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現代→古代  作者: 一理
ヒッタイトのようで
38/142

合鴨親子のようで

 食事もそこそこにチュニスを出ていき、さっそくハットウシャの町へ繰り出す。

 七菜はルシアと手をつないでカオルの後ろをついてきている。

「……はっ!!」

「どうしたの?」

 これって、私完全にコノ子らの母親じゃね!?

「なんでもないなんでもない。離れて歩け」

「ええ!?」

 いや、別に出会いとかそんなん求めてるわけじゃないけどなんとなく、早足になってしまったのもなんとなく。後ろで二人がわたわたとしながら急いで追いかけてくるのが見えた。

 身長も差があり、足の長さも違う故に歩くスピードも違う、なので後ろを振り返ったカオルが合鴨の整列を思い出したのは、必然だった。 

 っていうか

「君達どこの子?」

 また人増えてるんですけど。なんだかにこにこと楽しそうについてきているようだが、これじゃあ私修学旅行中の引率の先生じゃないか。

「おや、お嬢さん。やけに子供に好かれておるなぁ」

「!」

 まっすぐ伸びた背筋の後ろに手を組んでいる穏やかな顔をした老人が、謎の子供の整列の最後尾からゆっくりとカオルのところまで来ると、穏やかな笑みを浮かべた。

「お前さん、不思議な雰囲気を持っておりますな」

「え、えぇ。たぶんアッシリアから来たからだと」

「ほう、アッシリアから……ううむ」

 腕を掴まれ、手首を触られる。その行動はまるで医者の脈を図る動作に似ていた。

「……もしかして、お医者様ですか?」

「うむ、アレクと呼ばれておる」

「アレク先生」

 カオルは真顔で先生を見つめた。

「いつまで脈計るんですか」

「ん?」

 おっとりした感じの先生は笑いながらカオルの手を解放し、子どもたちを見た。

「いやあ興味深い。お嬢さんお名前は何と言うのかね」

「カオルです」

「良い名だ。ではカオルさん、ワシと一緒に来てくれんか」

 カオルは一瞬怪しんだが、医者にそもそも用があったのでついて行くことにした。何も言わず先生について行き、カオルは驚いた。

 着いた先では人がごった返しになっていた。どうやら病人が先生を求めて集まってきていて、ごった返しになっていたのだ。

「医者はな、この国にもたくさん居る。だが、みんな忙しくて手が回らんようになるんじゃ」

「それは、流行病のせいでですか」

「うむ」

 先生、先生と人が群がり、先生は人の群れに入って行った。

「子どもたちは、別の場所に置いてきて、少し手伝ってくれんか」

「は?」

「お前さんに聞きたいことがある」

 年上には逆らえず、カオルは七菜を呼んだ。

「なんかこき使われそうだから、近所の子どもら連れてそう遠くないところで遊んでなさい。これ駄賃」

「えー、私そんな子どもじゃないんだけど」

「保護者の気持ちを知れ。いい? 危ないことはしちゃダメだよ」

 七菜はしぶしぶ金を受け取ると、子どもを連れて歩いて行った。

 カオルはアレク先生の所に戻ると、先生はおいでとカオルを一人の患者の前に座らせた。その患者は全身赤い湿疹がでており、苦しそうに呻いている。

「薬草を煎じた包帯をこの患者の腕や足に巻いておいてほしい」

「はぁ、え。分かりました」

 体育の授業で習った方法を思い出しながら拙い動作でゆっくりゆっくりやっていく。

 患者が痒い痛いと呻くたびに、睡眠薬か麻酔などないだろうかとあまり優しくない思考で考えながら丁寧に仕事を終わらせた。

「はぁ……」

 周りを見渡せば、たいていの患者の顔は赤い。高熱があるのだろう肩で息をしている患者もいれば、少し動くたびに痛いとつぶやく患者もいた。

 病気の名前など知らないが、ただの風邪ではないだろうなとカオルは思う。

(で、アレク先生どこ行ったんだろう)

 医者でも助手でもないカオルは、患者に何かを問われても困惑するしかなかった。それにしても、先生私に聞きたいことがあるって言ってなかったっけ?

「おぉ、カオルさん」

 先生がいい笑顔でおいでおいでをした。

「?」

「これ、頼む」

 壺。

「……」

「すまんの、きれいな水がいい。少し遠くになるが、和泉があるはずじゃから」

 知ってますかみなさん、壺だけでもずいぶん重いんですよ。

 カオルは何も言えず壺を持って歩き出した。 

 (あれ? 私何しにハットウシャ来たんだっけ?)

 涙目になりながら和泉を探していくのであった。


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