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そして私は貝になる

「ストーカー殺人の線も薄くなっちゃったね。となると、動機という点で言えばやっぱり聡さん達が会いに行ったテレビディレクターの方がホンボシかなぁ?」

 捜査本部に戻り、報告書をまとめながら和泉は言った。

 隣に駿河がいるが、彼に話しかけたつもりはない。ほとんど独り言だ。

 聡介達はまだ戻っていなかった。


「もうさぁ、面倒だから行きずりの強盗殺人ってことにしちまえば? ほら、最近捕まったのがいただろ?」

 などと、もっとも刑事に相応しくない発言をしたのは同じ班の元少年課、友永であった。

「友永さん、それで検事を納得されられます?」和泉は言った。

「あぁ、確かにな。その点、ガキ相手だと楽でいいぞ? 全部家裁送りにしちまえばこっちの仕事は終わりなんだからな」

 その言葉にはどこか裏があるような、本気でそう思っているとは思えない響きを和泉は感じ取った。

 が、彼の感情などどうでもいい。

「どちらかというと、計画的と言うよりは突発的な犯行のように思えます。ですからガイシャの人となりをもっと掘り下げる必要があると思います」

 ぽつり、と駿河が言った。

「どういう意味? 葵ちゃん」

「事故でない限り、殺されるにはそれなりの理由があるはずです」

「そりゃ言ってみれば彼女は略奪女だった訳でしょ? 人のものを欲しがる悪い癖があった訳だよ。盗られた方の女性にとってみれば、充分恨む理由になるんじゃない?」

「あ、なんか刑事ドラマみたいになってきた」

 お前も刑事だろ、と友永に突っ込まれたのは三枝だった。

「……配偶者の不貞が原因で離婚するケースは多くあります。しかし、大抵の人間には理性というブレーキが利きます。殺人事件にまで発展するということは、ガイシャが犯人にとって何か許し難い言動をしたのではないでしょうか。そうして頭に血が昇り、つい手が出てしまったと」

 和泉は驚いて思わず駿河を見つめた。

「……葵ちゃんて、意外としゃべるんだね……」

「……」

 余計な一言のせいで、彼の口は貝になったようだ。

「あ、ごめんね。僕、聡さんにいつも叱られるんだよね。余計な一言が多いって」

「自覚があるんなら黙ってろよ」と、友永。

「とりあえず、ガイシャが誰の浮気相手だったかってことが当面の謎じゃない? 考えられることとして身近な人間だよね」


 そこへ聡介が戻ってきた。

 その後ろでは、何故かひどく沈んだ様子の白うさぎがいた。

「彰彦、報告は?」

 何となくご機嫌ナナメの様子だ。もしかしたら白うさぎが余計なことを言って聡介を怒らせたのではないだろうか。

 ふんだ、ざまぁみろ。

 

 和泉はコールセンターに行って聞いてきたことを報告した。

「と言う訳で、僕と葵ちゃんの感触では小野寺はありえません」

「……そうか」

「それとですね、葵ちゃんの意見なんですが……」

 和泉はさっき駿河が言ったことをそのまま伝えた。

 聡介は黙って聞いていたが、やがて、

「確かにな。よし、明日以降は芸能事務所の関係者とコールセンターの社員からその観点で話を聞くことにしよう」

 大抵の人間は死んだ、殺された人間を悪くは言わない。

 だが、きっと何かある。


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