物との間には窓も無いので焔に溶かしてもらうのは危険だ。道路に面した窓では直ぐにバレるし危険過ぎる。
「2階か3階のベランダとか探すか?」
「3階にベランダがあるねっ」
「……侵入は全部このパターンなのかしら?
「とりあえず、上りますか?」
花子の風の能力を使えば上に行くのは簡単、そもそも幻狼の身体能力ならば横のビルとの間で三角飛びでも行ける。でもベランダに行くのは風を使った方が簡単そう。
2階なら問題無く飛び乗れたんだけどな。
周辺に人間が居ないことを確認して実行、花子に局地的な上昇気流を作ってもらい3階のベランダへ。眺めが良い。ベランダは南を向いていて南向きの全部の部屋と繋がっているようだ。そして人間の匂いがしない。こんなに良い景色なのに勿体ないな。
「明らかに使われていなさそうな倉庫になってる部屋を発見したわ」
「よし、焔、溶かしてくれ」
「うんっ」
「あぁ、またしてもドアが壊されてしまいました」
あれ、探索で雷ってかなり地味? 毎回ちょっとした情報を見つけるだけで侵入とかには役に立ってないよな?
「凍、魔獣には向き不向きがあるのよ」
「何が向いてるんだよ?」
「力仕事よ」
メスに断言されてしまった。実際1番力はあるんだけどさ。
鍵を外して中に入ると人間に匂いが本当に薄い。長い間誰も入っていなかったようだ。
体育祭で使いそうなハードル、空気が抜けてベコベコになったボール、空っぽの棚、ボロボロのソファ、埃の積もったガラス机。本当に倉庫のようだ。軽くカオスだが。何でフライパンの中に包丁と菜箸が入っているんだろう? そして皿は無い。
「人間の気配は無いみたいだよっ」
「探索し放題ね」
「最初は会議室を探すのが定番でしょうか?」
「そうだな。図書館で呼んだ計画書の続きで王子の依頼は完了だろ」
正直見つけられなかったで良い気がするんだが一応探してみよう。
「こっちに匂いが固まってるよっ」
倉庫を出てから焔の案内で大会議室を発見した。2階の最奥の部屋だった。3階は基本的に倉庫とか書類の保管庫とかになっているようだ。紙の匂いが濃かった。
よし、会議室に入るか。
大きな両開きの扉を部屋の内側に勢いよく開け放つ。
「「「くぱ、速いっ!?」」」
「言わせねえから」
このネタは相当前にやったっつの。
さて、会議室には俺たちが求めている情報があるのかね?
焔「人間の匂いバッカリだよぉ~」
雷「人間の会議室ですもの」
花子「人間の街ですしね」
人間の匂いが無かったら大変です
凍「次回は少し魔都の確信に近付く感じだな。これで王子からの依頼も終わりが見えたぞ」
……珍しくまともな予告、何故か不安になるのは僕だけでしょうか?
では、次回~




