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第22話 おちん〇んで考えてる(挿絵あり べアリス)

「ここなのか? この掘っ立て小屋にベアリス殿下が?」


 グリムナが「信じられない」といった感じで衛兵に聞くと、少しうんざりした顔で彼は確かにこの『離れ』にいらっしゃる、と話した。


 グリムナは改めて案内された建物をまじまじと眺める。確かに『掘っ立て小屋』は少し言い過ぎた。一般人の民家と比べればまだ装飾も綺麗だし、質素ながらも機能美にあふれた作りと言ってよいくらいの佇まいはある。


 しかしながらなぜ王宮ではなく離れに? という疑問が頭にこびりついて離れない。ちなみに王宮は石造りの建物であるが、この離れは木造である。そこには大した意味はないだろうが。


 衛兵はそのまま戻っていき、グリムナはその『離れ』にノックをしてから入っていった。ノックは当然三回だ。しかしやはり妙な感覚が拭えない。衛兵が結局最後までおらず戻っていってしまった事にである。王宮の敷地自体が不審者が入れないような作りになっているとはいえ、この離れには常駐の衛兵という者がいない。しかも案内してくれた衛兵も帰ってしまった。一応女性のヒッテが同行しているとはいえ、王女の一人であるベアリスに男が会いに来ているというのにいくら何でも不用心過ぎないだろうか。


 建物の中に入ると、奥の方から彼らを呼び寄せる声がした。その声のままに、薄暗い建物の中を進んでいくと、寝椅子に座った人影が見えた。


 白銀の美しい髪に赤い瞳、透き通るような白い肌をしており、穏やかな表情でほほ笑んでいるように見えるが、部屋が薄暗いので分からない、


「グリムナさんですか。お久しぶりです。そちらのお方はどちら様ですか?」


 鈴のなるような心地よい声で語り掛けられると、グリムナはしばらくボーっとしていたが、ベアリスが再度「グリムナさん?」と語り掛けると慌てて答えた。


「ああ、いやあ。最近前のパーティーを離れて一人になってしまったんで、助手を雇って……」

「性奴隷です」

「ちょおおい!!」


 突然国連のようなことを言い出すヒッテをグリムナが慌てて止める。


「前のパーティーでホモ疑惑をかけられて追放されたんで、寂しくなって慰みものとして奴隷商で購入したんです。抱き枕のヒッテと申します。以後お見知りおきを」

「ちょっとちょっとちょっと、ヒッテさぁん!?」


 ワンピースの裾を軽く持ち上げて挨拶をするヒッテの肩をグリムナが押して部屋の隅まで追いやる。


「ちょっとお? 何なの急に饒舌になって! 前までそんなにたくさん喋らなかったよね? ていうか箱入り娘相手にあんまり変なこと吹き込まないでくれる? どういう意図があってそんなことしてるの!?」

「ご主人様こそ急になんですか? 早口すぎてきもいです。あと、昨日の午後からずっときもかったですけど、この部屋に入ってから一層きもくなりました。童貞丸出しで恥ずかしいです」


 グリムナがしかめっ面で「このクソアマ、どうしてやろうか」と思案していると、くすくすと笑い声が聞こえた。


「うふふ、相変わらず面白いですね、グリムナさんは。今日はどういったご用向きで? もしかして、私に会いに来てくださったんですか?」


「え? いやあ、ハハハ……実はそうで……」


 ズンッと、ヒッテの蹴りがグリムナのケツにめり込んだ。思わず膝をついて四つん這いになるグリムナ。


「違うでしょう。金策に来たんでしょうが。何格好つけてるんですか。ちゃんと頭で考えてます? ご主人様、おちん〇んで考えてませんか?」


 このヒッテの言葉に思わずグリムナは黙ってしまう。



 正直に言おう。



 おちん〇んで考えていた。



(いかん……そうだった。金策に来たのだった。ベアリス様の笑顔を見たら思わず格好つけてしまった)


 周りから言わせてもらうと、全然格好つけていられなかったが。むしろヘラヘラと言葉を濁すだけで格好は、悪いといえよう。しかしベアリスの笑顔に負けて「金策に来た」とグリムナが言えなかったのは事実なのだ。グリムナはぶんぶんと頭を振ってから本題を切り出した。


「実を言うとですね。さっきヒッテが言った通りパーティーを追放されてしまったんです」

「ホモ疑惑で……?」


 先ほどの話は冗談ではなく本当だったのか、と思い、ベアリスが思わず聞いてしまう。一瞬静寂の時が流れた。


「まあ……そうですね」

「そして性奴隷を……?」

「それは違います。あいつの創作です」


 グリムナの言葉にベアリスは一応納得をした。言われてみれば首輪をつけていないし、そもそも主人のケツを蹴り上げる奴隷など聞いたことがない。まあ、実際のところヒッテは奴隷だし、主人のケツを蹴り上げたのも事実なのだが。


 グリムナは気を取り直してへつらいの笑みを浮かべながら説明を続ける。

「まあ、それでですね、何かいい仕事はないかな~、と。できればそういうものを紹介してくれないかな、と思って来た次第でありまして。」


 その話を聞いてベアリスはう~ん、と考え込む。考え込む顔もかわいいなあ、とグリムナが表情をほころばせると、またもグリムナのケツにヒッテの右足がめり込んだ。


「すいません、なんか分からないけどムカついてしまって……」


 グリムナが四つん這いのままけつをおさえながら苦言を呈する。


「すまないと思うなら……最初っからやらないでもらえるかなぁ……」


「以前に来られた時にラーラマリア様に解決していただいた問題がありましたよね……」


どうやらまだ考えていたようで、ベアリスが口を開いた。


「すごくマイペースな人ですね。目の前で何が起きていたか見えていなかったんでしょうか……」

「いや、実際ベアリス様は弱視なんで見えてないかもしれんが」


 ヒッテの疑問にグリムナが答えるが、いくら弱視でも目の前でこんなにドタバタしていれば気づくだろう。やはり彼女はマイペースなのだ。


「北部の森の中のレオジー湖畔周辺に居ついた山賊団を壊滅させたやつですよね? あれがどうかしたんですか?」


「噂……というか、聞いた話だともう実際に被害も出始めているんですが、その山賊達がまた戻ってきて、悪事を繰り返しているようなんです。今回グリムナさんは人数も少ないですし、また壊滅させろ、というつもりはありませんが、調査だけでもお願いできないでしょうか。詳細や、報酬については宰相のビュートリットと詰めてください。彼には私からお話をしておきます」



 グリムナ達はベアリスに礼を言ってその「離れ」を後にした。その場所を後にして、少し歩いたところでグリムナが振り返る。それにしてもやはり分からないのはなぜ彼女が離れに住んでいるのか、である。以前来たときは確かに王宮の中に私室があって、そこに住んでいたはずである。以前に来てから1年弱ほどしかたっていないはずであるがその間に何があったのだろうか。


 しばらくそうしてボーっと立っていると、ヒッテがグリムナのすねを軽く蹴った。


「あのさぁ、なんなの? 最初に会ったときからアレだとは思ってたけど、カルドヤヴィについてからヤケに反抗的じゃない?」

「ご主人様がデレデレしてきもいからですよ」


 そんなにきもかったかなあ、と自らの行動を顧みながらもグリムナは王宮を後にし、その日は適当に町をぶらぶらして情報収集に努めた。


挿絵(By みてみん)

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