六話、獣人。
目標を立てたカノンは自分の持っている武器を一通りチェックするとセーフティエリアを出ることにした。セーフティエリアから出たカノンは短剣を取り出し木の枝に止まっていた小鳥に向かってそれを投げた。
「よし」
針の穴を通すようなコントロールで投げられたそれは見事胸部を貫き、小鳥を落下させた。
地面に落ちた小鳥は光の粒子のなって消え、そこには羽が落ちていた。もちろん短剣を回収することも忘れることはない。
貴重な羽を手に入れたカノンは軽い足取りでセーフティエリアの近くにある水辺まで行く。
まだ森には入っていないカノンだが、森に入らない限りは現在目標としている二つを叶えることは出来ない。水辺を超えた先が森の入口となっているがカノンは未だそれ以上先へと進もうとはしていない。
「どうしようかな」
前に一度作った手順で『まずい薬』を何個か作っておく。これはこれで回復には役に立つ。
試しに『まずい薬』を何個か作ってみたが、回復量が変化するわけはなく、どれも同じものだった。品質というのは何のかもしれない。まだ何とも言えないが
。
サバイバルナイフが多量摩耗していることに気付き、研ごうと思ったが砥石がないためそれは出来なかった。
アイテムを使えば当然摩耗する。それは目に見えて分かる変化で切れ味も低下していた。アイテムを使えば摩耗するように肉体も動かせば腹が減る。今まで気がつかなかったがどうやら空腹度的なパラメーターもあるようだ。残り残量が10以下になっているところを見る限り予想以上にお腹が空いているようだ。
そんなことを考えると余計にお腹が空いて力が出なくなっていく。
死に戻りが餓死なんてものは嫌だ。
カノンはそれだけを考えていた。水辺の近くに生えていたよくわからない草を口に含みながらカノンがどうするべきか考える。
「……しょっぱ」
今口に含んでいた草を見てみると『海水草』と呼ばれる調理素材だった。これ自体に空腹を回復させる効果はなく、調味料として使えるようだ。
「手持ちのアイテムだと空腹回復できそうなアイテムないし」
カノンは食べられそうなモンスターを探しつつも、同時に食べられそうなアイテムを探すことにした。町まで戻れば簡単なことかもしれないが、町までこの空腹が保つことが出来るのか心配だったし、それにまだゴブリンの討伐を終えていない以上は街に戻る選択肢はなかった。
カノンは水辺を泳いでいる魚に目を付けると冷静に短剣を投げた。それを幾度となく繰り返す。魚が10匹ほど獲れたあたりで一度手を休める。
サバイバルナイフで木の枝を器用に斬るとカノンは魚を串刺しにして地面に突き刺した。水辺に生えていた『海水草』も何枚か採取するとサバイバルキットから火打石を取り出す。
元々持っていた木の枝を取り出しそれに着火する。不慣れだったとはいえそこはゲームであるのかやり方については多少補正が入り、普通にやるよりもやり易かった。
食事の準備をしていると近くからカサカサと何か物音が聞こえた。
「誰?」
カノンは音のした方角を見ながら短剣をゆっくりと引き抜いた。もしかしたら小動物かもしれないと思ったための行動だったが、その正体は違った。
「にゃはは、ばれちゃった」
「誰?」
同じプレイヤーであろう獣人は笑いながらお腹が空いていることをアピールしてきた。つまり食料を渡せと。
「違うにゃ、うまそうな魚だったから分けて欲しいと思っただけにゃ」
「分けるのは全然かまわないのだけれど、君は?」
「そう言えば名乗ってないにゃ、うちはミュウって言うにゃ。よろしくー」
ゲームが始まってそれほど時間は経っていないというのに彼女はすでに村人のような恰好ではなく、一端の冒険者の恰好をしていた。
彼女が言うには装備を買うのにお金を使って食べ物を買うのを忘れていたそうだ。
「うちは今レベル3にゃ。……そう言えば、名前聞いてないにゃ」
「僕はカノン。薬師だよ」
「最近の薬師は料理も出来るのかにゃ」
それは知らないとカノンが答えるとカノンが渡した焼き魚を美味しそうに頬張った。
「空腹も回復出来たにゃ。何か恩返しをしたいにゃ」
「気にしなくていいよ」
カノンはサバイバルキットを片付けながら、獣人ロールも大変だな的なことを考えながら静かに短剣を抜いた。
「な、何するにゃ」
「黙ってて、ここはセーフティエリアじゃないから」
カノンの視線の先には傷だらけのゴブリンがいた。たぶんカノンが苦戦したやつに間違いないだろう。
「あれは僕の得物だ」
「なら恩を返すときにゃ」
バトルアックスの重量をものともせず、それをミュウは片手で扱っていた。
<ステータス>
名前 カノン
種族 咎人
レベル 1
HP80/80
MP40/40
攻撃力5
防御力1
魔法攻撃力2
魔法防御力1
回避力7
速度7
技術力4
幸運1
所持金0ガルム
貯金0ガルム
固有技能
【罪の剣Ⅰ】レベル1
独自技能
なし
既存技能
【投擲】レベル2 【採取】レベル2
職業技能
【薬師】レベル1
<装備>
武器 屑鉄の剣
武器 屑鉄の短剣
盾 なし
頭 なし
腕 屑鉄の篭手
胴体 薄汚れた衣服
腰 なし
脚 壊れかけのサンダル
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし




