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第31話 五子良将

 司隷しれい 京兆尹けいちょういん長安ちょうあん


 宦官の段珪だんけいからもらった書状には、蓋勲がいくんが長安にいることが記されていた。

 俺たちは雒陽らくようから半ば追いだされたので、長安に向かうことにした。

 段珪はこの展開も予想していたのだろうか。


 長安は王莽おうもうの王朝簒奪と光武帝による後漢成立後、宮廷や橋などが復興された。そのため、先代皇帝である桓帝の時代まで漢王朝の祖廟そびょうへの先祖参りも行われている。

 とは言え、都市は復興しても首都でなくなった町はそこまで活気があるわけでもない。使われない宮殿、暇そうな衛兵がのんびりと過ごす町となっていた。

 史実で董卓が長安に都を遷しても対応できたのは、この使われていない宮殿があったからと言えるだろう。


 蓋勲はそんな無主の宮殿の近くに住んでいた。門番は手紙を見ると大慌てで中に通してくれ、応接間のような部屋で少しだけ待たされた。こちらとしては明日来るのでとアポをとるために来たのだが、そんな時間を置くわけにはいかないと通された格好だ。

 蓋勲は常時ジト目といった様子で、ぱっと見だと常に不機嫌に見える風貌の人だった。


「面倒な相手から連絡が来たと言うから来てみれば、噂の県令殿とはな」

「盧仲厳と申します。本日は申し訳ございません」

「構わぬ。りょう尚書の頼みなら断れぬ」


 段珪は選部せんぶ尚書の梁鵠りょうこくという人物の紹介状を用意していた。彼はかつて蓋勲に助けられた人物だが、蓋勲もかつて世話になったことがあるらしい。書道で名の知られた人物らしく、その達筆さで気づく人はきちんと気づけるんだとか。気づかなくて悪かったですね。門番さんすごいわ。


「しかし、手紙に書かれた内容は尚書のものではないな?あの方は書を究める方であって策謀を巡らせる人間ではない」

「はい。実は、自分は段黄門に依頼されて来ました」

「……段珪か。面倒な相手だな。何故貴殿があの男の依頼のために動いた?」

「尚書に袁将軍が自分を推薦しようとしていましたのを、黄門様に止めていただきまして」

「元三公ともあろう御方が、時勢を読めぬとは。今の青州の安定は仲厳殿あってのものだろうに、政争でいたずらに巻きこんでいい相手ではない。雒陽の食糧が枯渇したらどうするつもりだったのやら」


 蓋勲はジト目を更に呆れた表情に変化させる。だが、情勢の理解の速さは流石の一言だ。


「まぁ、宦官の養子というだけの愚か者を太守に復帰させれば第二・第三の黄巾賊が生まれるだけだ。河南尹かなんいんは霊帝と懇意の高望の頼みなら聞いてしまうやもしれん」

「では」

「久しぶりに雒陽に出向くのも悪くない。それに、宦官に腹が立っているのは私も同じだ。段珪に使われるのは不快だが」


 聞けば漢陽太守時代、涼州の反乱が発生した時に涼州刺史だったのが左昌さしょうで、彼は俺の軍勢を監察に来て父を罷免に追いこんだ左豊の養子だったそうだ。


「あの男、戦わねばならぬのに兵糧を横領していたせいで徴兵もままならず、次々と反乱を拡大させる愚か者だった」

「噂では、集めた兵糧を略奪したとか」

「違う。そもそもこうした反乱が起きた時のために州牧の施設には兵糧が常備されているのだ。だがあの男、刺史に任じられて3カ月でその兵糧を雒陽などで売り払い、食糧不足を利用して大儲けしていた」

「それで軍を用意できず、兵が少なすぎて軍を派遣できなかったと」

「それを叱責されたら、腹いせに軍はお前が率いて何とかせよという男でな。あれは駄目だ」


 そして、左昌の親友が今回政界復帰しようとしている高進というのが救えない。


「今の中常侍は王室に巣食う害虫よ。一度全て除いてから新しい宦官を揃えた方がいい。当然、段珪もだ」


 彼はそう言うと、手を打つべく動くことを約束してくれた。


「しばらく雒陽には近づかぬ方がいい。今の司隷は悪鬼が巣食う」

「そうします。今回でりました」


 中常侍がみんな死んだら、次来るのを考えるレベルだ。


 ♢


 えん州 東郡・衛国えいこく


 雒陽には寄らずに川を下り、そのまま兗州周りで帰路についた。途中で東郡を通ろうとして、黄巾賊に県令が殺された衛国県では新任の県令と挨拶や食糧の販売ができないかという相談を受けた。衛国県で1泊することになって宿に泊まっていると、夕方頃宿を訪ねてきた人物がいた。張飛が応対すると、彼はがく文謙ぶんけんと名乗った。曹操の元で活躍した五将軍の1人である楽進だ。身長が6尺5寸(約155cm)ほどで、張飛は最初子どもかと疑っていた。


それがし、東武陽での盧北海様のご活躍を聞いて、是非仕官したいと思っておりまして」

「なら青州まで来れば良かったじゃねえか」

「申し上げにくいですが、某の家は裕福でなく。青州まで両親を置いて行く余裕はないのです。仕官が許されるなら、家財を売って青州に行くのですが」

「なんだ、士大夫じゃないのか」

「……はい」

「安心するといい、俺も士大夫じゃない。仲厳様は人を見る御方だ」


 そう言った張飛がこちらを見る。ここで士大夫ではないと言った時点で襲撃などを疑う必要はない。なぜなら、士大夫でなければ普通仕官を願い出ても門前払いだからだ。会うのが目的なら普通は士大夫を名乗る。張飛には事前にそう伝えていた。


「仲厳様、背が低いんだし、まずは県令の仕事を手伝えるか見ますか?」

「いや、武官にしよう」

「仲厳様なら気づくと思いましたよ」


 楽進を帰らせた後に聞いたら、肩の筋肉と足の太さで武官の方がいいと思っていたらしい。服の上からでも鍛えているのを感じとれる張飛。流石だ。


「両親とともにゆっくりで良いから青州に来い。路銀はこれで」

「……宜しいので?某が逃げるかもしれませぬよ」

「そう言って逃げた者は見たことがない。それに、ここをわざわざ訪ねる熱意があれば、必ずや戦場でも活躍できるだろう」

「ありがとうございます。必ずや役に立って見せます」


 そう言って宿から帰って行った。彼は戦場で使えばものになる。こういう時こそ知識が生きる。でも本物の観察眼があるわけではないので、あまり人物鑑定とかはしないようにしないと。


 ♢


 えん州 泰山郡・鉅平きょへい侯国


 川を下って泰山郡まで戻ってきた。泰山郡には知り合いも多いため、挨拶も複数個所でしないといけない。それが面倒なのと、食糧の流通ルートが確立していることから行きは州を通ったのだ。


 ここ鉅平侯国で働いているのは鮑信殿だ。500の兵を率いて俺と東郡奪還時に活躍したため、ここの尉として軍を率いて治安維持を担当しているそうだ。


「あの時は助かりました。己の県だけならあれでも守れたでしょうが、泰山郡北部を取り戻せたか」

「いやいや、道案内いただかなければ周辺に疎い私たちはあそこまで順調に戦えませんでしたよ」


 鮑信殿からお土産ももらい、泰山郡を任された応劭おうしょう殿の使者とも面会を済ませた。お茶を飲みながら世間話がてら楽進の話をしていると、鮑信殿が「そう言えば」と何かを思いだしたように話し始めた。


「先年の賊との戦いで私の軍にいた者で、盧県令の下で働きたがっている者がいましたな」

「私の下で?」

「ええ。名を文則ぶんそくという者なのですが」


 それは于禁うきんじゃないか。楽進と同様五将軍と称された1人だ。欲しい、欲しいぞ。


「今の立場では到底あの者の活躍に見合った褒美が渡せず、困っていたのです。あの男はこういう時に自分から県令の下に行くなどと口が裂けても言えぬ義理堅い男ですので」

「鮑尉殿が褒める程の勇士ならば、是非うちで一軍を任せたいですね」

「ありがたい。100人を率いる程度の才で収まる男ではございませぬ。きっと助けになりましょう」


 翌日、鮑信殿に紹介してもらい、于禁と会った。楽進より1尺は大きいが、俺ほどではない。張飛とほぼ同じくらいか。


「于文則と申します。鮑尉様よりより広い地で戦ってまいれとご紹介いただきました」

「うちはまだ兵を率いたことのある者が不足しているから、期待していますよ」

「はっ。微力を尽くしまする」


 ちょっと堅苦しい感じの雰囲気だが、下半身の太さが張飛とほぼ同じくらいだ。相当足腰を鍛えていることが感じられた。


「これ、青州まで来るときの路銀です。家族も連れてくるだろうから、遠慮せず使ってくださいね」

「ご配慮、痛み入りまする」


 人材探しも大成功と言っていいんじゃなかろうか。俺は大変満足して劇県までの帰路についたのだった。

左昌の逸話は史書のものですが、左豊と同族かは不明です。話をつくりやすくするためにこの作品では養子による親子としています。

段珪と梁鵠というより、梁鵠は書家として当時の名人なのですが、政治センスはないので宦官にも口先で勝てないです。そのため、段珪に尚書内部での盧慈推薦の動きを妨害したり、紹介状書いたりで上手く利用されています。


五将軍は張遼・張郃が有名ですが、楽進・于禁の方が長く支えているので大事な人材じゃないかと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 陣容が徐々に強化されてますね 更にGETなるか!?
[一言] 于禁はなんとしてもほしいよね。夏候惇と並ぶ高給取りだもんな。 親族筆頭と同等の金を積むところに曹操の信頼が見て取れる。 あとは徐晃が白波賊としてそこら辺をほっつき歩いてるかもしんない。
[良い点] 史実チートがあるから見抜けた=曹孟徳はガチで観察眼がピカイチだった。流石、曹操。
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