93・幻影の街 その2
「えっなんでバレた!? 【隠密】スキルが発動して――」
「このサーバーではスキルは使えませんよ、ツバキさん」
「そうだったあああ!!」
ツバキさん……。ゲームでのロール中の彼女そんなミスはしなかったでしょうに、どうして中の人はこう……ポンコツなんでしょうか。
「あっお前ー!! 俺の剣返せよぉぉぉ!」
「ひゃあっそれは勘弁してくださいー! 返せないものは返せませんのでー!!」
「おい、ライト。とりあえず落ち着け。ここにキャラの事情まで持ち込むな」
案の定というか……剣を奪われたままのライトくんがツバキさんに突っかかり、彼女を守るようにカイルさんが間に立ちました。
「それにしてもどうして、あんな隠れるようにして私たちを見ていたのですか?」
「えっ、だって……私のツバキはライトくんの剣を盗んじゃったし……今回もクロエさんを殺しちゃったし……あぁ、あの時は本当にごめんね! ツバキの行動を考えたら任務を優先してたから、ああするしかなくて……本当ごめんなさい……」
カイルさんの後ろで指をいじりながら申し訳なさそうに謝るツバキさん。
「どうして謝る必要があるんですか? あなたは“ツバキ”らしくロールプレイをしたからこそ、私のクロエを殺したのでしょう? それに、カイルさんも言っていたではありませんか。ここでキャラの事情は持ち込まないと」
「怒ってないですか……?」
「いいえ、まったく。確かに驚きましたけどね、同時にやられたとも思いましたけど」
あの時は本当にびっくりしました。まさか赤フードの連中とツバキさんが裏で繋がっていたとは思いもよりませんでしたから。まぁ、直接彼らと関わっているというわけではないようでしたが。
そう言ったらツバキさんの沈んでいた顔がぱぁぁと明るくなっていきました。
「本当に! 本当に!? かたじけないでござる、クロエ殿! ……あっごめんなさい! ついクセが……」
照れた顔をマフラーで隠すツバキさん。ロールプレイをしているとそのロールのクセが出てしまうというのを、聞いたことがあります。……音声解析のログを見ているとツバキさんは、名前の後に“殿”ときちんと発音しているみたいですね。
「いいえ、構いませんよ。ただ、次に会ったときは容赦しません。クロエが許しているわけではありませんからね」
「はい! いくらロールプレイであってもなんでも許されるわけではないと、重々承知しています。なので、次に会った時は容赦なくぶっ飛ばしてください!」
笑顔で言うセリフじゃないと思いますが……まぁ嬉しそうなのでいいでしょう。
ツバキさんってこうやって罪悪感を抱いていて謝るところもありますが、ロールならどんなことでも容赦なくする人ですね。意外と恐ろしい人です。次にゲーム内で会ったときは油断しないようにしておきましょう。
「ライトくんも今度あったら容赦なく攻撃していいからね?」
「えっいや、た、確かにお前は俺の剣盗んだけど……そんな事言われたらやりづれぇっていうか……」
ツバキさんにそう言われ、ちょっと照れつつ目を泳がせながら答えるライトくん。……なんというか、ライトくんはツバキさんと喋る時は緊張していますね。
「“ツバキ”というキャラだけを見てるならいいんだが……ライト、騙されるなよ。そいつはネカマかもしれないぞ?」
「………………何いってんだよ? 俺だってそれくらいのこと想定してたし!」
そのわりにはちょっと声が震えてますよ、ライトくん。
「うーん、私は女の子なんだけどなぁ……」
「それは分かってますよ」
ツバキさんを見ている限り、女性だと私は思います。これで本当にネカマだったら手放しで褒めますよ。
「ちなみに私はどう思っていますか?」
「お前は七割男だなぁと……」
「えっ……七割……」
地味にショックです。そんなに私は女性として見られていなかったのですか……。
「いやほら、可愛いキャラ使ってるのはたまに男だったりするし……前に口説きにいった女キャラも中身は男だったしな……しかも普通のプレイヤーだったし……」
その時のことを思い出したのか、がっくりと肩を落とすカイルさん。
ネカマもできるゲームなので、当然そういうケースに出会うこともありますよね……。
「そうですか、そうですか。私の女子力は三割しかないのは分かりましたから……」
「悪かったよ、言い方が悪くてな」
「というかカイルさん、そう思っていてもよく私を女性扱いしましたね?」
「だって、キャラは女性だろ?」
当然とばかりにカイルさんが答える。あぁ、そうでしたね……“クロエ”は女性でした。私を七割男に見ていても、“クロエ”は女性というのは変わらないので、女性扱いするでしょうね……。
アニメや演劇などで、女性が少年役をしていたとして、その少年キャラの性別まで女性と見るかというと当然そんなことはしないです。本当、カイルさんってキャラと中身を分けて見ているんですね。
「それにしても、どうしてあなたみたいな人が“ツバキ”を演じているんですか? 性格的に合わないでしょうに……」
彼女を見ているととても礼儀正しいいい子としか見えません。人を後ろから切りつけてくるような容赦のないツバキさんとは真反対の性格と言えるでしょう。
「あーそれは……生まれとか経歴のせいですね。ツバキを取り巻く環境がそうさせたというか……」
「てっきりあなたの持つ忍者に対してゆえの演技かと思いました……違うんですね」
「うん、そうだよ。それだったら私は誰か主人を見つけて、その人に仕えたい。今もそんな感じ。……昔からそういう忍者に憧れててね。その忍者みたいになれるようにしたいんだ」
「そうなんですか」
「うん、昔から体操をしているのだって、忍者みたいになりたかったからだし!」
確かにゲーム的アシストがあるとはいえ、元の運動神経に左右されることがあるVRゲームです。ツバキさんの身体能力の高さは分かっていましたが、新体操をしているなら納得です。
「本当に忍者になりたいんですね」
「はい、そうなんですよ! 忍者だけでなく侍とか、とにかく日本文化が大好きなんですよ!」
目を輝かせて話すツバキさん。ちょっと興奮気味ですね。
「和服が似合うようにせめて髪色を黒色に染めたいけど……校則があったり、ママにダメだって言われててできないし……。ツバキみたいな子になりたいけど、現実はなかなか難しいですね」
聞けば生まれつき金髪だというツバキさん。目も青色で和服とは相性が悪く似合わないと言っていました。
「あーこれ以上の中身の話なんていいだろ。やめやめ!」
手を振ってこの話を切り上げたカイルさんでした。……なんだかこれ以上この話題を続けたくない感じでしたね。まぁ、確かに踏み込みすぎた話題だと思います。
「なぁ気になったんだが、“ツバキ”はどうして俺の剣を盗んだんだよ」
確かにそれは気になります。今回ツバキさんは赤フード側にいたので、その理由も私としては気になるところではありますが……。
「あぁ、それは最初から“ツバキ”はそういう依頼を受けていたんだよ。確か……第二期組がゲームを始める前くらいに依頼を受けたっけなぁ? いや、その後だったかな、その頃は確かクロエさんとハクを捕まえてたし……」
「……あれ、ツバキさんってもしかして第一期組ですか?」
「うん、そうだよ。ちょっとログインする暇が少なくて、他の第一期組と比べると進みが遅めなんだけどね」
ツバキさん、第一期組でしたか。まぁ、確かに一緒にハクを捕まえた時はレベルが高そうだと思っていましたが……。
「あの街の領主が英雄が使っていた剣らしき物を持っている情報を教えられてね。それで、そこに盗みに行ったんだ」
「大剣レックスって領主の物だったんですか? えっ川に沈んでたんじゃ……」
「あっなんでクロエが知って……まぁ確かに川に沈んでたんだけどさ」
やっぱり沈んでたんだ……。
「釣り人のおっちゃんに貰ったんだが、正直俺もそれは知らなかったなぁ」
「沈んでたってまじかよ……でも、なんで川に沈んでたんだ?」
カイルさんの疑問はもっともです。ツバキさんの話では元々領主のところにあったという大剣レックスがなぜ川になんかに……。
「それはもちろん――私達、盗賊団シオカゼの仕業よ!」
現れたのは猫の獣人アジーちゃん。彼女とともに、エルフのサヴァールくん。それからドワーフのブルーイくんも来ましたね。
「そう、何を隠そう領主が持っていた大剣レックスを最初に盗んだのは私達です!」
「格好つけて言うものではありませんよ、まったく……。逃げている最中にアジーが川に落としたのですから」
「まっ、俺らの仕業っちゅーのには間違いないわけや」
なぜか胸をはるアジーちゃんを、やれやれといった表情で見るサヴァールくん。それをなだめつつ、おおらかに笑って言うブルーイくんでした。
「もしかして私を彼らから助けてくれたのは……」
「あっそうですよ。あの後彼らが盗んだという情報を掴んだので、ツバキは彼らを追っていたんです。そしたらクロエさんが襲われていたので、ついでに助けたんですよ」
今になってあの時の裏が判明してくるとは……。
「でも、どうしてアジーちゃんたちは大剣レックスを盗もうとしたんですか?」
「それは、ルシールさんに頼まれたからだよ」
……あの秘密主義者! 思わず街を見渡して姿を探してしまいました。
「結局依頼は達成できませんでしたが、今思うと赤い獣関係で必要だったのではないかと、僕は思います」
「でしょうね……」
サヴァールくんの言葉に同意します。赤い獣の呪いを解くために勇者の力が必要だったわけですから……。結局、助かりはしませんでしたが。
「そういや、なんでルシールを使い魔にしてんだよ!」
「あー……うーん。それはネタバレになるので秘密にしておきますね!」
気になるのも分かりますよ。私がルシールさんを使い魔として呼び出したことは、知れ渡っていました。まぁちょっと考えれば分かることです。どうして私がルシールさんを使い魔にしているかの理由は。
……あぁ、守護者だとバレるのも時間の問題ですね。すでにバレたくない人にはバレているので、もう諦めています。とりあえずこの場は濁すとして……
「あ~クロエちゃんたちだ~! やっほ~!」
「あっ、ミランダさんではありませんか」
ちょうどいいタイミングに来てくれましたね! これでこの話題を流せます。
「よう、嬢ちゃんじゃないか!」
「あら、お嬢ちゃんも来てたんだねー」
「おじさんたちもここに来て……って、えっ!?」
ミランダさんの後ろからこちらに向かって歩いて来ているのは、ダイロードの街で屋台を出しているおじさんとお姉さんだったのですが――。
「おじさんたち、プレイヤーだったんですか!?」
二人を指し示すサークルは緑。つまり彼ら二人はプレイヤーだということを指していました。
「あっははは! これで何度目だい?」
「あぁ……何度目だろうな。会うやつ全員に驚かれてやがる……」
お姉さんは腹を抱えて笑いだし、おじさんは困ったように笑います。
「まさかお二人がプレイヤーだったとは……。てっきりNPCだと思っていましたよ……」
「私はたまに話すから分かったよ~。私のほうが驚かれちゃったけど」
ミランダさんは確かにロールプレイヤーですからね。間違えても仕方ないです。
私の場合はお二人と話したことがありますが……今はだいぶマシになりましたが、翻訳が微妙だったのもあるので、プレイヤー的な言動には気づかなかったかもしれませんね。
「私らは別にロールプレイヤーでもなんでもないんだけどねぇ……どうも溶け込んでしまったみたいだよ」
「長年のクセだな……。俺らはつい最近まで本当に店をやってたんだ」
「なるほど……」
お二人ともゲームをしている感覚は薄く、また演技をしていることもなく、あくまで自然体で接客をしていたようで、それで分かりづらかったのかもしれません。
お二人は現実では夫婦だそうです。息子夫婦に店を継がせた後、隠居後の楽しみとしてゲームを始めたようでした。
「でも結局、やってることは変わらないわね。店を開いて、料理を振る舞って……」
「まぁ、こういう現実から離れたところで商売するってのも新鮮で楽しいからいいんだけどな」
そう言ってお二人は笑いました。彼らのように仕事から一線を退いた人たちが暇つぶしにと、ゲームに手を出すというのは珍しくありません。私も彼らと同じような理由でゲームを始めたのですからね。
私がやっていた仕事は今はサポートロボットがしていますから。仕事がなくなりはしましたが、たんまりと退職金を頂いたので、今こうして自由な時間ができていますから感謝しているとも言えますね。
「そういや自己紹介をまだしていなかったな。俺はテツだ。このゲームの第一期組だ」
「私はサニーよ。テツと同じく第一期組よ」
屋台のおじさんとお姉さん改め、テツさんとサニーさんですね。また、ゲームの街に戻ったら店に行きましょう。ニルがきっとお腹を空かせていそうですからね。それにしても……。
「二人とも第一期組だったんですか……」
「私も第一期組だよ~」
ミランダさんまで……。第一期組はどこにいるのか考えたことがありましたが、まさかこんな身近にいたなんて……。
「……もしかして、防具屋のニックさんもですか?」
「あぁ、そうだな。あいつも俺らと同じで隠居してゲームを始めたとか言ってたな」
「あはは、あの人はあまり喋らない人だからね~。余計に分からなかったと思うよ~」
……ニックさんまでプレイヤーだったとは……。あれ、街で出会った人たち、ほとんどプレイヤーだったんじゃありませんか?
なんだか集団ドッキリに会った気分ですね……。
「あっ死の森の魔女! プレイヤーだったんだ!!」
「まじかよ、ポーション売りの人プレイヤーかよ!」
……その後、通りすがっていた人たちから何回かそんな言葉を言われました。私も人の事を言えませんでしたね……。
「しかし、こうやってゲームをしていると……昔やってたゲームを思い出すな。確か『エレメント・オーブ』だったか?」
「あぁ、やったねぇ」
テツさんとサニーさんがそんな会話をしていました。
『エレメント・オーブ』はNR社の中でも一番有名なゲームですね。今の精神を電脳世界へ接続できるものではなく、ゴーグル型の機械を頭に取り付け、映像を見ていたような時代に一作目が出たVRゲームです。
今もシリーズを続けていて、オフラインのVRゲームソフトとして人気が高く私もプレイしたことがあります。
「当時はすごかったみたいですね。社会現象にもなったようですし……」
「そうそう、私らも当時はゲームなんてやらない感じだったのに、ニュースとかで話題でさ。思わず買ってしまったんだよね。……そしたら、うちの旦那が店を放ってまでドハマリしてて、仕方なく禁止にしたねぇ」
「……おかげでこの歳までゲームとは無縁だったな」
そんな風に少し前のゲーム談義をテツさんたちとしていました。そしたら……。
「なぁ、カイルのおっさん。エレメント・オーブって今何年目?」
「確か、去年二十周年だったな。あのVR映画もその式典のだったし」
カイルさんたちの会話が耳に入りました。……そうでしたね、確かに去年の街を舞台に上映されたあの映画は『エレメント・オーブ』の記念映画でした。
「私が生まれる以前のゲームですね」
「俺も生まれてねぇや」
「私たちもだね、サヴァール!」
「私はその頃はまだちっちゃかったから、記憶に残ってないね~」
ツバキさんとライトくんとアジーちゃんたち、それからミランダさんがそんな会話をしていました。……みんな意外と若かった……。確かVR機器の使用ができるのは十三歳以上です。国や地域によって引き上がったりしますが……彼らは十三歳以上から二十までの年代ってことになりますね。
「お前ら、あんまり年齢が透けること言うなよ……トラブルに巻き込まれても知らねーぞ?」
そんな彼らをたしなめたのはカイルさんでした。確かに実年齢を言うというのはあまり推奨された行為ではありませんからね。とくに若い彼らにとっては。
「俺はガキのおもりをしにきたんじゃないんだがなぁ……」
「そう言うわりにはライトくんに付き合って行動しているではありませんか?」
本当に子供を相手するのが嫌だったら、ライトくんとは縁を切るはずなのに……。
「あー、まぁそうさな……。俺に息子でもいたらあの年代だろうし、そしたらこうやって一緒にゲームをやっていたかもしれねぇとか思っちまったら……放っておけなくてな」
……カイルさんっておっさんだとは思っていましたが、思った以上に歳をとっていそうですね。ライトくんを見つめるその背に、少し哀愁が漂っていました。
「……あれ、そこにいるのはラッシュさんではありませんか?」
「あぁ、あんたらか」
「これは、これは。クロエさんたちではありませんか」
広場の中央にいた私たちの前をラッシュさんとフライデーさんが通りすがりました。それにしても彼らがここにいるとは……。
「……そんなにも不思議ですか、私達がここにいることが」
フライデーさんに思考を読まれてしまいました。……表情で読まれたかもしれませんね。思わず彼らを見つめてしまいましたから。
「ええ、まぁ」
「俺らはマスター待ちだ」
「マスターさん? ……そういえばマスターさんをお見かけしたことがありませんね……」
先の討伐戦で全体の指揮を取っていたのはフライデーさんですが、彼はサブマスターだと言っていました。あんな規模の戦闘があったというのに、マスターさんの姿を一度も見ていません。
「あぁ、うちのマスターは実はまだ当選していないんですよ」
「えっ当選していないって……つまりまだSSOをプレイしていないんですか!?」
SSOはまだ抽選で当選しないとゲームをプレイできません。まさか肝心のマスターさんがゲーム内にいなかったとは……。
「ベータテストは受かっていたんですよ、うちのマスター。なのにその後の第一期は落ちて……代わりに誘われた私は受かりましたが」
「第二期も落ちたな。俺は受かったが」
……エル・ドラードのマスターさん、運がないですね。
ベータ組はその後の正式サービス開始時に優先的なプレイ権利はありませんでした。なので、第一期の抽選に参加して当選しないとベータ組もプレイできない状態だったのです。
第一期組の募集率って確か低かったと思います。前評判が今ひとつ、そしてベータ組の参加者多数が応募しなかったそうなので。
結果的に上限ギリギリにやっと届いたくらいの応募率。なので、応募したベータ組は大体受かったと聞いていましたが……まさか受かっていない組だったとは。その後の第二期はCM効果で倍率が上がっていたので、受かるのは厳しかったでしょう。
……第三期組はこれからなので、どうなるかわかりませんね。マスターさん、受かるといいですね……。
「あのー……」
「どうかされましたか、フライデーさん?」
なんだかこちらを見てくるフライデーさん。どうしたというのでしょうか?
「いえ、一応言っておこうかと思いまして。その前に、クロエさんって私を男性として見てますか?」
「えっ、ええ、そうですが……」
思わずフライデーさんを見る。どこからどうみても男の人ですが……、いやもしかして――。
「……まさか女性の方ですか?」
「はい、実はそうなんですよ」
そう言う声はとても低い男性の物。とても女性のものではありません。見た目もどこからどうみても完全に男性です。ですが、フライデーさんは確かに女性なのでしょう。
「男キャラを使っていますから、まぁ間違われるのは承知の上です。ですが、一応誤解は解いておいたほうが良いかと思いまして。私は別にネナベをしているわけではないので……」
「はい、それは分かっていますよ」
「ありがとうございます」
そう優しい笑みを返されました。物腰が柔らかい人だとは思いましたが……それは女性的な部分が出ていたからですか。男性アバターを使用しているのは、普段の自分とは逆の自分の方が良かったからだと言っていました。
「おおーあの時の金ピカのお兄さんだー!」
そう言って近づいてきたのはアジーちゃんでした。
「これでクロエさんにぶっ飛ばされし隊が再集結だねー!」
「……ぶっ飛ばされ死体?」
「それってぶっ飛ばされ死体かよ」
「まさか、ぶっ飛ばされ死体か?」
アジーちゃんの言葉にそう返したのは私とライトくんとラッシュさん。
「そんな……このネタが分かるなんて!? ……ねぇここ日本人多くない? いつからここは日本サーバーになったの、サヴァール!」
「アジー、僕たちがいる時点で少なくともアジアサーバーだよ」
残念ですが私がいる時点でワールドサーバーですね。……でも、確かに被害者がまた集まってしまいました。
「あっ、マスターが来たみたいですよ」
「おう、じゃあ俺らはマスターとこ行って……あっ待て。おい、そこの姉さん!」
ラッシュさんはミランダさんの姿に気付くと、そちらに向かって走っていきました。
「あっこの前のお兄さん! あの時はありがとうね、おかげでクリンが助かったよ~」
「借りを返しただけだ。……こちらこそこの前はありがとうな。あんたのおかげで俺はクランに戻れた。……また今度きちんと礼をしに行く」
「本当? ならそのお礼楽しみに待ってるよ~」
そうニコニコとした笑みで言うミランダさんでした。……お礼をしに行った時に物を買わされそうですね。
「――やぁ、クロエ。まさかこんなところでも出会うなんて思わなかったよ」
「……その声はまさか」
聞こえてきたイラつく声に振り返れば、頭から全身赤色を被ったかのような、私と同じ背丈の男――イグニスがいました。彼を囲むサークルの色は緑。……やっぱりプレイヤーだったんですね。
「あはは、そんな怖い目つきで睨まないでよ。ここは幻影の街。ボクもキミも、幻影が見せる夢の姿だよ?」
「そう言うわりにはあなたはいつも通りですね。ここでは普段と違う行動をとる人がいるそうですが?」
「そういうキミだって普段と変わらないじゃないか。ボクはどこでだって変わらないよ。それで――」
話を続けようとした彼の言葉を聞こうとしましたが、それを遮るような高い声が聞こえてきて、そちらに気を取られてしまいました。だって――。
「さぁさぁ、耳をちょいと伸ばして聞いてくださいっす! この中に日々の生活でストレスを貯めている人はいやしませんか? 職場で、学校で、家庭で……とにかくストレスや鬱憤……そんな感情を全て開放して、存分に破壊活動をしないっすか? 我が悪の組織【赤き混沌の使徒団】はそんな方を募集しているっすよ~。さぁ我らと共に、世界に破壊と混沌をもたらしましょう!」
…………すごーく、聞き覚えのある声がそんな呼び込みをしている。気のせいだと思いたかったのですが、聞こえてきた方角を見ると、小さな赤いフードの子が呼び込みをしながら電子チラシをばら撒いている姿がありました。
「…………」
「ねぇ、あなたの後ろでやっているアレはなんですか? アレも幻だというのですか?」
「なにいってんの? ボクには何も見えないけど?」
そりゃあ、あなたは背を向けていますからね。見えないでしょう。でも、声は聞こえているはずですよ。
「あっ旦那! なにサボってんですか! ちゃんと呼び込みしてくださいって言ったっすよね? ほら、看板持ってくださいよ~!」
小さなフードの子……どうみてもポコちゃんですが、彼女がこちらに気づき近づいていくると、イグニスに手持ちの電子看板を差し出しました。『赤き混沌の使徒募集中!!』と看板に書かれていますね。
「……あぁもうっ! ちょっとは空気を読んでくれないかな!?」
「どういう意味っす~? おやっこれはクロエさんじゃありませんか~。こいつは失礼いたしましたっすね~」
ニシシと笑うポコちゃん。どう見てもわざとですね、この黒うさぎ。ちなみにポコちゃんも緑色のサークルだったので、プレイヤーでした。




