89・討伐作戦
『ウィラメデス、目標地点到達まであと五分。シールド破壊班の準備はいいですか?』
『こちら破壊班。全員揃っています』
通信から聞こえてきたフライデーさんの声に、そう答えます。先程から時間が少し経ちました。無事に領主との話が通り、クエストは警備隊を通して発注されました。それを受注したプレイヤーたちが上手く動いてくれたので、赤フード組の動きが弱くなりました。
発行されたクエストには一応エル・ドラードの名前が記載されていました。いくらNPC経由とはいえ、実際の作戦指揮を取っているのはエル・ドラードですからね。
「我々の名前は出しておいてください。クエストとNPCのおかげで、こちらの指示が間接的なお願いという印象までレベルが落ちましたので、直接指示を出すよりプレイヤーたちも受け入れてくれるでしょう。ですが……我々はけして、裏で秘密裏に手を引いているような黒幕ではありませんからね。堂々と行きましょう」
クエストの依頼内容を書いている最中に、フライデーさんがそんなことを言っていました。
……確かに何も言わなかったらNPCが出した依頼にしか見えないでしょうからね。後からバレた時、プレイヤーを駒のように使っていたとか言われかねない案件です。
それを踏まえた上で受注してくれた他プレイヤーたちのおかげで、今の状況はこちらが有利になりつつあります。……ですが、一番の問題であるウィラメデスを倒さない限りは、そう言っていられませんけど。
「うわぁ……この眺めはすごいねー!」
「本当ですね、これだけの人数が並ぶとは……壮観です」
私の近くにいたアジーちゃんとブルーイくんがゴンドラ乗り場を見渡していました。
ゴンドラ乗り場に並んだ50人以上の人たち。彼らはウィラメデスのシールド破壊班。
その殆どが遠距離攻撃を持った人たちです。ウィラメデスが近づいてきたら、ここから一斉攻撃を放ちます。その指揮を私が頼まれていました。
「お前らは引っ込んでろよ。まだ本調子じゃないし、攻撃に巻き込まれて死んだらどうすんだ? 今の【星の石碑】周辺は地獄絵図だぞ」
「言われなくても分かってるよーだ!」
「一応、僕の蘇生魔法は使えるから致命傷を受けても大丈夫だけどね」
サヴァールくんに注意されてアジーちゃんたちは下がっていきます。シールド破壊班として避難所にいた弓使いであるサヴァールくんを誘ったのですが、彼ら二人も付いてきました。
ルシールさんとニルもいますが、アールだけはミランダさんの元へ預けました。ペナルティが付いているというのもあって、あまり無理はさせたくなかったのです。
『ミランダさんの手伝いをしてあげてくださいね。それがあなたの仕事ですよ』
その時、私の役に立てなくて申し訳ないと言っているようでしたので、そう声をかけておきました。今はきっとミランダさんと共に住人のケアやポーションなどの補充を行っているでしょう。
現在ウィラメデスは街の中央付近を進行中です。目指すはもちろん【星の石碑】。【星の石碑】周辺は死に戻りしたプレイヤーと赤フードの連中がかち合ってるみたいなので、一回も死んでいないプレイヤーは下手に近づくなとという注意が広まっています。
同時に下手に死ぬなとも言われていて、死んだ場合は即回復職に報告し蘇生されることが推奨されています。
【星の石碑】から復活したらデスペナが付きますからね。その解除まで一時間はかかりますし……その分だけ戦力が減ってしまいます。
「目標到達まであと三分です! 皆さん、そろそろ準備をお願いします!」
私の呼びかけに集まった面々が準備をしていく。
「じゃあ、こっちも準備だね! クロエさん、覚悟はいい?」
「ええ、合図したらお願いしますね。体力管理はブルーイくんに任せましたから」
「はい、ちゃんと死なないようにしますよ」
私たちはまたパーティを組んでいます。というのも、私の得意な事と彼らの持つ能力が合っていたようなので……彼らと共に限界に挑戦する企みがありました。
「弱点は見つけるから、しっかり狙えよ!」
サヴァールくんが矢をつがえていいました。さて……そろそろですか。階段状となっている街を上がってくる魔獣ウィラメデスを見ます。
ゴンドラ乗り場は高い位置にありますが、そこでやっとウィラメデスの目線と合う高さ。巨体もさることながら、足元にいればその大きな足に踏み潰されてしまうでしょう。
地上で戦うプレイヤー達は足元を避けて、建物の屋根から攻撃を加えたり、空を飛べる者は空中からしていました。獣人の中には鳥人もいるようですね。
すっかり夜になり星が輝く空を、背中に翼を生やした人間が数十人飛び回っていました。
『こちら誘導班! ウィラメデスの誘導に成功。誘導班及び他プレイヤー離脱誘導完了まで三十秒!』
ラッシュさんの声が聞こえてきます。私を含め、重要なリーダー同士が通信可能なグループチャットが開設されています。ラッシュさんの通信やフライデーさんとのやり取りはここで行っていました。
『カウントダウン開始します。終了後、一斉攻撃をお願いします。プレイヤーが残っていたとしても、構わずやってください』
『了解しました』
パーティを組んでいないプレイヤー同士の攻撃は有効ですからね。ウィラメデスの周囲にいたら、一斉攻撃に巻き込まれます。
「二十秒前! アジーちゃんお願いします!」
「了解! じゃあ遠慮なく……【アーマーブレイク】! 【マジックアーマーブレイク】! 【パワーブレイク】!」
パーティメンバーの中で唯一仲間はずれにされていたアジーちゃんが、私に攻撃を加えていきました。仲間はずれにされた腹いせ……ではなくこれは私が頼んだこと。それに、アジーちゃんはまだデスペナが付いているので、攻撃力はあまりありません。
ですが、攻撃で【防御低下】【魔法防御低下】【攻撃力低下】の状態異常を受けました。さすが妨害系といえば短剣だと言われるだけあります。
「……見つけた。ウィークポイントを発見した。そっちにも見えているな?」
「ええ、サヴァールくんのおかげでしっかり見えていますよ」
パーティを組んでいると仲間の情報を共有することができます。サヴァールくんは敵の弱点を探すことができるようで、シールドにその弱点を示す印が表示されていました。
事前にエル・ドラードのみなさんがこの弱点を見つけていたそうですが、言われてもどこにあるかわかりませんでした。こうして可視化されて初めてその場所が分かりましたよ。
「十秒前!」
すでに魔法の詠唱に入っている人もいる。続けて私も魔法の詠唱を開始。同時に、風邪引き薬を飲んで【風邪】の状態異常を付ける。【きめ細やかな砂】も振りまいて【目くらまし】も付加。視界はニルがいるので大丈夫です。
これで状態異常は五つ。まだまだ数が足りないと思いませんか? 前回の最大数は七つだったんですから。
用意していた物を取り出します。……そう、【暗黒スープ】です。これはいくつか作ったものの中で、耐性のある毒などを抜いた七つの状態異常を付けられる優れたスープですよ。
相変わらず不味いスープをなんとか飲み干す。状態異常欄に【腹痛】【高熱】【衰弱】【虚弱】【鈍足】【めまい】【飮食無効】が追加されました。
これで状態異常の数は十二個!
「なんやこれは! HPゲージの減り具合がおかしいやろ!」
「ブルーイ、崩れてる崩れる」
ブルーイくんの崩れたツッコミに、弓を構えながらも注意をするサヴァールくん。ブルーイくんが慌てつつもレッドゾーンに行きそうだった私の体力を回復してくれました。さすが回復職! これで死ぬ心配はしなくて大丈夫ですね。
「……3、2、1! 一斉攻撃、開始ッ!!」
合図を受けて、その場にいたプレイヤー全員が近づいてきたウィラメデスに向けてあらゆる攻撃を放ちました。
放たれた攻撃は鮮やかな光の虹の塊として、ウィラメデスのシールドに激突します。轟音と爆風がその場を支配しました。
「グォォオォオオォオオォォオォォ!!!!」
バリンッ――とガラスが砕け散るような音が轟音に混じって響きました。それと同時にウィラメデスを守っていたシールドが壊れ、虹の塊が巨体に当たります。
「うっひゃーすっごーい!」
「やばいダメージの桁が見えた気がした……」
「こいつは紛れもなくロマン砲やな……いいもん見させてもらったわぁ」
純粋に興奮しているアジーちゃんと違って、若干引き気味のサヴァールくんと目を輝かせて拝むブルーイくんの姿がありました。……サヴァールくんとブルーイくんの感想は絶対私の魔法ダメージでしょう。確かに桁がおかしかった。でも、あの威力はあなた方のおかげでもありますよ?
『こちら破壊班、シールドの破壊に成功しました!』
『こちらでも確認しました。……これより次のフェーズに移行。ウィラメデス討伐作戦を開始します。各班ウィラメデスへの攻撃を開始してください。制圧班は引き続き、障害となりそうな赤フード組をお願いします』
フライデーさんの指示が通信を介して行われました。破壊班の人たちもウィラメデスの討伐に向けて、場所を移動し始めました。
「おお! よっしゃデスペナ解除キター!」
「……てっきり最後までこのままかと思ってたよ」
「まぁ、いいじゃねぇか。これで二人も参加できるしよ」
ロールが崩れていた二人が元のキャラに戻りながら、アジーちゃんの言葉にそう返しました。
あれからもう一時間が経過していましたか……時間が経つのが早いですね。
「じゃあ私たちも討伐に行くわよ。こんなお祭り行事、参加しないのもったいないからね!」
「あっおい、アジー! 一人で突っ走るんじゃねぇ!」
ウィラメデスに向けて走り出したアジーちゃんを、サヴァールくんが追いかけていきます。
「クロエさんは……」
「私はここにいます。先程のアレでまだ調子が戻っていないので……」
状態異常はすべてブルーイくんに解除してもらいましたが、めまいなどの視界揺れの効果で直接的な酔いが残ってしまったんですよね。
「分かりました」
「ええ、回復ありがとうございました」
二人を追いかけるようにブルーイくんも走っていきました。それと同時にパーティが解散。きっと三人パーティを組み直すためでしょうね。
「慣れないことをするものじゃありませんね……」
「お疲れ様だ。ウィラメデスは他の者に任せ、お前さんは休むとよい」
その場に座り込む私をルシールさんは気遣ってくれました。
酔いもありましたが、気疲れしてしまいました。あんな大勢の人たちに指示をするなんてことをしたことがありませんでしたからね……。
そういえば別れ際にアールが飲み物をくれていたのでした。いつの間に用意していたのでしょうか……。見た目は透明な水……これは湖の水ですね。ということは用意したのはここに来る前ですか。
それを飲んでみると冷たく柑橘系の爽やかな風味がし、喋り疲れた喉と心を癒やしてくれました。……アール、あなたは立派に役に立っていますよ。
「さっきの攻撃すごかったねぇ! まさにみんなの力を合わせた一斉攻撃ってやつだ!」
「……ゴホッ!?」
聞こえてきたあり得ない声に思わずむせてしまいました。なんで……なんでここにいるのですか!?
「やぁ、クロエ。また会ったね!」
飄々とした態度で手を振るのは……もう見飽きた赤いローブ姿の赤い髪を持つ少年でした。




