第50話 宴分縁席の計
ちょっと調べもので時間かかり遅くなりました。
恐らく月曜日は投稿ないと思います。
青州 北海国・劇県
近場にいる橋羽殿が娘2人を最初に連れてきた。いや、正確に言えば文姫はもう俺の屋敷に住んでいるので彼女が最初だ。
臧覇は俺に遠慮して婚儀を略式にするそうだ。申し訳ないが仕方ないか。せめてと思い、領内で採れた絹布を贈った。臧覇は感激していたが、今後も活躍してもらうから気にしないで欲しい。
宴会は程昱と荀攸が進行を担当してくれたので、俺は土産物と食べ物の用意を簡雍と王脩に協力してもらい進めることになった。
「最近作り始めた蜜蝋を使って青色に染めた麻布の傘を土産にしますか」
「傘は近年の雒陽でも人気があるそうで、養蜂のために行った盧江でも、名士は皆傘を持っていましたねぇ」
「青州の傘として売り出したいが、竹の骨が高いんですよねぇ」
「仲厳様が文姫様に贈った傘は屋敷の出入りの時にいつも持っていたから、劇県で女性に人気が出てるんですよ!俺も飛と一緒に行った酒屋で、旦那が奥さんに傘を持たせてるのを見ましたし!」
「飛が最近、女性を口説く方法を聞いてきたのはそれか」
簡雍と張飛は2人で酒屋に良く行っている。簡雍は良い酒を探すためだが、張飛は少し色気づいてきたと感じていた。成程、口説きのアイテムに傘が欲しかったわけだ。
「女性が口説きたければ、自分の官職でも名乗れば良いのではないか?高収入・高身長なんだし、それだけでも女性は喜ぶだろうに」
「いやぁ、最近は髭の揃え方もこだわっているのですが、なかなか……」
「私は髭が薄いから、そういうこだわり方をしないからなぁ」
父祖に生んだもらった体を傷つけるのは何事か、という儒学的な思想から、一部を除いて髪や髭を切るのは親不孝扱いされるのがこの時代だ。俺は髭が薄いので楽だが、人によっては顎髭の手入れが相当大変らしい。だから、蔡邕様が罰で髪の一部と髭を剃られたのは結構大きな出来事だったのだ。
世間話を少し続けていると、王脩が話を戻そうと声を張り上げる。
「仲厳様、話を戻しましょう。土産は良いとして、食事も拘りたいところです」
「実は程軍師から、食事を三交代にする方法はないか聞かれていてね」
「三交代、ですか?」
「そう。酒は飲み続けても良いのだが、料理を時間差で出せないか、とね」
恐らくはその時間差で上手く反董卓の流れを分断したいのだろう。更に、中央から祝賀を述べに来る使者もいると聞いている。そういう人々をうまく利用するつもりだろう。
「となると、出来立てが美味しい物。あるいは、出来立てでないと味わえない物がいい」
「氷室の氷を使うのはいかがです?あれは北海の雪が良く降る場所で冬に用意しているので、近隣ではあまり見られないかと」
確かに、冀州などの降雪が少ない地域ではあまり用意できない物だ。王脩が管理している氷室があるから、そこから出た発想だろう。
「やはり海の幸では?牡蠣は使いたいですし」
「確かに、牡蠣は北海の名産品だ」
オイスターソースは確実に使いたい。青州と言えば牡蠣醤ことオイスターソースと言われたい部分もある。となると、濃厚なソースを用意してカキフライという手もあるか。海老も手に入るし、エビフライとカキフライ、トンカツあたりを並べれば十分か。
「ちょっと試したい料理があるから、試食を頼んで良い?」
「仲厳様が子どもの頃に作ってくださった焼豚ソバ以来じゃないですか!楽しみだなぁ!」
琢県にいた頃、ラーメンが食べたくて塩チャーシューメンを作ったのを思いだした。そう言えば、あれは張飛と簡雍に3回くらい食べさせたっけ。
こっちでは小麦を作らないので、最近はあまり作っていなかったか。
小麦粉で作ったパンを粉状にし、新鮮な卵と小麦粉を使って高熱の油で揚げる。届いたばかりの牡蠣を少し長めに火を通し、オイスターソースといくつかの野菜を煮た汁などを混ぜて作ったソースにつけて食べる。ソースのパンチがやはり足りないが、ソースのドロッと感は出せた。牡蠣はちょっと水分が抜けすぎか?本番はもう少し熱に通す時間を短くしても良さそう。トンカツはかなりイメージ通りだ。脂身が多い肉はあまり用意できないのだが、俺の好みで少しだけ育成期間の長い豚を育ててもらっている。これを大判振る舞いすれば問題ないだろう。
「美味い!外側は小気味いい歯ざわりで、中に牡蠣の美味い水分がたっぷりだ!」
「豚肉も油の臭みがこの外側に吸われたのですかね?あまりくどさがない」
「豚は餌から少し拘っているからな。そもそも臭みも少ないのですよ」
こういう拘りがあるから、俺は女より食に興味があると勘違いされることもある。いや、別にそんなことはないんだけれど。ちょっと麻婆豆腐とか塩ラーメンとか北京ダックとかオイスターソースとか再現しただけだから。それにエビフライとカキフライとトンカツを加えるだけだから。セーフセーフ。
♢
宴席では事前に参加者が3グループに分けられていた。程昱と荀攸が分けたそれでは、最初のグループに青州の太守でもこちらの親交のある人を置き、更に王烈様などの名士と孫家の皆様を招待する。この面々は俺の料理の揚げたてを楽しみ、そして純粋に俺の婚儀を祝ってくれるかんじだ。このメンバーは王烈様などの名士がいる関係で政治的な会話が進みにくい。純粋に宴席を楽しんでくれている。劉静姫様も新調した絹服で挨拶回りを一緒にする。
「いやぁ、めでたい。この白酒も初めての味だな」
「この酒は高粱を使ったものです。3年ほど作り方を調べていたおかげで、いい味が出るようになりました」
「食べたことのない料理ばかりで、実に楽しませていただいた。長生きはするものだ」
「孔相様もいかがでしょうか?」
「うむ、実にその、新しい食べ方で、祝いの席なのに楽しませていただいている」
「それは何よりです」
孔融殿が何か言いたそうに参加していたが、王烈様の隣なので流石にあまり目立つ行動は出来ず。彼は最後まで大人しく食事を楽しんでいた。史実で反董卓連合に参加した1人だ。見事その動きを封じることが出来た。
それ以外の参加者には張飛や臧覇の演武が披露され、さらに婚儀にまつわるいくつかの略式の儀式も行われる。今日の宴会で一番忙しいのは間違いなく俺だ。しかし、俺は主役じゃない。難しい話だ。
2つ目の食事のグループは雒陽から来た太常の馬日磾様がいるグループだ。彼は蔡邕様と一緒に仕事をしたこともあり、蔡邕様とかかわりの深い人をこのグループに配置している。本来の順番と違ってここで文姫と2人挨拶回りをする。鮑信殿もここに加わり、荀攸とともに何進大将軍を悼みつつ酒を酌み交わしていた。これで誘ってきそうな人を2人封じた。
「蔡先生にはお世話になりっ放しです」
「娘が主役の日に、面倒に巻き込まれたくもないからね。任せたまえ。そして、この娘を頼みます」
「はい。必ず、幸せにしますとも」
文姫は俺が今日の為に新調した扇で口元を隠しながら、終始上機嫌で招待客に挨拶をしていた。
最後のグループは橋羽殿を含むグループのため、とにかく祝いムードを強くした。彼は妹の喬婉を隣に連れて宴席に出席しており、彼女も臧覇の演武を見ていたそうだ。気に入ってくれていると良いが。そして、最後に挨拶回りをしたのが喬靚とだ。ここで参加してくれた公孫瓚の従弟も様々な料理の数々に終始驚きっぱなしだった。当然だが、前2つのグループで董卓に関する話題は出なかったため、ここでもそうした話題は出てこなかった。
程昱が前日に鮑信・孔融ら4人ほどが董卓に対して反発するような内容を話し合っていたことを確認していた。だから、ここで俺を仲間に引き入れようとする人間もいる可能性は十分あったのだ。
結局程昱と荀攸が打った手で婚儀は平穏に終われた。こういう多方面に配慮したり、遠くを見据えて手を打てたりする人材は貴重だ。
翌日、参加した王烈様と参加していない張倹様からも祝いが届いていた。張倹様は立場上見え見えになるから宴席には参加せず、市井の住民たちが勝手に開いていた宴会に参加していたそうだ。贈り物を持ってきた徐幹が中身を開けてくれる。
「こちらが届いていました」
「これは……手紙?」
手紙には夏から俺に仕官するよう杜襲や趙儼を説得したことが書いてあった。もう少ししたら彼らが加わるので官職を用意しておいてほしいとのことだ。
「これは何よりの贈り物ですね」
人々のお祭り騒ぎはまだ続いている。
屋敷の外では俺の結婚を祝う合唱の声が聞こえていた。
史実で反董卓連合軍に加わった将がかたまりにならないよう、かつ好き勝手できないよう動向から判断して分断した程昱。
反董卓の思いが強そうな元何進の臣下だった鮑信を同じ何進の臣下だった荀攸が宥める。
2人が上手く動いたことで孔融らは主人公を誘う好機を逸しました。
とは言え彼らが全く動かないわけでもないので、これから周辺は活発化します。
それはそれとして、次話は3人の女性と主人公が色々話したり正式に屋敷に迎えたりするお話です。




