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現代→古代  作者: 一理
comeback love
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変わらないようで

 鏡に硬めの土をまわした上に甕板を置いて圧着させる、練った土を置いて回しながら拳で殴りながら中心を窪ませる。

 壷の高台の高さを爪楊枝の様なもので刺して測り、底になる面の径を決めた。

 ドベをぎゅいーんと……は、やりすぎだけどこうして適度に回して。

 両手で土をつかみ、上げ下げして好みで土をころがし、左手でドーナツ状の土をつかみ、引き上げる。

「……」

 筒の左側面から左手のひらを押し付けて、内側の土を右手指先で掻きだし左手のひらに押し当て、両手で土をつかむようにひきあげる。

 両手小指に力を入れ土管っぽく伸ばしていく。

「と」

 口縁を少し狭め、下から両手親指と中指で輪をつくり、絞り上げる。

 しばらくやっていると、結構それっぽくなってきた。

「こんなもん?」

 自分の中で大体できた『それ』を、満足げな顔でカオルはロスタムを見ると彼は偉そうな態度で頷いた。

 というか他人の家でなんでロスタムに作り方を教わっているのか……まぁどうでもいいけど

「まぁまぁだな」

「ふん、普通上等。……それにしても、壺も作ってるんだね~、アトラシュさんのお店」

「これはおっさんの個人的な趣味らしいぞ。……あ、おい。これさ」

「ん?」

 ロスタムに渡された。それを見ると見事な翡翠が手の中で転がっていた。

「なにこれ」

「アイスジェイド」

「そうじゃなくってさ」

 なぜ急にプレゼントをくれたのだろう。しかも雑な感じに

「願いが叶う石だってよ。まぁ、望みなんてなさそうだけどお前」

「あるよ、望みぐらい」

 意外といわんばかりの顔をされた。しばらく会ってなかったから忘れていたが、こういうところがあったと今更思い出す。

「何さ、あるよそれぐらい」

「へえ? じゃあ言ってみろよ」

「え? あー……。し、知らないの? こういうのは言わないほうが叶うんだよ」

 苦し紛れの誤魔化しは通じなかったようだ。バカにするような顔でこちらを見ている。あの顔は絶対本能で生きてるくせにーといわんばかりの顔だ

 欲望は……じゃなかった、願望は誰にだってある。だけど急に聞かれると答えられない。

「ないんだろ?」

「あるよ。ほら、この壺が最高傑作になりますようにって」

 適当な事を言うと、傍にいたアトラシュお抱えの職人さんが小さく笑った。

 後は職人さんにお任せし、カオルは立ち上がった。出来たらアッシリアに送ってくれるらしい。

 すっかり泥だらけになった手を水で洗い落しながら周りを見た。

 土の匂い。出来立ての壺や、これから壺になる土の塊など

(意外と楽しいぞ)

 はまりそうだ。

「なんか人少なく無いか? 俺見てくるわ」

「うん、私はこれしまってくる」

「無くすなよ」

「はいは……」

 宝石をなくさないように片そうと歩き出すと、後ろから誰かに押された。

 それは空を浮き、さっき作った出来立ての壺の中に入っていった。ショックすぎる出来事に、カオルは口を開けたまま固まった。

 何も知らないそれは職人さんの手によって運ばれていく。

 神様もびっくりのフラグ回収早すぎ!!

「ぎゃぁああああああっ!! 宝石がッ」

 悲鳴を上げながら回収しに走り出すと、誰かに腕を掴まれた。

「カオルさん! 来て、早く!!」

 室内でも分かるぐらいに外が何やら騒がしい。

 壺に向かいたかったこの足は、サイードによって引きずられるように作業場から外に出るはめになる。

「早く早く、カオルさん!」

「何をそんなに急いでいるんですか!? 私も緊急を要するのですが!!」

 宝石が壺と合体してしまう。

 珍しく焦った表情のサイードが叫んだ。

「女神様がいらっしゃったんだよ!!」

「そんなことですか!? ……って、はあぁ?」

 アトラシュの家の前に行くと、何人もの立派な兵士と美しい女官を従え、持参したのか突っ込みたくなるような豪華な椅子に座っている七菜が見えた。

 カオルは白い目でその光景を見つめる。

「めんどくさいの来たな。……つーかなんだアレ、今すぐにとび蹴りしたい。八つ当たりの意味を込めて蹴り飛ばしたい」

「何語?」

 日本語で危ないこと呟きながらカオルは近寄って行った。

「あ」 

 七菜と目が合う。

「紀伊さーん!!」

 椅子から立ち上がり、満面の笑みで抱きついてきた。カオルはそれを全力でジャイアントスイングしてぶっとばしたくなったが、もちろんそんなことはしない。

 とりあえず触れたくなかったので、七菜から全力で逃げた。

「なんで逃げるの!?」

 カオルは作った笑顔で七菜を見た。

「七菜、お前実は反省してないだろ」

「何が?」

「日本語で会話したいことは色々あるけど、今はとりあえず……何か御用ですか?」

 周りの従者の目がとても痛いんですけど。

 それよりももっと野次馬の視線のほうがとても痛いんだけどね

「カオル様!」

「おお! ルシア」

 嬉しそうに駆け寄ってきて抱きつきそうな勢いだったが、途中でブレーキをかけキリッと真面目顔を作った。不思議そうに見ていると彼の小さな頭がぺこりと下がった。

「あの時はお世話になりました!」

「いやー別にいいよーそんなー。……メガミサマノ、オチカラゾエガ、アッテノコト、デスカラー」

 後ろで見事なまでの棒読みだなと突っ込まれた。あの声はたぶんアトラシュさんだな。

 七菜は笑顔でカオルの手を握った。

「私いっぱい助けてもらったじゃない? お礼したいの! だからお城に来て!」

 はい、出たこれ。

 七菜的に嬉しいこと、私的に嬉しくないこと。そこがあなたとわたしのすれ違い。

(いやまぁ、気持ちは分からなくはないけどさ)

 普通の一般人がお城行けるのって、珍しいし嬉しい事だろう、お礼したいっていう彼女の気持ちも分かる。

 自分で言うのもあれだけどだいぶ世話したし、お礼をしてもらうほどの価値は確かにあると思う

 ただ、ただね

「それをいうだけにわざわざ女神様自ら国境超えてやってきて、いろいろ……ね」

 連れてきてね。……なんなん? 馬鹿なん?

「だって女神なんだもん。んでねナサ家行ったらこっちにいるって」

「終わった私の平穏。しばらくいい噂話が広がることだろう」

「んー? よかったね?」

「良いほうじゃないわ!!」

 ハリセンがあればと今本気で思ったわ。

 心の中で拳を握りながら我慢していると、ロスタムがひょいっと顔を見せた。

「誰もいないと思ったら、なんの騒ぎだ?」

「あ! 私の代わりに川に落ちた人」

女神様イナンナ?」

「あなたもお城に来て! お礼するから」

 急なことに驚いていると、七菜が手を叩いた。

「さー! 帰ろう!」

 兵士たちがカオルと、ロスタムを抱き上げた。

 え? この格好で戻るの?

「さあ馬車に乗って」

 半ば強引に乗せられ、馬車は出発した。

 まったくもって強引だ。本当殴りた……殴れるじゃん。

「女神様、カーテン閉じていーい?」

 作った笑みで許可を取れば、馬車の中で落ち着いている上機嫌な彼女は鼻歌を歌いながら頷いた。

「いーよー」

 早速日差し避けのカーテンをしめ、自然な動作で七菜の頭を平手で叩いた。

 狭い馬車の中に響くいい音。

「いったーい!! なんで叩くのー!?」

「声がでかい。ちょっと正座しなさい」

「なんでー? なんでなんで?」

 不満そうな顔で正座する。しろといったのは私だがじつに器用にこの狭い中正座する。

「あのね、お礼してくれるのは嬉しいんだけど、強引に押し売りみたいなお礼の仕方ってある? おかしいでしょ? てか、やっぱ反省してないだろ」

「だって、もう準備しちゃったんだもん。紀伊さん帰ってきたって聞いたから嬉しくて」

「あぁ、そのことだけど、アリーに会ったの?」

「うん、病院で」

 アリーわりと早く探す行動に移してくれたんだな。

「おい」

 頬をぶすっとロスタムに指でさされた。

 いま七菜と会話してたんだけど、目で何? と問うと不機嫌そうな顔で腕を組んで、低い声で脅すような声音で聞いてきた。

「アリーって誰だよ。お前ずいぶんいろんな男と知り合いになったな」

 七菜が余計なこと言いそうだったので口を平手で叩いておいてから、彼についてざっくりと説明した。

 全部ヒッタイトにいく道中で数日知り合っただけの相柄だというと、少しだけ納得したようだったが、さすがというか七菜がここで余計なことを言う。

「えー? でもアリーさん『俺の大事なカオルを知らないか?! 探してるんだ!』って必死の形相で叫んでたけど?? 超愛されてるって感じだね! 紀伊さん」

 あいつ会ったら色んな罪で処刑だな。

 でも、その前に。

「ふむぅ!?」

 七菜の唇を掴んでアヒル口を作る。

「いらんことを、ぺっちゃくっちゃいいやるのはこの口か? え? この口かコラ」

 海よりも深く、空よりもひろーい私の堪忍袋の尾がぶち切れるってもんだぞ。

 怖い顔で睨みつけても、彼女は気にしていないように見える。

「ひーひぷぁぷぁうーぷぱい」

「何言ってるかさっぱり分からん。とりあえず黙ってなさい」

 横で殺気立ってる精神が子どもの男をなだめなければいけない。七菜の処刑はあとからだ

「ロスタム、あのさ……ってうわ」

 何その顔。

 怒ってるわけでも拗ねてるわけでもない、真剣な悩み顔。

 驚いた。そんな顔できたんだね

「ろーすたむくーん」

 肩を掴み軽く揺らすと、ハッとしたようで

「なんだ?」

 と聞く始末。しかし好都合なので流すことにした。

 七菜がもうしゃべっていい? と聞くので、余計なことは言うなよという視線をおくり、どうぞという。


「明日、私主催のパーティ行うからね」

「やっぱお前から執行します」

「何を?」

 

 拳を鳴らした。

「処刑」

 三人が乗ってる馬車が城につくまで、女神様はずっと正座で反省していたそうな。

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