第148話 マジパねぇ
ぐつぐつと、グリムナの目の前では大きな瓶の中で湯が煮えている。これを、ちん○んで押して、瓶を倒せと。
一瞬触れるだけならば大丈夫かもしれない。ほんの一瞬なら火傷も最小限で済むだろう。しかし要求された事項はこれを陰部で押して瓶をひっくり返せというのだ。100リットルは入っていそうなこの瓶を。
「どうする? 自身がホモであることを認めるならば、神明裁判は無しで有罪判決だが?」
ヒメネス枢機卿がグリムナに語りかける。やはり彼も目の前でちん○んが焼けただれる様など見たくはないのだ。できることならば穏便に済ませたい。
厄日という奴である。
グリムナは今日一日に起きたことを思い返していた。ロリコン疑惑を掛けられた裁判、そこからのホモ疑惑と異端審問。ゴルコークに尻の穴をいじり倒され、挙げ句の果てにはこの拷問の如き神明裁判である。彼がいったい何をしたというのか。
「やらなければ有罪、やれば火傷して有罪、だと……?」
「かっ、神がお許しになるのならば火傷はせん! その場合は無罪だ!」
グリムナの問いかけにヒメネスが答えるが、自分でも無茶苦茶なことを言っているのが分かっているのだろう、その表情は罪悪感と苦痛に歪んでいる。
「ご主人様、罪を認めましょう! こんなところで体を張る必要はないです! ヘタすれば死にますよ!!」
「そうよ! こんな無茶苦茶な茶番に付き合う必要はないわ! こいつらに馬鹿正直に付き合う必要なんてないわよ!!」
ヒッテとレニオがグリムナに神明裁判を回避するように助言する。確かにここで大火傷など負っては元も子もない。厚生施設のことについては後で考えればいいし、最悪脱獄するという手もある。
しかし、その合理的な判断以上に、彼は今燃えているのだ。怒りの炎が。
罪もない一般市民を薄弱な根拠で連行して無理筋ないちゃもんを付けて罪に問う。真偽の不確かな証言だけで自分たちの都合のよいように裁判を進め、それでもうまく行かなければ理不尽な神明裁判である。これに怒らずに何に怒れというのか。
「こんな、理不尽が……許されてたまるか……誰かが変えなきゃいけないんだ。俺が……こんな裁判ひっくり返してやる!! 下衆どもが!!」
グリムナの体全体に怒りの炎がともる。それはたとえ魔法の素養がないものでもハッキリと感じられるほどの強いオーラであった。
「てめぇらの血は 何色だぁッ!!」
怒りの声と共にグリムナが両の手で握り拳を作り、みるみる内に全身の筋肉がパンプアップしていく。
「おおおおぉぉッッ!!」
気合いと共に筋肉は衣服を引きちぎるほどに膨れ上がる。いや、実際ビリビリという音と共にグリムナの衣服が破れ飛んだ。
「なっ……あがッ!?」
ヒメネス枢機卿もそのあまりの迫力に言葉を失う。
「ちっ、違うだろう! お前! そういうのは普通、上だけ破れて、下は破けないもんだろうが!!」
ヒメネスが叫ぶように言った。確かに、グリムナの筋肉は上半身のシャツだけではなくズボンとパンツまで破り去っていた。本日三回目の丸出しである。しかし慣れたものだ。グリムナはもう臆することなどしない。むしろその瞳は怒りに燃えているのだ。
「おおおお!!」
ヒメネスの言葉を無視してグリムナは更に気合いを入れる。迸るような強大な魔力が視認できるほどだ。
「おおっ」
思わず大司教メザンザも驚きの声を上げた。それほどまでの鬼気迫るような様相であった。
「ちょっ、これ! いいの? 許されるの?」
フィーが恐怖の声を上げる。
「キャァッ! こっ、これはちょっと!!」
アムネスティも両手で顔を覆う。やはり指の隙間からはしっかり見ているが。
なんと、グリムナのジュニアグリムナがはちきれんばかりにバルクアップしていた。フィーの言葉ではないが、これほんとにいいんだろうか。
グリムナは二人の言葉を無視して、タワー・オブ・グリムナの先端をそのままズンッと煮えたぎった瓶に突き立てる。じゅうっという音と共に煙が上がり、肉の焼ける匂いがした。
しかしそれでも構わず怒り心頭のグリムナは止まることはない。見れば、彼のちくわに魔力が集まり、まぶしく輝いている。モザイクいらずである。どうやら火傷を負いながらもそれを瞬時に回復し、瓶を押しているようである。しかしそれでも痛みを消すことはできない。今彼のチン先を襲っている激痛は気が狂うほどのもののはずである。
「おおっ!」
グリムナが更に気合いの声を上げると瓶がぐらり、と傾いた。ヒメネスが驚愕の声を上げる。
「バカな! 勃○したちん○んで100kg以上ある瓶を倒すなんて……!?」
そう、常人であれば不可能であろう。しかし彼はその類い稀なる魔力を海綿体に込め、鬼神の如き胆力で瓶を押しているのだ。
「ご主人様……頑張って!!」
「グリムナ! 負けないで!!」
ヒッテとレニオがグリムナを励ます。おそらく後から冷静になったときに勃○したちん○んで瓶を押す男を応援したことを後悔するだろうが、それでも今この時だけは、誰もがグリムナの気迫に気圧されていたのだ。それほどの迫力であった。
ガシャアァン、という音ともに瓶がひっくり返って割れた。グリムナの勝利である。
「見ろ!!」
すぐさまグリムナはそのチン先をヒメネスに向ける。
「ヒィッ!?」
突然そんなものを向けられたヒメネスは取り乱す。無理もあるまい。
「こっ、これは……傷一つない……」
ヒメネスが驚愕の声を上げる。あまりにも絵ヅラが酷いので忘れるところであったが、そういえばそういう話であった。瓶を倒し、それでも火傷がないのだから、グリムナは無罪である。
「こ、こんなことが……」
ヒメネスはまだ放心状態でなかなか無罪の宣言をしない。その間にヒッテが自身の上着を脱いでグリムナの腰に巻いた。
「この上着は返さなくていいですから。捨ててください」
ヒメネスはまだ宣言をせずにファング、ビグルスと共にああでもないこうでもないと話し合ってた。まさかこの神明裁判を無傷でくぐり抜けるとは思ってもみなかったのである。往生際の悪いことではあるが、そのときボンッ、ボンッと何かを叩く音が聞こえた。
グリムナが驚いて振り返ると、それはメザンザが手をたたいている……いや、拍手の音であった。
「お美事!!」
ハッキリと彼の顔に笑顔が見て取れた。ヒメネスより先にメザンザがグリムナの偉業を讃えたのだ。
「煮えたぎる瓶を魔羅にて打ち倒す様、まっこと美事であった。枢機卿、貴公は神の裁きに疑問を差し挟むものか? このマジ半端なき偉業に異を唱えようか?」
ヒメネスは突然メザンザに話しかけられたことに大いに動揺していたが、すぐに高らかに宣言した。
「むっ、無罪! 此の者は無罪と認める。これにて異端審問は終了だ!!」
その宣言を聞き、ようやくグリムナは歓喜の声を上げた。ようやく彼の、全ての疑いが晴れたのだ。ロリコン疑惑も、ホモ疑惑も。これでやっと綺麗な身である。汚いところをみんなに披露してしまったが。
喜びを分かち合う彼らにズンズンと、重い足音が近づいてくる。メザンザである。おそらくは今回の裁判の黒幕であろう男。この裁判を有罪に導こうと裏で糸を引いていて、しかし最後の最後でグリムナの無罪を認めた張本人である。グリムナ達からすればなぜ自分が狙われたのか、それが分からないからこそ一層不気味だ。グリムナはあからさまな警戒を示す。
「見事の一言に尽き申す。大層良いものを見せてもらった。」
この男、本気でそんなことを言っているのであろうか。メザンザは右手を差し出して、彼に握手を求めた。
グリムナはその要求に応え、彼の岩のような手を握りながらも、何か釈然としないものを感じていた。
やっと法廷バトル編終了です。
この場面は人の数が多すぎて扱いに苦慮しました。
メルエルてさんいつの間にか猿空間送りになってるし。




