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第96話 未来への手紙

「未来への手紙?」


「そう、未来への手紙だよ」


 今から40年ほど前、フィー・ラ・フーリがまだ二十歳の頃である。


 フィーは幼馴染のカーノという少年のエルフと話をしており、彼の言う『未来への手紙』というものに大変好奇心をそそられていた。


 二人とももう二十歳になるが、エルフは非常に長寿で成長が遅いので人間ではまだ十歳ほどにしか見えない。余談であるがオンデンザメという深海のサメは成体になるのに150年かかるらしい。


「未来の僕は、もう誰かと結婚してるかな? 子供は出来てるかな?」


 カーノはニコニコしながら未来の自分に対して手紙を書いているが、フィーはなんだかつまらなさそうな顔をしてプラプラと筆を空中に振っている。


(手紙かぁ……未来の私なんて言っても、どうせお母さんの跡を継いで世界樹の守り人をやってるんだろうしなぁ……つまんない未来しか浮かばないよ……)


 ふと思いついたことがあってフィーも筆にインクをつけ始めた。


 (どうせつまらない未来しか思い浮かばないし、手紙ももしかしたら自分じゃなくて全然関係ない人が見つけちゃうかもしれないもんね。だったら見つけたらびっくりするような、尖った手紙を書いてやろう!)


 二人は手紙を書き終えると、それぞれ別の、秘密の場所に手紙を瓶に入れて埋めたのだった。





(それがまさか……このタイミングで見つけることになるとは……)


 ぎゃあぎゃあ騒いでいるグリムナ達をしり目に、フィーは諦めたようにそのまま顔を覆い続けた。


 グリムナが見つけた瓶詰の呪いの手紙、それはフィーが40年ほど前に埋めた意味のない手紙であった。


(とはいえ、この手紙が埋まってるってことはもうここはエルフの生活圏に入ったということか、はぁ、憂鬱だ……)


 ようやくフィーは顔を上げて、まだ騒然としているグリムナ達に「それは別に呪いじゃないし気にすることはない」と語ってから、すぐに寝支度を初めてすぅすぅと寝てしまった。


 グリムナ達もしばらくは戸惑っていたが、なにしろフィーは『問題ない』と言ってそのまま寝てしまったのだ。これ以上気にしても仕方ないかと思い、食事の後片付けをして、寝支度を始めた。



 翌朝、グリムナは目を覚ますと同時に硬直してしまった。


 見知らぬ女性が寝ていた自分の顔を覗き込んでいたからである。


「お……」


 女性は顔に少し皺が走り始めている40代くらいであろうか。髪は白髪、それは加齢による物ではなく生来の物であるようで、髪はまだつやつやとした光沢を持っていた。


 そして何より特徴的なのがその耳である。長いのだ。エルフである。


「おはよう、ございます……」


「…………」


 少なくとも攻撃の気配はない。そう感じて寝転がったままのグリムナは思わず間の抜けたせりふを吐いてしまう。彼がちらりと目線だけで辺りを見回すとグリムナ以外はまだ誰も起きていないようであった。しばらくの沈黙の後、女性が口を開いた。


「はじめましてじゃなくて?」


 その通りだが、そういう問題だろうか。


 グリムナはとりあえず起きあがって「はじめまして」と挨拶した。しかし、この女性は何者であろうか。いや、おそらく探し求めているエルフの隠れ里の者なのは疑いようのないところである。しかし行動が謎過ぎる。


 声をかけるでもなく寝ていたグリムナの顔をのぞき込んでいたのだ。


 女性はふぅ、と小さいため息をついた後、フィーの前まで行ってしゃがみ込んだ。


「起きろ」


 女性がそう言うと、それまでグースカ寝ていたフィーがバッと目を覚ました。


「ああああ……お、おか、おかおお……」


 わたわたしているのが遠目からでも十分分かる。この女性、もしや……とグリムナは思った。


「お帰りなさい、フィー。随分長いトイレだったわね……」


「お、お母さん……ただいま……」


 グリムナの見立て通り、やはりフィーの知り合い、というか母親であったようだ。そして、フィーは褐色の肌をしているが、彼女の母は普通の白い肌である。


 そうこうしているとヒッテとバッソーも起きあがってグリムナと同様彼女を見て固まっていた。


 グリムナは佇まいをただしてから改めて彼女に挨拶をすると、ヒッテとバッソーにも話しかけた。


「ちょっと唐突な登場だったけど、どうやら彼女がフィーの母親のようで……」

「ちっ、ちがっ、私は! ダークエルフで!!」


 グリムナの言葉を涙目のフィーが遮るが、女性の反応は冷ややかなものである。澄まし顔でフィーに問いかける。


「あんた今そんな設定やってるの? じゃあ名前は? フィー・ラ・フーリでしょ?」


「ちっ、ちが……その、似てるけど、フィラー……フーリンという……旅のダークエルフで……」


「もう散々フィー・ラ・フーリって名乗ってるじゃないですか。相変わらず詰めの設定が甘いんですよ、フィーさんは」


 もうくだらないやりとりが見てられなくて、思わずヒッテがつっこみを入れた。フィーは涙目で「ぐぅぅ……」と唸っている。ようやく彼女も観念したようだ。


 女性は立ち上がってグリムナ達の方を向いて自己紹介をした。


「私の名前はメルエルテ。フィーの母親よ。あんたたちは?」


 若干高圧的な態度ではあるが、グリムナが改めて紹介を返す。


「私はグリムナ、聖剣エメラルドソードを求めて旅をしている一行です。こちらは仲間のヒッテと賢者バッソー殿です。フィーさんにはいつもお世話になっております。」


「人間如きが賢者ね……」


 そう言いながらまたメルエルテはグリムナの近くまで歩み寄ってきた。今の発言を受けて、グリムナは「フィーと同様、この女もレイシストか」と身構える。


 メルエルテはグリムナの正面に立つと上から下までなめ回すように見た後、振り返ってニヤリと笑いながらフィーに話しかけた。


「まあ、約束通り連れてきたみたいだし、いいか……ヒューマンってのが少し気に入らないけど」


 「連れてきた? 何を?」グリムナが心の中でそう思ったが、それと同時にフィーが口を開いた。


「連れてきた? 何を?」


「…………」


 場に沈黙の空気が訪れた。どうやらグリムナ達だけでなく、フィーもまたやはり事態を把握していないようだ。

 ふと、メルエルテを見ると、怒りでふるふると震えているのが見えた。これはまずい。まずいのは分かるのだが、しかしグリムナにはどうしようもない。話が全く見えないからだ。


「いやあの……どう言ったお話でしたっけ? ……お母様?」


 フィーが半笑いで聞くと、メルエルテも少し怒りが収まってきたようではあるものの、やはり声を震わせながらゆっくりと答えた。


「ほんっとーになんにも覚えてないのね……そもそもが、家に引きこもって変な小説ばっかり書いてないで、さっさと就職するなり結婚するなり考えなさいって説教されたときに『トイレ行ってくる』って言って逃げたのが始まりでしょうが!!」


「と、トイレ? まさかそのまま家出したんですか……?」


 ヒッテが驚いて聞き返すが、メルエルテは不機嫌な表情を崩さず言葉を続ける。どうやらその通りのようである。


「私だってまさかトイレに行くって言ってそのまま着の身着のまま20年も家出するなんて思いも寄らなかったからね……完全に虚を突かれたわ……」


「前々から思っていたけど計画性ってもんがまるで感じられんな……」


 グリムナが思わず額の汗を拭きながらそう言った。フィーは基本的に行き当たりばったりで生きている女である。


「でもまあ、こうやってちゃんと約束通り結婚相手を見つけて連れてきたんだから良しとしてやるか!」


「はぁ!?」


 全員がきれいにハモった。

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