94話 探偵、宝石人達を森へ連れて行く
アマミの雷魔法をくらい、意識を失ってバタリと倒れるナルリス。
予定通りである。
アマミがナルリスを攻撃したのは、事前に俺が指示しておいたからだ。
昨日、俺はアマミに、こう依頼したのだ。
「決闘が終わったら、軽い雷魔法でナルリスを気絶させてくれ。気絶させるだけでいい。大ケガはさせないようにな」
アマミは完璧にやってくれた。
ナルリスは今や、目を閉じて床に倒れ伏している。
「この後は、どうするんですか?」
「ナルリスの体をロープで縛った上で、目隠しと猿ぐつわをしてくれ」
「目隠しに猿ぐつわ、ですか?」
アマミが不思議そうに首をかしげる。
「ナルリスに自由に行動させないためでしょうか? でも、それならロープで縛るだけで十分では? どうせナルリスはもうスキルを全部失っているんです。身体強化してロープを引きちぎることもできません。縛るだけで、行動不能にできますよ?」
「それじゃあ、まずいんだ」
確かにナルリスは今、ほとんど全てのスキルが封印されている。
なぜかと言えば、決闘に勝利し、俺の持つ月替わりスキルを手に入れてしまったからだ。月替わりスキルを持つと、他のスキルが一切使えなくなる。
逆に言えば、今のナルリスでも月替わりスキルだけは使える。
そして、月替わりスキルには、こんな能力があるのだ。
――『スキル復元』
――スキルの状態を24時間前のものに戻せる
2日前、アマミ、ルチルと一緒に見た能力だ。
この能力は、言葉通り、スキルを24時間前の状態に復元できる。
もし、ナルリスが今、この能力の存在に気づき、能力を使ったらどうなるか?
当然、スキルの状態が24時間前……つまり、月替わりスキルを手に入れる前の状態に戻ってしまう。
月替わりスキルが無くなれば、スキルの封印が解け、元の強いナルリスに戻ってしまう。
「まずいだろ?」
「まずいですね……」
「だから、猿ぐつわをさせる。『スキル復元』は、声を出さないと発動しないからな」
能力の説明文にも、こう書いてある。
――質問6.
――この能力、どうやって使うの?
――質問6の回答.
――「スキル復元発動!」と大きな声で叫べば発動します。
「大きな声で叫べないようにしてやれば、スキル復元もできねえってわけさ」
「なるほど……じゃあ、目隠しは?」
「『強制チェスリル』を使わせないためだ」
月替わりスキルの能力『強制チェスリル』を使えば、自分のスキルを誰かに渡すことができる。
まさに、俺がさっきやったことだ。
であれば、ナルリスだって、強制チェスリルをうまくつかって、自分の持つ『月替わりスキル』を誰かに渡してしまうかもしれない。
渡せば、当然、ナルリスの月替わりスキルは消える。
消えれば、スキルの封印は解ける。
元の強いナルリスが復活する。
「よくねえだろ?」
「よくないですね」
「だから、目隠しをする」
強制チェスリルは、決闘したい相手を目で見ないと発動しないからだ。
能力の説明文にも書いてある。
――貴方は、決闘したい相手を直接見て念じるだけでOKです。
――貴方とその相手との決闘がすぐ始まります。
目隠しをすれば、強制チェスリルは使えない、というわけだ。
「でも、月替わりスキルの能力って、毎月変わるんですよね?」
「ああ」
「だったら、来月とか再来月とかに、しゃべったり見たりしなくても、スキルの封印を解除できる能力が出てくるかもしれませんよ? たとえば、念じるだけで自分の持つスキルを1個捨てられる能力、なんてのが出てきたら、ナルリスは喜んで月替わりスキルを捨てますよ。そうしたら、ナルリス復活です。まずくないですか?」
俺はこう答えた。
「だから、ナルリスの目は、この先ずっと布で塞がせてもらうのさ。目が見えなければ、スキルボードも見えないだろう? つまり、月替わりスキルの能力を見ることができない。来月に新しい能力が出てきても、どんな能力か分からないから使うこともできない、ってわけさ」
「あっ! な、なるほど、たしかに……」
もっとも、ナルリスの目を一生布で塞ぐとなると、誰かに布をはずされないためにも、俺達自身でやつをどこかに監禁する必要があり、いささか面倒である。
妖精たちに相談してみるか。
そんなふうに俺が考えごとをしている間に、アマミはテキパキとナルリスの手足を縛る。
そして、何も見えないように厚い皮布で目を覆い、口に猿ぐつわをかませた。
これでナルリスは、気絶から目が覚めても何もできないだろう。
「終わりました」
「ああ、ありがとう」
「これからどうしますか? 魔王を倒しに行きますか?」
アマミはそう言って、魔王の玉を見る。
あの玉に触れれば、魔王の部屋に転送できる。
が、俺は首を横に振った。
「倒すのは明日だ」
「明日ですか?」
「ああ、何しろ、俺は今、魔王を倒すのに必要な『月替わりスキル』を持っていねえからな」
「あっ!」
そう、魔王を倒すには『月替わりスキル』の能力が必要である。
だが、俺はこのスキルをナルリスに渡してしまった。
今は持っていないのだ。
もっとも、昨日説明したように、俺は決闘前に『スキル復元』の予約を入れてある。
だから、明日には俺の『月替わりスキル』は復活する。
魔王も倒せる。
「だから、今日は妖精の森で一泊する。魔王を倒すのは、その後さ」
「わかりました」
「問題は宝石人達だな」
俺は、ずらりと一列に並んでいる宝石人おおよそ250人を見た。
レコの記録には、こう書いている。
――悪い空気でも漂っているのか、12時間迷宮にいると、途端に体調が悪化して死ぬ。
宝石人達をこのまま迷宮に放置しては、明日を迎える前に、彼らは全員死んでしまうだろう。
これを防ぐには、宝石人達を妖精の森に連れて行けばいいのだが、彼らは皆、ナルリスに操られている状態であり、自らの意思で動くことはできない。
いや、宝石人を操っていたナルリスのスキルはもう封印されているから、厳密には『ナルリスに操られている』とは言えない状況である。
が、宝石人達は、今でも直立不動のままピクリとも動かない。
スキルが封印されても、操り状態はしばらく解除されないようだ。
となると、1人1人運んでいくしかないだろう。
できなくはないが、一苦労である。
(だが、まあやるしかないか)
そう思った時である。
声が聞こえた。
「ううっ……ああっ……」
声の方を向く。
宝石人である。
皆、うめくような声を上げているのだ。
ルチルは昨日、「操られている時に声は出せるか?」という俺の問いに、こう答えた。
――「いや、いっさい出せぬ。どういうわけか、命令されてもしゃべれぬ」
つまり、宝石人達は話すことはできない。
できないはずなのだが……。
「あっ、うっ、うぁっ……」
幾人もの宝石人達が、しぼりだすように声を出している。
「ジュニッツさん、これは……」
「……ナルリスの操りが解けかかっているのかもな」
ナルリスのスキルが封印されても、しばらく操り状態は残るのではないか、と先ほど俺は言った。
その考えは、大筋では合っていると思う。
だが、火を止めれば、鍋の湯が少しずつ冷めていくように、スキルが封印されれば、操り状態も少しずつ解けていく、というのが、より正確な表現のようだ。
(……いや、待てよ。ルチルは操りが解けた直後から普通に話すことができたぞ? 一方で、宝石人達はまだ、まともに話すことができない。
この違いはなんだ?
瀕死の重傷を負うことで操りが解除されたルチルと、ナルリスがスキルを失うことで操りが解除された宝石人達とでは、状況が違うということか?)
俺は首を横に振った。
今考えることではない。
「まずはルチルを呼ぼう」
俺はそう言うと、転移門を出し、妖精の森に待機しているルチルを呼びに行った。
◇
「ベリル! シトリン! アンバー!」
やってきたルチルは、宝石人達1人1人の名を呼び、声をかける。
宝石人達も、重病から回復したての病人のように、ぎこちなく頬を動かし(おそらく笑顔を作ろうとしているのだろう)、弱々しく手を動かし、「ル……チ……」と声をかける。
ルチルはそんな彼ら1人1人に、声をかける。
俺とアマミはその様子をしばらく見ていたが、頃合いを見て、彼らを妖精の森へと連れて行くことにした。
宝石人達は、ぎこちなくも動こうとしている。
自分の意思で動こうとする者を、荷物のように脇に抱えて運ぶわけにはいかない。
時間は十分にあるのだ。
俺たちは宝石人1人1人の手を引き、ゆっくりと妖精の森へと案内する。
「あ……りが……とう……」
礼の言葉にうなずき、1人、また1人と森へ連れて行く。
数時間後。
全ての宝石人を、森へと導き終えた。
最後に引っ越しの荷物のごとくナルリスを森に投げ込み、仕事完了である。
ルチルは、しきりに俺に礼を述べた。
礼は昨日散々言われたのだが、こうして救い出し、宝石人達の生の姿を見て、生の声を聞くことで、心にこみ上げてくるものがあったらしい。
紫色の目に涙を浮かべ、まるで英雄に対するがごとく俺の手をうやうやしくそっと握り、礼を述べた。
「ジュニッツ殿、ありがとうなのじゃ……ありがとうなのじゃ……本当に……本当にありがとうなのじゃ……」
昨日の礼は一言でいえば『感激』だった。
興奮した声で何度も感謝を伝えられた。
一方、今日の礼は『感動』だった。
涙を流しながら静かに、かみしめるように、感謝を伝えるものだった。
ルチルは、深々と頭を下げながら、静かな声で何度も礼を言うのだった。
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