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第128話 アムネスティ人権騎士団

 アムネスティ人権騎士団……その設立の歴史は、超新しく、一年と少し前に騎士団長のアムネスティが打ち立てた人権保護団体である。『騎士団』と銘打って入るものの、叙勲されたものなど一人もおらず、『国境なき騎士団』と同じく『自称騎士団』である。騎士団長のアムネスティも当然騎士ではない。しかし毎月のように「こんな成果を上げた」、「我々の活動の成果でどこぞの人権状況が改善された」と吹聴して、各国に叙勲の打診をし続けている。

 最近はなりふり構わなくなってきており、騎士という階級のない国にまで打診しているという、人権団体とは言うものの、その実ポンコツクソフェミ集団である。


 衛兵が『面倒な連中』と表現したのも納得である。一度かみついたらどこまでも追い詰め、発言や行動ではなく個人を敵認定し、頭を下げて無条件降伏するまで決して立てた牙を抜かない、一般男性はもとより多くの女性にも「できれば関わりたくない」と思われている危険な団体である。

 レニオの言っていた『最強の刺客』とは彼女らの事であったのだ。味方に回ると頼りないが、敵に回すと厄介なことこの上ない、確かにある意味『最強』ではある。


 しかもどうやら構成員の数だけは異常に多いらしく、彼女らを否定するような発言をすると、直ちに『炎上』、人権の否定者として各方面から圧力をかけられる。『綺麗事』を錦の御旗に、無理筋のいちゃもんをつけてくるのだ。


「グリムナ……貴様を児童虐待の嫌疑で逮捕する!」


 児童虐待……彼には当然思い当たるところがない。しかし自分と関係のある(性的な意味ではない)児童と言えば、ヒッテしか思い浮かばない。彼はバッとヒッテの方に振り向いて顔を横に向けたが……アムネスティが左手でグリムナの髪を掴んで机にドンッと、その横顔を引きずり倒して押し付けた。


「やはり心当たりがあるようだな!? いいか! 貴様には弁護士を呼ぶ権利も、自分に不利な証言を黙秘する権利も無ければ裁判を受ける権利もない!! 今すぐここで我が愛剣の錆としてくれるわ!!」


 そう言いながら空いている右手で左の腰にさしてある剣を抜こうとするが、左手を前に出しているので、両手が交差してしまい、当然剣が抜けない。しばらくもたもたしていると後ろの従者らしき二人が慌てて彼女を止めた。


「お、落ち着いてください、団長! 弁護士を呼ぶ権利と黙秘権はあります!」


 そう言って彼女を羽交い絞めにして部屋の隅に連れて行った。


「なんでいつもそうなっちゃうんですか、次こそちゃんとやろうって言ったじゃないですか!」

「いや……でも、ロリコンに人権は……ないから」


 部屋の隅で何やらブツブツと言い合っている。


「なんか……見かけと違ってちょっとポンコツね……これ本当に最強なの?」


 フィーは素直に感想を言ったが、グリムナはまだ状況を呑み込めず、机の上で呆然としている。彼女らはまだ部屋の隅で言い争っているようだ。


「ロリコンに人権は……」


 ちらり、と騎士たちがグリムナの方を見た。


「ないですけども……」


 ないのかよ。


「とにかく、打ち合わせ通り本国に連行するんで、ちゃんとしましょうね」


 どうやら話がまとまったようでようやく部屋の中央の机に戻ってきた。アムネスティは髪を整え、深呼吸をしてから仕切り直して、落ち着いた口調でグリムナに話しかける。


「お、おとなしく来てもらおうか。貴様には……不服ではあるものの、裁判を受けてもらうことになる。」

「令状は?」

「てんめえぇぇぇ~!!」


 アムネスティの怒りが再度爆発した。またもグリムナの髪の毛をつかもうとするが、何度も同じ手を食らうような彼ではない。彼女の手をすり抜けると、アムネスティはバランスを崩して机の上につんのめってどすん、と上半身で着地した。

 ゆっくりと顔を上げると、とろり、と鼻血がこぼれていた。グリムナは何も悪くはないが、何となくこれはまずい気がする。アムネスティは懐から出したハンカチで鼻を拭きながら従者の方に振り返る。


「おい……今の見たな……公務執行妨害だ……」


 従者たちは気まずい表情で目をそらす。いくら何でも無理筋な言いがかりである。暴力を振るおうとしたのはアムネスティの方だし、グリムナは彼女に指一本触れていないのだ。アムネスティは次に衛兵の方に振り向いたが、彼もやはり同様に目を逸らす。『我関せずの構え』である。


「どうすんの? グリムナ、こんなポンコツ連中叩っ殺してトンズラこいた方が早いんじゃないの?」


 フィーが恐ろしいことをさらっと口にするが、グリムナはそれを否定した。


「いや、確かにポンコツだが、町の衛兵ともつながってるような公権力に圧力をかけられる奴らだ。下手に罪をでっち上げられたらこれからの旅が困難になるかもしれない。少なくとも関所は通りづらくなるだろう。ここは素直に言うことを聞いて無実を証明するしかない」


「素直に連行されたところで無実を証明できるとは限りませんよ。あの女の人、こじらせた人特有の、酷くめんどくさい臭いがします。これは、フィーさんと同じ、高齢処女の気配です」

「しよお! しょしょ、処女ちゃうっちゅーねん!!」


 フィーが机をドンッと叩いて否定するが、説得力はない。そうこうしていると、やっと落ち着いたアムネスティがまたも話しかけてきた。三度目の正直である。


「フンッ、あくまで反抗するって言うのね。いいわ、令状を取りに帰るのも時間の浪費だし、ここで被害者に直接聞き込みをすることとしましょう」


 そう言うとアムネスティはヒッテの元に歩み寄って、ぐいっと彼女の腕を引っ張って部屋の隅に連れて行く。


「痛いです、引っ張らないでください、おばさん」

「お、おばぁ? お、おば、おあああぁ~!!」


 突如として奇声を上げるアムネスティを従者が必死でなだめる。この女、地雷が多すぎる。


「ちょ、ちょっとくらい若いからっていい気になりやがって! いい? 私たちが本気を出したらあんたみたいながきんちょ一匹潰すのなんて訳ないんだからね!!」

「団長、恫喝する相手が違います。いや、被疑者も恫喝しちゃだめですけど」


 従者の方はアムネスティに比べるとまだマシである。この女、本当に騎士団の長なのだろうか。アムネスティは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けると、少しかがんでヒッテに目線を合わせ、まるで先ほどのやりとりを丸ごとなかったことにするかの如く優しい口調で話しかけた。


「あなたの名前はヒッテちゃんでしょう? 聞いているわ。あなた、あのグリムナって男に何か酷い事されてない? たとえば、その……え、エッチな、事、とか……」

「セックスですか?」


 若干顔を赤らめながら聞きづらそうに質問したアムネスティであったが、ヒッテの返球はド直球。とたんに耳まで真っ赤にして目が泳ぎ始めるアムネスティ。そう言ったことに全く免疫がないことが見て取れる。

 一方のヒッテは彼女の様子など気にせず、首元から覗く彼女の胸を見ながら「意外とおっぱいでかいな、このおばさん」などと考えていた。


「いや、そう言うのでもいいんだけど、いや決してよくはないんだけど、その、あなたとあそこにいるクソペド野郎はいったいどういう関係なのかなぁ、って……」


 大分答えを誘導したいことが透けて見える尋問ではあったが、よく話を聞いていなかったヒッテは少し考え込んでから過去の、彼とのやりとりを思い出していた。


 まだ、出会ったばかりの頃の思い出だ。最近は少し親密になってきたため、そのことを話したらこの行き遅れおばさんの琴線にまた触れてしまう危険があるからだ。



~ここから回想~


『でもお高いんでしょう?』

『お前等ホントいい加減にせえよ』


『大丈夫ですよ、ご主人様は回復術士ですから、多少切れても、魔法で治せますから』

『そういうことじゃないだろう!!』


『ご主人様有名なホモなんですか? ホモセレブ?』

『鼻セレブみたいな言い方しないで』


~回想ここまで~



 ゆっくりと思い出し、腕組みをしながら答える。


「突っ込まれてばかり、でしたねぇ……」


 騎士団の三名の顔色が一気に青ざめた。


「あちゃ~……」


「これは……」


「ヤバいわよ!」


 思わず三人とも言葉を失う。


 アムネスティは世間を騒がせているグリムナが児童に対し性的虐待を行っている可能性がある、と聞いてここまで駆けつけたのだが、この文脈で『突っ込まれる』とは……


「これは、アウトね……」

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