55 全体の足止め
火炎王の島国、スール王国の大陸側陣地。
土魔法で設置されたと思われる急ごしらえの城壁が延々と連なる中に、死者と生者の戦いの声が満ちていた。
ウィル一行と人類皇帝、つまり人類帝国全軍は大陸側城壁の防衛のため、大陸に渡っていた。
物見台に上がり、将軍から戦況の説明を受ける。
「今回の敵戦力はおそらく十万ほど、火炎王陛下の大魔法で半分ほどを焼き払いました」
将軍は少し言いにくそうにして続ける。
「しかし、火炎耐性を持つ敵新型の奇襲攻撃により火炎王直卒の火魔法隊が壊滅しました」
将軍は表情をゆがませた。国王以下の精鋭魔法使いをやられたとなると、国の存続に影響する事態である。
「現在の敵勢力はおそらく四万から五万。城壁の全域にわたって攻撃を仕掛けております。残存の水魔法使いと風魔法使いを動員して攻撃していますが……」
「効果が低いのであろう」
人類皇帝が黒三角帽子をつまんでニヤリと笑い、言い当てる。将軍が黙り込んだ。
芝居がかった手つきで両手を広げ天を仰ぐと、人類皇帝はウィルに向き合う。
「やはり、バケモノどもは進化する。その前提で湖畔の伯爵ウィルよ。どう防ぐ?」
ウィルは各城壁を見渡した。戦況は決して良くない。各城壁をなんとか確保できているように見えているが、平民中心の守備兵の動きが悪くなっている。
「はい、今まで魔法使いを中心に防衛していた城壁の長さに対して、敵の数が多すぎます。ここは……一気に内壁まで引いて防衛体制を整えるべきかと」
「なっ?! そこまで引いたらもう後がないぞ?!」
将軍が反論するが。皇帝になだめられる。
「伯爵の戦略眼は確かである、この皇帝が保証しようではないか!」
「いやいや」
皇帝の何の保証にもならない保証をつきつけられて、将軍が困惑している。そこにウィルが付け加えた。
「このまま平民兵を張り付けていても夜まで持ちません……被害が増すだけです、ご決断を。その代わり」
ウィルが一つ提案をした。
◆ ◇ ◆
アメノの調査船。
灰白色の船内は、快適な温度に保たれ、静寂に包まれている。いた。
「父上に何をするのじゃーー?!」
輸血タンクとして連れてきた王のクローンが実に、とても、まったく。
「うるさい」
「はい」
プッ。
サポートAIが催眠ガスを吹き付けて無力化に成功した。
同時に火炎王を医療用タンクにいれ、治療を開始する。
「うん、外傷の治療は良いとして……やはり血が失われすぎている。緊急輸血を……クローンの様子はどう?」
「あ、マスター。これはダメですね、クローンではないです。血液型は合いますが、免疫システムが喧嘩するかとー」
サポートAIが報告してくる。
「……おぅ?!」
なんということだ。そういえばこっちの人間は子供をクローンで作らないのだった?!
「そもそも性別が違いますよね」
「……うん」
サポートAIに指摘されて気が付くのか。どうかしている。最近頭がボケてきたようだ。精神が不安定なのだろうか。精神安定剤……は後でいいか。
「成分輸血で」
「かしこまりました」
免疫システムを除去した輸血を開始する。顔色が少し落ち着いてきた。
「マスター、火炎王患者のスキャン結果ですが脚部を中心にゾンビ組織の浸食が見られます」
「わかった、除去術式を開始」
◆ ◇ ◆
城壁と城壁の間にある広場。
土魔法で急速施工された城壁や広場は土そのままで装飾もないシンプルなつくりだ。
そこに死者がひしめいていた。土気色で緩慢に動く死体が群れを為している。
血と体液の腐った悪臭がウィルの鼻を衝く。
ここで立ち向かうのはウィルたち人類帝国軍のみである。
他の部隊の後退を認めさせるために、単独での殿、つまり足止めを提案したのだ。
防衛部隊が撤退した城壁の上に、死者の軍勢がひしめいていた。城壁を乗り越えた死者たちは意外にも素直に列を作って城壁から階段で順番に居りてきているようだ。
飛び降りるのは嫌なのか。
ウィルは軽く笑った。
ウィルは土魔女のジョセル、そして森人弓兵、そして人間槍兵たち……湖畔の伯爵領軍に振り返った。
「よし、いくぞ!」
ウィルが剣を抜き放つ。
隣に立ったのは人類皇帝である。
「では出陣だ! ~風帝よ応えよ背中を押し進めよ、全体加速~」
人類皇帝が呪文を唱え部隊全員に風をまとわせ、速度を引き上げる。
「~まことに汝らに告ぐ! ここに覇を唱え駆けるは、伯爵ウィルファスなり!~」
そして、皇竜のメダリオンの加護を受け、ウィルがまさしく風のごとく敵陣に斬り込んだ。
― ― ―
ズバッ!!!
剣閃がきらめき、また一体の死者が倒れ、死体の山が積みあがっていく。
ウィルと森人の戦士たちの斬り込みで死者が次々と倒れていく。
一通り戦うと部隊に戻り、弓矢を浴びせかける。
それで死者の隊列が崩れるとまた斬り込む。
この繰り返しであった。
ウィルはつぶやく。
「なんか大型のゾンビキメラが居ないな?」
実に敵を倒しやすいのである。
森の外の村で長く戦っているうちに、重装甲のゾンビキメラだらけになったことを考えると、この国に攻めてきている敵は実にやわらかい。
「うむ、進化するというのが本当であれば、この国は魔法戦中心で戦っていたため、白兵に対応する進化はしていないのだろうな!」
ウィルの隣に立った人類皇帝が分析する。魔法が効きづらいと判断して、攻撃魔法は一切使わず、支援に専念している。
「伝令!! 味方の部隊の再配置が完了いたしました!」
「よし、戻るか」
人類皇帝が促すが、ウィルは何かを考えて、独り言をつぶやいていた。
「軽装甲の敵。攻撃魔法に耐性を付けている。飛び降りるのが嫌で素直に地形に従って移動……」
「行くぞー?」
人類皇帝に促され、ウィルたちは大陸側最後の壁、内壁まで撤退した。
土曜日に投稿するつもりでしたごめんなさい。
日曜日1回目の投稿です。




