今夜は女子会
三枝の手腕はいかんなく発揮されたと言えるだろう。
さっそく彼はコールセンターに出掛けて行き、被害者と親しくしていた3人の女性達に話をつけてきてくれた。
先日和泉が駿河と2人で事情聴取に行った時、彼女達は、それほど有益な情報をもたらしてはくれなかった。
ところが。三枝が行ってみると様子がガラリと変わったようだ。
「今夜は女子会なんだって。で、僕も誘われちゃった」
「女子会って男子禁制じゃないの?」
和泉は一瞬、女装してでもその会に参加したいと思ってそう言った。
すると、
「向こうが3人だからこっちも3人で、合コンにしちゃおうか?」
「3人って、1人はもちろんお前だろ? あとの2人はどうするつもりなんだよ」
何故か友永が口を挟んだ。
「そりゃ決まってるでしょ。友永さんみたいなオヤジより、和泉さんとか駿河君とか若いイケメンの方が絶対ウケるって」
「わかんねぇぞ? 俺や班長みたいな渋いのが好みかもしれん」
何だか話がすっかり本筋から外れている。
こういう遣り取りは和泉自身はとても楽しいのだが、聡介の顔色をうかがうと案の定、眉間に皺が寄っている。
額に交差点が浮かんできた。
「お前ら、全員で行って来い。一番犯人逮捕に直結する情報を持ち帰った奴には、好きなだけ休みをくれてやる!!」
休みが取れたら溜まっている聡介の分も洗濯物を片づけて、部屋の掃除をして、それからずっと時間がなくて読めなかった本を読んで、詰め将棋を解こう。
和泉の気持ちは既に、まだ見ぬ有休休暇へと飛んでいた。
とは言うものの、結局合コンとはならなかった。
結局三枝だけが女子会に参加し、他の刑事達は彼女達の話が聞こえる隣の席に陣取ってひっそりと息を潜めている。
特に面が割れている和泉と駿河は、少しばかり変装して、気付かれないようにと背を向けている。
元生活安全課の現刑事は、警察官でなければきっと詐欺師になれて、今頃捜査2課に追われる立場だったかもしれない、というほど口が上手かった。
女性達のツボを的確に押さえた社交辞令をフルに活用し、彼女達のプライドを上手にくすぐる。アルコールが入って来ると女性達の唇は滑らかになってきた。
しかし三枝は本来の目的を忘れているんじゃないだろうかというぐらい、なかなか本題に入ろうとしない。
和泉は時々ちらりと彼にメールを送る。いい加減、事件の話に持って行け。
向こうは気付いているのかいないのか、そうこうしている内に約1時間が経過した。
「ねぇ、この際だからさ、ほんとは刑事達に話してない本当のところ、ぶっちゃけちゃうのはどう? ほら、川辺さんのこととかさ……」
三枝は一応、仕事のことを忘れていないようだ。少なからず苛立っていた和泉はホッとした。
次に質問させたい内容をメールする。
「川辺さん? ああ、あの人……可笑しかったよねー?」
「可笑しかったって、どういう意味?」
「ほら、いっぱしの芸能人でしょ? 県内でもそんなに知ってる人いないと思うけど、有名人ぶっちゃってさ。会社に来る時、サングラスとマスクで変装してくるんだよ?!」
「そうそう、自意識過剰だよね!」
「いわゆる芸能人オーラってやつがまるでなかったよね」
同僚の女性達は好き勝手なことを言い始めた。その中身を聞いている限り、被害者はあまりよく思われていなかったようだ。
「でさ、小野寺さん! あの人、けっこう本気でヤバかったよね?」
「そう、まるっきりストーカーだったよね」
「変人同士で気が合うのかと思ってたけど、川辺さんの方は相当嫌がってたよ」
「そりゃ、小野寺さんじゃね……」
「あたし一度見たことあるんだ、川辺さんがね、小野寺さんからもらったっていうお菓子をゴミ箱に捨ててるところ!いくら迷惑でも、あれはないよねー?」
「それでさ、お嬢さん達。ずばり小野寺って人が、川辺さんを殺したんだと思う?」
と、三枝は被害者の同僚達に斬り込んだ。
「……違うと思う。小野寺さんて、頭おかしいけど暴力的な人じゃないと思う」
女性の1人が言った。
「そうね。それに、彼女の自宅がどこかも知らなかったでしょう? 今どきスマホで自宅を特定できるらしいけど、あの人、パソコンの操作もロクにできない人だったから……」
小野寺という男を一目見た時、こいつは違うと和泉も感じた。
「ねぇ、葛西さん。さっきからずっと黙ってるけど、どうかしたの?」
「……」
「具合悪いの?」
「ううん、なんでもない。それより私、明日予定があるから先に帰るね」
1人が席を立つ音がした。




