30・気まぐれに助けましょう
新しい魔法である【土魔法】を手に入れました。新しい魔法を手に入れたからには、この魔法を使いたいですね。魔法のレベルも上げたいところです。
訓練所では経験値が微量しか手に入りません。なのでフィールドに出てモンスター相手に戦うのがいいでしょう。ちょうど時間も夜ですからね。
問題はどこに行くかです。【黄昏の森】はしばらく近づきたくありません。それにあそこの森のモンスターは数で来られると厄介です。街に広がる平原のモンスターではレベル差があり、試し撃ちするのに物足りません。なので今回はベリー村の近くにあった東の森に行くことにしました。
ダイロードの街から東に向かいます。あっそうでした。この前【風魔法】に新しい魔法が追加されていたのでそれを使いましょう。新しい魔法は【ウィンドステップ】。
移動速度が少しだけ上がります。それをかけて歩いてみる。おお、確かに普段よりも速いですね。走ってみるとその速度の差がもっと分かります。
すぐにこの前のエピッククエスト以来、久々に見るベリー村の姿が見えました。
道をさらに進めば港町のある方角に続きます。その道から分かれた道を行くと東の森にたどり着きました。
夜とあって辺りにいる人の数はそこそこ。森の中にも少しいるのでしょうか、明かりがちらほら見えました。
「おっと」
……と、思いましたがどうやら違うようですね。横からかがり火を持った団体が現れました。それは人ではなくオークです。四体ほどのオーク達と鉢合わせてしまいました。
かがり火が照らすオークの顔は少し怖い。夜中のこんな森の中で出会ったら、軽くホラーですよ。心臓の動悸が速まってしまったではありませんか。そんな彼らは武器をそれぞれ持ちます。
「好戦的なのは嫌いではありませんよ。こちらも魔法の的を探す手間が省けました」
暗がりの中でにっこりと不気味に笑ってみます。そう見えているといいんですけど……今度鏡で表情の練習でもしてみましょうか。
でも、効果はあったようで少しだけオーク達が怯みました。心臓は相変わらずバクバクとしていますけど。
しばらくオーク相手に【土魔法】を試し撃ちしていました。スキルレベルが5になると【アースシールド】という前方に土の壁を設置できる魔法が使えるようになりました。
少しだけHPが設定されており、これがなくなるか消失時間が経過しないとその場にあり続けるようです。
《レベルが20に上がりました。SPが2増えます》
おお、レベルが上がりました。やっと二十レベルになることが出来ましたよ。
この調子でまたしばらくオークを狩ります。オークは確かにタフですが、火力が高いから一撃で瀕死までいけます。これだけの力を見せてもオーク達は怯まずに向かってくる。その精神に感服します。単に敵を見つけたら襲ってくるだけの脳しかないのかもしれませんけど。
ですが一度だけ戦闘中に逃げたオークがいました。逃げる者を追うほど私は非情ではないので見逃します。立ち向かってくるオークには――
「私の魔法、耐えられるのなら耐えてみせなさい」
全力を以て迎え撃ちましょう。……ニルですか? ニルなら近くの枝に止まって寝ていますよ。私が余裕だからか途中から寝ました。敵のステータスが見えないでしょう、仕事してください。
《闇魔法スキルが20になりました。派生スキルが取得可能になりました》
《風魔法スキルが20になりました。派生スキルが取得可能になりました》
待って。ちょっと待って欲しい。いきなりシステムメッセージの嵐が来ました。止めてくれませんか、びっくりするでしょう。どうやら【魔法知識】や【召喚:ファミリア】にも変化があった模様ですがこの辺の確認は後にしましょう。
雨が振ってきて空が見えないとはいえ、もう朝になりつつあります。夜は無双できるとはいえ、日中はもう無力に近いです。さっさと街に戻りましょうか。
雨の中、少しずつ明るくなっていく東の森を歩きます。つばの広いとんがり帽子を被っているので、帽子が傘代わりです。なので肩にいるニルがまったく濡れていません。雨を気にしなくていいからか、ぐうぐうと寝ていました。
「どうしました」
そんなニルが突然目を開きました。【ウィンドステップ】の効果で少しだけ速かった歩きを急いで止めます。そしてその視線の方角を見る。
「……オークですか」
視線の先には一体のオークがいました。雨を避けるように木の下にいます。いや、隠れていたのでしょう。そのオークの頭上に現れているHPバーは赤く、瀕死の状態でしたから。
そのオークもこちらに気付いたのでしょう。大きな瞳でこちらを見ます。逃げることはしませんでした。その場に座り込んだまま動きません。その巨体は寒さにでも震えているのか、小刻みに震えていました。
「……安心なさい。戦う意志のない、瀕死の者を一方的に殺したりしませんよ」
さっきまで大量のオークを倒していましたけど。歯向かってくる敵には容赦しないだけですから。
それにしても、瀕死ということはきっと誰かに襲われて逃げてきたのでしょう。まだどこかにこのオークを狙ってトドメを刺そうとしている人がいるかもしれません。
もしかしたら、この傷は私が付けたのかもしれませんが……オークの見分けは付かないので分かりません。それより、どうしましょうか。見つけてしまった以上、このまま放っていく気にもなれません。なので……
「あぁなんということでしょう。手が滑ってポーションが落ちてしまいました」
にっこりと笑いつつそんなセリフを言います。オークは驚いたようにこちらを見ていました。
「落としてしまったものは仕方ありません。諦めて街に戻りましょうか、ニル」
そうニルに語りかけながらこの場を去りましょう。……ニル、その表情はなんですか。生暖かい目でこちらを見るのは止めてくれませんか。
雨が上がって空が晴れていきます。朝日の眩しい平原を歩きつつ、私はダイロードの街に向かっていました。
「…………」
【ウィンドステップ】の効果が切れてしまいました。もう一度かけ直そうか悩みます。だって、もしそうしたらきっと全力疾走で付いてくる。
「……なんで付いて来ているのですか?」
後ろを振り返って言います。森を出ても、平原を走っても、後ろから先程助けたオークが付いてきていました。
「礼がしたいというのであれば別にいりませんよ。手が滑って落としたポーションがたまたまあなたにかかっただけですから」
そう言って歩くのですがまだ付いてきます。
「私はあなたの仲間を大量に殺していますよ」
「…………」
「あぁもしかして敵討ちでしたか。でしたらお受けしますよ」
後ろを振り返ってにやりと笑う。するとオークは否定をするように首を激しく振りました。なんだか怖がらせてしまったみたいです。
「じゃあ、なんだというのですか? お礼ですか?」
オークはゆっくりと頷きます。
「嘘ですね。頷くのに時間がかかりました。礼をしたいわけではないようですね」
オークはビクリと肩を震わせました。このオークは臆病者なのでしょうか。先程のオーク達のような迫力がまるでありません。
大きな目は落ち着かないように視線をあちらこちらに彷徨わせていました。
目を合わせようとすると、視線は体ごと逃げていきます。視線を追って大きなオークの周りをぐるりと一周してしまいました。
「おい、その子から離れろ!」
「ん……?」
どうしたものかと考えていると突然、オークと私の間に入ってくる人が来ました。
「大丈夫か、あんた」
大きな両手剣を持った少年くんでした。その少年くんは持つのもやっとそうな大剣をオークに向けています。
「俺が来たからにはもう安心だぜ」
「……はぁ」
思わずそんな言葉が出てきてしまいました。いや、ちょっと待って下さい。もしかして私がオークに襲われているとでも思ったのでしょうか。
「この子を連れ去りにでも来たんだろう。だが運が悪いな、この聖剣に選ばれし俺が来た限り、そうはさせないぜ!」
確かにこの大剣はそんじょそこらの剣と違いますね。透明で輝く石が柄にはめ込まれた、勇者の剣とでも言えます。この少年くんの服装から見て低レベルです。そんな彼がこんな剣を持っているのが不思議ですね。
少年がオークに斬りかかりました。オークの方が強いはずです。なのに一撃を貰って傷を負いました。
「クソッ逃げるな!」
少年くんはまだ剣の扱いになれていないのか、乱雑に剣を振り回しています。さっきの一撃はまぐれだったようですね。でもオークの方も動きが鈍い。いやオークは丸腰で逃げているだけです。このままでは倒されてしまうかもしれません。
「やめなさい。そのオークは――」
「いいって俺が片付ける。あんたはそこで見てろって」
カッコつけるような笑顔を私に向けて少年くんは止まりませんでした。……見ていられません。
「……なっ!?」
私は新しく習得した【闇魔法】の【シャドウムーブ】を唱えました。半径五メートル以内の影のある場所に移動する事ができる魔法です。影から影に移動できるというロマンのある格好いい魔法だと思いませんか。
それを使ってオークの影から出現。斬りかかろうとした少年くんの前に突然私が出てきた形です。少年くんは慌てて剣を下ろします。
「運が悪いのは……いいえ、悪いのはあなたのほうですから」
「えっ、なっちょっとま――!?」
運が悪い、というより勘違いしましたね。私が唱えた【シャドウアロー】を少年くんは喰らいました。
「なっなんでぇ……」
「理由は自分で考えなさい」
丸腰の相手で、しかも反撃もしない相手を狙うからですよ。そして話を聞かない。
なのでちょっと魔法を当てて止めようとしたのですが、どうやら魔法の火力が高かったみたい。勢い余って少年くんを倒してしまいました。今は朝なのに。止めるだけなら【ダークバインド】を選択しておけば良かったかもしれませんね。
残っていた少年くんの死体は光に包まれて消えて行きました。まったく、よく見ていればオークが私を襲っているようには見えなかったはずです。……もしかしたらオークの周りをぐるぐるとしていたのが逃げ回っているように見えていたかもしれませんけど。
「余計な邪魔が入りましたが、話を戻しましょう。……あなたはどうしたいのですか? ここにいればさっきみたいに襲われますよ。ここは街の近くですし、時間的にこれから人が増えます」
もう一度、ポーションを投げ与えながら聞きます。朝日に照らされたオークの目がこちらを見ました。相変わらず私が怖いのか、目を合わせる度に視線が逃げていきます。ですが先程よりもこちらを見る回数が増えていました。
「森には戻らないのですか?」
コクリと頷きます。
「……まさか森に戻りたくないですか?」
またコクリと頷きました。
「じゃあどうするんですか。森に戻りたくないなら、あなたの帰る場所は――」
どこにもないではありませんか。
どうして戻らないのか理由は分かりません。だけど、私に付いてきた理由はなんとなく分かりました。どこにも行く宛がなかったから、助けた私に付いてきてしまったのでしょう。
どうしましょう。助けてしまった責任がこちらにもできてしまいました。このままここに放っておいても、さっきみたいに誰かに倒されてしまうでしょう。森で別れた頃なら知らない間にそうなっていたとしても、あまり気にしませんでしたが……。
「はぁ……私の負けです」
情が移ってしまったのでしょう。このオークを先程まで経験値の糧にしていたオーク達と同列に見れません。
ならば、どうするか。このオークを助けるということは仲間にするようなものですね。使い魔にするという手もありますが、生憎と今のレベルで契約できる使い魔の数は二体です。一体はニル、もう一体はこの先したい子がいるので枠がありません。
あぁそういえば。良いものがありました。
「二回もあなたを助けました。三回目の助けも欲しいですか?」
オークに聞いてみるとその言葉に頷きました。
「なら私の従者になりますか? ちょうど身の回りの世話をしてくれる者を探していたんですよ」
そう言って私は【従者契約書】をインベントリから取り出します。これは前に買ったはいいものの、契約する相手がいなかったのでインベントリの肥やしになっていた物です。これが契約できる相手は人間限定ではなさそうですね。
契約書を開く。様々な雇用に関する設定ができるようです。報酬、労働時間、規約など。後から変更できるようなのでとりあえず報酬なし、労働時間無制限などにしておきます。なんというブラック。
それから契約者二人の名前。
「……あなたの名前はなんですか? 教えてください」
そう聞いたら首を振りました。ないのかと聞いたら頷きます。どうやら名前がないようです。しかし、名前がないと契約ができません。
「こちらで適当に付けてもいいですか」
また肯定するように頷きます。うーん、いきなりこのオークの名前を決めなくてはならなくなりました。
「じゃあ、アール。あなたの名前はアールです。それでいいですね?」
今度はなんだか嬉しそうに頷きます。……最初は怖い顔と思っていましたが、意外と可愛らしく見えてきました。
「ではアール、これからあなたは私の従者として働くように。雇用に関する細かいことは後で決めましょう」
決定ボタンを押すと契約は成立しました。光に包まれた契約書は二つに分かれ、一つは私の手に。もう一つはアールの手に渡ります。
【従者契約書】はお互いの立場は対等のようです。強制的な力はなく、相手の同意なしに成立しない。もしも、片方が契約を破棄したいと思った場合、自分の契約書を破けば契約は解消されるようです。
これはきっとプレイヤー同士で使われた場合を想定しているのでしょう。一方的で強制的な契約をして、トラブルが起きないようにするための。
「……三回も助けたのですからきっちりとお礼をするまで逃げないでくださいね」
アールが逃げることはなさそうですけど、一応釘を刺しておきましょう。アールはビクリと震えつつ、何度も頷きました。
……そういえば、少年くんが倒れた辺りにアイテムが落ちていました。なんだか少年くんの持っていた綺麗な大剣そっくりですけど、きっと気のせいですね。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
LV20 残りSP23
基本スキル
【両手杖LV20】
【魔法知識LV20】【魔力LV20】
【闇魔法LV20】【風魔法LV20】
【土魔法LV8】
【月光LV13】【下克上LV11】
【召喚:ファミリアLV20】【命令LV14】
【暗視LV20】【味覚LV17】
【鑑定:植物LV19】
【採取LV18】【調合LV19】【料理LV1】
【毒耐性LV9】【麻痺耐性LV9】【睡眠耐性LV8】
【言語:スワロ王国語LV11】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
称号
【ベリー村の救世主】
名前:ニル
種族:使い魔
性別:オス
LV19
基本スキル
【闇の知恵LV19】【ダークミストLV12】
【看破LV14】【冷たい視線LV13】
ユニークスキル
【森の賢者】【夜行性】




