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第32話 うんこ製造機

「すみません、変なこと言ってすみませんでした。冒険とかもういいです。私の気の迷いでした」


 グリムナがベアリスにそう話しかけたが、視線は合わせていないし、先ほどの姿勢のまましゃがみこんで両手で顔をふさいでいる。そのままの姿勢でしゃべり続ける。


「路銀も稼げましたし、私たちはもう行きます。世界を滅ぼす竜を倒す目的があるんです。それについて調べるために世界中を回ろうと思うので、これでさよならです。差し出がましいようなことを言って申し訳ありませんでした」


 グリムナは何やらとても重要なことを言っているような気がするのだが、うずくまったまま両手で顔を押さえて言うようなセリフだろうか。姿勢を変えないまま淡々と状況説明だけするグリムナの態度にやはりさすがの糞ニートもただならぬものを感じいったのか、そうでもないのか、それは判然としないが、ベアリスは次のようなことを言った。


「ああ、そういえばラーラマリアさんはそんなことを言っていましたね。忘れる所でした。あれからちょっと竜についてこちらでも調べてみたんですよ」


 意外なベアリスの言葉にグリムナがバッと顔を上げる。こんな建設的な話が聞けるとは。どうやら目の前の少女はただのうんこ製造機ではなかったようだ。


「まず、竜が世界にその姿を現したのは400年前、これは知ってますよね? いろいろな国に伝説として残ってますから」


 このベアリスの言葉にグリムナは頷いて肯定する。世界に水の湧き出るがごとく戦が起き、人の世が麻の如く乱れ、親が子を殺し、子が親を殺す。そんな人々の心が疲弊しきった時に竜が現れて、世界は混乱の渦に陥り、多くの人が死んだという。戸籍がはっきりとない時代だったため被害の規模は曖昧だが、この大陸の三分の二の人間が死んだという。


「まだ文字のあまり普及していない時代だったので記録がほとんど残っていませんが、人によっては争いをやめない愚かな人間に神が怒って天罰を与えた、と主張してたりしますね。でも、戦争の被害にあったのも竜に殺されたのも庶民なんで、なんだかなぁ、って感じですが」


「そこまでは私も知っています。結局竜がどこからきてどこへ消えたのか、それすら記録が残っていませんが」


 グリムナのこの言葉に、ベアリスが身を乗り出して言葉をつづけた。


「そこなんですよ! 伝説によれば竜の体は数キロメートルにも及ぶ大きさだった。それだけの巨体なのにどこから来たかも、どこへ行ったのかも分からないんですよ! 当時世界中の人々が注目してたにもかかわらず! そもそもそれだけの巨体で動き回れるってこと自体ちょっと嘘くさいと思うんです!」


 急に勢いづいたベアリスにグリムナは思わずのけぞってしまう。少しぐいぐい行き過ぎたな、とベアリスは反省し、コホンと小さく咳払いしてから続けた。


「私の考えではですね、竜は『幻覚』だったんじゃないか、と思ってます。」


 ベアリスの言葉に一同はどよめく。それもそのはずだろう、いくら何でも突飛すぎる発想である。その率直な矛盾点をフィーがついた。


「でもそれっておかしくない? 実際に大陸の人間が三分の二も死滅するっていう実被害が出てるんでしょう? それが『幻覚だった』では済まないと思うんだけど?」


 この言葉にグリムナとヒッテがうんうんと頷く。ヒッテも同じことを思ったが、さすがに今日は貴人の前で勝手に奴隷が口をきいてはならないだろう、と控えている。


「ですから、私は竜の幻覚を見せたのと、人類に壊滅的打撃を与えたのは別の物だと思ってます。竜の方は幻覚を見せる魔法なのか、集団催眠なのか、暗示をかけたのか、とにかく方法は分かりませんがそこまで難しいことじゃないと思うんです。問題は世界を滅ぼした方の力ですね。」


「何か目星でもついてるんですか? それほどの強力な打撃を与えるものに」


 グリムナの質問にベアリスはニヤリ、と笑みを見せてからこう言った。


「ぶっちゃけ全然分かりません!!」


 この言葉にグリムナは首を傾げ、そのまま黙り込んでしまう。グリムナだけではない、ヒッテとフィーも同様である。なんだか暇を持て余したニートの雑談に付き合わされただけのような気がしてきた。やはり目の前の少女はただのうんこ製造機ではなかったのか、その思いが再び頭をもたげてきた。


「私が言いたいのはですね……」


 ベアリスが近くのテーブルに置いてあったタンブラーの水で口を湿らせてから再び話し出す。もしかしたら長くニートをやっていたので自分のところに人が訪ねてくるのが楽しくてからかっているのではないか、グリムナは段々そんな気がしてきた。


「竜は、決して自然災害や野生生物などではなく、何かしら人為的な力が働いているってことですよ。人が作ったものなら人の力で打ち倒せるはずです。重要なのは、なぜ、どうやって竜を作ったのか、もしくは生まれたのかを知ることです」


 ベアリスの話を聞いていたグリムナは段々彼女が何を言いたいのかが分からなくなってきていた。結局彼女が調べて、知った事とはなんだったのか?それが聞けていないような気がして、率直に彼女に尋ねてみた。ベアリスがそれに答える。


「先ほど、ターヤ政府が歴史編纂事業を進めてて、そのために各地のおとぎ話を収集してるって話はしましたよね?その中でですね、賢者たちが知恵を出し合って、竜を倒すための『聖剣』を作った、いや、作ろうとした?っていうお話があるんです」


 これにグリムナは顎に指を当てて、少し首をかしげるように考え込んでから言葉を発した。


「聖剣エメラルドソードの伝説、ですか……」

「詳しいですね、グリムナさん」

「そりゃ元々考古学や民俗学は私の専門ですからね。しかし私が知ってる範囲だと、それはただのおとぎ話の類だと感じましたけど……」

「一国の情報収集能力を舐めてはいけませんよ。分かってる範囲で言うとですね、賢者たちは聖剣を、眠りについて動かなくなった竜の体の一部から作ろうとしたそうなんです。結局その体がどこにあるのかは分かりませんでしたが、言い伝えではそれは『死神の神殿』で作られたそうなんです」

「死神の神殿……」


 ベアリスの言葉にグリムナはう~ん、と考え込んでしまう。彼もそれなりに各地の神話や民俗学を調べてはいるが、死神の神殿など聞いたことがない。彼はちらり、とフィーの方を見るが、彼女も首を横に振る。エルフの間でもそんなものは伝わっていないようだ。


「とにかく、死神を祭ってる神殿か、祠です。賢者たちは竜は死神の化身であると考え、竜の眠った場所に死神を祭る神殿を作ったらしいんです。それを探してください。それがきっと、竜の正体を探ることになり、うまくいけば聖剣も手に入れられるかもしれません」


 死神を祭っている場所、ベアリスが言うことには、そこに竜に繋がる何らかの手掛かりがあるということだった。

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