23・西側の森
「鉱山に続く出口はあちらですよ。それではお気をつけて」
最後のポーションを買ってくれた人に笑顔を向けつつ、夕日の光に消えていくその背を見送ります。最後の客だったので思わず道を教えてしまいました。まぁ思わず教えたことが他にも何回かありましたけど……彼らには教える義理がありましたから。
さて、大量にあったポーションの在庫も、二日で全てを売りきることができました。お金も手に入ったのでしばらく困りません。
そうですね……お金に余裕が出来ましたし、街に帰ったら何かおいしい物でも食べましょうか。いつもは単価の安い屋台でばかり食事していますから、たまにはレストランのような店に行ってみましょう。この前掲示板を覗いていたら、おいしいと評判の店があのダイロードの街にあると書いてありました。
「屋台の食べ物もいいですけどたまには店の食べ物でも食べてみませんか、ニル?」
私の提案に目を閉じたままだったニルが、目を開けて私を見ながら何度も頷きました。……興味津々といった様子ですね。
「では街の方に戻りましょうか」
私たちはダイロード方面の出口に向けて歩き始めました。この森の中も慣れたものです。元々地形が分かっていた場所ですし、ずっと出入りしているので迷うことなんてありません。それどころか地図上では分からない森の中のそれぞれの場所の特徴も【土地鑑】スキルのお陰か、手に取るように分かります。
「だからこそ、この森のあちら側が気になってしまいますね」
歩みを止めて私は森の西側を見ます。夕暮れに包まれていく森の先、暗い森の中の暗さがさらに濃くなっていく。でも、その影の色はそれだけではないと感じさせるほどに薄気味悪い。
この森はダイロードの街から見て西南一体を覆うように広がっています。そして森の中を南に向けて歩くとイルー鉱山へ続く森の出口にたどり着きます。西側は果まで行くと大きな山にあたり森はそこで終わる。問題はその西側の森の大きさ。
「この先……西側に広がる森は広すぎると思いませんか、ニル?」
私の問いかけにニルは閉じていた目を開けます。地図上で見ると西南に広がる森。鉱山に向けて森の中を歩くなら西側は歩きません。スルーすることが出来ます。現にこの森を攻略するプレイヤー達も西側に近づくに連れて、徐々に姿を見なくなっていく。最初は攻略に関係ないから行かないとばかり思っていました。私も客がいない方に行く意味もないので行きませんでしたが……
ですが、この森はなんと呼ばれていたでしょうか。方向感覚を失い、森の中を彷徨うことになり、死ぬまで出られない死者の森と……。
迷うならば関係のない西側にだって行ってしまうはずなのに誰も行かない、いえ、誰も迷い込んでいません。
……気になりますね。実に気になります。ただ偶然誰も行っていなかっただけかもしれませんが、私は西側に行ったことがありません。それに地図上だと西側の奥には湖があるようなので、そちらも少し気になります。
この森には結構通っていますが、あまり森の事を考えたことがありませんでした。少しだけ見に行ってみましょうか?
「……ニル? どうかしましたか?」
西に向けて少し歩いてみる。するとニルの様子がおかしい事に気が付きました。いつもならば昼夜問わず目を閉じて寝ているのに、先程から鋭い目つきで森の奥を、進む方向を見ています。
そして私の目を見ると、フルフルと首を左右に振りました。
「この先に行くなと行っているのですか?」
答える前にニルは私の肩から飛び上がります。……それと同時に私も異変を感じ取る。そっと杖の柄を握る手に力を入れ直して、周囲に声をかけます。
「…………コソコソと隠れているのは誰ですか?」
異変、というよりも人の気配が辺りにありました。それも草木の陰に隠れている感じです。こういう輩はあまり良い人とは言えませんね。




