表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/53

第14話 授人以魚 不如授人以漁

本日2話目は14時過ぎ投稿予定です。

 青州 北海国高密侯国


 太史慈と会った後、いつも通り蔡邕さいよう様や孫家の面々、そして鄭玄ていげん様に報告などを済ませた。屋敷を出ようとしたら、ちょうど近くの部屋から綺麗な笛の音が聞こえてきた。案内してくれた孫家の使いが、文姫の部屋からだと教えてくれた。


「もし良ければ、姫のお部屋に顔を出していただけますか?」

「邪魔になりませんかね?」

「喜ばれると思いますよ」


 そう言うならと部屋に足を向けた。部屋の入口から覗いてみると、今年初めに俺が竹加工の職人にお願いして作ってもらったしょうと呼ばれる縦笛を吹いていた。気配に気づいたのかこちらを向くと、ちょっと不機嫌そうな顔から笑顔になり、笛を机に置いてこちらに近づいてきた。


「仲厳様」

「お邪魔しましたか?」


 頬を扇でポンポンと軽くたたいてくる。


「いいえ。頂いた簫だから仲厳様に良い音をお聞かせしたくて」

「それで練習してくれてたんですか。ありがたいような、申し訳ないような」

「吹きたいから吹いているだけです」


 数え6歳にして気遣いもできるとは、将来が楽しみだ。いや、将来は才女になるの確定してたわ。


「屋敷の護衛も増えましたが、外は危険ですので、勝手に外に出ることは止めてくださいね」

「もちろん、そういう御父様の言いつけは守りますから」

「蔡先生はすごく偉い人なんですからね」


 良い政治家が良い父親とは限らないということか。総理大臣だろうが、プロ野球選手だろうが、子どもを育てる専門家ではないからな。彼女にとっては不満のある父親なのだろう。いつかそのすごさが伝わるといいな。


 ♢


 夏。

 北海国にも一部流浪の民が流れてきたそうで、彼らになんとか職を用意しなければならないという話になった。

 そういうのは役人が考えることでもあるのだが、鄭玄様を慕ってくる者もいたり、盧北海という名に縋って来る者もいたり。無関係ではいられない難しさを感じる。

 でも、ここを乗り切れば青州黄巾の発生という大イベントの回避は確定的に明らか。踏ん張りどころだ。


「老子曰く、魚を授けて漁を授けずでは意味がありません」


 孫家の者や北海相、そして高密侯であるとう氏の使いたちはこう言ってなんとかできないかと意見を出していく。


「養蜂はもっと人手がいればもっと大量に作れそうなので、養蜂に数十人は雇えます」

「ですが、それではまだ足りませぬ。冀州と兗州から6000人ほど青州各地で働きたいと来ていますので」


 改めて聞くとすごい数だ。実際には働き手が6000人なので、子どもや働けない女性も含めれば万はいるだろう。


「蜂蜜の量が増えれば牡蠣かきじゃんも作れますので、100人は雇いたいですね。あと、もう少し食糧生産をしたいところ」

「高密だけでなく、北海国全土の山沿いで新しい畑を作ろうとはしています。しかし、これ以上は水不足になりかねない」

「となると、やはり養蚕ですか」

「斉国では仲厳殿の申し出もあって石炭を掘る者を多く雇っていますが、人手は十分ですからな」


 みんなで意見を出すも、やはり当初の予想通り養蚕くらいしかできることはなさそうという流れになった。

 桑の木を増やすのは時間がかかるが、人口5000万人の中華では服の需要がずっと高い。牡蠣醤ことオイスターソース作りを含む漁業でも吸収しきれない分はこれしかないのかもしれない。水についてもコーリャンなどの耕作地を増やすよりは必要な水が少ない。

 本当はみんなわかっている。治安維持に兵士が必要だから、兵士として雇えばいいと。でも、中央からそれは許されていない。ここに予算があったとしても、尉官の制限があるから役所が兵を持つことは出来ないのだ。

 だから、孫家や俺が食客という名目で自衛のための兵を迎えるしかなくなる。困った話だ。


 ♢


 秋。無事に収穫を迎えるタイミングで、孫家は更に追加の護衛を募集した。

 俺の方でも食客として抱えている護衛の部隊に応募者が殺到している。300人まで増えた食客だが、筋骨隆々とした部隊が農地の警備と俺の護衛に分かれている。孫家側も保護している農民の農地を巡回させつつ屋敷を護衛している。そうなると食糧庫の警備が足りなくなる。それは困るのだ。

 簡雍も蜂蜜を狙う人間から警備する者が欲しいとのことで、高密侯の鄧氏から許可を得て3倍に増やそうということになった。


 そうしたら、簡雍に伝えていた名簿(趙雲とか、関羽とか来ないかなというリスト)から臧覇ぞうはが来たと連絡が来た。食客30人を食わせるのが厳しくなったらしく、割とすんなりと俺の指揮下に入った。他に名簿の人間は来なかったが、頼りになる武将を手に入れて俺は満足だった。

 重藤弓が予備用も含めて大量に必要となり、弓職人もかなり多くの新人を雇ったらしい。竹が青州だけでは不足しそうだったので近隣から買い集めたおかげで、徐州などの竹林では食料と交換するために多くの農民が鎌で竹を刈る姿が見られているらしい。


 早速臧覇ことぞう宣高せんこうを呼んで、農地の防衛を任せることを伝えた。彼の父親には各地から送られてくる穀物を確認して記録する仕事をお願いした。


「というかんじで。宣高殿はこの時間帯にこの道を4周警戒のために回ってもらいます」

「仲厳様、いきなりそこまで任せてもらっていいのですか?それに、食客たちも我々と一緒に行動してもいいなど」

「いや、宣高殿は不正を許さぬ父上を救うために立った義士ですから。そんな人が野盗に肩入れしたり、役目を怠ったりするわけがないじゃないですか」


 義に篤いことは良く知っている。あの呂布にさえ義理を通した武将だ。史実では曹操に忠義を尽くしながら曹丕とは仲が悪かったらしい。そういった付き合う相手の選り好みをしてしまうところはあるが、そこさえ気をつければ問題ない。


「承知いたした。あと、今後は仲厳様の家臣となるので、臧覇とお呼びください」

「いや、でも」

「同い年とは言え、仲厳様はここまで民のために尽力している才人。盧大海の子としてだけではなく、盧仲厳という一大人物として敬意を払うべきと考えております」

「……わかった。そこまで言ってくれるなら」


 武の張飛・臧覇・王豹。文の簡雍。俺の家臣と言える武将はこれで4人となった。孫乾と孫邵は協力者だし、給料を払っている訳でもない。


 あと、届くのにかかる時間を考えれば、そろそろ黄巾の乱に関して父に注意を促してもいいかもしれない。

 黄巾の乱のきっかけは馬元義が宦官に接触して発覚する流れだから、宦官の動きとかに注意するよう伝えておかなければならない。彼らがそうした兆候を見せたら父が動き始められると先手を打てるだろうし。

臧覇加入。独立勢力になる前に回収できると相当強い人物です。


養蚕・養蜂・養豚・養鶏。こうした産業でとにかく職を与えますが、結局この後の黄巾の乱が一番大規模な職になるのも主人公は理解していたり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ