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第47話 金の国、金の一族

挿絵(By みてみん)

 青州 北海国・劇県


 荀攸じゅんゆう雒陽らくように戻るそうだが、董卓の元で働きたくないので雒陽に着いたらすぐ職を辞すそうだ。


「董卓の暗殺を狙う友にも、しばらくは埋伏せよと伝えます」

「そうですか。無理はなさらずに」

「ええ。この仕事、志願して来てよかったです」

「志願したのですか?」

「ええ。雒陽で仕事をしたくなかったのと、潁川えいせんで盧太守に『弟は自分を超える傑物だ』と申されていたので、お会いしたいなと」

「それはそれは。兄の冗談にお付き合いいただいたようで」


 太学に行っていない俺の方が優秀はナイスジョークだ。俺が太守になる間に、兄は太守をもう3年続けている。順当に行けば兄が次の人事でどこかの州刺史になるはずだ。


「さてさて。私からは何とも」


 彼はそう言って笑っていた。


 そして数日後、董卓の新しい政策が発表されたのと数名による暗殺未遂が発生したことで、荀攸は雒陽に帰らずにこちらに戻ってきて俺に仕官してくるのだった。

 政策は元号の変更だった。これにより中平は永漢となり、皇帝が代わることが各地に示された格好となった。

 そして、議郎の鄭泰ていたい何顒かぎょう・侍中の种輯ちゅうしゅう越騎えっき校尉の伍瓊ごけいらによって董卓の暗殺未遂事件が発生し、彼らは投獄されたという。


「私が相談を受け、計画を立てていた面々です。私が不在の間に、我慢できなかったようです」


 彼はそう言って悔しさをにじませた。いずれも何進派として何進に取り立てられた人々らしい。


「このままでは、何大将軍に恩義のある者は雒陽から排除されるやもしれません。何とか青州を受入先にできませんか?」

「無論。有為の人材を失うわけにはいきませんから」


 俺は父に書状を送り、何進派で官を辞した人間などをこちらで匿うことを伝えた。

 董卓は涼州の馬騰ばとう韓遂かんすいと和睦を結び、西方を安定させた。漢中を史実通り張脩ちょうしゅうが支配し、涼州との接続を断っているので雒陽は西方の安全を手に入れた形だ。状況の変化が激しい。周辺の太守との連携が重要になりそうだ。


 ♢


 北海相という官職は北海王の宰相であり、俺が補佐するのが北海康王である劉隠りゅういん様だ。劉隠様は既に北海王の地位に既に51年ついている。当然だが既に67歳という高齢で、今では表にほぼ出てこない。膠東県の公沙氏が保有していた封地は半分が北海康王の土地になっている。

 今回はそんな劉隠様に北海国の金鉱床がある姑水こすいの上流の開発許可をもらいに訪れた。


「康王様、お体はいかがでしょうか?」

「最近は蜂蜜果凍のおかげで、毎日体を起こせるようになっている。助かっているぞ、盧相」

「それは何よりです」


 最近はあまり固形物を食べられないらしく、果汁と蜂蜜をゼラチンに混ぜたゼリー(果凍)を好んで食べているそうだ。栄養がとれなくなると人間は本当にもたなくなる。史実にない物ばかりなので、延命には成功しているだろうか。


「以前言っていた話かな?」

「はい。ありがたいことに、姑水の上流で見つかりました」

「良い良い。任せよう。好きに進めなさい」

「ありがとうございます」


 東莱郡でも牟平ぼうへい郡との境に当たる位置なので、橋羽きょうう殿に赴任直後に許可をもらって試掘などをしていた。場所を知っていたのは割と単純で、山東半島は20世紀後半から21世紀に金の採掘量で中国随一だからだ。勝利油田もそうだが、沿岸地域の鉱床は結構深い位置だと聞いているが、この川の上流地帯はなんとか採掘できる程度の深さだ。毛沢東時代に共産党が手掘りで採掘させていたのだから、なんとかなると判断していた。

 問題視してきそうな膠東県の豪族もいなくなったので、これを機会に試掘から開始していたわけだ。


「最近は良い貨幣があまり出回っていないので、大きなお金は金でなんとか代替していきたいところです」

「盧相の持つ銅銭を流通させねばならぬしな」

算賦さんぷで大分支払いましたけれどね」

「民の心には銭以上の物が残っている。安心しなさい」


 この人は温和という言葉が人になったような人だ。だが、子どもに恵まれなかった。それがひたすら無念としか言えない。


「新しい青州刺史とは会ったかね?」

「挨拶だけ。明日、色々お話する予定です」

「なかなか癖の強い人物だ。覚悟して話すといい」


 この人にそう言わせるって、焦和しょうわはどんな人物なんだ……。いや、戦争が下手なのは知っているけれど。


 ♢


 劇県に視察と挨拶で訪れた焦和は、楽安らくあん国相の孔融こうゆう殿を連れて来ていた。


「貴殿の事は我が友からよく聞いていたよ」


 孔融殿は会うなりそう言って握手を求めてきた。彼は赴任するなり孝廉で郗慮ちりょを推挙し、郗慮は嬉しそうに雒陽に向かっていった。俺が推薦しなかったのは『年上を孝廉で推挙するのもどうか』という話でしていたので、孔融も納得はしているようだ。


「こちらが新しい刺史である焦刺史だ」

「お初にお目にかかります。盧仲厳と申します」


 彼は孔融とともに、頭に枯れた草のつるを巻き赤い袴を穿いた女性を連れていた。焦和殿は自分の挨拶はそこそこに、この女性について紹介し始めた。


「彼女こそ桃源郷より帰還して不死の叡智を我々に教えてくれる巫娘ふにゃん様です」

「はぁ……よろしく」


 彼は熱心に不老長寿を目指して何をすべきか熱心に語ってきた。


「つまり、善政を敷く名君が死ななければ、民は永劫の平穏と豊かな生活を続けられるのですよ」

「はぁ……」

「私は彼女の教えを守り、辰砂しんしゃを用いた秘薬を毎日飲んでいるのだ」


 辰砂って水銀じゃなかったっけ?大丈夫なのか?


「貴殿のような人々を導く者こそ長寿を目指すべきだ。巫娘様は貴殿にも秘薬を授けてよいと申しておる」

「あ、えっと、別にいいかなって」

「何故だね!?これは始皇帝さえ探し求めた秘薬ですぞ!始皇帝は辰砂を飲み、桃源郷を探しておりました!彼女は徐福とともに桃源郷に向かい、1人辿りついてそこから見事帰ってきたのです!」

「でも、始皇帝は死にましたよね?」

「それは材料が足りなかっただけ!これは必要な材料が桃源郷から持ってこれたのですよ!」

「はぁ……」


 もはや恐怖さえ感じるレベルだ。目がちょっと血走っている。


「えっと、まぁ機会があればということで」

「是非、一度お試しくだされ!飲めば体が火照って、内から力がみなぎりますぞ!」


 もらった紙包を俺はその日のうちに捨てた。

 世界は、広い。

北海康王・劉隠の名前は架空です。後漢の劉一族からとっています。年齢も本来不詳です。

焦和が変な教えに傾倒していたのは事実です。巫女の教え通りに戦っていたとか、色々不思議な逸話の多い人物でもあります。


別作品ですが、私の作品で「斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!」という作品の漫画版が7日に単行本6巻発売となります。また、連載している月刊少年チャンピオンの最新号も6日に発売です。もし良ければお手に取ってみてください。

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― 新着の感想 ―
不老不死の秘薬(飲み続けると病死)キタwww 戦に弱いのに、このご時世にこんなのに頼るとか政治も知も危ないぞw
[気になる点] ついこの間まで宗教勢力による大乱(黄巾族)があったのにも関わらず、変な宗教が地方権力の中枢にくい込んでいるだと…!? ヤベーですよ! 孔融さんお付きの中にはマトモな感性をした部下が居…
[良い点] >別作品ですが、私の作品で「斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!」という作品の漫画版が7日に単行本6巻発売となります。 両方読んでるのに同じ作者さん…
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