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第35話 西園八校尉

 青州 北海国・劇県


 あっという間に日々は過ぎ、中平5(188)年になった。

 陳王の劉寵様に協力してもらって武陵のヤオ族から綿花の種を手に入れることができたので、平原国の済水沿岸地域で栽培を開始してもらうことになった。もちろんそんな権限が俺にあるわけではないので、王烈様の邑から始めるということだ。養蚕は重要だが軌道に乗るのに時間がかかる。綿花は翌年からある程度栽培して収穫できるので、冀州などから逃げてきた民で増加した服の需要を満たすのに必要と判断したわけだ。


 兵の訓練は順調で、騎馬隊は騎射がしっかり出来るようになった。他にも少し長めの槍を用意して鎧も可能な範囲で白色にして形状を揃え、賊と見分けがつきやすいようにし始めている。盗まれると面倒なので負け戦は許されないが、いつか軍勢を見ただけで相手が逃げるような部隊にしたい。


 変わったことで言えば、文姫が定期的に劇県に滞在するようになったことがある。姉が嫁いだ後だから寂しさもあるのだろう。劇県に用意した蔡邕様も滞在できる屋敷に泊まって1日俺の仕事部屋にいることがある状況となった。食事を一緒にとって、たまに奏でる琴の音色を聞く。すると翌朝、護衛と一緒に高密に帰っていく。周囲からは色々な目で見られているだろうが、あまり気にしないことにしている。あの子が幸せならそれでいいやの精神だ。


 劇県の牧場近くで製造しているにかわの製造所を視察すると、ちょうど購入を求める客が来たところだった。


「申し訳ございません。ここの膠はえん州に卸す予定のもので」

「ですが、ここの膠が欲しいと我が師が申しておりまして」


 2人の会話に興味が出たので案内担当に聞くと、1時間近く前に来て膠を売って欲しいと頼み込んでいるという。せっかくなので張飛に警戒してもらいつつ、話を聞いてみることにした。


「師とはどなたですか?」

「ここの偉い御方でしょうか?私は華老師のお使いです。老師が良い膠をお求めでして」

「華老師とは、もしや名医の?」

「はい」


 華佗かだじゃないか。最高の名医として名高い人だ。この縁、手に入れない理由がない。


「かの名医が欲するならば、その名声でうちの膠が素晴らしい物である証明にもなります。あまり多くは難しいですが、お譲りしましょう」

「ありがたいお話です。しかし、勝手に決めても県令様が許すでしょうか?」

「大丈夫ですよ。そういうことは気にせず」


 変に恐縮させたくないので、大丈夫大丈夫と言って少量だが彼に譲った。彼の名前は呉普ごふというらしい。華佗は今徐州で活動しているそうだ。


「また必要になったら、次はもう少し余裕のある数用意しておきますよ」

「ありがとうございます。県令様にもお礼を伝えてください」

「はい」


 そのうち華佗にも会えるといいな。


 ♢


 父が尚書に復帰し、霊帝が西園軍の設立を発表した。皇帝直属の軍を整備したもので、そのトップには宦官の蹇碩けんせきが任ぜられ、早速冀州の黒山賊残党と張純らの討伐に向かったそうだ。

 この西園軍には袁紹の名前もあり、どうやら無事彼も出世コースに乗ったらしい。俺としては黒山賊への警戒を怠りたくないので、北海国内での情報伝達をスムーズにするシステムを構築することにした。狼煙のろしは既に使われていたので、そこから一歩進めて劇県と高密侯国の間の道路を石で舗装して整備することにした。ローマ帝国に負けないような道づくりを目指した感じだ。石を敷き詰めた道には雨水の流れる側溝も整備し、緊急時に馬が走りやすいように専用の道も用意した。食糧の運搬や軍勢の移動が盛んなこのルートだけでも整備を進め、後々これを拡大するのを目指していく。


 あと、文姫が通る道が危なくない様にというのも理由の1つだ。なんだかんだで高密から劇までは約80km(200里くらい)あるので、馬でも行き帰りで1日以上かかる。日本橋と小田原の距離と言えば、整備したくなる理由もわかってもらえるだろうか。孫乾はこの整備をかなり喜んでいた。いざという時に高密の兵と劇県の兵がかなり連動しやすくなるので、彼らからすれば安心感が強まるということだろう。


 ちなみに、孫邵そんしょうは今年から俺の家臣として働くことになった。孫乾はまだ俺と孫家のパイプ役だが、そのうちこっちを手伝ってほしいと伝えてある。

 青州の安定によって、俺が力を蓄える時間がもらえているかんじだ。今は過度に出世するよりこの方が良い。どうせまだ漢王朝は荒れるのだ。


 ♢


 3月に入り、種蒔きも順調に進んでいた頃、太史慈が数十名の部下を連れて帰ってきた。結構ボロボロだったので、どうやら官軍は負けたらしい。


「少し休むといい。その分、情勢がどうなっているかは教えて欲しい」

「承知した。大人しく青州にいた方が良かったのか……」


 黒山賊の首領討伐で大きな武功をあげた話は皇甫嵩将軍から手紙で聞いていた。しかし、皇甫嵩将軍は荊州牧となり、荊州刺史の王叡おうえいという男に軍権があるために勢力を削がれているという話だった。王叡は孫堅と協力して桂陽けいよう郡での反乱を鎮圧しており、彼も武功をあげているため軍権を手放す気はないらしい。


「まず、宦官の蹇碩が到着する前に高進という男が副官として先行で駐屯していたぎょうにやってきた。敵が小勢になったと油断していたこの高進は兵糧庫の食糧を売ったので、兵士たちが訓練も出撃も拒否するようになった」


 なんで劉繇に弾劾されて罷免された男が討伐軍の副将になって、しかも食糧を売ろうとするんだ。初手から悪手を打つにしてももう少しマシな悪手を打つぞ。マ〇オブラザーズで最初のク〇ボーに全力ダッシュするような無謀さ、時のオ〇リナで盾も買わずにデ〇ナッツに挑むようなものだ。ピカ〇ュウだけで〇ケシのジムに挑むようなかんじと言ってもいい。


公綦こうきちょう校尉が討たれ、張純ちょうじゅんが勢いづいているのを理解していない高進はそれでも兵を脅して出兵させ、きょう県付近で張純軍に敗れた。蹇碩合流前に兵を失ったのではまずいと、奴は近場にいた黒山賊の残党だけでも倒そうと兵をまとめて挑み、また負けた」

「なんとも、まぁ」


 いくらなんでもセンスなさすぎでしょ。K〇EIに統率1とか設定されそう。


「蹇碩が慌てて合流したが、勝った黒山賊の残党……白波はくは賊とか名乗っているらしいが。その連中が勢いに乗って各地の賊を集合させ、蹇碩と決戦をした。そして、負けた」

「公孫県令はその戦に呼ばれていましたか?」

「いいや、余りにも迅速に高進が負けたので、呼ぶ暇がなかったようだ。白波賊の中には強者がいた。俺は黒山賊の大将だった張牛角なる者を他軍と協力して討ち取ったが、あれよりずっと強い若武者がいた」


 面倒な。冀州もやっと落ち着くかと思ったら、全然落ち着かないじゃないか。


「俺は他の敗残兵と一緒に青州に帰ってきた。このままあそこにいても、勝てるわけがない。命がもったいない」

「なるほど。そういうことならしばらく休んでください。また我々が呼ばれる可能性は高いでしょうし」

「やはり、青州の兵を動員することになるか」

へい州の兵はきょう族やてい族次第で動かすことになるでしょうから、てい刺史は動かせないでしょう」


 并州刺史の丁原ていげんはおそらく今呂布を配下にして羌族らに対応しているだろう。となると、烏桓うがん族の丘力居きゅうりききょも反乱に加わっている以上、幽州の兵力はこれ以上北の備えから減らせない。兗州の兵はもう動員済。うちから兵を出すしかないだろう。


「その時は期待していますよ」

「ふん、賊に負ける俺ではないわ」


 太史慈のいた軍、負けたけれどな。とは言え、個人の武ではそうそう負けることのない太史慈と互角だった武将か。気になるところだ。


 ♢


 5月。

 蹇碩から兵を集めるよう青州刺史に連絡が入った。当然のように俺が代理として全軍を率いて戦うよう命じられた。明確に文官あがりの刺史で俺に権力が集中しないようにするお目付け役なので、戦場に出れるタイプじゃないのだ。

 周辺で再度募兵を開始し、一時故郷に戻った楽進は1000の兵を連れてきた。劉政・従銭らも合流し、15000の部隊を揃えた俺に、済水方面から連絡が入った。


 黄巾賊の残党が管亥かんがいらを指導者として8000ほど冀州との州境で蜂起し、白波賊や張純らと合流。総勢15万を号して、済水を渡河し青州に侵入を始めている、と。

膠は医療用にも使われます。華佗はこれを求めて青州に弟子を派遣していました。


八校尉の設立は史実よりちょっと早くなっています。これは主人公が5倍の納税をした効果です。

同様に、宮殿の復旧や州牧・刺史の並立も早くなっています。


公綦稠は史実でも護烏桓校尉だったので、烏桓族相手の防衛担当でした。彼が討たれたことで丘力居らも張純に合流できる状態になっています。

太史慈と戦ったのは子龍と呼ばれていた人です。一体何雲さんなんだ……。

蹇碩将軍、もうやめましょうよ!


次話から総勢15万(推定)という10倍の敵との戦いです。第2章のクライマックスになります。

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