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第44話 霊帝崩御

 青州 東莱郡・東牟とうぼう


 従銭軍1000と王豹軍300、私兵700で東牟県に入った。王豹の軍勢の半数以上と王豹本人は膠東こうとう県の安定化に向けて動いている。そして、ここには張飛と楽進を連れてきている。


 王営の支配地域に入り、ひたすら各地に高札を立てていく。高札には『王営が東莱太守の呼び出しに応じないため、連行するための軍』であることが明記されている。小作農たちに何かする兵ではないこと、そしてこの軍勢は官軍で、逆らえば賊軍となることが明記されているわけだ。


 道中に400ほどの兵を連れた将が立ち塞がろうとしたが、うちの軍勢に驚いた兵が一気に逃げ出して勝負にすらならずに降伏してきた。名前を聞くと黄巾賊で手配がされていた五鹿ごろくという男だった。これで、黄巾賊を匿ったという罪状が加わることになった。黄巾賊は捕まえたら官庁へ報告義務がある。報告して配下に加えるなら許されるが、当然王営は報告をしていなかった。五鹿が言うには、元黄巾賊はほぼいなかったものの、荒くれ者が1000近く兵として雇われていたらしい。しかし、今回の騒動が始まると拠点に帰ってこない者が続出し、今日の段階で王営の身辺を守る200を除くと400しか残っていなかったのだとか。


 正直もう戦いにならないのだから大人しく降伏してほしかったが、王営は屋敷の中に籠って武装したままこちらを待っていた。

 こちらが降伏した兵士から使者を立てて送ると、その者の書状(高札と同じ内容だ)を受け取ったらすぐ殺してしまうほどだった。矢に結び付けた書状で『私の財産は私の物で、誰にも奪わせない』的なことを書いていた。論点がずれているというか、こちらが何をしたいか伝わっていない気がする。書状を読んで、程昱は言う。


「仲厳様は人を信じれるので、出頭せよと命じられれば相手次第で護衛なしでも行けましょう」

「そうですね」

「ですが、王営という男は違う。王営は自分ならだまし討ちで財産を全て奪うと思うから、仲厳様もそうすると思っている。だから出てきません」

「出てくれば死ぬと思っているんですねぇ」


 呆れていると、屋敷を囲うように兵の配置を終えた楽進が報告後に会話に入ってくる。


「そこまで金に執着するなら商人にでもなれば良いものを。名士の子孫だからというだけで財を得て、己の才覚でないからより手放せなくなるのでしょうか」

「土地からしか財を得る手段を知らないからでしょうね。商品作物か食糧を売って利を得るだけだから、土地を失いかねない商人になろうとしないのです」

「仲厳様のように民に施すために財を成す者とは本質から違うのですな」


 とは言え、その財の根っこは与えられたものだ。それは忘れちゃいけない。


「3日ほど包囲して、戦いは仕掛けずに。向こうから攻撃して来たら反撃は良し。少し様子を見ましょう」

「承知いたしました!」


 俺の言葉に楽進はハキハキ答えると、兵の管理に戻っていった。張飛は王豹が不在の分俺の側から離れられないので、従銭と2人が兵の統率をする主力だ。頑張って欲しい。


 ♢


 3日後。連日の書状(といっても2日目からは手渡しして兵を殺されても困るので書状を石にくくりつけて門前に投げるやり方に変えているが)に反応を示さなかった屋敷内で騒ぎとなる声がかすかに漏れ聞こえてきた。時刻も夕方になり食事をとろうかというタイミングだったので、最初は食事の準備ができたという報告かと勘違いした。慌てて程昱を呼び、状況を確認する。


「内部で争う声がわずかに聞こえました!あと、門前の兵士が屋敷内に入ったまま戻ってきておりません!」

「何かあったな。考えられるのは一族で内紛か、降伏を訴えた者を王営が殺して騒ぎになったか、雇っている私兵が反乱を起こしたか。程軍師はどう見ますか?」

「はっきりは絞り切れませぬな。仲厳様、中を探らせますか?」

「難しいところだ。誘い出されている場合も捨てきれない」

「そこまで忠誠心が高いとも思えませぬが、大半は逃げた後なればきちんと仕える気のある士が多いですかな」


 しばらくすると、数人の兵士が手に何も持たず屋敷から走って逃げだした。追いかける武装した兵士もいたが、こちらの様子を見て深追いせず戻って行く。逃げだした兵士は「殺さないでくれ!」とか叫びながら数か所の兵士たちに後頭部に両手を添えた降伏ポーズで駆け込んでいく。

 しばらくして、各地に逃げ込んだ兵から何が起こったかの情報が入ってきた。直接起こったことを目で見た者以外は結構誇張したような話も多かったが、大体の状況はつかめた。夜に合流した従銭と楽進が、その詳細を説明してくれた。


「直接見た者によれば、公沙盧が王営にこちらの陣に行くよう要求したようです。そして、それを拒否した王営とつかみ合いの喧嘩になった」

「これを止めようとした公沙盧の姉である王営の夫人が2人に突き飛ばされ、壁に頭を強く打って亡くなったそうです」

「それで公沙盧が激怒し、両者は剣を抜いて戦いそうになったのを、王営の部下が公沙盧を斬ってなんとか事を収めたのです」


 地獄かよ。その話だとお姉さんが亡くなった理由半分は公沙盧だったろうに。


「夫人付だった兵士や公沙盧とともに逃げ込んだ兵士らがこれを見て自分も殺されると思い逃げたのが真相の様ですな」

「だから逃げた兵が少なかったと」

「おそらく。ただ、中で恐慌を起こした者が10名ほど斬られたそうで、中は大変でしょうな」


 ただ、ある意味覚悟が決まった集団は手が出しにくい。このまま膠着状態になるのは困る。もうすぐ5月も半ば過ぎて雨期に入ってしまう。そうなれば包囲しているこちらの体力が削られる。雨をしのぐ設備なんてないのだから。


 しかし、先に音をあげたのは王営の配下だった。彼の屋敷内は食糧庫がなく、金庫と宝物庫だけがあった。金の亡者だったために、200近い兵を養う食料を貯めこむ場所がなかったわけだ。あっという間に食料が不足した結果、50人ほどの兵が脱走して降伏してきた。その結果、俺が突撃した場合守りきるための最低限の兵さえいなくなったのだろう。そこから30人程の集団が2つ一気に夜に集団降伏してきて、夜間に哨戒に立つ兵さえいなくなった。そして雲が空を覆った5月末の日、夜番だった王営配下の1人が部下とともに寝ている王営を捕縛し、そのまま俺に突き出してきた。こうして、王営・公沙氏の一連の事件は終わりを告げた。


 ♢


 青州 北海国・劇県


 王営の財産は莫大だった。公沙盧の領地も広大で、4000戸が官庁の支配下に戻ったことになる。何より、北海国や東莱郡では豪族でも不法行為は許されないという前例が確立した。王営の財産は全額東莱郡に入り、俺には少しだけ褒賞が支払われた。東莱郡太守は搾取されていた小作農の耕していた農地を個人所有に戻し、その仁政を大いに称えられた。


 そして、劇県に戻った俺に、霊帝の死と、それにともなう大混乱の報が届いた。


 宦官の全滅、何進大将軍が意識不明の重体、そして、父の大司空就任。

 董卓の台頭は予期していたものの、それ以外があまりにも目まぐるしく、霊帝崩御を悼む余裕もなかった。


 そして6月8日付で新しい皇帝に劉協が即位すると発表があり、何進大将軍の死も公表された。

 董卓は大司馬となり、政治の一新をうたって州牧・州刺史・太守らの人事を刷新した。


 俺は新たに北海国相に任じられ、東萊郡太守に橋羽きょうう殿が就任するなど、周辺人事が一気に動くことになった。


 7月に帰ってきた王脩おうしゅう滕耽とうたんから語られた雒陽の様子は、凄惨せいさんの一言では済まされないものだった。

霊帝は史実とほぼ同じ時期(4月半ば)に死んでいますが、高望の失脚の影響もあって5月上旬まで宦官によって伏せられていました。

詳細は次話の別視点で語っていきます。


何故段珪は死んだか、何故劉弁は皇帝になれなかったかなど、詳細が当事者視点で見える予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何進大将軍が亡くなってしまった! いつも更新ありがとうございます
[一言] 董卓台頭の前後らへんからがいよいよ三国志って感じよね。楽しみです。
[良い点] 後漢終了の時報がなったかな? [一言] 親戚の面倒臭いところがイメージ出来ました。中央と繋がる大切さも。無理しない範囲で更新してくれると嬉しいです。
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