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現代→古代  作者: 一理
comeback love
94/142

話をしたいようで

「もー! なんで追い出すの酷い」

「黙れ暇人」

「紀伊さんってわりと嫉妬心とかないタイプ?」

「私は寛容な人間なのだよ」

「うっそだー」

 頭を掴んで力を入れる。七菜の悲鳴が響く

 ホマーが扉の向こうからこちらを心配そうに見ている。笑顔で大丈夫大丈夫と手を振って誤魔化した。

「で、今回は何しに来たんですか?」

「あのね、恋愛相談してもらおうってきたんだけど……紀伊さん鈍感そうだからちょっと悩んでる」

「よし、じゃあお帰り下さい」

「えー! アドバイスはこの際期待しないからー! 話聞くだけ聞いてよー」

 抱きつかれた。

 困ったら抱きつくという行為を覚えたらしい……小賢しい。

「わかったわか……え?」

 ホマーがいつの間にかこっちに来ていた。

 頬を膨らませながらぐいーっと七菜を引き離そうと押している。

「この子は、妹?」

「お前を助けた男の人のね」

 七菜は笑顔で離れた。七菜の次はホマーが抱きついてきた。

 小学生ぐらいの子は生意気だと思ってたけど、ホマーは可愛い。カオルは心の中で頷きながら頭を撫でる。

「へー……へっへへー」

 後ろから七菜が抱きついてきた。

 ホマーが「あー!!」と叫ぶ。

「おいおい~」

 カオルは前からも後ろからも抱きしめられ身動きが取れなくなった。

 まぁ、いっかとふと目を横に向けると

「……」

 木の陰からハンカチを口に咥えて恨めしそうにこちらを見ている男と目があった。

「びっ……吃驚したわ。何してるの? ハトラシュ」

「名前合体してるぞ!? 俺はハニシュだ!!」

 シュルラットと一緒にいるから間違えちゃった。あれ? 微塵も関係なかった。

 でも今は一人だ。

「何? またフラれたの? 最近ぼっちだね」

「カオル、俺、はっきりモノ言うとこがお前の長所だと思うけど、短所だとも思うわけ」

 涙を流しその場に崩れた男に、七菜が小さい声でうわあと言ってドン引きしていた。

 ホマーがてててとハニシュのそばに行き、肩をぽんぽんと叩く。

「なんか色々あったみたいだけど、今お兄ちゃん忙しいからはい、また来週~」

 ばいばいと手を振るホマー。

 悪魔ですね。

 カオルはダメ息を吐いてホマーを呼んだ。

「ちょっと悪いんですけど、カオルはこれからめんどくさい二人の子守りするので仕事お任せしますと言ってきてもらえますか」

「うん! 分かった」

 いい子のホマーは走って行った。

 めんどくさい二人はきょとん。とした顔でこっちを見ていた。自覚ないらしい

「ほら、話聞いてほしんでしょあんたら」

 カオルは歩き出した。

 二人は無言で突いてきた。空気が重い気がするのは気のせいだろうか

 近くにある食事処についたので、そこで適当に料理を頼み話を聞く。

「とりあえず、面倒だから七菜を後回しにして」

「えー……」

「ハニシュは、なんでそんな落ち込んでるの?」

 いつもうざいぐらいはっちゃけている彼は低いテンションで、泣きそうな顔で話し出した。

「お前は知らないだろうけどさ。シュルラットには嫁が居てさ」

「知ってる、マルヤムさんでしょ。早朝に散歩するとたまに会うし」

「ババアかよ」

「あ?」

 ハニシュの襟首をつかむと目を逸らされながら謝られた。

「そいつと俺さ、幼馴染だったんだ」

「うわあ」

「まだなんも言ってないのに何でドン引きされてんの俺」

「あれでしょ、旦那いても忘れられないんだ……とかそんなんでしょ? 女々しい~ありえなーぐふ!?」

 カオルは七菜の頭をチョップした。

「ごほん、で?」

「あ、あぁ。まあ女神様の言うとおり、引きずってたのは事実さ。でもさ、俺考えたんだよ」

「ほう」

「俺って今が楽しけりゃいいやって、周りなんて知ったことかって……自由すぎたなって。幼稚ガキだったなって」 

「そうだな」

 カオルは否定しない。なぜなら「これ、かおる」をまだ根に持っているからだ。

 ハニシュは気まずそうに眼を逸らしながら続けた。

「でさ、俺も反省して、これからは成長しようって決めたんだ」

「良いことじゃんね」

 七菜が運ばれてきた果物に手を伸ばし、うんうんと頷いている。話の内容分かってないくせに女子高生のノリで返すなよ。

「で、なんでそんな落ち込んでるの?」

「分かんなくて」

「分かんない?」

 首を傾げる。

「これからどう生きたらいいのか、どうしたらいいのか」

「あー……、進路に悩んでるんだね」

「七菜」

「ん?」

「お口チャック」

 唇に人差し指を当てると、七菜は口を閉じて指遊びを始めた。

 生き方を悩むというのは、進路を悩むのとは違う。進路は、決められた『道』や、そこにある『選択肢』を己の手でつかむものだ。

 が、生き方を悩むというのは『哲学』でもあり、『心の疲労』も意味する。

 ――― これでいいのか、こうしたいのか、本当にそれが正しいのか。

 進路と同じことは、これは『自分で決めなくてはいけないということ』だ。たとえ道を示しても、彼が満足しなければ意味がない。誰かが作った道を歩いても、意味がない。

 どう説明したものか

「……ハニシュは、どうなりたいの」

「大人になりたい」

「どういうのが大人?」

「……分かんねえ」

「じゃあ、どういう人を見て、大人だなって思う?」

「シュルラット」

 カオルは目を細めた。

「そっか、他は?」

「んー。お前とか、親父とか、おっちゃんとか」

「そっかそっか、じゃあさ、なんでそう思う?」

 ハニシュは悩むしぐさを見せた。

「厳しくて、真面目だからかなぁ……固いっつー印象?」

 なるほど、それでロスタムの名前が出てこなかったわけか。

「そういう風に生きたい?」

「分かんねえ」

「じゃあ、なりたくないんだよ」

「え?」

 なりたくないわけじゃないけど、進んでなりたいとは思わない。つまり、好ましくないということだ。

 ハニシュが真面目に働いてるところあんまり想像できないけど

「私が思う君はさ、自由で明るくて子どもっぽくて、優しい人」

「……」

「それでいいと思ってる……私はね」

 カオルは笑顔でこいこいとハニシュの手をつないで外に出た。

「?」

 ハニシュは何が何だかと分からないという顔をしていた。七菜も店から顔を出してみている。

「よっしゃ」

 カオルはハニシュの服を掴んだ。

「歯ァ食いしばれ!!」

「!?」

 投げ飛ばした。

 思いっきり油断していたハニシュは倒れてもなお自分に起きたことを理解していなかった。

「手加減したからあんまり痛くないでしょ?」

 カオルはしゃがみ、ハニシュと目を合わせた。

「色々言ったけどさ、『てめえのことは、てめえで考えやがれ』ってね」

 手を差し出した。

「人生って、難しいな」

「カオル……」

 にかっと笑ってハニシュはカオルの手を取って立ち上がった。

 その様子を見ていた七菜が呟く。

「私も投げられるのかな」

 ハニシュは両腕を天高く持ち上げ、背伸びをした。

「うーっし、俺も『俺らしく』! 頑張ってみるよ。いろいろありがとな!」

「いえいえ」

「また頼むわ! カオルの姐さん!!」

 カオルの笑顔が固まった。

 姐さん?

「ちょっと待て! 嫌すぎる!!」

 訂正させようと声をかけたが、元気よく走り去っていったハニシュを止めることはできなかった。

「はぁ、まあ、うん……いっか」

 カオルは振り返った。

「私は投げなくていいから!」

 手をクロスしながら先手といわんばかりに叫ぶ七菜に、カオルはあきれ顔で言った。

「恋愛相談で、投げる必要ないでしょ」

 ロスタムは意味もなく投げ飛ばしたけどね。

「そ、そっか。そうだよね」

 納得したらしい七菜だったが、そもそも投げる必要あったのかと問いだしたのを無視して席に着いた。

「で、七菜の相談って?」

「紀伊さんっていつのまにか敬語消えてるよね、おっかしー」

「お前はまともに話を出すこともできんのか」

 頭を掴むと手をぺしぺしと叩いて逃げようとする。

「たく、で?」

「うん、あのね」

「女神様」

 店の外を見る。イルタが深々と頭を下げた。

「お一人で外出なさらないようお気を付け下さい」

 カオルはイルタを見て、七菜を見て、ため息を吐いた。

 面倒になってるなぁ……と

気が付けば話数が80以上

自作の中でも最長です。歴史だから長くなるのは当たり前なんですけどね、嬉しいモノです。

ここまでお付き合いしてくださる皆様には本当感謝感激です。

恋愛したことも漫画もあまり読まない故に『恋愛』では甘味少なめです、なんか、こう、経験談などありましたら教えてください。


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