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レベル1の俺が魔王を倒すと言ったら、みんな笑った。でも、前世が名探偵だったおかげで本当に倒してしまい……  作者: からくらり
4章 ジュニッツを罠にかけようとしたエリート冒険者を返り討ちにする話
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99話 探偵、思い出す

 魔王に勝利した俺は、すぐにその場を立ち去った。

「魔王と戦った直後なんだから、ちょっとくらい休んでもいいのでは?」と思うかもしれないが、そういうわけにはいかない。


 なにしろ、今の俺は死神との決闘の真っ最中だからである。

 本来なら、席について死神の到着をじっと待っていないといけないのだ。

 席から離脱して、そのへんをウロチョロしてしまっては死罪である。

 今、俺が死なずに済んでいるのは、決闘作法で『対戦相手が来るまでの間、魔物が近くにいたら駆除してよい』と許可されているからであり、近くの魔物(つまり魔王)を倒してしまった今、すみやかに席に戻らなければならない。


 俺は硬い土の床を踏みしめながら、帰り道を歩いていく。

 静かである。

 先ほどまでは魔王がいて、「コッチニコイ」という声を響かせていたが、今はそれもない。

 ただ俺の足音だけが鳴り響く。


 5分ほど足音を響かせたところで、アマミ達のところに戻った。

「おかえりなさい」という返事はない。繰り返すが、今は決闘の真っ最中である。私語は死罪だ。

 俺も一言もしゃべることなく、席に着く。

 姿勢を良くし、真面目な顔をし、いかにも真剣な面持ちで決闘に臨んでいますという体裁で、来るはずのない死神を待つ。


(決闘が時間切れで無効化されるまで、あと7時間か)


 それまで静粛かつ神妙に待ち続けなければならない。

 じっと待っているのは退屈ではあるが、うっかり眠りについて寝言を言ってしまっては、私語と見なされて死罪になってしまうかもしれない。

 退屈で寝てしまわないよう、適度に考え事をして頭を使いつつ、時間をつぶす。


 魔王との戦いのことを振り返ったり。

 ルチル達の今後のことを考えたり。

 以前立ち寄った町のことを思い出したり。


 そうやってあれこれと思考を巡らせること7時間。

 頭の中に、こんな声が鳴り響いた。


『決闘開始から8時間が経過しました。

 時間切れですので、現時刻をもって決闘は中止します』


 どうやら無事、決闘が中止となったようである。

 無事に中止、というのもおかしな表現だが、ともあれ俺たちが死ぬことはなくなった。

 俺は心の内で、そっと安堵する。

 アマミやルチルの前では、できるだけ堂々とするようにはしているが、失敗すれば死ぬという状況であれば不安な気持ちだってある。

 推理で99パーセント大丈夫とは分かっていても、1パーセントの心配はある。

 その心配が解消されたことに、俺はほっと息をついたのだ。


「ジュニッツさん!」


 声のした方を向けば、アマミが心底安堵した顔を浮かべている。


「ジュニッツ殿!」


 ルチルもまた、ほっとした顔をしている。


 俺はそんな2人に向け、堂々とした顔でビッと親指を立てるのだった。


 ◇


 さて、帰り道である。

 俺たちは今日、魔王の(ぎょく)に触れることで、魔王のいるこの星まで転移してきた。


 玉は、地下迷宮と魔王の星の2カ所にある。

 片方の玉に触れれば、もう片方の玉に転移できる。


 地下迷宮の玉 ←→ 魔王の星の玉


 そうやって、相互に行き来することができたのだ。

 今までは。

 だが……。


「消えているな」

「消えていますね」


 そう、魔王の玉はきれいさっぱり消えていた。

 当然と言えば当然だろう。

 魔王の玉は、魔王の一部である。

 アマミも3日前、こう言っている。


 ――≪あれは魔王の分身です。魔王の一部、と言ったほうがいいでしょうか≫


 俺は今日、魔王を倒した。

 であれば、分身である魔王の玉だって、消えるのが当然だろう。


 つまり、『魔王の玉に触れて地下迷宮に帰る』のは二度と出来ない。


 こんなことを言うと、「大変じゃないか! 魔王の星に閉じ込められてしまったぞ!」と思うかもしれない。

 が、その心配はない。

 というのも、今朝、俺は転移門を収納しているからだ。


 ――門をしまい、偽の壁を崩して、外に出る。


 つまり、今の俺は転移門を持っている。

 この転移門を設置すれば、妖精の森へと帰ることができるのだ。


「じゃあ、帰るか」


 俺の言葉にアマミとルチルがうなずく。


 俺は転移門を設置した。

 見慣れた門が目の前に出現する。

 扉を開ける。

 何度も()いできた安心できる森の匂いがする。

 妖精の森の匂いだ。


『帰るまでが冒険』という言葉がある。

 無事に帰ってこそ冒険は終わる、という意味だ。

 そういう意味では、『帰るまでが魔王討伐』と言うこともできる。


「あ、ジュニッツさまなのです!」

「わあ、ジュニッツさまー」

「おかえりなさいなのですー」


 俺に気づいた妖精たちが一斉に声をかけてくる。


「おう、今帰ったぞ」


 魔王討伐の終わりを実感しながら、俺は返事をするのだった。


 ◇


 妖精の森に帰ってからは、静かな日々が続いた。

 宝石人達は、長い間操られていたせいか、まだまともに体が動かない。

 彼らが元通りになるまで、俺はやることがない。


 宝石人達のリハビリは、ルチルが取り仕切っている。

 俺が何か手伝おうかと言っても、「恩人のジュニッツ殿の手をわずらわせるなど、とんでもないのじゃ!」と断られてしまう。

 俺としては、手の空いている妖精たちと(たわむ)れるか、「ジュニッツさんは働かないのが似合いますねえ」などと言ってからかうアマミにデコピンを食らわせるくらいしか、やることがない。


 そうして1週間が過ぎた。


 宝石人達は順調に回復している。

 リハビリというと数ヶ月くらいかかりそうなイメージがあるが、宝石人達の回復は予想以上に早い。


「おお……ジュニッツ殿……! おかげさまで、この通りですぞ」


 様子を見に来た俺に、宝石人の1人が若干不安定ではあるものの、誰の助けを借りることもなく歩いてみせる。

 まだぎこちなさは残るが、助け出した当初より断然良くなっている。


 ルチルに話を聞いてみると、

「みな、よい具合に快癒(かいゆ)していっているのじゃ。この調子なら、あと2週間ほどですっかり元通りなのじゃ。何もかもジュニッツ殿のおかげなのじゃ」

 と嬉しそうな顔をして言う。


 順調なのは何よりである。

 とはいえ、回復までは今しばらく時間がかかる。

 それまでどうするか。とりあえずは妖精たちとまた(たわむ)れるか。


 そう思って歩き出そうとしたところで……。

 ふと、何かを忘れているような気がした。

 具体的に何を忘却してしまったのかは分からない。

 だが、何かを忘れてしまっているのだ。


 たぶん重要なことではないだろう。とはいえ、無視して良いことでもない気がする。

 たとえるなら、部屋の隅に置き忘れた腐ったパンのように、どうでもいいけれども放っておくわけにもいかないような、そんな何かを忘れているような気がするのだが……。


「あの……ジュニッツ様。今、大丈夫ですか?」


 声がする。

 見ると、妖精の族長のリリィが、ふわふわと俺の顔の近くに浮いている。


「どうした、リリィ?」

「その……あの人、どうしましょうか?」

「あの人?」

「はい。ジュニッツさんが連れてきた人です。黄色い服を着て、ロープでぐるぐる巻きにされた人間の男の人なのです」

「……ああ!」


 その瞬間、俺は忘れていたことを思い出した。


 ナルリスである。

 1週間前、この妖精の森の隅にやつを放り出して以来、ずっとほったらかしていたのだ。

 魔王を倒すことで頭がいっぱいだったこともあり、俺は完全にやつの存在を記憶のかなたに放り出してしまっていた。


「悪い。完全に忘れていた」

「い、いえ。わたしも、ついさっき気づいたのです」

「そうか。で、その……ナルリスは生きているのか?」


 今のナルリスは、かつて持っていたスキルを全て封じられた上で、全身を縛られ、目隠しと猿ぐつわまでされている。

 自力で水や食べ物を探して口に入れるのは不可能だ。

 つまり、1週間のあいだ、ずっと飲まず食わずだったことになる。

 死んでいてもおかしくない。


 無論、ナルリスの命など惜しくはない。

 ただ、俺はナルリスの処分は宝石人達に(ゆだ)ねようと思っている。委ねる前に死なれても困る。


(まあ妖精の森だから大丈夫だとは思うが)


 妖精の森というのは不思議な場所で、多少断食をしても体は持つ。

 生命の力のようなものが空気中に漂っているのか、呼吸するだけでエネルギーが体に満ちてくるのだ。

 だから、ナルリスもまだ死んではいないと思った。


 リリィの答えはこうだった。


「その……生きてはいるのですが、ただ、何というか……へんてこなんです」

「へんてこ?」

「えっと、すみません、なんと説明すればいいのか……」

「ナルリスの所に行けば分かるか?」

「あっ、はい。見れば分かると思うのです」

「分かった。じゃあ、見に行こう」


 俺達はナルリスのもとへと向かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 帰りの便というトラップまであったか…
[一言] 魔王の星に設置した転移門は回収できない? とすると主人公たちは妖精の森と魔王の星にしか行き来が出来なくなってしまいそうです。 どうにかして1度行った事のある場所に飛べるようなスキルを手に入れ…
[良い点] 魔王退治の後始末 死神の脅威も無事終了できたようで これで完全勝利完了ですね! そしてクズのざまぁが始まったようかな!(期待) [気になる点] 転移門は 確か同じとこにしか繋がらないはずだ…
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