一部、実際にあった話(笑)
彼女の話では小野寺大輔というアルバイトの若い男性がいて、やはり受注の電話を受けているスタッフの1人なのだが、被害者である川辺都に随分熱を上げていたということだ。
誕生日だと言えば花束をプレゼントし、どこかへ旅行へ行って来たと言えば、被害者にだけお土産を買ってきたとか、非常に解りやすかったという。
「小野寺さんというのは、どういう方なんですか?」
三人の女性は揃って「変な人です」と答えた。
「変な人とおっしゃいますと、具体的にはどのような?」
ずっと黙っていた外山美佐子が答えて言った。
「勘違いも甚だしい人なんですよ。入社したのはほんの一年ほど前なんですけど、なんていうか普通の受注業務の電話対応じゃなくて、スタッフの管理業務をやりたいみたいで、それはそれで別にいいんですけど……」
「つまり、人事課や総務課のような業務を希望していたと?」
「っていうか、人を使う立場になりたいみたいなんです」
「つまり、中間管理職ですか?」
「まぁ、そんなところですね。実はこの春に人事異動があって、入社5年目の井沢さんが新しくサブリーダーに抜擢されたんです。ところがその小野寺さんて人、今度の人事でサブリーダーに指名されるのは自分だって本気で信じていたみたいなんです。まるっきり普通の仕事もまともにできないくせに」
ねぇ、と他の2人の女性に同意を求めると、そうそう、と返事があった。
「それからですよ、おかしくなったの。自分が川辺さんとできるだけシフトが重なるようにって、井沢さんが組んだシフトに口出しするわ、他の人の小さなミスを見つけてはいちいち富樫さんに報告するわ、自分がやりたくない仕事は他人に押し付けて逃げ回るわ。それにあの人、まともな理屈が通じないんです」
このままでは事件につながりそうな情報というより、ただの仕事の愚痴を聞かされるだけになりそうだ。和泉は話を方向転換することにした。
「それで、川辺さんは小野寺さんと付き合っていたんですか?」
すると女性達はくすくすと笑い出し、
「残念ながら、そういうことはなかったみたいです。川辺さん、迷惑そうにしてたし」
「あれはちょっと、ストーカーっぽかったよね? 小野寺さんが早番で川辺さんが遅番の日なんて、普段はまったく残業しないのに、無駄に時間引き延ばして……彼女の仕事が終わるまで待ってたりして」
ストーカー殺人。
和泉の頭にはとっさにその単語が浮かんだ。
先ほどから一言も口を挟むことなく、ひたすらメモを取ることに終始している駿河もきっと同じことを考えているに違いない。
「もしかして川辺さん、小野寺さんに……?」
彼女達も同じことを思いついたようだ。
和泉はしーっと人差し指を唇に当てた。
三人の女性は同時にはっと口元を手で押さえる。
「いいですか? そういう話は決してしないように。ご家庭でも、職場でも」
気まずそうに顔を見合わせた女性達は、それでも黙って頷いた。
「葵ちゃん、何か聞きたいことある?」
和泉は駿河に声をかけた。
ファーストネームで呼ばれた若い刑事はふとペンを走らせる手を止め、顔を上げた。
ずっと俯いていた彼の顔を正面から見た女性達は、あら? と目を見張った。
すごい、刑事ドラマみたいなイケメンコンビじゃないの。
「その小野寺という男性のことで、川辺さんは誰かに相談していたようですか?」
女性達は虚を突かれたような表情を見せた。それから三人とも目と目で語り合うと、一様に首を横に振った。
「私達には冗談で『小野寺さんってストーカーみたい』ってこぼしてましたけど、それほど深刻って感じでもなくて……」
「そうそう。相談するとしても、こっちの職場じゃないと思いますよ。ほら、芸能人なんだからそっちの事務所の上司の人にじゃないですか?」
「……質問は以上です。ありがとうございました」
駿河は再び顔を下に向け、メモ帳に視線を戻した。
ふと和泉は時計を見た。そろそろ戻らなければ、捜査会議が始まる。
刑事達は三人の女性に礼を言って、捜査本部のある佐伯南署に戻った。




