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第81話 めんどくさい女2

やっと騎士団の内乱もおさまったが、イェヴァンが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている!どうする?

当然拒否するグリムナだが、イェヴァンは最終兵器、『秘められた悲しい過去』を繰り出すのだった。

ヒモ男に騙されてただけのしょうもない過去を聞かされたグリムナは……!?

「結局その大暴れが原因でアタシは裁判にかけられ、騎士団入りの道も消えたの……まあ、周辺十数軒の家を跡形もなく破壊しつくしちゃったから、仕方ない事なのかもね……」


 なんとも迷惑な大熊である。突然話が大きくなりよった。ちょっとしたテロである。そりゃ自宅周辺の民家を丸ごとグラウンド・ゼロにしたら騎士団入りが消えるのも是非もあるまい。


「人を愛することがこんなにつらいなら……アタシはもう愛なんていらない……そう思って自分の騎士団を立ち上げたの」


 グリムナは色々とツッコミどころがある回想に対し、そのツッコミ心を抑えつつも、言葉を選んで話し出そうとした。


「それは違う……人を愛するということは、それ自体が尊い事なんだ。見返りを求めずに人を愛したお前の行動は……」


 そこまで言ってはた、と言葉を止めた。ヒッテの無言の視線が刺さったからである。


 流れで彼女を慰めようとはしたものの、自分は何を言おうとしていたのか……よく考えたら、それが分からなくなってきていた。彼はイェヴァンを説得しようとしたのだが、説得してどうするのか。

 『人を愛することは、たとえそれが実を結ばなかったとしても尊いのだ』そう言う趣旨の事を言おうと思った。『お前が彼を愛したことはお前自身の血肉となっているのだ。それは無駄な事ではない』そう言って彼女に人を愛することの尊さを説こうとしたのだが、それで説得してどうなるのか?


 ひょっとしてその説得が成功すると、結局彼女を仲間にする流れになるのではないか? ヒッテの視線がそう語っているのだ。


 よくよく考えたら本末転倒である。


 グリムナは彼女に騎士団に戻ってほしいのだ。彼がキスをして、改心させたイェヴァンとアルトゥーム。この二人が騎士団を率いていけば、ひょっとしたら狂犬集団の国境なき騎士団も少しはまともになるかもしれない。


 そして、彼女を待つ千人からなる狂犬を、いったい彼女以外の誰がまとめることができるというのか。


 危うく物事の本質を見誤るところであった。彼ももう子供ではない。勢いだけで生きるのではなく、物事を『損』と『得』で考えねばならない年頃だ。そして彼の『得』とは、それは即ち民の安寧だ。目の前の事に振り回されて本質を見誤るな。今回の作戦でさんざんヒッテに言われたことである。

 そこまで考え至った時であった。木陰から数名の足音とともに声が聞こえてきた。


「あれ? ……どうなってんの? これ……騎士団は?」


 懐かしいその声にグリムナは振り返る。


「ラーラマリア……なぜここに?」


 本日二人目のめんどくさい女の登場である。木陰から現れたのは勇者ラーラマリアと、シルミラ、それにレニオ、グリムナの幼馴染の一行であった。しかしなぜこのタイミングでここに、という疑問が残る。グリムナが騎士団に捕らえられて、こんな絶妙なタイミングで。いや、実際にはグリムナはもう脱出して全て事が終わった後なので全然いいタイミングではないのだが、それにしてももしグリムナの危機を知ってのことであったら早すぎる。


「いや、グリムナが騎士団に捕まったって聞いて……」


「ご主人様が捕まったのは今日の午前中の話ですよ? 早すぎませんか?」


 ラーラマリアの言葉にヒッテが突っ込む。そうなのだ、最初から近くにいたとしか思えないタイミングなのだ。なぜ彼の危機を知ることができたのか。


「い、いやぁ……その……」


 言葉に詰まり、冷や汗を浮かべるラーラマリア。さすがにグリムナも彼女の異様な対応に訝しむが、ラーラマリアは胸から下げていたペンダントを手に取って説明を始めた。


「こ、この……ペンダントが、グリムナの危機を知らせてくれたの……?」


「へ……? そんなこと言ってたっけ?」


 レニオがそう突っ込んだ。グリムナがベアリスから貰い、そのままラーラマリアにプレゼントしてしまった曰く付きのペンダントである。確かにベアリスは魔力の込められた高価な物だと言ってはいたが、そんな効果があるとは初耳である。しかしペンダントの事を出されてグリムナは狼狽えてしまう。


「あ、ベアリス様からもら……、あ、いや……、そうかぁ! ペンダントが俺の危機を知らせてくれたのかあ!!」


「え? ベアリスって、確か、ターヤ王国の……?」


 途端にラーラマリアの眉間にしわが寄る。まさかここで出てくると思わなかった女の影に一瞬険しい表情を見せた。


「いや、俺を助けるために来てくれたんだよね!? 助かった! 本当に助かったなぁ!! ちょっとタイミングが合わなくて事が終わった後だったけど、やっぱり持つべきものは幼馴染みだなあ! ありがとう、ラーラマリア!!」


 グリムナはもはやベアリスの事をごまかそうと必死である。彼女の登場が不自然だった件はもういいのか。


「そ、そう! グリムナの危機を知ったら居ても立ってもいられなくて、全速力で駆けつけてきたのよ!!」


 そしてラーラマリア自身も何かを隠そうと必死でこれに同意する。互いに互いを怪しいと思ってはいるものの、やはり互いに後ろめたいことがあるので深く突っ込んで聞けないのだ。非常に白々しい場面になって来た。


「怪しいなぁ……シルミラは何か知ってるの?」


「い、いやあ……何も?」


 レニオも訝しんでシルミラに尋ねるが、やはり彼女もとぼけたように答えを隠すのみである。真実は一体どこにあるのか。


「ちょっと……いきなり表れてなんなのよ、あんたは」


 途中で話を遮られてしまったイェヴァンが不満そうな顔でそう話しかけた。グリムナとイェヴァンの話はまだ終わっていなかったのに途中でそれを中断されたのだ、それも仕方あるまい。


「あんた、もしかして国境なき騎士団のイェヴァン? 噂通りの使えないババアね」


「なんだと!? いきなり出てきて好き勝手言いやがって! 言っとくけどアタシとグリムナの仲を引き裂こうったって無駄よ! もうアタシらは一線を越えた仲なんだから!!」


 キスをしただけであるが、この言葉がラーラマリアの琴線に触れてしまった。こうなったらもはや止まらない。


「い、いや、これには事情があって……」

 必死に言い訳を、この場にいるすべての人に対して展開しようとするグリムナであるが、もう口火はついてしまったのだ。彼の言葉を遮ってラーラマリアが口を開く。


「黙れ! 調子に乗るなよババア。グリムナが過去にだれと何をしようが関係ない。誰を愛そうが、どんなに汚れようが構わない。最後にこのラーラマリアの横にいればそれでいい!!」


 突然世紀末覇者のようなことを言い出すラーラマリア。しかしその『汚れた』と言うのがそもそも誤解なのだが。いや、普段から汚れきっていているのかもしれない、別に今に始まったことではないのだ。しかしこの言葉にイェヴァンの怒りはもはや留め得ず、臨界点に達してしまったようで、サガリスを構えながらラーラマリアを睨みつける。


「どうやら真の敵が姿を現したみたいね……格好つけてるつもり? そのセリフ……サムいのよ!」


 売られた喧嘩は買うのがラーラマリアの主義である。彼女も腰の剣を抜いた。この二人を止められる実力のある者はここにはいないのだ。


「ババア無理すんな。たまたまチートアイテム手に入れただけの熊女が勇者に敵うと思ってんの?」

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