26 家つくって狩猟して畑開拓!
魔道船の墜落した湖畔。
黒髪の土魔女ジョセルが老人たちを追い回していた。
「ほら、老いぼれども、さっさと私サマの家を作るんですよ」
見るとジョセルの書いた魔法陣の前に四角い土壁が完成していた。その壁には入口と思しき穴があいており、「ジョセルさまのやかた」と書かれた看板がかかっていた。
そしてジョセルの村の老人たちが屋根を作ろうと壁の上に登って木の板を引っ張り上げているようだ。
「いや、ご老人にやらせることじゃないだろ」
ウィルが止めに入った。
ジョセルが反論する。
「何をいいやがってんですか。ガキどもは力が弱いんですよ?」
「……俺がやる」
そういうと、ウィルは身体強化の魔法をかけて、土壁に軽々とよじ登った。
「おーい、綱をなげてくれー」
木の板を括り付けた綱を受け取って、次々に引っ張り上げて屋根を葺いていく……。
「あれ、もう板はないのかー?」
見ると老人たちが丸太を割って板にしようとしている。予定よりも早く進捗したので板づくりが間に合わなかったらしい。
「しょうがないな……」
降りて板づくりを手伝うか。
ザンッ!!!!
ザンッ!!!!
ザンッ!!!!
「ふふふーーっ! 核融合パワー!!」
丸太が一瞬で切り刻まれ、板になった。
「……フネの船魂さん……?!」
そこにはいつもの無表情なアメノと、なんか異常にテンションのアガっている赤髪のメイド……エーアイが立っていた。
エーアイは黒を基調としたドレスに白いエプロンをかけ、両手とは別に背中から4本の金属腕が伸びて、そこから光線が発せられている。
「そこのオスさん、板投げますよ」
「っておい?!」
エーアイは金属腕を背中に収納すると次々に板を屋根の上の俺めがけて投げつけてくる。
「とっ! はっ!! おいぃぃ!?」
次々と飛んでくる板を何とか受け止め、足元に並べていく……あっという間に屋根が完成した。
「……えっと、アメノのホムンクルスですか、ゴーレムですかアレ?」
「作業用の人形」
恐る恐る質問するジョセルにアメノが吐き捨てるように答える。
「……作業用ゴーレムであれ……すごいの連れてやがるんですね?」
「すごくない」
アメノは無表情なままさらに表情を硬くしていた。
「ノってきましたよー、もっと作りましょう!!」
「待て?!」
ウィルが止める間もなく、エーアイさんが背中から伸びた金属の腕から閃光を発して、貯蓄用の丸太を次々に製材していくのだった。
― ― ―
森の入り口は木もまばらで陽の光があちこちで差し込んで地面を照らしていた。
「あったー! ニンジンだー!」
陽光のかけらをかき分け、数名の子供たちが森を駆け回って、野菜を探している。
カゴには量は多くないが、様々な野菜や香草が摘まれて入っていた。
「はぁ、ヒマだなぁ」
白いマントにくるまった眠そうな目の銀髪の少年が、弓と矢をもって後をついていく。
今の集落の食料のほとんどはこうやって、狩人のキラが見回りながら、子供たちが採集して賄われていた。
子供たちがわぁわぁ騒いでいるので、普通のケモノは近寄ってこない。
近寄ってくるのは……
「んっ、なんか居るね……ワンちゃんか」
ピーッ。
指笛を短く吹く。
それだけで子供たちは一斉にキラの後ろに集まってきた。
キラの目の前。
200歩ぐらい先に大きなオオカミが姿を現した。キバやツメが子供の手のひらほどあり、普通のオオカミではない。あからさまに魔獣であった。
「魔獣はもがき方が面白くないんだよな……」
キラがマントの中からクロスボウを取り出し、構えた。
「核融合ふぁいあー!」
閃光が走る。
ボン!!
魔獣の足元が破裂した。
「外したな、あとはまかせろ!
「だってアイツ動くし、ああもう、これが重いんですよ!?」
木の陰から飛び出してきたのは、鎧の騎士とエプロンメイドだった。騎士……ウィルは抜き身の剣を構えて狼の魔獣に突っ込んでいく。そのあとを一抱えもある太ったキバウサギを抱えた白いエプロンのメイドが背中から4本の金属の腕を生やして追っかけて行く。
ズバッ!!
「キャイインン?!」
「よっし! 2匹目!」
「次は負けませんよー!!」
「……何あれ?」
呆然とするキラの前を二人組は旋風のように駆け抜けていった。
― ― ―
湖畔の集落。
燻製屋のゴルジが燻製カマドの前で肉をさばいている。
「燻製は作ってますが、食う口が増えましたし冬が心配ですなぁ」
「塩は魔女様たちが持ってきた分があるからしばらく持つと思うけどさ」
フィリノが剥いだ革に獣の脳みそを溶かしたなめし液を塗りながら付け加えた。
「えーー、お肉はたくさん取りましたよ? マスター褒めてください!」
「黙って」
エーアイがアメノにすり寄って行って、押し返される。
「冬になればケモノも冬ごもりしますし、雪で狩りもままならなくなりますで」
「豆が早く取れりゃいいけどねぇ」
燻製屋夫婦がゴブリン豆の畑を見やって付け加えた。
やっと小さな苗が育ちつつある。
「では畑を増やしましょう! 土を破壊すればいいんですよね!」
ジャキン! とエーアイが背中から機械腕を伸ばす。
「次は開墾か! 負けないぞ!」
ウィルも鍬を握って新しい畑予定地の土を掘り返し始めた。
二人で競い合って土を掘り返すうちに、見る見るうちに周り中が地中から巻き上げられた石の破片や木の根だらけになった。
「す、すごいけどさぁ?! それじゃあ畑になんないよ?!」
「そもそも種がねえんですが!」
慌てて止めるフィリノとゴルジ。
「くっ、なんという盲点」
「畑は完璧なのに」
同じポーズでうなだれるウィルとエーアイ。
「畑は完璧だな、なかなかやるじゃないか」
「あなたこそオスのくせにやりますね」
ウィルとエーアイがこつんと握りこぶしをぶつけ合って健闘を称えあっていた。
「畑は完璧……ですかい???」
農業の素人が二人して土の中のガラクタを全部地上に放り出した土地を見てゴルジはつぶやいた。
これでは畑ではなくタダの荒れ地である。
◆ ◇ ◆
がやがや騒ぎの外で、アメノは無表情に土と豆の苗を見つめていた。
なんか気に入らない。
サポートAIはサポートの仕事を忘れて駆け回ってばかりいる。
ウィルも狩りやら建設やら急にあちこちで忙しくなってしまった。
別に私一人で何でもできるから集落の全体最適を考えれば仕事をしてくれればいいんだけど。
なんか気に入らない。
アメノは自分の心の中のもやもやが何なのかわからず、ただイライラしていた。
こういう時は研究するしかない。
豆を見つめなおす。
「これは美味しい?」
「ええ、いろんな美味い料理になりますぜ」
ゴルジが四角い顔で答えた。
なるほど。
だったら早く生育させよう。
アメノは手元の端末を取り出し、調査船のメインコンピューターとリンクさせて調査を開始した。
「……苗の遺伝子分析、土のデータ分析、照合……」
ふむ、苗の生育に必要な元素のうち、窒素とリンが足りて無いか。
窒素とリンを含む物質……。
アメノは燻製カマドの周りに積まれた、肉をはぎ取られた動物の骨を手に取った。
― ― ―
アメノが船から戻って、ゴルジに肥料を渡した。
「あの骨が一瞬でこんな肥料になったんですかい!?」
「ふええ、錬金術ってすごいねぇ」
だから、科学だ。
「一株ずつにこれぐらい施して」
二人に理想的な配合量を説明する。多すぎても逆に成長に悪い。
成長ホルモンを増加させる物質も追加したから、早く育つはずだ。
「おや? 豆に肥料をやってやがるんです?」
一通り施肥が終わると、ジョセルが寄ってきた。
アメノを一目見て失望したように言う。
「せっかく差し上げたのに、髪飾りをつけてくれないんですねぇ」
「とても役に立った、ありがとう」
おかげでAIがなんか暴走してるけど、それはジョセルのせいじゃない。
「……役に立てたならいいですけど、ふうん」
ジョセルが畑を見ながら何か考えている。
「そこの農民、畑に祝福をしてあげますから感謝なさい」
「へぇ、ありがとうございやす!」
何をするんだ。
ジョセルが苗の生えている畑にまたもや謎の図形を描いて、その前で立ちすくんだ。
精神を統一させているのだろうか、静かだ。
はっ! せっかくのサンプルだ! 録画録画!
温度や気圧を含めて既知のすべてのデータを取得するように設定して、アメノは端末でジョセルを撮影しはじめた。
「~土幸い聞き給え、子を為し実り豊かなれ~」
ジョセルのコトバとともに、豆の苗がグググと動き始める。葉がぐいぐいと伸び始めた。
「うおお、すげぇ、大きくなってきたぞ!?」
「さすがは魔法だねぇ!」
口々に喜ぶ燻製屋夫婦。
「……あれ? ……伸びすぎじゃないです? なんで?」
しかし、ジョセルは引きつったような顔で、急激に伸び始めた苗を見つめていた。
魔法と科学のコンビネーション。
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