表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/53

第38話 臨済の戦い(後)

遅くなりました。もう少し余裕のある日程を目指したいです。


挿絵(By みてみん)

 青州 楽安らくあん国・臨済りんせい


 黒山賊の敵将・褚燕ちょえんが前線に近い位置で指揮をとりはじめると、混乱していた中央の軍勢が少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。

 既に中央右側は程昱ていいく于禁うきんによって崩壊し、中央も張雷公が討死して本来ならこのまま黒山賊が完全崩壊してもおかしくなかった。それをここまで保たせたのは間違いなく褚燕の力があったからこそだろう。そして、最前線で粘っていた敵側の趙雲だ。逆に言えば、この2人がいなくなれば黒山賊は完全崩壊する。白波賊が敗走する黒山賊と黄巾賊の対処+千乗せんじょう管承かんしょうへの対処+諸侯軍への防戦で手一杯だからこそ、ここで中央を完全突破すれば敵は撤退を余儀なくされるはずだ。


「行けるぞ!敵の大将は目の前だ!勝った!勝った!勝った!」

「「「勝った!勝った!勝った!」」


 近くの兵が盾を使って矢を防いでくれる中、俺は褚燕同様前で味方を鼓舞し続ける。張飛が最前線で敵兵を次々となぎ倒し、相手の兵も少しずつ削れていく。

 ただ、少しこちら有利になったタイミングで、張飛を止める白馬の槍使いが現れた。


「良く俺の横薙ぎを止めたな!」

「趙子龍なり!太史慈を出せ!奴の首を獲れば!!」

「目の前の敵を見ない内は、戦には勝てんぜ!!」


 張飛はほぼ元気いっぱいで、趙雲は太史慈と長く戦って疲労困憊だ。そのため、趙雲が徐々に押しこまれて後ろに下がる回数が増える。張飛は闇雲に攻めず、趙雲が疲れで動けなくなるのをじっくり待つ作戦に出た。自分が危険にならない範囲で趙雲に攻撃をし、ひたすら相手の体力を削っていく。趙雲の劣勢を見た黒山賊の楊鳳ようほうが自身の旗を掲げて張飛に向かっていくが、趙雲が1分呼吸を整える時間さえつくれずに張飛に討ち取られていた。

 そして、このタイミングで太史慈が休憩から復活してきた。彼は趙雲を見つけると彼と再び戦い始めた。結果としてフリーハンドになった張飛が敵兵を恐怖の渦にまきこんでいく。敵は盾を持った兵や比較的元気そうな兵が隊列を保って張飛と戦っているあたり、褚燕の指揮は行き届いている。しかし、兵士が根本的に恐怖に支配されている以上、踏ん張りがきかずに兵は逃げ腰になる。そして、張飛の圧によって隊列を崩して各個撃破されていくのだ。この戦い方は賊相手だからできることで、例えば董卓の軍や袁紹の軍と戦えばこうも上手くいくことはないだろう。


「黒山賊にはそこの趙子龍以外まともな兵もいないのか!?」


 張飛が挑発するように言っても、相手は反論もせずにどんどん前線を下げていく。従銭が張飛の武で前に出た部分を素早く埋め、敵に隙を見せない。褚燕も流石にまずいと考えたか、ついに前に出て張飛と直接対峙するようになった。


「良し!敵は主な将が前線にいないともう軍を維持できなくなっているぞ!!」

「「「勝った!勝った!勝った!」」」


 そして、こちらが全面的に押しこみ始めたところで程昱から連絡が来る。于禁とともに烏桓うがん族の側面を襲っているとのことで、烏桓族は北東方面に既に撤退を始めているらしい。深追いしないで臧覇をこちらに戻せるよう動くとの連絡だった。


 そして、王豹とともに常に矢が襲ってくる位置で耐え続けること約1時間。ついに楽進が中央左を完全に突破したことで、正面にいる黒山賊は褚燕の周辺以外は統率が一切取れない状態となった。


 俺は自分の背の高さを生かして射線を通し、褚燕を補佐している周辺の兵を射抜いていく。本来弩があれば俺は狙われやすいのだが、黒山賊はこういう装備が少ない。だから俺を狙う攻撃は少ない。敵の装備は大半が簡素な複合弓だから、俺が威力で負けることはない。


 そうして、褚燕の側面を守る兵が減ったことで張飛を補佐する兵がうまく褚燕の体勢を崩した。張飛がその隙を見逃さずに褚燕の左腕を落とし、その後褚燕の首を見事落として見せた。


「敵将褚燕、この張翼徳が討ち取った!」


 歓声が上がり、太史慈に完全に押されていた趙雲が槍を投げて太史慈をひるませると、踵を返して逃げ出した。大将が討たれたとなれば逃げるしかない。そういうことだろう。本当は生け捕りにして家臣にしたかったが、深追いできる状況でもない。残念だ。太史慈も流石に肩で息をしていて追撃できる余裕はなさそうだった。


 ♢


 黒山賊が壊滅した頃、白波賊は既に渡河して北に撤退していた。諸侯軍と戦っていた一部を除いて、白波賊は戦わずに撤退した形となった。烏桓族も大半は北東へ抜けていき、しばらくして渡河して逃げたことが後に確認された。


 黄巾賊の残党は西へ逃亡したので、諸侯軍の一部が追撃に向かった。うちの軍勢は休息して負傷者の治療を含む戦後の処理を進めることにした。程昱が烏桓族が撤退したことを確認して戻ってきたときには日も落ちていた。


「千乗には狼煙で撤退するよう伝えてあります。昨日の狼煙でこちらに合わせて攻勢に出てくれたので、今回も問題はないでしょう」

「助かります。烏桓族に襲われたら大変ですからね」

「撤退は船ですので、彼らが帰るのは問題ないでしょう」


 少し休憩してから川を渡って偵察に向かった太史慈は、夜に戻ってきて攻められていた臨済の様子を報告してくれた。あれだけ趙雲と戦っていたのに、タフだ。


「臨済にいた敵は撤退していない。ただ、渡河時に兵が減ったのもあって、おそらく敵の総数は4万はいないはずだ」

「それでもまだこちらよりは多いですね。負傷者を下がらせると、こちらの兵数は12000ほど。黄巾賊を追撃した諸侯軍が合流してやっと倍の差か」

「とは言え、連中は士気が高くないだろう。烏桓族も撤退したのなら、早めに攻めれば崩せると思うが」

「いや、油断は禁物です。白波賊はほぼ無傷。渡河を邪魔されればこちらも辛いですから」


 だが、翌日の夕方に白波賊が撤退を開始したことが確認された。臧覇は相手の動きを推測し、黄巾賊を徹底的にたたくべしと主張してきた。


「船がこちらにあるので、渡河の邪魔は難しいと判断したのでしょう。むしろ、済水で分断されることを危険視したのかもしれません」

「となると、今仕掛けるのはむしろ悪手か」

「はっ。烏桓族が白波賊の渡河を補佐しているとのこと。被害の多い騎馬部隊は今度こそ敵を止められません。烏桓族が立ち塞がれば、むしろ我らが敗れることになります。ここは渡河はしつつも臨済の近郊で待つのが上策かと」

「烏桓族が最後に渡河を始めたところで烏桓族を削るため少し仕掛けるだけで十分だな」


 烏桓族も臨済攻めに残っていた兵と合流したので、総数で2万弱いる。こちらとの戦いで失った兵を十分補充しているので、渡河のために馬を降りたところで仕掛けるのが重要だ。それ以外のタイミングだと被害が大きくなりすぎる。しかし、海賊はやはり重要だ。管承さまさまである。


「済水を渡るところまで確認し、諸侯軍と半数の兵を残して西に逃げた黄巾賊を徹底的にたたこう。東の兗州は黄巾賊に4年前に大いに荒らされた。また荒らされては困る」

「仲厳様の申す通り。ここには兗州が故郷の将兵も自分を含め多くおりますからな」


 臧覇・程昱・楽進・于禁と兗州出身者は多い。彼らのためにも西へ逃げた黄巾賊は徹底的に壊滅させておきたい。兗州はまだ復興中の都市も多く、兵もまだ充足していない地域が多いのだ。


 ♢


 烏桓族の渡河を妨害した後、臧覇・従銭・劉政と合流した管承に兵を任せ、兗州出身者中心に6000で西へ向かうことにした。諸侯軍も戻ってきたので済水の南岸に12000が残る状態で、兵数は少ないが睨み合いになんとか持ち込むことが出来た。烏桓族は騎馬に乗っていなければ怖くないし、黒山賊は武将を5人討ち取ったのでもはや怖くない。


 入城した臨済の城に大歓声を受け、城の修復を諸侯軍とともに手伝う担当を決める。負傷兵の受け入れは後方の高菀こうえん県に頼み、黄巾賊を追いかけるために部隊を西へ向けるのだった。

臨済の戦いは勝利で終わりましたが、楊奉が優秀なのでしっかり白波賊には逃げられました。

史実で黒山賊として猛威を振るった張燕はここで討死し退場です。

基本的に海から敵が来るという状況を黒山賊も烏桓族も黄巾賊も想定していないので、管承の存在が結構大きな影響を与えています。

余談ですが趙雲は楊奉に合流しています。また別の場所で出てくる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >中央も張牛角が討死して本来ならこのまま黒山賊が完全崩壊してもおかしくなかった。 山賊ながら部下の危機に発奮し、黄泉から舞い戻ってきてまた負けたとかじゃなければ、たぶん張雷公さんのこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ