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第153話 ラーラマリアの過去

今更ながら語られる主人公追放の舞台裏とラーラマリアの心の内

「裁判は、グリムナの無罪で終わったそうよ、ラーラマリア……」


 赤毛の魔導士の少女、シルミラがラーラマリアにそう語りかけたが、彼女は机に突っ伏したまま答えないし、顔も上げようとしない。まさか死んでいるのではないか、そう思ってシルミラが彼女の顔を覗き込んだが、それが気に食わなかったのか、ラーラマリアは少しだけ顔を上げて彼女の顔を睨んだ。


 その顔は目にクマができ、乾いた涙でカサカサに荒れており、髪はボサボサ、酷い状態であった。いつも自信に満ち溢れ、太陽のように明るく美しい、勇者ラーラマリアの姿はそこにはなかった。ただただ、人生を悲観して何もやる気が起きない廃人がいるだけだった。シルミラはあまりに酷い彼女の変貌ぶりに思わずごくり、と生唾を飲み込んだ。


 ラーラマリア一行、彼女以外には魔導士のシルミラと、斥候のレニオがいるが、彼女たちは現在ヤーベ教国の首都ローゼンロットのゲーニンギルグ戦闘大宮殿にある宿泊施設にそれぞれ一室ずつの部屋を与えられて、そこに寝泊まりしていた。


 ラーラマリア達はコスモポリの町でグリムナ達と別れた後、一旦本拠地であるローゼンロットに戻っていた。グリムナに明確にフラれて、全く覇気をなくして廃人のようになってしまったラーラマリアを引きずりながらの旅は大層時間がかかり、首都についた時にはなんとそのグリムナがアムネスティ人権騎士団に捉えられて裁判を受けていると聞いてシルミラとレニオは大層驚いた。

 しかしラーラマリアはこれにも全く無反応であった。


 その後裁判はグリムナが無罪を勝ち取って終わったが、ラーラマリアはそれにも全く興味を示さず、ただ部屋の中で窓を閉め切って泣いているばかりであった。以前、エルルの村でグリムナと別れた後も大層な荒れようであったが、今思えばあの時はまだ余裕があった。酒に逃げて、周りの者に当たり散らす。大層みっともない光景であったがそれでもまだ生気が感じられた。


 今の彼女はただひたすらにグリムナとの関係が修復不可能になったという事実と向き合って、真っ暗な部屋の中で後悔と懺悔の念をぶつぶつと呟いて、涙を流しているだけである。食事もちゃんととっているのかわからない状態だ。


「ラーラマリア……本当に、グリムナに会わなくてよかったの……?」


 裁判ではレニオも証言の台に立った。しかしラーラマリアは、近くにグリムナがいることを知ってもなお、動こうとはしなかったのだ。「会わせる顔がない」そう思っているのかどうかは、一言もしゃべらないので分からなかったが、彼女は暗い部屋の中でたださめざめと泣くばかり。


 締め切った窓の外では爽やかな風が吹いている。


 冬が終わり、春が来て、ここ、ローゼンロットもようやく「花咲く都」と歌われる本来の姿を取り戻しつつあったが、ラーラマリアだけは冬の闇の中にあった。


 しばらくして彼女が何の返答も返す気がないのだと理解して、シルミラは部屋を出た。「まさかここまで、グリムナに依存していたとは」……シルミラは面白半分でグリムナがホモだとラーラマリアに吹き込んだことを後悔していた。彼女がグリムナのことを特別な目で見ていることはとうの昔に知っていたが、人生を投げ捨ててまで手に入れたいと思っているとは思ってもみなかったのだ。そして、結果的には彼女の適当な発言が引き金となって、グリムナはパーティーから追放されることとなったのだ。

 シルミラは悲痛な面持ちで部屋から離れていった。


「グリムナ……」


 部屋からシルミラが出て行ってしばらくすると、たった一言だけラーラマリアは口を開いて、それ以上は独り言も言わなかった。


 自分に許されるのは、ただ愛しい人の名を呟くことだけ。それ以上はしてはならない。彼女はそう感じていた。世間一般で思われている彼女の肩書は世界を救うために冒険をしている、高潔なる選ばれし勇者。そしてグリムナはうだつの上がらない、どこにでもいる回復術士で、ただ、腐女子とホモだけには異様に人気がある男。

 しかし、彼女はその評判が実際には全くの逆であることを知っている。


 自分のことしか考えられなく、心が狭くて利己的なラーラマリアに対して、他人のことを第一に考え、そしてそれを実行に移せる、美しい心を持ったグリムナ。下劣な本性を隠し持つ自分が、グリムナを手に入れたい、など、持ってはいけない望みだったのだ。ラーラマリアはここ数日、その思いを強く感じていた。


 彼女は自分の心の醜さと、それに対するグリムナの心の強さに、大層な劣等感を小さいころから抱いていた。そしてそれを彼自身に吐露したことがある。7歳の時であった。自分の本性を話しても、(本性は元々バレバレであったが)彼は優しく微笑むだけで、そっと彼女の頭をなでながら言った。


「自分のことしか考えられないなんて、みんなおんなじだよ。ラーラマリアはそれを『悪い事』だと感じられるんだから、きっとほかの人よりも優しいんだよ」


 思い通りにいかないとすぐに癇癪を起して周囲に当たり散らす。自分でこんな性格が嫌だと思ってもやめることができない。他の人は他者を気遣えるのに、自分にはそれができないという劣等感。親にも他人にも怒られてばかり、しかし悪いと分かっていても怒られるほど増々へそを曲げてしまう自分。大嫌いだった自分の性格を、初めて認めてくれたのが、グリムナであった。自分はこの世界に存在していいのだ、自分は許されたのだ、と感じた。


 性格を変えることはできなかったが、それでも何か他人のためになることをしたい、と彼女は勇者の運命を受け入れた。グリムナと一緒なら、きっと道を外れることはないはずだ、そう思って。


 だが運命は大きく狂い始める。すべての発端はグリムナのホモ疑惑であった。


 実は劣等感の塊である彼女は、もう一人、このパーティーに強い劣等感と、妬みを感じている人物がいた。レニオである。


 自分と話すときはいつも嫌そうな顔をしていたり、困惑した表情を見せているグリムナが、彼と話すときはいつも楽しそうに笑っている。だがそれも分からないでもない。ラーラマリアはその美しさと見事な金髪からよく『太陽』に喩えられていたが、実際にはレニオこそがまさしく太陽だ。朗らかに話し、他人を安心させる彼の容姿、彼の周りにはいつも笑顔の花が咲いている。まさしく辺りを優しく照らす太陽の様であった。

 その彼がグリムナに好意を抱いており、グリムナを性的対象としてとらえていることは他者の感情を読み取ることが苦手なラーラマリアにも、その過剰なボディータッチから読み取ることができた。


「レニオが羨ましい……」


 暗い部屋の中で、ラーラマリアはそう小さく呟いた。レニオは決して心の内を直接グリムナに打ち明けることはしなかった。そして、だからこそ、同性としていつも彼の傍に侍ることが許されていたのだ。それは、ラーラマリアが最も望んだ場所であった。


 グリムナに好意を抱いていても、人一倍自分の感情を他人に打ち明けて素直になることに抵抗を感じていた恥ずかしがり屋のラーラマリアにはそれができなかった。彼女はグリムナと結婚したい、だとか、子供を成したいだとか、その気持ちよりもただただ彼の傍にいたいという気持ちのほうが強かった。

 自分が女でさえなかったら、もし男であったら、何の気兼ねもなくグリムナの傍にいられたのに。その気持ちを彼女はいつも感じていた。楽しそうに話すグリムナとレニオを見ながら。


 グリムナの危機に於いても、彼は臆することなく法廷の証言台に立ち、彼を助けたという。彼女にあのフットワークの軽さはない。実際レニオは何も考えることなくフィーの要請を受けて証言台に立ったし、フィーも少し前にあんなド修羅場を見せつけられた勇者パーティーに平気で助けを求めてきた。ラーラマリア自身あまり他人の目を気にして行動する方ではないのだが、ことグリムナに関しては違う。「彼に嫌われてしまうのではないか、余計なことをしていないだろうか」そう考えてしまって一歩が踏み出せないのだ。


 仮にもし、ラーラマリアがフィーのような性格であったら、彼女は堂々と証言台に立って「グリムナは私と付き合っているから、ロリコンでもホモでもない」と口から出まかせをほざいていたであろう。しかしラーラマリアにはそんなことはできない。


 いや、実際彼女の性格ではかなり無理のある仮定ではあるが、しかし無理でもそれをするべきだったのかもしれない。だがいくら後悔したところでもう遅いのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわあああんラーラマリアちゃん…!!!!(´;ω;`) やっぱり最推し過ぎる!可愛い。 劣等感の塊だったんですね…つらい。 レニオは良い子ですからね(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥…
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