第48話 青徐やべーやつ選手権
25時はセーフ(震え声)
青州 北海国・劇県
北海相という地位を得たことで、金鉱床の開発に続いて手をつけ始めたことがある。それが南隣の国である琅邪国で採掘したドロマイトを輸入することだ。琅邪国相には黄巾の乱で父の副官を務めた宗員殿が入っていたので、交渉はスムーズだった。
とは言え、正直使い方はあまり知らない。現状での使用法は、メモで書かれていた土壌の調整と肥料代わりだ。育てているコーリャンやトウモロコシで土壌は弱アルカリ性が望ましいらしいが、それを維持するにはこういうアルカリ性の調整剤が必要なのだ。
向こうで採掘した鉱石を水車で粉末状にし、土壌が酸性に近づいた場所で適量をまいてもらう。これで土壌の安定性を保ち、収穫量の減少を抑えるのだ。
鄭玄様も一部の地域で収穫量が若干減っているのを気にしていたらしいので、今回の対策を喜んでいただけた。
「土の状態を管理する、か。実りを司る白天の一族らしい知恵だな」
「こういう作業を惜しまずすることが、民の生活の安寧に繋がるのかな、と」
「良いことだ。もう10年以上ここで高粱を育てているから、少しずつ影響が出ている気はしていた。これで土も戻るだろう」
そうして、同じような状態だった北海国の地域にドロマイトを配り、来年以降のために劇県に蔵を用意して貯蔵を始めた。今やこうした食糧価格は高止まりになりつつあり、以前の1石300銭から550銭に高騰している。冀州で食糧が生産されないのに、そこに軍隊が多数いるため兗州と青州から大量に買い付けるからだ。おかげで青州では豪族の小作が税や支払いで大金を徴収されてもなお財産を貯めこみ、見事土地を買い戻す例も出ているとか。
うちの封地では割と早い段階で小作が土地を買い戻しているので普通に思っていたが、豪族からすると収入が減るから深刻な問題らしい。俺はそこに収入源を頼っていないから気にしていない。それに、黄巾賊に参加していた小作は土地を買い戻す対象がないので20年の刑期はずっと小作だし。20年後に解放されるから、それまで土地を買うためのお金を彼らは必死で貯めようと頑張るようだ。
俺の元に集まった小作の買い戻した土地の売買費用で、張倹様に用意した学校の建設費用は十分足りた。学校には多くの生徒が通っており、諸葛瑾も来年までここで学んでいく予定だ。
最近は生活が楽になった人々が養蚕で作られた新しい服を買う姿も良く見る。雒陽周辺と青州に良貨が集まり、貨幣経済が安定している。他の州では漢中が奪われた影響もあって銅銭が不足しているそうだ。算賦を絹などで代替して払っている例も多いのだとか。徐州の様子を、父親が隠居して代替わりした麋竺が教えてくれた。
「徐州は高粱のおかげもあってなんとか無事ですが、黄巾賊も相応に現れましたからね。最近は冀州から来た流民が青州に入りきれず、そのまま徐州まで来る例もあります」
「徐州は今陶刺史様ですか」
「ええ。最初は張温の下で涼州で活躍していましたが、2年前にこちらに」
陶謙は史書ではかなり強かな人物だ。死ぬ前に徐州を劉備に譲ったことで三国志演義では良い人ポジションを得ているが、反董卓連合を利用しつつ董卓や李傕・郭汜には贈り物を送って官位を得ていたり、曹操の父の曹嵩の死に関わった疑いがあったりする。俺は警戒を緩めないようにしないといけない。
「とは言え、豊かさでは青州には敵いません。故に、当初は青州刺史になりたいと申されていたそうで」
「うーん」
謎の巫女に狂っている焦和か、侮れない陶謙か……。どっちも嫌な選択肢だったわけか。
「徐州は黄巾賊との戦で功のあった人材が多数太守になったのもあり、これからは安泰だと皆申しております。我々も商売がしやすくなると期待しております」
「さて、どうでしょうね」
ちなみに、宗教関係では徐州も危ないと思っている。それは、下邳国の相となった笮融もかなり危ない人物なのだ。笮融は中国でも最初期に仏教に帰依した人物なのだが、仏教の教えを名分に莫大な資金を使って伽藍とか仏塔を建てていたらしいのだ。その強欲さから、将来匿ってくれた太守を殺して土地を奪っている逸話がある。仏教の教えをどう学べばそうなれるのか、小一時間問い詰めたい。
そして、この下邳で現在勢力を伸ばしつつあるのが豪族の1人、闕宣だ。彼は黄巾賊を討伐したことで周辺から大いに称えられているらしいが、史書では天子を自称したと記されている人物だ。つまり皇帝を自称した危ない人である。袁術と同格なのだ。これでいかに危険な人物かわかるだろう。
そんな怪物が集うのが徐州だ。商売相手以上の付き合いはとてもしたくないが、麋竺たちだけでなく徐州は勇猛な将が多数いる場所でもある。関係性を築いておいて損はないのも事実。難しいところだ。
「絹はこれ程仕入れて来れましたので、この分は高粱でお支払いいただいて」
「後は塩を徐州にこれくらい、蜂蜜もこのくらいは」
「蜂蜜は笮相が随分欲しがっておりましたね」
「やはり、御仏の教えは殺生禁断だからですか?蜂蜜は生き物を殺さずに得られる食材ですからね」
「いえ、妾の体にかけて味わうとか」
さっさと破門されろ。
♢
董卓の名士優遇策の一環で俺は北海相になれたわけだけれど、俺より大物で刺史になった人は複数いる。焦和もそうだし、兗州刺史になった劉岱様もそうだ。劉岱様はあの劉繇の兄で、謙虚で人々に混じって酒場で民の不満を聞くような人物らしい。ちなみに、酒を飲んで屋敷に帰っても料理人の作る料理は全て食べるそうだ。そして満足気に眠るらしい。ドカ食〇気絶部かな?
そんな兗州の泰山郡に入った鮑信殿は青州から食糧を大量に仕入れ、それを民衆に配り、一気に治安を安定化させた。川向こうの黄巾賊残党などを自分の家臣になるなら許すと布告し、厳しい規律で統率しているそうだ。嫌われ者の黄巾残党も、自分たちの身を守る盾になって生活を脅かさないなら許すかという空気になりつつあるそうだ。それに、川向こうの冀州で暴れた黄巾賊は兗州の人々にとって直接の仇ではないのがこの政策を成り立たせる理由になっているらしい。
鮑信殿は泰山郡の政治が軌道に乗ったためか俺に直接お礼を言いに秋の終わりに劇県までやってきた。
「本来、私は同じ郡の出身故太守になれぬのだがな」
「それだけ、泰山の安定が必要だったのでしょう。青州と雒陽を結ぶ最重要地の1つですし」
青州から泰山→東→河内→河南尹という道が一般的だ。このルートで現在多くの食糧が雒陽に運ばれ、食糧不足の王都を辛うじて支えている。だから、泰山の安定化のため董卓はなりふり構わない人事を敷いているのだろう。そういう意味では先例に囚われない政策の実行者とも言える。でも、こういうところが王允の怒りを買ったのだろう。
「食糧8000石の礼は必ずする。子々孫々までこの恩義は伝える故、暫し返済を待っていただきたい」
「大丈夫ですよ。ゆっくり返していただければ」
1石が約26kgなので、今回鮑信殿に貸したのは200tくらいだ。俺の穀物庫には常時この4倍は食糧があるから、全く問題ない。何なら収穫が終わった今は7倍以上の量がある。この食糧でそのまま私兵を追加で10000人以上雇えるくらい余裕がある。
「そう言えば、董卓と盧大海様が揉めたと聞きました」
「父がですか?」
「ええ。董卓が神獣の銅像を銭不足を理由に鋳つぶそうとするのに猛反対したとか」
「まぁ、普通はそうでしょうね」
「とは言え、貨幣不足が深刻なのも事実。董卓は神獣では腹が膨れぬし北狄たる羌族や氐族は討てぬと申しているとか」
正に神をも畏れぬ所業。とは言え、青州・徐州にいるやべーやつ選手権に参加したら、埋没しそうな個性ではある。
巫女狂い焦和
仏教で金儲け笮融
隣の州まで略奪に行ける八方美人陶謙
天子自称闕宣
曹操とレスバする孔融
全員史書に記載されているのがすごいですね。




