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第21話 ダークエルフ再び

 グリムナとヒッテは山賊を撃退した現場から少し離れた場所で、木に登って先ほどまで自分たちがいた場所を監視している。


「こないだのダークエルフだ……」


 グリムナが小さい声でそう呟く。偶然会うような場所ではない。あの女、まさか自分を追っているのだろうか、グリムナの背筋に悪寒が走る。グリムナはエルフには会ったことがなかったし、もちろんダークエルフもこの間のアンキリキリウムの町の宿で出会ったのが初めてであった。


 肌の黒いエルフ、ダークエルフについては存在を噂程度で聞いたことがある程度で、どういう連中なのかは全く知らない。ただ、その噂というのが、地下に住む闇のエルフであり、普通のエルフや人間に敵対する、邪悪な存在である、というものだ。


 そんな邪悪な存在、闇に近しいものがなぜこんなところに。


 偶然とは思えないようなエンカウント率である。もし自分を追ってきているのだとしたら思い当たる節は、ネクロゴブリコンか、勇者がらみのどちらかだ。世界を平和にするためにグリムナに技を授けた謎のモンスターネクロゴブリコン、もしくは救世のため冒険を続ける勇者、この二人に接触した人物として邪悪なものがグリムナに目を付けたのだとしたら、何となく説明がつく気がした。


 尤も、その『邪悪なもの』というのが何なのかが全く分からないのだが。まだ『世界を滅ぼす竜』の存在も伝承も何も見つけられていない状態だ。


 しばらく様子を見ているとダークエルフはじっとグリムナ達がいた場所を観察していた。山賊たちはまだ失神したままである。


「焚火は……消して間もないわね……」


 そう独り言を言うと、山賊のうちの一人の口を無理やり開いてその匂いをかぎ始めた。


「まだそう遠くには逃げてはいないな……」


 そう呟いてからどこかへ歩いて行ってしまった。どういう能力だ。


「行ったか……」

「あのダークエルフ……何者なんでしょうね?」


 ヒッテも不思議そうに尋ねて来るが、やはりグリムナも同様に分からないので答えようがなかった。二人はダークエルフが戻ってこないかしばらく様子を見ていたが、戻ってこないようだったので木から下りて、再び焚火をつけて野営と夕食の準備に取り掛かった。


「あ、大丈夫スか?」

「あ、いえ、すみません。干し肉があるけど一緒に食べます?」

「ありがとうございます。ちょっと山菜探してくるッス」


 その日は意識を取り戻した山賊達と一緒に夜を過ごした。


「切り替えが早いのはいいけど、あまりにも何事もなかったかのようにするのもどうかと思う」


 ヒッテは何とも言えない表情をしていた。




 それから数日山の中を進んで、二人はやがてターヤ王国の首都カルドヤヴィに到着した。


「なんか……ここが首都なんですか? 思ってたよりもちょっと、なんというか……迷子になる心配の少なそうな首都ですよね」

「そんなに遠回しにディスらなくてもいいよ。確かにほかの国の首都に比べるとずいぶんとショボいとは思うよ。ターヤ自体が小さい国だし、大した産業もないからね」


 京都人のように遠回しに首都の規模をディスるヒッテをグリムナがたしなめる。


 ヒッテとグリムナが話をしながら町の中を歩く。町の建物はすべて木造であり、派手な塗装もしていないのでピアレスト王国の石造りの街並みとはだいぶ雰囲気が違う。森林王国と呼ばれるだけあってこの町はやはり森に囲まれており、木材は豊富にあるのだ。そして逆に石材は少ない。そんな理由もあって木造建築がそのほとんどを占めているのだ。


 そしてアンキリキリウムの町と比べても、それほど人の多さは変わらない。こちらは首都であるが、やはり国の規模もあって人口密度自体も低い。


 ターヤ王国はこの大陸の北部に位置する、国土の8割以上を森林地帯が占める小国家である。軍事力も経済規模もあまり大きくはないが、逆に大きな経済基盤がないことから大国から攻められることがあまりなかった。また、森林地帯は大軍にとっては攻めにくく、戦争が長引いて冬になると地の利のあるターヤ王国に勝つことは不可能になる。そんなわけでこれまではあまり戦争とも縁のない土地であった。


 グリムナは町のメインストリートを1時間ほど歩いて、この、ターヤ王国の行政府でもあるヤヴィの王宮にまでたどり着いた。守衛でベアリスとアポイントメントをとりたい旨を伝えると、明日の午後にまた来るように告げられた。


「王族に面会予約して、翌日にアポイントメントってとれるもんなんですか?」


 宿でとった部屋で荷物の整理をしているとヒッテがそう話しかけてきた。あまりグリムナは気にしていなかったが、確かに言われてみればそうである。いかに7人兄弟の末っ子とはいえ、予約を取って次の日にもう会えるなど、王族にしてはあまりにもスケジュールがスカスカ過ぎないだろうか。


 しかしまあ、そんなことは心配したところで仕方ない。とりあえず明日はベアリスに会えるのだ。荷物の中から一張羅の服を取り出してグリムナは自らの体に当てる。しかしこの安宿の個室に姿見など置いてないので、ただの浮かれポンチがダンスをしているだけのパフォーマンスに終わる。


「なんか……ご主人様、浮かれてませんか?」


 ヒッテがジト目で見ながらそう呟く。前髪で目が隠れているのではっきりとは分からないが。


「えっ? いやあ、気のせいだろう。まあ、王族に会いに行くんだからそれなりに準備しなきゃってだけだよ」


 グリムナが慌てて否定するが正直言ってしどろもどろの対応である。よほど鈍い奴でもこれが普段と少し様子が違うということくらいは気づくであろう。ニヤニヤを抑えきれていない表情が非常に気持ち悪い。ヒッテはいつの間にかジト目どころか顔を微妙にしかめている。


「まさかとは思うけど、ご主人様……」

「え……な、何?」

「その王族、ベアリスさんでしたっけ? 単に知り合いとか、そういうだけの関係ではないのでは……?」


 ヒッテの問いかけに、グリムナの額にみるみる冷や汗がにじんでくる。この反応、どうやら相手がどう思っているかはともかく、彼にとってはベアリスは特別な存在であることが見て取れる。


「ご主人様、女もイケるんですか?」

「だから、男でイケることを前提に話さないでくれる?」


 しばらくグリムナはなんとも言えない表情で床を見つめていたが、やがて観念したのかゆっくりと口を開いた。


「ま、まあ……正直言うと俺は彼女の事は慕ってはいるんだけど、恋愛みたいに『好き』ってのとも違うかなあ……ヒッテも会ってみればわかると思うけど、妖精のように儚げな美しい人なんだ」

「妖精って、ため息で溺死する奴ですか」

「それは君が勝手に言っただけだから」


 突っ込みを入れてから咳払いをして、さらにグリムナが話を続ける。


「とにかく、一目惚れだったんだ。今まで俺の周りにいた女の人たちとは違う、儚げな美しさと、控えめな雰囲気に……」

「隙あらば自分語りですね」

「お前が聞いたから答えたんだろうが」

「聞いてませんよ。ヒッテは女もイケるのかって聞いただけです」


 グリムナは苦虫を噛み潰したような表情になる。やはり彼の周りにいる女性はいつもこんなのばっかりである。

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