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ASTRAL LEGEND  作者: 七瀬渚
第2章/秘密と罪
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22.罪〜Sin〜(前編)



その話を切り出したとき、何かが変わった。レグルスは瞬時に感じ取っていた。


知っていることに対する驚きなどではない。そんなものではない。すでにほとんどの情報を与えているとメイサは言っていた。

流れの変化を確信したのは一つの問いに顔を上げたときだった。



セレス…?



口に出して呼んだかどうかはわからない。そんな余裕もなかった。ただ見入ってしまった。


つい数秒前まで幼い少女のように泣きじゃくっていた彼女がこちらを見ている。充血し潤んだ目、だけどそこにはぶれる気配もない強い光が宿っている。正面をきった真剣な、眼差し。



ーーあなたは彼をどう思っているの?ーー



投げかけられたばかりのものが脳内で反響を繰り返す。

何故それを聞くのだろうか?こんなにも真っ直ぐな目で。それ程までにミラのことを気にかけていたのか…などと考えてみても、始まったばかりのこんな段階まだ読めるはずもない。


ただ一つ、はっきりしていること。

この問いは何か彼女なりの意図を孕んでいる。そう感じながらも答えた。

今、自分が口にできる精一杯を。



ーー希望?



彼女はその部分を繰り返した。澄んだ双眼を丸く見開きながら、興味深げに。


きっと意外な返答だったのだろう。父親を失ったこちらの過去も知らなかった彼女だ。この先を知っているはずはない、と。



「アイツ…シャウラは前世の記憶も大それた能力も持たないけれど、秘めているはずなんだ、内側に。」


「そう…なの?」



ぴくり、とひそめられた青い眉。戸惑いがちな表情で彼女が見上げる。

レグルスはそこへ頷いた。力強く。


「それが目覚めたとき、どんな方向へ向かうかは…アイツ次第だ。」


言っておいて背筋が凍った。自ら口にした“希望”と紙一重であるもの…それがわかっているからこそだった。



それは…



セレスが口を開いた。恐れていた“紙一重”を、彼女が言ってしまった。



「破滅を引き起こす可能性もある、ということ?」



……!




息が詰まった。直後に地響きを伴い滾るものに突き動かされた。詰め寄るように一歩踏み出していた。


「それは…っ!」


すぐに我に返った。びくっ、と身をすくませたセレスの様子に気が付いて。

反応を示すように見上げる彼女の顔には恐れと思わしきものが宿っている。


レグルスは思った。一体どんな顔をしていたというのか。一方である程度の察しもついていた。耳に残る自身の声色、鋭く尖ったそれはきっと相手を威圧するに足るものだったであろう、と。



悪りィ…



気まずく感じて小さくこぼした。前進したこちらからわずかに遠のいた彼女。乱れた自身の胸の内を立て直そうと努めて再び、言う。


「アンタの言うとおり、その可能性はあると言わざるを得ない。」


わかっている。ルシフェルの血を最も近く引いている以上いつか奴と同じことができるだけの能力を持つ、ということは十分にありうると。


だけど…


レグルスは続けた。



「俺は信じたいんだ。アイツは苦痛に耐えながらもいつか反撃できる機会を伺っているんだと。俺の知っているアイツはただ助けを待つだけでも、意に反するものに流されるだけの男でもない。」



俺は…



そう、信じていたい。



語尾は消えかかった。まるで尾をもたげるみたいに情けなく。

強く言い切るつもりだったのに、とレグルスは奥歯を擦り鳴らす。


まさか自らの赤の瞳が不自然に揺らいだこと、そして向かい合うセレスの目がそれを確実に捉えていたことまでは知る由もなく。


音のない、ひたすら同じ空気が循環する部屋。しばらくの重い沈黙の後、セレスがやっと切り出した。


「…彼は実質、囚われの身だと聞いたわ。」


ああ、とレグルスは返す。目の前の彼女が少し視線を落とした。そしてまた見上げた。

その色と続く言葉に、凍りついた。



それは、少しの自由も許されない程…?



「えっ…」



思わず動きを止めてしまった。何故、と口先まで出かかったが寸前のところで止めた。


何かを隠すとき人は、特に不器用な者は、何故?と聞き返す。自分が問いかけられているにも関わらず。


実際、レグルスの頭の中ではそうしたい衝動が騒いでいた。

囚われの身、そう聞いていながら何故そこに気が付いたのだ。勘が良過ぎるにも程があるのではないか、と。


「行動の制限は特にないはずだ。俺も16年前から今までの間に、三回だけ会うことが出来ている…」


そう、小さくと彼女が返す。訝しげな視線と共に。レグルスの身体は強張った。


口にしておきながら今更のように足元から這ってきた、実感。

三回。客観的に捉えればそれは決して少なくはないと気付く。囚われという事実を真っ向から否定するものだと言えるだろう、と。



だけど…っ



レグルスは言った。半ば感情的になっていた。


「アイツに言動の自由はない。組織のことは一切話すことが許されていないし、何処で監視されているかもわからねぇんだ。」


そんなの自由とは言えねぇだろ?と問いかける。しかしセレスの表情は、変わらない。見透かしたようにじっと黙って見上げている。レグルスはいよいよ苛立ちをつのらせる。



アンタ…



思わず呟いた。何もかも引き剥がされてしまう、空恐ろしさに目を尖らせた。わずかに身を引いている、自身の仕草にも気が付かないまま。



「さっきから何を探ろうとしている?何を疑っているんだ…?」



見つめ合う二人。辺りを占める空気にますますの淀みと酸素の薄さを感じる。逃げ出したい、それでも許してはくれない。開いた距離をわかりつつも離さんとするような彼女の目が。


やがて、小さなため息が落ちた。セレスのものだった。



「嫌な思いをさせたなら、ごめんなさい。」



彼女は言う。でも、と続ける。



「私に疑惑を抱かせているのは…あなたよ、レグルス。」


「え…」


呆然と呟きを漏らした。そこへ彼女の声が言った。

容赦のない、抉られるような一言だった。



ーーあなたは、彼を“信じる”とは言わなかった。ーー



いや、言い切れなかったのね、と彼女は言う。レグルスは目を見開く。何も返せないまま。



「あなたが言ったのは“信じたい”。それは願望…全く意味が違うわ。」



し…ん、と辺りが再び静まった。その中で睨み合いのような状態がしばらく続いた。


ふっ…


それは不意に自身の中からこぼれた。レグルスは目を伏せた。


「本当、かなわねぇな。アンタには。」


悔しいけれど認めざるを得ない、そんな思いをそのまま告げた。自分でも驚いていた。


追い詰められている最中さなかはあんなにも恐ろしく、呼吸さえ浅く思えたのに、一度認めてしまえば何のことはない。思いのほか清々しいものだったのか、と。


「もう綺麗事は言わねぇよ。よくわかった。アンタには隠しても無駄だって、な。」


「隠す…って?」


目を見張るセレス。その姿にもう恐れは感じない。自然と笑みをこぼしていた。きっとすごく格好悪いものを。


俺は…


もう取り繕う気もない。いや、そんなことをしていた今までの方がよほど無様に今では思えてくる。


「後ろめたいんだ、アイツに。心の何処かで恨まれているんじゃないかって…」



そんな思いが、どうしても拭い去れなかった。ずっと。



「レグルス…何故?」


彼女が問いかける。もう先程までの抉るような視線ではない。心の底から案じて受け入れようとしてくれているのが、伝わる。


レグルスの中でいくつかの光景が蘇った。


自由を失ったあの日。そして、それから月日が流れてやっと知った、真実。

その頃にはもう遅かった。後戻りなど簡単ではなく、動かせないくらいに状況は固まっていたこと。そしてそれをアイツ自身が拒否したこと。


また繰り返してしまったと知った。犠牲にしてしまった、と。


凄まじい勢いの記憶の波は更に遠くまで遡る。変動の中、ぽつんと佇む頼りないあの頃の姿に戻った気分だった。



ーー俺には、罪がある。



レグルスは口を開いた。心配そうに見つめる彼女の前で、重々しく。


「スピカにも言えない…いや、アイツにだけは言えなかった、罪が。」


そう、自分に放たれる【罪人】という名称は単なる罵りではない。

奴は知っているんだ。あの場に居たんだ。犠牲になったアイツの姿を何処かで見ていたんだ。遠く離れたあの場所で。



セレス…



真っ直ぐ、彼女を見つめた。改めて見入った。


今、誰よりも変わろうとしているかつての妖精女帝。痛みを伴う記憶から逃げなかった、自分にはできなかったことをやってのけた、そんな姿勢に敬意を感じずにはいられない。


ただの女であることに変わりはないが、一人の妖精として。


「全部は話せない、それは許してほしい。だけど16年前に俺とスピカが見たものを…」


俺の、罪を。



まだ少し頼りない自身の声をつくづく情けなく思った。だけど彼女は頷いてくれた。力強く。


レグルスも頷いた。壊れそうな胸の内に苦笑しながら。



もう逃げられない。逃げてはいけない。


ルナティック・ヘブンよりも、ルシフェルよりも先に、倒さなければならない敵が、この中にいる。



固く閉ざされていた扉を開く覚悟を、決めた。



✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎



ーーほんの少し覗いた朝日の頭に空が白くぼやけ始めていた、早朝。

すぐに目を覚ますことができた。いや、正確には十分に眠れてもいなかった。


それでも水を得た魚のように動き回れたのは、体力、精神力共にみなぎる幼い身体の成せる技だったのではないか。今ではとても真似できない。


ドタドタと音を立てて階段を駆け降りた。逸る気持ちを抑えられず。


バタン!と勢いよくクローゼットを開けた。その目はおのずと輝いた。


綺麗に仕立てられたジャケットとパンツ。アイロンのかかった真っ白なシャツ。赤いチェック柄の蝶ネクタイ。


憧れの“大人”と同じものに身を包み、颯爽と振る舞う自分の姿を思い浮かべるだけで全身が落ち着きなく疼いた。

この日をどれ程待ちわびたことか。


きっと見たこともないご馳走が出てくるに違いない。ケーキはすごく大きいのだろうか。もしかしたら天井くらいまで高いのかも知れない。


ジュースはやっぱりあのお洒落な“グラス”に入って出てくるのだろうか。大きなお肉はあるのかな?


巡る少年の期待は留まるところを知らない。


ご馳走が楽しみなのはもちろんだったが、本当はそれ以上に気になってならないことがあった。いつもの半分まで睡眠が削られてしまう程に。


小さな頭の中でそれを好きなように思い浮かべると、表情筋はだらしなく緩んで、反対に小さな両足がバタバタと暴れ出す。

高ぶるあまり、近付いてくる足音にも気付かなかった。



「何か騒がしいと思ったら…」


低い苦笑混じりの声。もう起きていたのか、レグルス。いつの間にか現れたその人が言う。


「おはよう、父さん!」


「早過ぎる“おはよう”だな。」


まだ5時だぞ、そう言って笑われた。だけどかまうことはなかった。

目をランランと輝かせた少年、レグルスは言う。眠気も忘れさせる程気になって仕方のないことを、父に。


「ねぇ、父さん。王女様って可愛いんでしょ?」


「やれやれ、お前はそればっかりだな。」


もちろん、可愛いよ。返ってきた答えに幼く甘い気持ちは更に逸る。


「どれくらい?世界一?好きな食べ物は?」


「ああ、世界一だと父さんは思うよ。メロンとか桃とか、甘い果物がお好きだ。」


甘い果物…それだけでも可愛らしい。想像力豊かな少年の期待を膨らませるには十分な要素だ。


へぇ、と呟きながらレグルスは大きなソファに飛び乗った。そこで着かない両足をぶらぶらと遊ばせた。


空想の世界に浸っていると荒々しい手つきで頭を撫で回された。少し鬱陶しい、だけどやっぱり嬉しかった。

ちょっぴり恥ずかしく思いながら見上げると目に飛び込む優しい微笑み。よしよし、と呟きながら見つめる父の赤い瞳があった。



ーーシリウス・グラディウス・ガルシア。


アストラル王室の上層部、親衛隊長を務める彼もここでは一人の父親に過ぎない。


寝癖だらけの銀髪、よれたパジャマの襟、伸びかけた足の爪…それはどれも普段の凛々しい姿からは遠くかけ離れている。

眼光鋭いことで有名だという赤い目も今は柔らかく細められている。


完全に家庭の顔。外とは違うと幼いなりに察していたレグルスはそれでも父のことが大好きだった。むしろ外の誰も知らないであろう姿を自分が知っていることが特別であることを示しているみたいで、嬉しいくらい。


「スピカ王女を見たら好きになるかも知れないな、レグルス。」


パジャマの前ボタンを開けながらシリウスが言う。レグルスは少し頬を赤らめた。だけど堂々と言ってみせた、幼いなりの決意。



「俺は将来、父さんみたいに強くなって王女様をお嫁さんにするんだ!」



そう言ってソファの上で仁王立ちになる。息子の大胆な発言に父の方からほぉ、と声が上がった。


「それは楽しみだ。じゃあ勉強も沢山しないとな。」


そう言ってしし、と意地悪そうな笑みを漏らすシリウス。えーっ!レグルスは落胆の声を上げた。それからムキになって返した。


「勉強なんていいじゃん、そんなの。俺、絶対強くなるよ!シャウラがいじめられてるの、いつも助けてやってんだぜ!」


言い切るとふふん、と鼻を鳴らす。拳を何度か素振りしてどうだ、と言わんばかりに父の方を見る。


見下ろすシリウスの表情は穏やかでちょっと困っているようだった。



あのなぁ、レグルス。



呼ばれて動きを止めた。ゆっくり傍へ近付いてきた父が言った。


「男の魅力ってのは腕っぷしだけじゃないんだぞ?」


レグルスは目を丸くした。続く父の言葉、それがこの先何年と胸に残るものになるとは知る由もなく、ただ不思議に思って。



ーー事実をしっかり見つめられる賢さと、そこから逃げない勇気が必要なんだ。ーー



「そうなんだ?」


よく意味もわからずに首を傾げた。骨ばった大きな手の感触がまた頭を包んだ。


「本当の強さとは、そういうものだと俺は思うぞ?」


優しく言って髪をさする、それはとても温かい。何か力を注ぎ込まれているみたいだった。

目の前の父の顔、オフであるはずのその姿が何故だかいつも以上に凛々しく見えた。


「うん…じゃあ、頑張るよ!」


思わず素直に答えていた。さっきまで不満に尖らせていた唇を真一文字に結んだ。

偉いぞ、という父の言葉にレグルスは誇らしさを感じて頬を緩めた。


「母さんももうすぐ起きるだろう。レグルス、顔を洗っておいで。」


「はぁ~い。」


いかにもだるそうに返事をすると、む、と低い呟きがした。言うまでもない、父シリウスのものが。


「そんなだらしのない返事では王女様に嫌われるぞ。」


「!!」


レグルスはとっさにソファから降り立った。シャンと背筋を伸ばして声を上げた。


「はいっ!!」


逃げるように洗面所へ駆けていった。父の温かい微笑みにも気付かないまま。


ただ感じていたのは強くあれ、ということ。父もまだ見ぬ王女様もそれを望んでいる。

そして何より自分自身がそうでありたいと、訴えられている気がした。



支度を終えて迎えの車に乗り込んだ家族三人。いつも父が仕事に向かうときに現れるそれにレグルスはこのとき初めて身を預けた。


フカフカした座席の感触に驚いた。来客の際、父が自慢気に案内するあのソファにも劣らない座り心地の良さ。漂う革の匂いは纏った衣装と合間って更に大人の世界を感じさせてくれる。


そわそわとした高揚のままにレグルスは宙に浮いた足をばたつかせる。横に座る厳格な性格の母、アルヘナが困り顔でたしなめるがただでさえ好奇心旺盛な年頃、これ程までに高まった興奮を抑えろとは無理な話だ。


しかも同じ空間にはオールバックの髪にベルベット素材の背広を決めた父と、ブロンドの髪をアップにし見たこともないドレスに身を包んだいつもより美しい母までいるのだから。


「王宮は広いぞー。」


助手席から声がする。レグルス、びっくりするだろうな、とシリウスは可笑しそうに笑っている。

おそらくは彼の予想通り、本当?と声を上げたレグルスが後部座席から前へ身を乗り出す。


「人、沢山来る?」


「ああ、たーっくさん来るさ。」


交わされる父と子の会話の間に時折ふふ、という母の控えめな笑い声が混じる。和やかな雰囲気の中、レグルスは更に問いかける。



「シャウラも来るの?叔父さんと叔母さんは?」



それは何気ないものだった。訪れた束の間の沈黙、その意味を知るはずも、ない。


父さん?


ただ不思議に思って首を傾げた。そこへやがて父の声が返ってきた。やけに重々しい口調で。


「…残念だけど、シャウラ君は来ないそうだよ。」


「えっ!何で?」


レグルスは驚きの声を上げる。前方からシリウスの申し訳なさそうな横顔がちらりと覗く。


「風邪を引いたんだって。楽しみにしていたらしいけれど無理はさせられないからって、叔父さんが言ってたんだ。」


叔母さんもまた具合が悪くなってしまった、だから今日は叔父さんだけが来るんだよ、と父は言う。


「そうなんだぁ…」


呟く幼い声は消えかかった。半年ぶりに従兄弟に会えると思っていたレグルスはその顔に落胆の色を露わにした。楽しみが一つ、減ってしまった。


しかし一方でそんなに不思議にも思わなかった。叔母は身体が弱くて何度かお見舞いに行っている。シャウラも持病こそないものの何処か遺伝してしまったのか、基礎体力が乏しく風邪を引くなど珍しいことではないと知っていたからだ。


だけどよりによって今なんて…

レグルスはつまらなそうに唇を尖らせる。


「馬鹿だなぁ、シャウラの奴。せっかく王女様を見れるチャンスだったのにもったいねぇ。」


「コラ、レグルス!そんなことを言っては駄目よ。」


隣のアルヘナが厳しい顔で叱りつける。レグルスはちら、とそちらを見た。そのときあることを思い付いた。


自らの閃きが面白く、くすぐったげな含み笑いをこぼす。そのまま母へ手招きをした。ちょっと耳を貸して…不思議そうな母の横顔に顔を寄せた。そこで囁いた。


「知ってる?アイツも王女様を狙ってるんだぜ。」


まぁ!と声が上がった。目を丸くしている母、やっぱり知らなかったんだと更に笑いがこみ上げた。レグルスは続けて言った。


「だけどアイツには無理だよ!」


だって俺、負けねぇもん!


最後はもはや内緒話とは言えない、しっかりと車内に響いていた。


「レグルスったら…」


しし、と欠けた乳歯を見せて笑う我が子をアルヘナは困ったような笑みで見つめる。おませな子、彼女はそう漏らした。


前のシリウスが小さく振り返った。くすぐったく笑い合う母と子の姿を愛おしそうに見ていた。だけどレグルスは気付かなかった。



このときの父の顔に、一抹の陰りがあったことを。



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